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「欲」か「智」か?
ミステリーの概念を変える逆転劇 独特の色気を湛えた商品で人気を博す靴職人・斎藤良一。強引に事業拡大を進める彼の元に、不気味な修理依頼が舞い込む。若き靴職人の知略が、斎藤の野心に立ちはだかる。人間の深淵を描くダークミステリー!
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野心vs復讐。狭い世界の物語にも係らず大きなスケール。長い歴史と伝統、そして職人の飽くなき情熱がそう感じさせるのだろう。靴作りのノウハウ、日本人と英国人の考え方の違いなどとても興味深い。何よりも才長けた二人の男の執念に胸が躍る。そしてどんでん返しのラスト。人としての道を誤ることと職人の魂を奪い尊厳を汚すこと、どちらが罪深いことなのだろう。僕は結末に憤りを覚えたが他の人はどう感じるのだろうか。複雑で大人のミステリといった雰囲気。傑作です。ぜひ読んでみてほしい。
あらすじ(背表紙より)
独特の色気を湛えた商品で人気を博し、ロンドンに店を構える靴職人・斎藤良一。強引に事業拡大を進める彼の元に、不気味な修理依頼が舞い込む。それは幽霊の靴なのか?十三年前の父の死に、不審を抱く若き靴職人の知略が、斎藤のどす黒い野心の前に立ちはだかる。人間の深淵を描く、異色ダークミステリー!
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「シューメーカーの足音」
天才vs復讐者。
快適と痛みは紙一重。この2つは対極にあると思われがちだが、実は横並びで共存している。痛みから逃れると快適さからも遠ざかる。本物のシューメーカーはリスクを恐れることなく究極の履き心地を目指して一足の靴を作る。痛みのボーダーラインを跨ぐことなく最高の心地良さを実現するのが、S&Cグッドマンの斎藤良一である。
斎藤は、日本の有名セレクトショップ「バークレーズ」の二津木社長と組んで更なる事業拡大を進めていた。その彼の下にある靴の修理依頼が舞い込む。その靴は、斎藤がまだシューメーカーとして駆け出しの頃、日本人の為に作った靴と瓜二つだった。やがて靴の修理を依頼した黒幕が明らかになり、黒幕とのビジネスを舞台にした駆け引きが始まる。
靴職人を主人公にした小説は初めて読んだが、想像以上に面白かった。ミステリーではありながらもビジネス小説の様な意味合いを含み、しかもそのビジネスも靴、更にビスポークである。なかなかお目にかからないジャンルで興味が惹かれた。
構図に関しては、超一流のシューメーカー・斎藤良一に千代田区一番町の修理屋の榎本智哉が、父の復讐を果たそうとするというシンプルさ。とはいえ、その復讐の仕方は殺人ではなく靴。智哉が作った靴で斎藤の靴を打ち負かそうとするもので、舞台はビジネス市場である。市場で勝つ為に斎藤に勝てる靴を作る為に、智哉は全てを捧げ(とはいえ、超一流の斎藤に匹敵する力をどうやって付けたのか疑問は残る)、相棒であるショーンと共に作戦を練る。一方、斎藤はS&Cグッドマンを更なる成功に導く為に秘策を練り、実行に移す。その点からいうと、斎藤vs智哉は、S&Cグッドマンの靴vs榎本靴修理店の靴の代理戦争とも言える。
何より面白いなと感じた所が、斎藤と智哉に対するイメージが最初と最後でガラッと変わってしまうこと。斎藤は天才でありながらも壮絶な努力を積み重ね、自らの夢をS&Cドックマンで実現しようとする野心の塊の様な男だ。一方で、智哉は町の小さな修理屋をやりながら靴を作っているシューメーカーであり、礼節を弁え、真摯にモノづくりに努めている男である。野心と礼節という対極に存在する2人であるが、このイメージががらっと変わるのだ。最後には、求道者の様に靴を作り続ける斎藤の姿に心を惹かれる様になる。
一方で、イメージがガラッと変わらないのが、二津木社長だ。「お前、どの口下げてそんなこと言うんだ」と腹が立つシーンが登場する。ビジネスとは結局売り手が強者であるということを考えざるを得なくなる。
善と悪は紙一重であることを痛感させられ、快適と痛みは紙一重であることも痛感させられる。そして、シューメーカーとしてのプライドも痛感させられる。靴に興味が出てきた。
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前半は洒落た雰囲気の中にも野心を持つ主人公が魅力的に描かれており、面白かった。後半は、前半に描かれている主人公の姿からすると迂闊過ぎで、結末も綺麗にまとめ過ぎという感じ。
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ロンドンに高級な靴店を構える靴職人、斉藤良一の元に、
ある日、不気味な靴の修理の依頼が舞い込む。
その靴は、13年前のある出来事を思い出させる靴で、
良一はその靴を見るなり、驚愕し,
恐怖を覚えたのだった。
高級なオーダーメイドの靴職人のこだわりや、
靴についての様々な事が書かれていて、
知らない世界を垣間見れる。
一足、40万、50万のオーダーメイドの靴を作る靴職人たちには、
こだわりがあって当然なのだが、
それにしても、大変そうな仕事だと思った、
そんな靴業界での、ミステリーだけど、
靴について、いろいろ知ることができるのも面白い。
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シューメーカー、靴を作る職人、という知らない世界を見せてくれるという意味では、非常に丁寧で面白い作品だった。
ロンドンに店を構える、人気の靴職人斎藤。
そんな斎藤に挑むのは、日本で靴の修理をしながら細々と靴作りをする若者の智哉。
前半の、隙がなく清濁併せのみながらのし上がっていく感じの斎藤が、後半はどんどん変化していく。
靴作りの大切さとして挙げられた「痛みと快適さ」をはじめとして、「写実と創造」「野心と礼節」など正反対と思われることが、実は同一線上にあったり、入れ替わったりが面白い。
職人、ビジネス、ミステリー、色々な味付けの、やはりハードボイルド小説という印象でした。