紙の本
創業と守成いずれが難きや
2022/11/07 09:52
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投稿者:Koukun - この投稿者のレビュー一覧を見る
貞観政要の「創業と守成いずれが難きや」という有名な格言を思い起こさせるような作品である。強固な意志と高い能力で持って次々と河川改修 運河建設を進める父親に対し、本業を続けもり立てながら資金繰りに苦心する息子、好対照の二人である。現代の道路や鉄道の新設にも共通する苦心をする父親のほうがより一層目立つが、息子の苦労の方もしみじみ感じることができる。
ただ題名がピンとこなかった。
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水運業を開いた角倉了以父子。
事業を広げ過ぎてしまう商人肌の父。息子は学者肌で造本の道楽。娘は不治の病でふさぎがち。
父子の確執は破綻的なものではない。
趣味の世界を手放して、一生かけてやり遂げる仕事に邁進しはじめた息子の決断の下り、こころに響くものがあった。
序盤が退屈なので読み投げしようと思ったが、読み終えてよかった。
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与一こと角倉素庵がなんとも気の毒。
隠居した筈の父・了以が次から次へと新事業を起こし、トラブル対処に尻拭いに追われる。でもって手堅く家業は守らにゃならんがために、唯一の道楽、嵯峨本も道半ばで諦めざるを得ない。更に娘は難病患い。
偉人の周りにはこういうヒトの支えがあるんである。
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角倉了以。
名前は見たことがあるのです。確か秀吉の頃?何をした人?そもそもカドクラだと思い込んでいたし。
正しくはスミノクラ、江戸初期(近い!)の京都で茶屋四郎次郎、後藤庄三郎らと並んで「京の三長者」と呼ばれた人物でした。元々角倉家の商売は土倉(質屋・金貸し)ですが、了以はツルハシと綱を持った木像が残されてる様に河川改修~水運業が有名で、この物語も彼が行った山城の大堰川、駿河の富士川、そして京都の高瀬川の開削の話です。
同じように川の改修を扱った歴史小説に帚木蓬生の『水神』が有りますが、それと比べるとどうしても小粒な感じがします。困窮する農民を救うため私財を投げ打ち、文字通り命を掛けて用水路を作った『水神』の五庄屋に対し、了以の河川改修は京都の民衆の為と言いつつ、しっかり店の利益や死後の名声を計算した上での事業ですから。
面白いのは了以の息子・与一の存在です。上司の無茶振りでオタオタする中間管理職的人物が主人公というのが岩井さんのお得意ですが、川の改修に店の限界を超えて巨額投資を行う破天荒な父を横目に、必死で店の存続を図る学者肌の与一がひょっとしたらこの作品の主人公なのかもしれません。
ややまどろっこしい所は有りますが、ちょっと異色で面白い歴史小説でした。
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角倉了以、豊臣から徳川へと世の中がまだ平安を取り戻そうかという時代、朱印船貿易で私財を得て、その私財を投じて、大堰川、富士川、高瀬川など水運を開き、大規模な事業を成功させていく。
ある意味、日本経済を作り上げた偉人であり、戦国大名以上であろう。