紙の本
食物連鎖の一歩先へ
2020/05/31 23:22
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投稿者:ただの人間 - この投稿者のレビュー一覧を見る
食物連鎖をはじめとする生態系の中にも、影響力の多いものとそうでないものがあり、影響力の大きいキーストーン種に変動が生じると生態系全体に大きな影響が及ぶ。豊富な実例をもとに、意外なものも含め影響のメカニズムを論じていた。
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生物学者ショーン・B.キャロル氏の著書。自然界の個体調節機能が、生物の体の中でも起こっているというお話し。
自然界では食物連鎖の頂点に立つ捕食者が、生態系全体の個体数を調整しているらしい。ある科学者が岩場からヒトデを取り除くという大胆な実験を行ったところ、ヒトデが餌にしていた貝が大繁殖し、周辺の海藻をすべて食い荒らしてしまったそうだ。ちなみにこのエピソードは『捕食者なき世界』でも紹介されている。
実は非常に似たような調整機能が人間の体内でも行われており、血糖値や血圧のバランスを上手に保っていたのだ。このメカニズムの解明に尽力した人々のおかげで、今では病気となる因子に直接働きかける治療が可能となり、人間は自然の調節機能から逃れる唯一の「完全な生物」となりつつある。
しかしこの調整機能を克服した結果、ここ数百年間で人口は爆発的に増えてしまった。もし今のペースで増え続けるならば、きっと地球は海藻を食い尽くされた岩場のような世界となってしまう事だろう。
人類はその知恵をフルに活用して、大規模な伝染病を絶滅したり野生動物を守ってきた訳だが、人口爆発というパンデミックをセルフコントロールできるのだろうか。今晩のディナーにしか関心がない、タイタニック号の乗客のようにならないためにも、もっと自分たちの針路に注意を払うべきなのかもしれない、自然が大胆な調節を行う前に。
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タイトル買いしたものの、内容的にはイマイチ。
調節をキーワードに、人体と自然界が共通のルールで出来ているとの説明を試みたものか。
普通に考えれば直接つながりにくい要素を、調節というキーワードだけでつなげて自然を説明するのは、かなり無理がある。
ただし、人体と自然界の調節に関するエピソードやデータの一つ一つは興味深く読めた。それぞれに関する入門書、エピソード本としての価値はある。
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体内のホルモンやpHといったミクロの調節、そして、生態系における各種生物種の生息数といったマクロの調節。これらが幾つかの似たようなルールに基づいているという内容。これを示すために、生物学と生態学の様々なエピソードが盛り込まれていて、それぞれが中々に面白い。
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生命、生態系の調節機構に関して、読みやすく解説している。
サバンナにおける動物個体数の増減がいかに調節されているのか、このことを、生命現象における酵素の調節と照合し、展開していく論が興味深い。
全体に、難解な記述は無く、平易な表現が多い。図表、写真の挿入も豊富で、あっという間に読み進んでしまった。
展開も妙である。生理学者の従軍記録に始まり、国立公園における生態系の回復過程につなげていく、道筋に魅了された。
何かの新聞の書評で見つけ、すぐに書店で求めた。読めて良かったと心から言える良著である。
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純粋に生物学として分かりやすい解説。生態系に目に見える影響を与えるのは、必ずしもトップに君臨する生物ではなく、多くの場合、中間層である場合が多いと。ただ、この現象を社会科学系に応用するとか、そういう話は一切ない。誤解なきよう。
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読了。サバンナにおける食物連鎖から細胞の中のアミノ酸まで、自然界は抑制の抑制による調整で成り立っているという話。といっても難しい話ではなく、主に調査や実験のエピソードで構成されており、興味深く読んでるうちにスッと読み終わってしまった。二十世紀初頭の歴史的なエピソードから始まるが、最後は十数年前に始まって現在も継続中のプロジェクトまで扱っており、リアルタイムで起きていることだということに感銘を受けた。あと、装丁が全然凝ってなくて力が入ってないのがよかった。
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「生物多様性」がわからない。どの本も「生物多様性は善である」が前提で話が始まる。なぜ「生物多様性が善なのか」を知りたいのに。そのためぼくは外来魚が殺される理由がわからない。パンダは保護されるのに、絶滅に瀕しているみのむしが無視されるのはなぜだろう。ゴキブリを殺すなという主張を聞いたことがない。
読みはじめてすぐに、あ、これはアタリかも、と思った。話はいったんセレンゲティから離れて、生物学、医学の分野に。生命にとってバランスと調整の機能がいかに大切かを解く。癌も調整の病だという。わかりやすく、読みやすい。翻訳書にありがちなもったいぶったところも、回りくどいところもない。説得力は半端ない。
で、満を持して、自然界でもバランスと調整が大事、という議論が展開される。それがセレンゲティルール。生態系のバランスが崩れたことで起きるトラブルもいくつか紹介される。が、ここには飛躍があると思う。生命体のバランスと、自然界のバランスはイコールではない。生命体はバランスを崩すと死んでしまう。死んでしまう=NGに決まっているが、自然界にとってのNGとは何なのだろう? ブラックバスが増えて、在来魚が減るのはNG? それは単にブラックバスの側に立つか、在来魚の味方をするかの違いでは? オランウータンの立場からすれば、人間はもう少し減らしたほうがいいのでは? だとしたら人間の駆除は良いことなのか?
イエローストーンでは一度絶滅したオオカミを再導入したそうだ。その結果は本書に紹介されているが、家畜を襲うからと駆除されたオオカミが戻ってくることでデメリットだって当然あったはずだ。そこが簡単にスルーされているのがどうもモヤモヤする。
で、結局モヤモヤが完全に晴れることはないのだった。
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セレンゲティ ルールとはタンザニアのセレンゲティ国立公園から撮ったものであるが、一定の範囲内に生息する生物の数を調節するルールのことである。
ここでは分子レベルから話を始めており、直接増やす要因、抑制する要因、抑制する要因を抑制する要因の三つでコントロールするとしている。食物連鎖も同様の考えではあるが、より要因を広範囲に求めている。アフリカの草食獣の頭数であれば、餌となる草木の量と捕食者である肉食獣の頭数が直接の要因であるが、肉食獣の頭数を変化させる要因例えば人間による駆除、疾病あるいは同様なところに住み食料を競争する種(あるいは同じ種でも狭いところに多くはまかないきれない)の頭数も大きく関わってくる。そのような条件を改善させると急速に頭数を戻すことができるが、その広範囲な因果関係を見極めるのは、粘り強い観察が必要。
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遺伝子の調節メカニズムの1つである抑制の抑制という二重否定論理が生態系にも当てはまるという点は大変興味深かった。またこれに基づき生態系の回復に適用された事例にもとても関心した。
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生体内から動物の生態系まで、二重否定のメカニズムで絶妙に制御されていることが示されている。
食物連鎖による生態系のバランス維持が、つい最近まで認められていなかったというのは驚きである。
ただ、守るべき自然とされるものがいつの時点の状態のものなのか、何を基準に可否を判断するのか、その問題には触れられていないのが残念。
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理解の追いつかないところもあるが,わかりやすくいろいろな例を出し図解説明もあって,危機感も持ちながらもとても楽しく読めた.自然の中にあるルールの解明がたとえばがん細胞の撲滅にもつながるかもしれない.とても興味深い.そして最後に挙げられていた教訓のなかの「楽観的であれ」になるほどと感じた.
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[関連リンク]
分子から生態系にまで作用する普遍的なルール『セレンゲティ・ルール――生命はいかに調節されるか』 - 基本読書: http://huyukiitoichi.hatenadiary.jp/entry/2017/07/10/080000
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読み進めるのに時間が掛かった本。
しかし、難しい話が書かれている訳ではない。どちらかと言えば、とても興味深く、ある種楽しく、文化系でも読める理科系の本。
それが為に凡庸な自分の脳味噌が、スパークする箇所が随所にあった。
著者は進化生物学という分野の専門家であり、本のタイトルは野生の王国であるアフリカの保護地区の名前。自ずと動物の話かと思いきや、医学の分野から始まり、薬学、生物学へと変遷。生態系の破壊から再生までの実例を教えてくれる。
そこに串刺しされる様に紹介されるのが「二重否定」。最も「閃いた」言葉である。一見、二者間に正(あるいは負)の相関関係があるようだが、そこには抑制(あるいは増進)させる三者・四者がいるというもの。「風が吹けば桶屋が儲かる」の理屈に近い話。
この本がそうであるように、分野が違っても働いている仕組み、法則は同じであると思え、社会科学(科学とは言えないと思っているが)分野でも、この理屈は当てはまるのではないかと、一度、自分でこの「二重否定」を取り込んで、世の中の動きを考えて見たい。細切れになった読書時間を費やす度に考えた。
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二重否定という論理が、細胞レベルから生態系レベルまで、生物が係るあらゆる階層で調節機能を果たしているということが、具体的な事象をもとに分かりやすく書かれていて、とても面白かった。
生態系は危機に瀕しているものの、関係者が団結し、個人個人が自分にできることを実践すれば危機から抜け出せるということが、天然痘撲滅を引き合いに出して語られていて、生態系への責任を痛感するとともに、希望も感じられた。