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タイトルには「写本」とあるが、中世ヨーロッパの「文学」全体を扱っているといえる本。「写本」は中心的なテーマであるが、本書の内容はそれのみにとどまるものではない。
物としての「本」の作られていく過程を追う前半部分も興味深いが、後半部の作者とテクストの関係を考察している部分も面白い。
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参考文献一覧で和訳のあるものが分かりやすい。注でも、日本語書名とページ数のある項は和訳が出ているもの。これがとてもありがたい。簡単な解説付きの書名人名リストがまた、似た名前をちゃんと区別しながら読むのにたいそう便利。
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書誌学を学ぶ初心者として選んだ一冊。
物理的な「本」から精神的な「読書」まで、幅広い考察がわかりやすい訳で繰り広げられていて大変面白かったです。
本を読むのは得意ではないですが、本が「いつでも待っててくれる先生」だと思うと、今日も読んでみよかなと前向きになれると感じました。
大した感想は述べられませんが、物質的な本としての評価はとても高いです。紙のしっかりとした質感、表紙の暖かみ、ゆったりとしたレイアウト。
追い詰められることなく自分のペースで読めました。
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活版印刷が生まれる前、本はすべてが一点物だった。写本ができるまでとできてからの動向を追い、ドイツを中心に、中世の貴族社会におけるメディアとしての写本文化を考える。
副題は「ヨーロッパ中世の文学とメディア」。本づくりが一大事業だった時代、それは宗教的・政治的にどんな力を持っていたのか。初期は大がかりな写本づくりは修道院の写字室で、書記担当の修道士たちによっておこなわれていたが、世俗の世界にも文官という役職が生まれるに従い、写本づくりも町の工房へと広がっていった。また、修道院が経済的な理由で世俗文学の写本や、ゲーム盤やカルタなどの作成を請け負うこともあったという。
本書の中心トピックは、やはりマネッセ写本という美本が生まれた背景を追う第2章だろうが、個人的に面白かったのは〈作者〉という概念の誕生過程に迫る最終章。注文主(パトロン)と詩人と書記の関係は、作品に署名してオリジナルを主張するのが当たり前の現在とは当然異なる。13世紀の神学者ボナヴェントゥラは、写本テキストの筆者を「書写する〈書記〉、つけ加えるが自分の考えは入れない〈編纂者〉、テキスト解説のために自分の考えを入れる〈注釈者〉、自分の考えが主で、それを補強するために他のテキストを引用する〈作者〉」という4つのカテゴリーに分けたという。
また、写本研究史上の反省も興味深かった。たくさんの異本を組み合わせれば「正しいオリジナルのテキスト」が抽出できるという思い込みは、中世ドイツにあたかも標準語があったかのような幻想から生まれている、というくだりなどはさまざまな歴史研究で肝に銘じなければならないと思う。図版も穴が空いた羊皮紙や、破損して糸で縫われたページなど見れるのが面白い。ヴェラムが本当に貴重なものだったことが窺える。羊皮紙の本、一度触ってみたいなぁ。