紙の本
バランスよくまとまった対談です
2017/10/09 10:48
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:でっかいどー - この投稿者のレビュー一覧を見る
「歴史」は井沢氏、「経済」は中原氏という役割分担で、社会経済全般をテーマにそれぞれの切り口から話をするという対談です。ただし、両者ともに幅広い知識があるため、その役割を越えて話が盛り上がる部分も多いです。全体としては、どちらかというと中原氏を前面に出しながら、井沢氏が歴史の話をつけ足していくという展開でうまくまとめています。
対談なので読みやすいですが、読者を引きずり込むような井沢氏の筆力を楽しみたい場合は、やはり『逆説の日本史』シリーズを読むのがいいかと思います。
投稿元:
レビューを見る
逆説の日本史シリーズで有名な「井沢氏」と、エネルギー(シェール関連)を含むきめ細かい解説をしてくれていて今まで何冊も読んでいる「中原氏」お二人の対談をベースに、お二人の意見をまとめた本です。
歴史の専門家と、経済の専門家が、歴史と経済の観点を上手に合わせて、私が興味あるトピックについて解説してくれています。
現在、日本にも多くの経済上の問題がありますが、過去にも似たような経験をしていますね。歴史を上手に活用することで、日本の進むべき道を見出していきたいものです。
以下は気になったポイントです。
・過去に起こった出来事を単なる知識としてだけでなく、その出来事が起こった理由、背景、条件、状況、その当時の人々の価値観、その出来事の与える影響を分析することが重要である(p2)
・経済を俯瞰するときには、物理学・地質学・気象学などの知識を無意識のうちに使うことが多い(p3)
・一連の哲学書を今の価値観で読んではいけない、当時の歴史を理解したうえで読まないと、本当の価値に気づけない(p25)
・関ケ原の戦いにおいて、西軍には間に合わなかった一群もいた。大津には、西軍最強と言われた立花宗成、そして毛利元康、小早川秀包(ひでかね)、大津城主の京極高次によって足止めされていた、秀忠が真田親子に止められたように(p31)
・関ケ原の戦いが、なぜ1日で決着がついたのか、それは三成が負けることを全く考えていなくて、最後の最後まで兵を投入し、気が付けば護衛も馬もいなくなっていたので、佐和山城や大坂城まで逃げられなかった(p31)
・中国のWTO加盟(2001)により、中国は安い労働力を武器に発展した、それまで先進国で「良質な雇用」と呼ばれていたものが失われた、これがグローバル化(p37)
・2014年以降、個人消費が3-4%で伸びている、これは原油価格の下落により庶民の実質所得が上昇したから。2015年については戦後最大であった、つまり原油下落で低インフレになったほうが消費が伸びることが証明された(p40)
・歴史的にみて、中間層が疲弊する国は衰退する、ローマ帝国・ギリシアのポリス。中間層を復活させるには、賃金の低い国がなくなること(p45)
・GDPの中核となる個人消費が二年連続でマイナスになったことは二回ある、一度目は2008‐2009のリーマンショック、二度目は、2014-15年、この原因の大半は円安による輸入インフレである(p51)
・為替の妥当なレベルは、購買力平価である、日本とアメリカで同じものを買った時、同じ代金になるような水準のこと(p55)
・革命や動乱はデフレのときにはまったく起きていない、すべてインフレ時、18世紀のフランス革命、20世紀の天安門事件(物価上昇率が20%前後もあり国民が食べれなかった)、21世紀のアラブの春(p75、76)
・庶民は大抵のことは我慢するが、最後の最後で立ち上がるのは、やっぱり飢えである、フランス革命も革命前夜は火山の爆発で天候不順が続いて小麦が取れなかった(p77)
・日本の幕末も物価が高騰している、金銀交換比率を、金1銀4と計算していたせい、織田信長時代の比率に従っている。当時の世界では、1:16であったので、外国人が安い銀を持ってきて金を流出させた、そしてインフレとなった、食べていけなくなった(p78)
・会社組織で農業を運営すると、例えば9月までは国内で働いて、10月からは南半球で農業をやることも可能となる(p91)
・中国の歴史において、秦王朝以降、宋を除き、すべて実質的に農民反乱を契機に滅んでいる。宋(北宋)だけは、異民族の金に南へ追われ、南宋となり、後にモンゴル(元)に滅ぼされている、そして農民反乱は宗教と結びついている、宗教により士農工商を超えた横のつながりを補完する(p99、104)
・中国は中東と並んで圧倒的に世界をリードしていたが産業革命が起きずに西洋に逆転されたか、要因として宗教がある。西洋の場合、科学技術の発展は、キリスト教、神を否定することから始まった(p109)
・中国中央政府が財政規律を守っているかは、インフレが天安門事件を引き起こしたというトラウマがあるから(p115)
・朴クネが大統領に選ばれたのは、本音としては、親族がいないから。夫も子供もいないので、売りとなった。ところが実は家族同然の人がいて、そこに便宜を図っていた(p136)
・ユーロの最大の問題点は、生産性の高い国と低い国の為替レートが同じになってしまうこと。生産性の高い国は輸出で儲けられるが、低い国は儲けられない。なので、イタリアやスペインといった国にしわ寄せ(高い失業率)がくる(p147)
・イギリスは経常赤字の国であるが経済がもっているのは、海外からの投資があるから。EU離脱により企業が従来通りの競争をできなくなると、海外からの投資が減少するだろう(p148)
・免罪符を買えば天国に行けるぞ、という宗教を使った商法を始めたのに対して、「聖書にはそんなことは書いていない」と暴いたのが、マルティン・ルター、彼はラテン語の聖書をドイツ語に訳し、誰でも読めるようにした、これが宗教改革=プロテスタントの発祥、である(p157)
・ルターの前にも外国語に訳した人物はいた、14世紀に英語に訳した、ジョン・ウィクリフもその一人、しかし印刷の技術がなかったため、広く普及しなかった(p157)
・プロテスタントは、教義を変えて、利潤・金利は、正当な労働の報酬の成果であれば、けっして悪いことでない、とした(p159)
・国際紛争が起きたときは、石油欲しさ、とつけるとだいたい説明できる。表向きは宗教や民族の争いであっても、その裏に隠れている(p176)
・アメリカはすでに貿易赤字が大幅に減っている、赤字の半分は中東からの原油輸入だったので。2030年には原油の輸出国になるという予想もある(p178)
・VWの不正がなければ、日本とドイツは水素を燃料とする燃料電池車の開発を進めていただろう、しかし巨額の賠償金が必要になり、巨額の研究開発費をだせなくなり、EVにシフトした(p179)
・かつてケネディ大統領は、人類が目指すべき目標として、月面に人を送ることと並んで、海水の淡水化を挙げていた。単純に安価に淡水化する技術はまだない(p193)
・古代において、ギリシアのポリスやローマ帝国があそこまで降盛を極めたのは、葡萄とオリーブのおかげ。葡萄酒やオリーブオイルはお金持ちに高値で売れた。葡萄酒は樽に入れれば長く大量に貯蔵可能である(p197)
・中国では体を動かすことは、悪いことである。高貴な人間のやることではない、これも朱子学的な発想である。韓国でも同様、エリートに便所掃除をやれといったら怒る(p204)
・日本的資本主義とプロテスタント的資本主義の違う点は、キリスト教にとっての労働は、神が人間に与えた罰という考え方がある(p206)
・国民皆年金制度ができたのは、昭和36(1961)年のこと、当時の平均寿命は68歳(男66、女70)支給開始年齢が60歳だったので、平均寿命でみれば8年間の年金がもらえる計算であった(p208)
・法律では2025年度には、企業が社員を65歳まで雇用することを義務化した(p209)
・戦国時代の女性は、あまりにも自由過ぎて、宣教師ルイス・フロイスが驚いている、彼が書いた「日本史」によれば、日本の女性は旦那の許しを得ずにどこへでも行く、勝手に離縁したりしていた、欧州ではあり得ない(p217)
・人口知能の普及は人々の雇用を奪うが、人口減少が進む日本にとっては、マイナス面ばかりではない(p228)
・穀物が余っていないと、酒なんかできない。世界最初の酒類はメソポタミアのビール、大河の畔で大量の麦がとれたから可能であった。余って倉庫に入れていた麦が自然発酵したのであろう(p238)
・昭和6年に冷害に強い早稲を完成させた、戦後の食糧難で見直され、東北地方・北陸地方でもこの技術を使った稲作が行われた、そのコメは「農林1号」と呼ばれていたが、そこから分かれて誕生したのが「コシヒカリ」である(p241)
2017年10月9日作成
投稿元:
レビューを見る
「逆説の日本史」の歴史学者・井沢元彦と、経済学者の中原圭介との対談本。
三つの視点
・物事の本質とは何か
・歴史からの教訓をいかに活かすべきか
・自然科学の発想を活かせ
一部、話がかみ合っていなくて、とくに井沢が歴史トリビアを話しているだけの項目もあるが、参考として読むとおもしろい。
中原の「デフレでも好況」は頷ける。物価を上げるアベノミクスは、円安を進めすぎて企業は儲かるが、実質賃金が低い消費者が苦しむ。
中国、韓国などの項目は読み飛ばした。
思考力の土台を築くための、知識の詰め込みは必要に同意。
日本人は生涯働いた方がいいはそうだが、知的労働に誰もがつけるわけでもない。
経済理論が、経済の実態に見合っていないは、誰もが感じる処。
投稿元:
レビューを見る
歴史と経済に造詣の深いお二人だが、内容は浅い
歴史から見た経済 中間層が没落する社会は衰退する
しかし時代の変革期には、変化に対応できた少数の者に富が集中し格差は拡大する
産業革命、IT革命 変革のリーダーとして仕方がないが、社会は不安定化する
革命や動乱はインフレの時に起こる(中原圭介p77)
投稿元:
レビューを見る
20世紀の世界の経済について観察すると、デフレ時の9割近くが好況だった。ミネアポリス連邦準備銀行のエコノミストが明らかにしたもので、国際決済銀行(BIS)も同じようなレポートを書いている。2000年以降のグローバル経済下では、通貨安政策をとると国民の実質所得が減る[中原]。
歴史的には、革命や動乱はデフレの時にはまったく起きておらず、フランス革命、天安門事件、アラブの春など、すべてインフレの時に起きている[中原]。
企業の収益を上げれば、最終的に庶民まで恩恵を受けるとするトリクルダウンは成り立たない[中原]。
朱子学は、宋が崩壊して、金や元のような漢民族以外の政権が誕生した時に生まれた。そのため、きわめて排他的かつ独善的にデフォルメされた。良いモノとダメな者を峻別するために科挙を行い、合格したものを官僚に登用した。人間には差があり、選別できるという考え方は、誰もが平等であるとする民主主義の理念には馴染まない[井沢]。
シベリアは資源の宝庫だが、食料の調達が極めて難しい。食料の補給ができ、不凍港がある日本と友好関係を持つことは、ロシアにとって重要だった。田沼意次は国際貿易をめざしたが、松平定信はそれを妨害した。この時代に日本とロシアが友好関係を結んでいたら、日露戦争はなかったかもしれない[井沢]。
山本七平は、日本人がまじめに働く理由は禅にあると考えた。禅は、日常のあらゆることをまじめにやるのが修行と考える。剣術も、禅と結びついて「道」になった[井沢]。
弥生系の稲作文化には血を穢れとする発想があり、動物を犠牲として捧げる儀礼はない。ユダヤ教やキリスト教には、肉や血に対する嫌悪感はなく、縄文人も同じような感覚を持っていた。縄文人の文化に、都から流れてきた平氏・源氏の文化が合わさったのが武士団と考える[井沢]。
サツマイモは、18世紀の初めに薩摩に持ち込まれたもので、肥料も水もいらず、やせた土地でも生産できる。享保の飢饉のときも、薩摩ではほとんどが死者を出さなかったため、吉宗が全国に広めた。