紙の本
何事もほどほどが一番
2021/03/23 17:14
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かわも - この投稿者のレビュー一覧を見る
題名にある「塑する」とは、塑性のことです。弾力性は衝撃をはね返し、元の形に戻ります。塑性は衝撃を吸収し、そのまま凹みます。著者は塑性的なあり方を大切にしようと言います。学校教育の中でも、目まぐるしいスピードで動く社会にあっても自分を持つことを推奨する。そうではなく、流れの中で考え方やあり方を変えながら、生きていくことの肯定です。
また、本書では便利さをとことん疑ってかかります。『考えなければ気づかないではダメです。日常生活の中で、人はいちいち考えながら行動しているのではなく、物事に瞬間的に反応して、ほとんどの行為が無意識に起きている。そんな中に便利ウイルスはしたたかに入り込んでいるので、考えなければ、では、ぜったいに気づくわけがない』(P246)とし、常に疑う習慣を身につけることが大切と言います。
これは、文明批判をしているのではなく、便利すぎず不便すぎない=「いかにもデザインしました」ではいけないということで、ほどほどの部分を探し当てるデザイナー視点から見いだされたものです。
投稿元:
レビューを見る
佐藤氏のデザインへの考え方がよく分かる。主義主張を押し付けるばかりの自己満足はやめよう。大変、参考になるデザイン論。
投稿元:
レビューを見る
養老孟司先生が新聞の書評で「この本を読んで、自分もデザイナーになってみたくなった」と書かれていたのを読み、自分もこの本を読んでみたくなった。
これは、ニッカウィスキーの「ピュアモルト」明治の「明治おいしい牛乳」ロッテの「クールミントガム」などのデザインを手がけ、日本を代表するグラフィックデザイナーの一人である著者が(私は門外漢でお名前を存じませんでしたが)、それらの仕事を通じて思考し、たどり着いたデザイン論である。そのポイントを一言で表すとすれば題名にあるとおり「塑する思考」という著作オリジナルの言葉になるのだろう。「塑」とは、外部からの力に従ってどのような型にもなるが、決して元の型に戻ろうとしない、そもそも元の型というものがないという意味で、同じ「柔軟」ではあっても絶えず元の型に戻ろうとする「弾力」とは分けて考えるべきだという。柔軟に思考することは大切だが、デザインにおいては「塑する思考」すなわち、自分とか個性を表現しようとするのではなく、そのものに内在する価値を引き出すこと、いわゆる付加価値とは逆の発想こそが大切だというのである。和食の職人が素材の味を引き出すとか、仏師が仏様を彫るのではなく、木の中から仏様が現れる、などと語られることがあるように、いわゆる達人が語る言葉には分野を超えて通じるものがあるようだ。そもそもデザインとは絵画とか工芸とかいわゆる芸術の一分野に分類されるものではなく、人が生み出すあらゆるものに関わっており、その意味で人と物を仲介する「水」みたいなものだという。水は方形の器に隨う、たしかに「塑」だし、この惑星では普遍的に存在する生命の源でもあるから、デザインを論じるととても深い世界のことまで想像力が働いてしまう。養老先生がデザイナーになってみたくなったというのも、あながちお世辞ではないと思える。
この本にはグラフィックスという2次元の世界を超えて、奥行きと含蓄に満ちた言葉が溢れている。
投稿元:
レビューを見る
人間は猿人からの進化で体毛がなくなった。もじゃもじゃの方が怪我もしにくいし暖かいのに。
身体が弱くなった、不便になった。ちょっと転んだだけで擦りむくし痛い。でもその代わりに、全身の末端までに行き届いた神経のお陰か、体の外のことが感じやすくなった。感受性が豊かになったらしい。
不便と口にするが実はそうではないことがありそうだ。
便利だと口にするが実はそうではないことがありそうだ。
何が自分達にとって良いことなのか?
著者は考える。感じている。
最近、これだけ豊かな身体を持ちながら、この身体を使わないことが多くなった。1階から2階に行くにもエレベーターを使ったりする。でも一方では健康に気を使い、大金を払ってスポーツジムに通う。
もしかして我々にとって丁度良い生活とは、身の回りにあることを今一度考え直すことかもしれない。
そして、デザインとは、格好良い形を作るのがデザインではなく、
実は、こんな世の中の問題と思えることを解決することがデザインすることみたいだ。
佐藤卓さんのデザイン道。
「塑」は素直に受け入れること、外部を感じることと解釈。
金属は塑性変形と呼ばれる特徴がある事で様々な形になれます。土はこねることで如何様な形にも。
投稿元:
レビューを見る
装飾のためのデザインではなく、無駄を省くデザインの重要性を示唆する。冷蔵庫の例えが分かりやすかった。
投稿元:
レビューを見る
普遍性を持つ容れ物(場・プラットフォーム・モノの形)としての『構造』と、その中で様々に展開する『意匠』。単純さと独自性。
ブランディングとの関係。
投稿元:
レビューを見る
『「付加価値」撲滅運動』とか『「便利」というウィルス』などの章が特におもしろかった。デザインとはそもそも何か、というところから始まり、グラフィックデザイナーの視点から見た現代の様々な側面を、わかりやすい文章で伝えてくれる。
投稿元:
レビューを見る
クールミントやニッカのエピソードは、正しく創造的なエピソードである。
その一方で、サーフィンの話は、微苦笑。
投稿元:
レビューを見る
特にクールミントガム、おいしい牛乳の例は、デザインのしごとを進めていくうえで、ストイックさを持つべきところへの示唆を多分に含んでいて、非常に勉強になった。
デザイン観みたいなものの考え方の色は、意外とあんまり合わないと感じた。
投稿元:
レビューを見る
どこで「弾性」を使い、
どこで「塑性」を使うのか、
自我を削り取って削り取って、
最終、譲れないものはなんなのか、
知っていきたい。
投稿元:
レビューを見る
自分の中の無責任な「デザインする」意識が変わりました。
私はデザイナーという肩書きで仕事をしているにも関わらず、世の中の著名なデザイナーの方々に関する知見が浅いです。仲間内で「尊敬するデザイナーは誰か」という質問があがると決まって黙り込んでいました。
本書では、世の中に蔓延る無責任で本質を捉え損ねた、一般大衆的な「デザイン」を否定し、デザインの本来あるべき姿を改めて示しています。
誰が何のために何を生み出すのか。
デザインには答えがないよ、正解がないよ、
という人はデザイナーにも沢山いると
思いますが、
定められたルートはないにしろ、必ず達成すべきゴールは決まっています。
こうあるべき、という信念を持ってデザインに向き合うことをエピソードを交えて、しかも読者と近い視点で書いており、
よくあるデザイン思考の指南書よりもずっと参考になると感じました。
私の尊敬するデザイナーは佐藤卓さんです。
投稿元:
レビューを見る
デザインとは
きれいなグラフィックや何か施されているものをデザインされていると捉えがちだったが、すべてのものはデザインされているとということが言われてみて初めて気づいた
お箸はナイフやフォークに比べると、チープな印象を抱くかもしれないが、そのシンプルさ故に様々な使い方ができる
自分が普段生活する中でいかに無意識に行動しているかを痛感した
ものを買うときになぜそれを選んだのか、逆になぜ選ばなかったのかなどを意識するようにしたい
投稿元:
レビューを見る
すっごい面白かった。というより、とても重要な視座と言葉をいただいた、という感覚が強いかも。
まさに実用的な視座「構造」と、染み込む言葉の綺麗さ「意匠」を兼ね揃えた本。
物事の本質を「問い」から見出すこと。おそらくそれが、良い意味で自我と戦う一番の術なのかも。
投稿元:
レビューを見る
著者は、NHK「デザインあ」の総合指導をしている人。
世の中にアイデア出しの本は数あれど、ここまで頭の中の過程を丁寧に解説した本は、珍しいのではないでしょうか。「塑する」とは「柔」につながる意味だそうです。パッケージデザインから、世に言うデザインそのものの謎にも迫っていきます。読めば「デザインあ」が10倍楽しめる。どうしてああいう番組なのかも納得。人生にも確実に効く、考え方の本です。
投稿元:
レビューを見る
五輪周辺の不祥事の余波で、なぜかデザインあが放送休止の憂き目に。。追悼の意味で佐藤卓さんの本をよむ。これが素晴らしい出会いになった。
因果応報、人間万事塞翁が馬。
クールミントの2匹目のペンギンの種明かし、積年の謎が解けた。