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地獄極楽思想は仏教から生まれたものである。よいことをすれば極楽へ行き、悪いことをすれば地獄に落とされる。
地獄ってどんなところ?というのを絵解きしたものが「地獄絵」「地獄図」である。中国では唐代に描かれ、日本でも古くは奈良時代に描かれたものが残されている。
地獄図が盛んに描かれるようになったのは、平安中期の僧、源信の『往生要集』が書かれたころ以降で、末法思想が台頭するのと時を同じくしている。
以来、江戸期(あるいは明治以降も)に至るまで、さまざまな絵師がさまざまな地獄絵を残している。本書はその集大成ともいえるもので、A4変型で600ページ弱、拡大図も豊富で、まさに圧巻の地獄絵図である。
「仮名書き絵入り往生要集」「六道絵」「地獄草紙」「北野天神縁起絵巻」「沙門地獄草紙」「辟邪絵」「地獄極楽図」。罪人たちが焼かれ、切り刻まれ、煮られ、追い回され、落とされる。どんなに責苦を受け、ぼろぼろになっても「活々」と獄卒が唱えたらまた蘇らねばならず、罰は延々と続く。
地獄は多層構造になっていて、深く深く、下に行くほど罪が重い。
さらに、地獄では1年の長さが地上よりも長い。一番上の(つまり罪が軽い罪人が行く)等活地獄でも地獄の時間で500年を過ごさなければならないのだが、人間の時間では1兆6千53億1千2百50万年だという。
・・・えと、一応、今の定説だと、宇宙の年齢が138億年なんですが、宇宙が始まる前から、おそらく宇宙が終わっても、地獄にいるわけですか・・・? 何か、罰を受けている間に、人類が滅亡したり、ほかの種に進化していたりしそうだ。
殺生に姦淫に窃盗、まぁよくはないけど、そんなにまでしなくても・・・と思わないでもない。
そんな思いはほかの人も抱いたのかどうか、罪人を助けてくれる羅漢や地蔵の図というのも描かれている。
中の1つの「矢田地蔵縁起」によれば、生前、11月19日に月詣ですれば3万5千日分のお参りをしたことになり、無間地獄に行かなくて済むという。12月24日はもっとお得で、10万5千日分の功徳、即、極楽往生が確定するらしい。
・・・いや、それはそれでどうなのか、という気もするが。
新しいところでは河鍋暁斎や月岡芳年の絵もある。
いわゆる「地獄絵」だけではなく、罪人の処刑図や凄惨な殺人現場の「地獄絵図」もある。人の朽ちていく様を描いた「九相図」もある。
いやもう、1冊でおなか一杯、というところだが、資料として優れているのは間違いない。
地獄絵を見ながら、昔の人はやっぱり悪いことはやめようと思ったものか。それとも憎い誰かがいずれは地獄に堕ちてこのように苦しむはずだと黒い笑みをもらしたものか。
獄卒はずーっと罪人に罰を与え続けて嫌にならないのかな、と余計な心配もする。
ともかくも圧巻の1冊である。