紙の本
箱根山戦争
2022/12/27 16:10
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投稿者:鎮文修 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1960年代初頭の箱根が舞台の小説である。
東急VS西武(実際はそうとは言い切れないが)の箱根山戦争に、対立する旅館同士の出身でありながら、年の近い者の恋愛(こちらが話のほとんどを占める)が絡んで、最後は丸くおさまるという話。
読む前は箱根山戦争についてどっぷり書いた方が面白いのではと思っていたが、こちらもかなり面白かった。
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今読んでも古さを感じさせない不思議な小説
2020/11/03 22:08
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ちくま文庫で「娘と私」「自由学校」「悦ちゃん」などが復刊し、その他の文庫でも次々と作品が復刊している、20世紀の後半にはほとんどの作品が絶版になって忘れられた作家のように扱われていたのに。それは、出版社の気まぐれなどではもちろんなくて、作品がとんでもなく古さを感じさせないのだ、「箱根山」は1961年に朝日新聞で連載をスタートさせたものだし、NHKでドラマ化された「悦ちゃん」に至っては戦前の作品なのだが新しい。「箱根山」では主人公の一人、勝又乙夫が「箱根には自動車の走れる道路も必要だけど、人間のあるく道はもっと必要だと訴える場面がある、所謂プロムナード構想なのだが、もう一度、繰り返すがこの作品は1961年に連載が開始された、つまり東京五輪前の作品なのだ、だからこの人の作品は今読んでも時代を感じさせないのだ
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年に数回行く箱根の芦之湯。
古い温泉場で二軒の旅館が隣り合っている。松坂屋と紀伊国屋。両者の境界もはっきりしない。
芦之湯には二次大戦中ドイツ兵が大勢帰国できずに滞在していた。
そばには石器時代の遺跡がある。
それらをぜーんぶ織り込んで、しかも箱根と元箱根の争い、提と五島の争い、藤田観光の小涌園、もちゃんと織り込んだ娯楽小説。
こんな面白い話、しかもしょっちゅう行く芦之湯が舞台なのになぜ読んだことがなかったんだろう、と思ったら1961年の朝日新聞の連載小説だった。
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初めての獅子文六。知り合いが絶賛していたので読んでみることにしました。
時代は私が物ごころ着き始めた頃の昭和35年。そのせいで「こんなだったよな~」と{そうだったのかしらん」が入り混じります。
冒頭は箱根開発をめぐる西郊(西武)と関急(東急)の2大勢力の争いでスタートします。箱根山戦争という名前が付けられたくらい有名な事件のようですが、私は初めて知りました。まあ、時代もですし、地方生活者にとって箱根そのものに馴染みが無いのです。地名なども判りやすく置き換えられている様ですが、そもそも土地鑑が無いのでついて行けない。という訳で、少々辟易しながら読み進めます。
途中から話は芦ノ湯(文中では足刈)の2軒の旅館間の争いに移ります。
元々、親戚関係だった2軒の確執。89才の元気な女将、忠義な番頭、家業そっちのけで趣味に生きる主人。登場人物もちょっと古風で多彩です。そしてその背景に描かれる高度成長期の日本。マイカーブーム、大衆レジャーランド、スモッグ、クーラーの無い夏場。元気で若々しい日本です。考えてみればちょっと今の中国に似ています。
そんな中で生まれる微笑ましい純情可憐な恋愛。ノスタルジックな昭和期の映画・テレビドラマの世界を思いながら、楽しく読みました。
全てが幸せな方向に向いたところでスパッと切り落としたようなエンディングが特徴的です。
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1950年代から60年代にかけて
神奈川県の箱根山周辺をめぐる観光開発競争が
西武、小田急、藤田観光の3グループ間で行われていた
かつては互いの縄張りを侵さないように共存していたものだが
戦後、GHQの方針による自由経済の強化で
独占禁止の風潮が出てきたことをきっかけに、戦いの幕が開いたのだった
当初、作家の獅子文六は
「箱根山戦争」と呼ばれたそれをモデルに
企業小説のようなものを書こうとしていたらしいのだが
連載中、関係各所から不穏な空気が漂ってきたために(ホンマか)
急遽、路線変更して
大人たちの争いに巻き込まれながらも自分らしさを見失わない
若者たちのエバーグリーンな物語としたのだった
結果的にそれが正解で
序盤から中盤にかけぶつ切りの印象は否めないものの
池田勇人が「国民所得倍増計画」をぶち上げた時勢にも煽られてか
たいへん景気のよい話となっている
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獅子文六「箱根山」 神奈川・箱根町
箱根の山は、天下の嶮(けん)じゃなくて、ケンカのケンだぜ
2018/3/31付日本経済新聞 夕刊
「箱根十七湯」と称される17の温泉場を擁し、年間2000万人前後の観光客を集める神奈川県箱根町。温泉場への道々に美術館や名所が点在し、芦ノ湖や富士山の景観と共に好みに合った楽しみ方ができる。そして、何よりも交通の便の良さが、行楽の山としての人気を支えている。
芦ノ湖を囲む山の上に満月が昇った=井上昭義撮影
芦ノ湖を囲む山の上に満月が昇った=井上昭義撮影
同町の主な交通網は1950年代に、西武と小田急の両グループが主導して現在の形に整えられた。両者はバスや遊覧船、ロープウエーの「陸・水・空」で熾烈(しれつ)な交通開発競争を繰り広げ、訴訟合戦も展開。その十数年にわたる紛争は「箱根山戦争」として世間の耳目を集めた。
本書が描くのは「箱根山戦争」まっただ中の時代。17湯の1湯でしのぎを削る2軒の老舗旅館を軸に、それぞれの若い後継者同士の恋を絡めながら、箱根の来し方をユーモラスに浮かび上がらせる。
2軒の旅館にはモデルがあり、芦ノ湯温泉の松坂屋本店とそのライバル旅館とされる。著者は戦後復興期、毎夏のように箱根を訪れ、松坂屋本店を定宿にした。同旅館の当主、松坂康と母親とみから旅館や交通資本同士の確執、箱根の歴史などを聞き、本書の執筆を思い立ったという。
康は作品に描かれた若松屋の当主のように考古学好きだった。箱根の旧石器時代に関する自説を立て、これを聞かされた著者は物語の展開に巧みに用いた。一方、とみの老いてもかくしゃくとした姿は、ライバルである玉屋の女主人の原型にしている。
現在は人々の記憶から遠ざかったが、箱根の旅館やホテルは戦時中、ドイツ海軍将兵ら在日外国人の疎開先にされた。この史実を取り込んで物語を作り上げたことも、作品に奥行きを与える。
箱根町立郷土資料館は2002年秋に、本書に関する企画展「箱根は箱根」を開催した。鈴木康弘館長は「当時、獅子さんの作品の多くは絶版扱いだった。高度経済成長期に向かう時代の箱根を思い起こすきっかけになればと展覧会を企画した」と話す。
箱根山戦争は両グループの友好協定調印という形で完全終結して、今年でちょうど50年になる。現在の町の交通網が、熾烈な開発競争の末にできあがったのは事実。本書はフィクションを交えながらも、箱根の戦後史の一断面を伝える意味でも貴重だ。
(編集委員 小橋弘之)
しし・ぶんろく(1893~1969) 横浜市生まれ。慶応義塾大学予科中退。22年、演劇研究のためフランスに渡り、現地の女性と結婚。25年に妻を伴って帰国し、長女を得る。37年に岸田国士らと文学座を結成。岩田豊雄の本名で戯曲を書く傍ら、獅子文六の名で小説を手がけ、「悦ちゃん」「てんやわんや」「娘と私」などを発表した。69年に文化勲章。
本書は61年3月から10月まで朝日新聞に連載���た。この時期は西武と小田急の両グループの紛争が実質的な終結をみようとしていた。連載は評判を呼び、62年4月に花柳章太郎らによって東京の明治座で上演され、同年9月には加山雄三と星由里子ら出演の映画が公開された。
(作品の引用はちくま文庫)
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うはは!こんな面白い小説があったのか。いわゆる東急対西武(そして藤田観光)の箱根山戦争から、元箱根・箱根町の反目、そして旅館同士の争いと、そこに加わるラブロマンス。ハッピーエンドで大団円かと思いきや、どんでん返しもあるという。どこまでもエンタテイメントな小説でした。そして箱根の観光開発史まで勉強できるという希有な一冊。気軽に読むのがおすすめ。
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昭和がレトロになって久しい。
そんな話題にうってつけのエンターテインメントだ。
昭和を知っている人も知らない人もすごく楽しめる小説、わたしの今年一番のお薦め。
あの頃は、とにかく希望がいっぱいあった。
(今の北京みたいに、いや、昔のロンドンみたいに)東京が煤煙で汚れていても、明るかった、活気があった。
そんな東京の避暑地、温泉地箱根に勃発した観光道路開発戦争。
それに加えて地元旅館の争い、お家騒動。
「箱根の山は天下の嶮じゃなくて、ケンカのケンだぜ」登場人物の独白。
自然のきれいな空気も硫黄でなくても濁りそうで、息苦しいような。
だけども他人の喧嘩はやじ馬にとって実に面白い。
そこを作者はうまーく捉えて、だーだだーっと読ませる。
青春物語もあり(しかも純情可憐な)なお、経営学方面、地質学も加わり、多彩に発展する。
陳腐に落ちず、飽きさせない。
昭和を知っている人はクスリと笑い、獅子文六の「先見の明」にハッとする。
知らない人は昭和ってこんなに明るかったのねとびっくりされればよろしい。
閑話休題
この小説は昭和36年(1961年)3月から10月まで朝日新聞に連載された由。
わたしちょうど花の19~20歳(笑)
堤と五島のケンカを下敷きにして面白おかしくと話題であったのに、娯楽小説などは「フン!」見向きもしなかった。半世紀も過ぎてやっとその気になったのはだいぶ損をした計算になる(笑)
ものすごく笑った一節
東京でサラリーマンになる乙夫がスーツ(背広)をあつらえるのに
「ブラ下がりにしておけ」と親代わりが言う(そう言ってた、言ってた! 笑)
わかるかな~~
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とにかく箱根箱根箱根箱根…箱根の郷土史を読んでいるようでした。最初の、箱根を舞台にした2つの会社の騒動はその後のストーリーにはあまり関係なかったのでは⁇とはいえ、とにかく獅子文六さんが描く登場人物は色あせないんですよねぇ、イキイキしてます☆どっぷり箱根のお湯に…ではなくキャラに浸かりました☆
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0056 2018/09/05読了
短編よりも長編の方が面白いな〜。
解説にもあるとおり会社同士のケンカの関係性が複雑だけど、すごくわかりやすく面白く書かれているので、読みやすい。
会社のことばかりで全然女の子と男の子出てこないなと思ってたら、後半でしたね。
箱根に行きたくなりました。
あと表紙のボブa.k.aえんちゃんの絵がかわいい。
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『#箱根山』
ほぼ日書評 Day342
獅子文六作、西武 vs 小田急(東急)に藤田観光の三つ巴となった箱根戦争を3世代にわたるドラマとして描いた一作。
後書きにあるように、先のオリンピック前に日本のツーリズムの行く末をここまで予言的に記しているのは驚きだ。
老舗宿が火事にあった際に、冒頭の3社が見舞いを兼ね出資の申し出に来た様を「アメリカ、ソビエト、中共の間にハサまれた日本と、同じ立場」と言い切っているのは、時代ながらに興味深い。
https://amzn.to/3u0fgjw
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昭和30年代の箱根の芦之湯がモデル。西武系と東急系の激しい勢力争いにヒントを得て作られた当時の世相が多く描かれた小説。
箱根駅伝マニアな自分。箱根ロスを癒すため箱根を冠した作品を再読してみました。
昭和35年頃、箱根観光の主導権を争う西武グループと東急グループ。そして第三勢力の藤田観光。 この争いに二つの老舗旅館の争いをからめた小説である。二つの旅館のモデルは芦之湯の松坂屋ときのくにやであろう。箱根駅伝なら山登りの5区の最高点付近に芦ノ湯はある。。
時代から忘れられつつある作家が好きである。本書の作者の獅子文六、源氏鶏太、南條範夫など。 図書館の書庫から出してもらい読んだことのあった作品がちくま文庫で再版されたので、あらためてじっくりと読んでみました。軽妙な筆致は現代でも通じると思う。初めて読んだとき、てっきり企業小説と思いきや洒落た恋愛小説であり、驚いたことを思い出す。
箱根を巡る争い、西武系の伊豆箱根と小田急系の箱根登山。今は露骨な競争はないが、、昔はそれぞれの会社のフリーパスが非常に面倒だったことを覚えている。ロープウェイ(小田急系)が強風で運休、バス(西武系)に乗ると別料金であった。芦ノ湖の船着き場も別だった。
企業の争いは元々は、箱根権現を管理する元箱根と関所を有する箱根町争いに始まったのは本書で知った。
獅子文六は時代をからめて、しゃれた小説を作るのがうまい。時代性が足かせとはなるが、ちくま文庫の編集で相関図が添付されて分かりやすくなっている。
なお、過去の映画では加山雄三と星由里子主演。
前に読んだ時は、ちょうどきのくにやに泊まる直前。小説の舞台の一つに宿泊しその小説を読む。最高の贅沢を味わうことができました。 松坂屋は高級すぎて手が出ません。
芦ノ湖だとかスカイラインほか箱根の地名も多く出てくるので、箱根旅行のお供に是非お試しください。