紙の本
注文の多い息子に父はどう対処したか
2017/12/02 08:37
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
門井慶喜さんの作品は第155回直木賞候補となった『家康、江戸を建てる』しか読んでいないからエラそうなことは言えないが、作品の捉え方が独特でいい。
この作品にしてもそうで、宮沢賢治というあまりにも有名な作家の生き様をその父の視点から描こうというのは、今までありそうでなかった視点といえる。
それでいてそれが変化球かといえば決してそうではない。
むしろ直球ストライクど真ん中というのが、読んでいて気持ちいい。
この物語の主人公は賢治の父政次郎である。
賢治の実家である質屋を父喜助から引き継いで、岩手花巻の富豪であり名士であった。
賢治もそうであったが、政次郎も子供の頃からよく出来て「花巻一の秀才」と言われたという。そうなると当然上級の学校となるが、喜助の「質屋には、学問は必要ねぇ」の一言でそれを断念することになる。
しかし、自分の息子がそうなった時、政次郎は進学を許す。賢治の妹のトシもそうである。
それは時代の流れといえばそうかもしれないが、もし喜助のような性格であれば賢治は果たして上級の学校に行けたか。
もっというなら、賢治が童話や詩を書くに至ったかはわからない。
それを政次郎の甘さといえなくもない。
読んでいてここまで息子や娘に優しい父をうらやましいと思うが、賢治を後世いわれる宮沢賢治に仕上げたのはこの父なのではないか。
いや、もしかしたら政次郎こそ宮沢賢治になりたかったその人なのかもしれない。
けっして重くならない門井さんの文体もこの作品にはよく合っている。
紙の本
全ての父親とその息子におススメ。
2018/05/08 22:12
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮沢賢治の父親を描いたものって珍しい。妹のトシは賢治の詩「永訣の朝」から、弟の宮澤清六は著作の「兄のトランク」(解説によると清六は『未来少年コナン』が好きだったという。)を通して知っていたけれど、父親については何も知らなかった。父はうろたえるし、子どもに甘い。宮沢賢治について新たな見方ができる。ふだん、あまり読書をしない友達も一度を手を止めることがなかったと話していて、文章がとても読みやすい。
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人は誰でも悩みや苦労話は持っている
2017/11/04 14:01
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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本はよく書けていると思う。全国に宮沢賢治ファンは多く、学生特に女子学生には多くいると聞く。有名な「雨にもマケズ」は東北地方ではよく引用される詩だ。多くの読者は作品を通じてしか賢治のことを知らないことだろう。よほどのファンでもない限り、妹トシのことは知っていても、父や母のことまでは知らないのではないだろうか。私もその一人である。
この本は生きること、人生とは何かを問い続けながら、苦悩しながら生きた、賢治の父・政次郎の物語だが、子供達を溺愛する人生でもあった。特に賢治のことは親馬鹿ぶりを発揮していたようだ。賢治も切っても切れない親子という人間関係、父との葛藤に拘泥された精神生活だったようにも見える。同様に妹トシへの深い愛情を注いだことも彼の人生だった。
賢治の家族を描いた作者の着眼に拍手を送りたい。
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伝記かな
2019/05/23 07:14
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投稿者:おどおどさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
しかし、ちょうど最近、宮沢賢治の本を読む機会がいろいろあったので、賢治と父親の物語は大変興味深い。読めば、あの物語は、この実話が元になったのかも?などと考えられて楽しい!
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一気に読めてしまう
2018/08/02 22:00
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投稿者:玉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮澤賢治が特に好きというわけではない。もちろん、有名どころは知っている。妹さんのイメージは強烈だ。映画も見た。賢治はあんな奴かなぁ。石川啄木と重なるところもありそうだ。でも、お父さんって?全然・・・。さて、この作品。どこまで事実に基づいているのだろう?そんな詮索は無用。こんなうまい文章ってあるんだな?作家って、本当に小説を書くのがうまいな。こういう作品が直木賞にふさわしいよね。とにかくうまい。とにかく読みやすい。脱帽です。
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宮沢賢治の父、政次郎が主人公。賢治を質屋の跡取りにしたい父と、自由気ままな息子。だが父は厳しいわけでもなく、むしろ息子のしたいことを心ならずも(?)応援することになる。学歴はないが、インテリであり、地域の文化を守ろうとしていた人だった。この父親がいたからこそ、賢治が才能を開花させることができた。環境を整えてくれたからだ。近代の父親像は厳格なイメージだが、今風のイクメンのような存在なのではないか。方言もよい。雰囲気を明るくしてくれる。ととも切なく温かい作品だった。もう一度読みたくなる本だし、賢治の文学にも改めて接してみたい。
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父性小説というべき新しいジャンルの小説を読んだ様な気持ちになりました。今まで読んだ賢治についての著作では父、政次郎は家業について、信仰についての相克の相手として登場していましたが、本書に登場するのは不器用な愛情に思い悩む父親像です。「巨人の星」的な父子の関係の物語とは全く違うイクメン時代の父子の切り口、とても現代性を感じます。大人になることを拒絶する永遠のピーターパンの父親も大変です。「家康、江戸を建てる」で初めて出会った著者ですが、2作続けてその着眼に感心しました。
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学歴ロンダして文学にかまけ自立できなかった長男と、それを甘やかしてしまった父親の話。
宮沢賢治のお父さんはかなりの心配性。
専業主婦が書きそうな育児小説を男版に置きかえたような描写があるが、生活描写にすぐれたところもある。
見どころが「永訣の朝」の妹病死のシーンぐらいで、全体的に盛り上がりに欠けたきらいがある。
賢治は親の商売を憎んでいて、家を飛び出し、勤め人をしながら童話発表していたと聞いていたが…親のすねかじりしながら同人誌出したり、ユーチューバーになって金持ちになりたいと願ういまの、メンヘラの若者と変わらないのではないだろうか。
『家康 江戸を建てる』よりは進歩が感じられる。
著者自身が親の家を継がなかった長男で、ずっと温めていたテーマらしい。親から一番に可愛がれ、期待され、投資されたのに、実家や老後の面倒を見ない、経済的にも自立できていない長男長女が多いわけだが。
文学を無駄に賛美していない部分だけは好感が持てる。
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あまりにも有名な童話作家宮沢賢治をその父の目線から。
賢治をこれほどまでに愛していたけれど、父親特有の不器用さのため理解しあえないままの親子だった。ずいぶんわがままに付き合って金銭面での苦労も。それでも賢治が賢治になりえたのはこの父親が在らばこそ。
それにしても、賢治の人となり、童話への思い、家族への愛情などこれまで謎めいていた部分が明らかにされてはいない。謎は謎のまま。父親の視線の先の息子はやはり謎めいている。
子供に先に逝かれてしまう親の心情が痛いほどわかる。
今では知らない人がいない宮沢賢治、生前には全く売れない作家だったということは知っていたけれど死後発見された
「雨ニモ負ケズ・・・」を改めて目にして涙が止まらない。
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宮沢賢治の父、政次郎さんの苦悩の子育ての日々。
あまりにも賢治を愛しすぎている。
父・喜助(賢治にとっては祖父)に「お前は、父でありすぎる」と言われてしまうのだが、学校へ上がれば無事に登校してくれるか気をもみ、寮に入れば軍人上がりの舎監に苛められていないかと気をもむ、危険な場所で遊んでいないかと気になり、研究での山歩きが体に障らないかと心配で仕方が無い…というこまごました気遣いは、父親というより母親である。
いや、むしろ過保護と言うべきか。
賢治の実家は質屋。
貧乏人から巻き上げた金で財を成したと、陰口をたたかれる。
政次郎は子供の頃、大変に成績優秀だったが、父親に「質屋には、学問は必要ねぇ」と一蹴され、進学できなかったことが心残りである。
自分は、明治の“新しい”父親でありたいと、政次郎は思う。
そして、「理解ある父」であるべきなのか「息子にとって立ちはだかる壁」であるべきなのか、そのはざまで常に悩む。
成長していく息子を喜ぶと同じくらい、手の中に納まりきらなくなっていくことを悲しんだ。
小学校の頃は神童だった賢治だがしかし、長じて後は、家を継がせるどころか店番も出来ず、凡人が当たり前に出来ることもなしえず、ただの無職になった。
夢と言うことだけは大きく、悪びれずに大金をせびる。
叱りつけ、思い通りにさせてもらえないと知ると、神経衰弱になったり、宗教にのめりこんだりするので、やむなく学校に入れておくしかなかった。
延々たるモラトリアムである。
どこまで許すか、どこまでが「理解」で、どこを越えたら「甘やかし」なのか、いつになったら世間というものを理解してくれるのか、政次郎の苦悩は続く。
それはようやく賢治が『書く』ということに生きる道を見出すまで続いた。
『賢治を解りたい』政次郎の心底から願うことだった。
病の床で賢治は「とうとうお父さんにほめられた」と、弟・清六に向かってわらう。
うそだ!何度も何度もほめてきたのに!
自分は賢治にとってどんな父だったのだろうか?
子供の目から見る親とはどのようなものなのだろうか?
子を持つ者が共通に追い求める答えなのかもしれない。
賢治の命は短く、多くの言葉を残した。
逆縁ではあったが、政次郎の日々は穏やかになった。
賢治の言葉を読み、少しずつ身近に感じられるようになったのかもしれない。
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いろいろ興味を持って始めてはみるものの長続きのしない人だった、ということは感じていましたが、上京するまでのあまりのパラサイト・ニートっぷりに、あやうく賢治さんを嫌いになるところでした。
長い長い回り道だったんですねえ。
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昔ながらの厳しい父親像を理想としながらも過保護となってしまう政次郎。宮沢賢治を影で支えていた父の目線から見ると、思った以上に頑固で奔放な生き方のため心配な息子だった。
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宮沢賢治の生涯を父の目線から描いた本作。
正直、この本を読むまで宮沢賢治がどんな人生を歩んだのか考えたことすらなかった。
教科書に載っていたいくつかの作品と、個人的には「銀河鉄道の夜」を読んだことがあるだけだ。
原文のままだと子どもだった私には難解に思え、大人になると童話作品に興味を持てずにいた。
これだけ有名な作家なのになぜここまで興味を持てなかったのか考えてみると、勝手に描いていた賢治像のせいかもしれない。
貧しい農民のために尽力した聖人君子のような人。
これが私の賢治に対するイメージである。
「雨ニモマケズ」ってなんだか説教臭い。そんな思いで敬遠していたのかもしれない。
で、この本。
いやまるで違うじゃないか!
金持ちのボンボンで苦労知らずな我儘息子。
勉強はできるけれど、自活できない脛かじり。
生涯モラトリアムだったんじゃないかと思うほどひどい。
そんなダメ息子の才能を信じ、支え続けた父がすごい。
フィクションの部分が多いにしても、生前まるで本が売れなかったにもかかわらず作品を創作し続けることができたのは、まぎれもなく父親の経済力あってのことだろう。
こんな賢治の姿を知ってがっかりしたかというと、まったくそうではなかった。
聖人君子だった賢治が一気に身近な人間としての賢治となった。
さまざまな葛藤を抱えながら生きた賢治、その生々しい姿を想像しながら改めて「雨ニモマケズ」を読んだ。
やだ、「雨ニモマケズ」読んで涙出ちゃったの初めてよ。
そうか、そうだったんだ。そう言うことなのねって勝手に解釈して納得。
この本一冊で宮沢賢治を分かったつもりにはならないけど、もっと読みたいと思う気持ちが俄然出てきた。
さて、何から読もうか・・・。
門井慶喜さん、ありがとう。こんなに分かりやすく小説にしてくれてありがとう。感謝です。
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宮沢政次郎,商売は勿論の事人並み以上に働いての宮沢家があったのだと思うが,何より父としての在り方が素晴らしい.父親とはどのようにあるべきかと悩みながら,理論を超えてただ子供が可愛いという一心に全てを捧げた姿に手を合わせたくなるほどです.物語としても,とても面白かったです.
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宮澤賢治もので面白かったのは、井上ひさしの「イーハトーボの劇列車」で、あの芝居では賢治と父はかなり対立していた記憶があるが、この作品の父は随分優しい。というか、こんなに優しい父があの時代にいたのか?とすら思う。でも森鴎外も大変子煩悩だったというし、入院中付き添ったのは事実だろうから、大事な跡取りの長男だから、ということはあったにせよ、実際子煩悩だったのだろう。
う~ん、この作品自体は悪くないし、父を語り手にしたのは面白いと思うのだが、井上ひさしの方が圧倒的に面白かったのも事実。賢治の作品の取り入れ方も、さすが井上ひさし、読み込んで練り上げたものだった。本当に素晴らしかった。
この本が面白いと思った方は、是非井上ひさしの本も読んでみてください。
と言っても、実は私は読んでない。芝居を見たのだ、TVで。芝居はTVで見たら面白さはかなり落ちるのだが、それでも数十年経ったのに忘れられないんだから。矢崎滋が賢治だったなあ。見る前は矢崎滋が賢治なんて!と思ったけど見終わったらピッタリだなと思った。また見たい。
書きながら、読んでみるか、と思った。「イーハトーボの劇列車」
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裕福な質屋の長男として生まれた宮沢賢治の生涯を描いた作品であるとともに、タイトルの『銀河鉄道の父』は、まさに賢治を溺愛する父親目線で息子・賢治の父親の半生を描いた作品でもある。