投稿元:
レビューを見る
北朝鮮の北方、もっとも見捨てられた土地である咸鏡北道清津市でコッチェビ(浮浪児)として16歳まで生き、脱北した著者による手記。
コッチェビについて触れられた書籍はあるが、自身がコッチェビだったという人が書いた本は極めて珍しいといえるだろう。そういった意味で、北朝鮮でコッチェビたちがどのようにして生活しているのか、ということが比較的詳しく書かれている点からも興味深い。
彼の父親は工作員として功を立てて「英雄」称号を受けており、北朝鮮ではそれなりに恵まれた家庭であったらしい。
しかし、母親の急死が彼と兄のその後の運命を変えてしまう。
継母と折り合いが付かず、また組織生活でがんがら締めの学校生活になじめなかった2人は何度も家出をしてコッチェビとして生きていく。
ひったくり、空き巣、スリと生きるためにあらゆる犯罪に手を染める。もちろん、大人たちも生活がかかっているのでコッチェビたちを手ひどく痛めつけるのだが、コッチェビたちもグループを形成して反撃に出るようになる。コッチェビたちを手下にして仕事をさせ、代わりに彼らの生活を守ってやるという暴力団のような組織も出現していたらしい。興味深いのはそういった暴力団のボスには日本から帰国した在日同胞が多くいたらしいということだ。自由な生活を知っていた彼らが北朝鮮に適応できず、地方都市でこのような組織を作っていたのでは、と分析されている。
彼は知り合いの女性に裏切られ、16歳の時に保衛部(公安のようなもの)に連行され、17歳の時に恩赦で出所するまで教化所などで地獄のような生活を送っている。
書籍では比較的さらっと書かれているが、とても人間が耐えられるような環境ではない。多くの人がそこで死んでいく中、彼は生きて出所に成功し、そして脱北して現在は韓国に住んでいるという(彼は今、韓国の私の母校の教授の下で大学院生として研究を続けているらしい!)。
あまりにも衝撃的な生い立ちに思わず彼の年齢を確認した。なんと彼は私の半年後に生まれた、ほぼ同い年ではないか!
彼が中央から見放された北方の地方都市でコッチェビをしながら体験した「苦難の行軍」(200万人以上が餓死したとされる1990年代)は、遠い昔のことではない。私が飢えなどを知らずに生きていた時期に、隣の国で起こっていたことなのだ、ということを実感させられた。
コッチェビは北朝鮮の公式報道では絶対に触れられない、体制を逸脱した者たちだが、地方に対する統制が緩んでいると考えられる現在、彼らの存在は北朝鮮社会を揺るがすものになっていくかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
北朝鮮から脱北した青年の手記です。彼は現在韓国にて大学院生として北朝鮮の社会構造について研究しています。で、この本に書かれているのは彼がものごころついてから、脱北するまでの日々、おおよそ20年間の生きるか死ぬかという日々の記録です。内容は思いきり深刻です。残酷で悲しすぎる非常事態の連続。
で、不謹慎かなぁとも思うのですが、このノンフィクション作品、読み始めると止まらないほど興味深い一冊です。なぜなら、描かれる現実がこちらの予想をはるかに上回るインパクトがあるからです。事実は小説より奇なり、という言葉がありますが、その言葉がまさにその通りという感じ。あの国ではここまでひどい状況だったのかと。
この本のサブタイトルは、「北朝鮮悪童日記」と名付けられています。著者がつけたのか、訳者がつけたのか、それとも出版社がつけたのかわかりませんが、やっぱり読む方としてアゴタクリストフの「悪童日記」を連想しないわけにはいきません。クリストフの悪童たちも、かなりヘヴィな状況に置かれていましたが、ここで描かれている、北朝鮮の悪童の方が状況は数段ヘビーです。
まぁクリストフの方はフィクションであり、悪童はスーパーサイヤ人なみに無敵風に描かれてますので、どんなピンチもピンチになる前に、知恵と度胸で乗り切るので、本当のピンチにはあわないわけですが。
対して北朝鮮の悪童のほうは、現実の独裁国家を生きる、実在の人物であるので、ピンチの連続です。彼は生き延びてこうして著作を出すわけですが、クリストフの悪童のように、知恵と度胸で生き残ったというよりも、たまたま、本当に運が良くて、生き残る事が出来た、という筆者自身の認識です。
家出をして駅の構内に寝泊まりしてかっぱらいや盗みをして生きていく日々、頼りになる兄貴と一緒に憧れの大都会「平壌」に向かうがなかなかたどり着けない、その兄とは生き別れに・・・。孤児院に入れば国の食糧事情は悪化し配給は職員に横領され食うや食わずの日々。中国との密輸がばれて、入れば生きて戻ることは叶わないという強化院に入れられる。で、彼は韓国に渡ることを考え始める・・・。
そのように極限状態が何度も訪れるんですが、そのたびにこの著者、人間の本質みたいなものをしっかりと見ていてこの本でも書いてくれているんですよ。
例えば、駅構内でかっぱらいして生き延びている時に、うまく盗めなかった子供に、うまく盗んだ子供が盗んだ餅を分けてやる場面、そして孤児院に配給される食料を横領する職員、凄腕のスリの少年に出会った際に、彼がすった金で最初に買うのは、食べ物や嗜好品ではなくて、清潔そうに見える服だ、という発見。金日成が亡くなったとき、特に悲しくはなかったが悲しそうな人々を見ているのが悲しかったこと。
で、前述したとおり、著者自身は生き延びられたのは、運が良かったからだと認識しているようですが、時折あらわれる生きのびる意志みたいなものは、文章から伝わってきて、そのあたりが彼が生き延びることができた理由なんだろうなぁ、なんてことも思いましたし、生きるって、何なんだろうと考えたりすることの���い若い人なんかに、この本を読んでもらいたいなぁ、なんてことも思います。
投稿元:
レビューを見る
面白かった!挑戦のコッチョビ?の生活やなぜそうなるか、脱北までの状況が書かれていて、初めて知ることばかりで興味深かった。
投稿元:
レビューを見る
コッチェビという言葉を知った。後にクロッシングという映画を見つけた時、興味がわいたのもこの本のおかげ。著者が脱北してからの努力がすごい。
投稿元:
レビューを見る
最近、『トゥルーノース』という映画を観てこの本を思い出した。確か『愛の不時着』にも軽くではあるがコッチェビが取り上げられていた。未だ謎多き北朝鮮。
また読み直したい。
投稿元:
レビューを見る
【結局ぼくの結論はこうだ。赤か青のどちらかでなければならないわけじゃない。腹を満たすことができ,誰にも束縛されない生活ができるのなら何色でも関係ないじゃないか?】(文中より引用)
90年代に北朝鮮が経験した飢餓、そして矯正所での拷問に耐え、命がけの脱北に成功した人物の回顧録。体制の外側で生きるコッチェビと呼ばれる人たちの姿に光を当てた作品でもあります。著者は、現在では北朝鮮における市場形成等の研究に携わる金革。訳者は、本書を読んで日本語訳の必要性を直感したと語る金善和。
想像を絶するという言葉が陳腐に思えてしまうほど、筆者の北朝鮮における体験は衝撃的なものでした。尊厳を決して忘れることのなかった一人の人間の物語であると同時に、北朝鮮の市井の暮らしの一端を現実感を伴って知ることのできる貴重な作品だと思います。
文体が極めて読みやすい点も☆5つ
投稿元:
レビューを見る
世の中、思いがけないところに、強く賢く優しい人物との出合いが有るもので、決して思い込みで他者を侮ってはならない。と言う事を教えられる。