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紙の本
サンショウウオとの出遭いにドキドキしながらも、人間社会の問題点を考えさせてくれる秀作!
2017/11/19 16:14
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ohi_panda - この投稿者のレビュー一覧を見る
本を手にとりタイトルと表紙のイラストを見ただけでは一見、面白そうなSF作品かなと思わせます。しかし、読み進んでいくとそうでないことに気付きます。
前半のサンショウウオとの出遭いはドキドキさせられます。しかし、サンショウウオが人間の労働力となりその迫害史を知ると、人間社会の抱えている問題点や課題が浮き彫りにされてきます。
そして、最終的にサンショウウオに反抗(戦争)されると、人間社会のもつ弱点ともいうべき資本主義、科学技術、政治などの文明への疑問を抱かざるを得ないようになります。人間の社会、文明への問題意識を否が応でも持たされてしまいます。
この作品より10年以上前のチャペックの作品「ロボット」(R.U.R)では、人間が作ったロボットに人類がやられてしまうという少し恐ろしい内容でした。この「サンショウウオ戦争」では、サンショウウオに人間は撲滅されてはいません。
しかし、サンショウウオが人類、人間社会の問題を浮き彫りにするための存在であり、その登場によって人類社会の持つ矛盾や課題を突き付けられると、違った意味でロボット以上の怖さを感じされられます。
人間社会の成長と発展は有史以来、ある意味輝かしいものでしょう。特に産業革命以降の技術発展は目覚ましく、人類は物質的に飛躍的に豊かになります。しかし、そこには階級差、貧富差、また増え続ける人口問題、偏った政治、資本主義に翻弄される経済活動など多くの問題と課題を抱えています。この作品ではこうした点をえぐり出すように描かれています。
そういった点では、やはりカレル・チャペックの集大成の作品がこの「サンショウウオ戦争」なのでしょう。
本を手にしたときと違って、読後感は正直「少し重たいな」と感じます。特に後半の「マイネルトの人類の没落」や「Xの警告」の部分は、深いものがあることから尚更です。
けれども、それらの更なる理解も含めて、しばらく経ってからまた読み返したい作品のひとつだと感じています。
なお翻訳者のお父さん(栗栖継)はチェコ文学者で、すでに40年程前にこの作品訳されています。現在も岩波文庫とハヤカワ文庫から「山椒魚戦争」として出版されています。この作品の翻訳者(栗栖茜)はあとがきで、「訳されてからかなりの年月が経ち、作品の解釈もかなり異なることから、今回改めて訳した」と述べられています。機会があったらお父さんの訳された「山椒魚戦争」も読んでみたいなと思っています。
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