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読んでいてこんなにどきどきした小説は久しぶりだった。アッシュと一緒に砲撃を切り抜けたし一面死体の野原を歩いたしうっすい布きれ一枚で糞尿のバケツを運んだ。終盤、どきどきしすぎて気付いたらページを繰る手の反対の手を握りしめながら読んでいた。名作。
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じぶんが加わったすべての戦い、野営地ですごした日々、アクロンふたり組と森をあるいた体験、大佐との話、わたしの顔にふれた大佐のいとこのやわらかい手、木にのしかかられてうごけなかったあの時間。わたしは軍服からぬけ出てマスケット銃もなくしてあなたの似すがたもなくしてしまいました、…かあさんのこともかんがえますがべつにそれも気になりません。「すべてのことの外側にじぶんがすわっていて、息ができて、しばらく外から見ていても口のなかのホコリで息がつまったりはしない気がするのです」とわたしは描いた。じぶんがこう書いてそれがとどいたことをわたしは知っている。いまその手紙はここに、わたしのかたわらにあるのだ。
わたしたちのテントのそばにじぶんひとりのテントをはっている、ほかの連中よりかしこそうな男がいたので、バーソロミューからこの手紙が来たあとその男に、愛は義務に勝つべきだとおもうかときいてみた。「愛? なんだそれ?」とこのかしこそうな男は言ってペッとツバをはいた。
「世界がぜったいあたしを見ない場所をどうみつけるか、あたし知ってるのよ。あたし、影のなかもあるけるし光のなかもあるけるのよ。みんな、見てみたい?」
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これは…。
弱い夫にかわり、男装して南北戦争に参戦した女性の物語。
だけれども、体と心に負った傷により、認識が歪んでいくにつれさらされる、母の死で負ったトラウマが、男とは女とは、戦争とはホームとはと胸ぐらをつかむように問いかけてくる。
柴田元幸先生の、技巧の極致をこらしながら、そう感じさせない訳がまた、こう…素晴らしいという言葉しかないじゃないか!
「こわがる心はいずれひとを見つけます」
とっくに見つかっているのに、そうじゃない振りをしている、すべての人よ、この小説は張り巡らせた嘘の壁を引き剥がす。
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南北戦争へ夫の代わりに出兵した女性の話。
戦争のおそろしさ、人を愛するうつくしさ、生きることの厳しさが、作者独特の世界観で描かれる。
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女性が北軍に兵士として参加し,男とバレないで戦ったり生活したり,その苦労と戦争の悲惨さ滑稽さがいろいろな切り口で描かれています.コンスタンスが夫に持ち続ける愛の行き着くところが,本当に切ない.そして,柴田氏の南部の香りのするぶっきらぼうで格調高い訳がすばらしいです.
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おもしろくて夢中になってイッキ読み。
こういう本を読んでいると、日常の合間に読書、が完全に逆転して、読書の合間に日常、になってしまって困る。
誰かが過去の出来事を語っているのを聞いているときに、本人にとっては真実なんだろうけど、実際は事実とはちょっと違うのでは? でもこの人、無意識にそこは見ないようにしてるんだろうなぁ、なんて思うことがたまにあるけれど、レアード・ハントは、そういった自分の中にある嘘や虚構を見ないフリできない人の悲しみを、ものすごくリアルに描く人だなと思う。
あまりに語り手の声がリアルで、読んでいるといつの間にか私自身が登場人物に取り込まれてその一部になってしまうように感じる時もある。
前半を読んでいるときは「今回の話はすごく分かりやすくて楽だな~」と思ってたのに、途中から、徐々にいつものレアード・ハント的流れに。最後の1ページにはかなりビックリした。
とても優しくてとても冷徹な目で描かれた話だった。
著者は元国連報道官、と聞いて、私はそれが実際には何をする仕事なのかぜんぜん知らないけれど、「元」がついていることをちょっと残念に思った。
この著者のように、人が意図せず作り上げる虚構のさまざまを冷静に見通して、かつそれを純化することができる人こそ、国連みたいに人の業と業のぶつかりあいを調整していくような組織にいてほしい、とチラリと思ったので。
実際は、そういう仕事は人の業なんてものは見えず考えない人の方が向いているのかもしれないし、私もどんな仕事かも知らずにイメージだけで言っているので、全然見当違いかもしれないけれど。
どうでもいいことだけど、最近、アメリカ史にハマっていて、History.comというサイトが、2~3分の短い歴史解説映像が満載でおもしろいので、毎夜延々と見てます。で、ちょうど「南北戦争には女性もけっこう参加してたんですよ~」っていう動画を見た直後にこの本を読んだので、その偶然の予習にうれしビックリ。
男装なんて簡単にばれるでしょー、と思ったけど、当時の男装した女性兵士の写真を、読み終わった今改めて見てみると、かなり男らしくて、確かに女性だとはすぐには分からないかも。
訳者あとがきで名前が挙げられていたセアラ・ロゼッタ・ウェイクマンは、父親に借金があって、お金のためにそうしたみたいです。大変だっただろうなぁ。
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翻訳ものってたいして読んでないわりに苦手だったんだけど、本書はあまりの文体の美しさにおののいた。こんな訳あるんだ……純文学やん……
読んでる最中ももう人がひととたたかう話はきついなと何度も重たい気持ちになったんだけど、それでも進み続けるコンスタンスはすごいな…家に帰るために…家に…家に帰ろう…と思ってたのにこんなラストある!?タイトル回収しなくていいよ、、、
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neverhomeとは著者の造語。作品中で登場人物が語る「たしかにもどってきましたけど、家に帰ってきた気はしませんでした」というとことばや、主人公が、農場と夫を恋しく思いながらも戦場にいてしあわせを感じている、といったところににじみ出ているように思う。
女性が男性のふりをして南北戦争に出兵していた、という史実を下敷きに書かれた小説。
なぜ戦争に行ったのか、母親はなぜ死んだのか、語られているようで実は語られない。わたしたちが日記に本当の気持ちを書いているようで書いていない、そんな感じ。
主人公の語り口が独特で読みづらいのだが、これは著者がえがいた主人公の「語り」をそこなわずに訳しているからこそである。柴田さんはやはりすごい。
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おすすめです!「わたしはつよくてあのひとはつよくなかったから、わたしが国をまもりに戦争に行った」夫の代わりに男装して兵士アッシュとして南北戦争に参加した妻コンスタンス。ひらがな混じりの一人称の文体が、田舎の素朴な女性をイメージさせる。戦争に行く際に悲壮感はなく、自分を試したい、という気持ちも感じられる。しかしやはり戦争は悲惨で、戦場にいるうちにコンスタンスは身も心も兵士になっていく。戦争は人を変えてしまい、家に帰っても帰った気がしなくなる。ネバーホーム。彼女にもう、戦争に行く前のホームはない。
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「優しい鬼」でK.O.負け(使い方がずれているかもしれないが許してほしい)を受けた著者の、昨冬の新刊。がまんしていたのだが、どうしても読みたくて買ってしまった。まず出会う一文目のなめらかさといったらもうどうだ。などと言いつつ、正直とちゅうで少し飽きかけたのだが、話の展開とぬめるような語りに気を持ち直し、そこからはためらわなかった。訳者あとがきにもあるように、主人公の気持ちがわかりやすく伝わってなどは来ない。耳元で語られているのに体温を感じないような文章は、わたしを途方にくれさせ、しかしおおいに満足させた。
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体調悪い時はひなたぼっこがよいぞとうちの愛犬チャーリーが言うので、一緒に日光を浴びながら読書をしました。いくつか読んだのですけど、まってましたのレアード・ハントの新作がとてつもなくレアード・ハントだったのでご紹介します。訳者はもちろん柴田先生。原書は読んでいないのだけれどおそらくは難易度の高い原文を見事に訳しておられます。「インディアナ・インディアナ」、「優しい鬼」と名作続きのレアード・ハントですが、本作「ネバーホーム」は南北戦争に性を偽り参加した女性の物語。そもそも女性なのに男性として兵になる「危なっかしい」設定で、常に緊張感と不安感が物語をドライブしていきます。すでにハント節が始まっています。主人公コンスタンスは結婚しているものの夫より体力に優れているので、戦争に参加する事を決意します。小説は全編通して主人公の一人称で進行し、コンスタンスは実に冷静に客観的に自分の声で戦争を語ります。その声が語る小説内での現実のと夢との交錯が絶妙で、戦争という異様な状況と主人公の心の状況の変化が絡まり合って物語は進みます。コンスタンスの男まさりの強さと女性としての生き方は、ジェンダーを交換することで逆に両方が増幅され、やがて精神を病むに至ります。その時でもコンスタンスは冷静な声で自分を語ります。ついに戦争や病院から解放され、夫の待つ家へ戻れるのですがそこで起こるラストも圧巻で、それは本作タイトル「Neverhome」とつながります。見事としか言えない傑作。
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表紙とタイトル、そして訳者で手に取ってみた。作者は初めて見る人なのでどんな内容かは全く想定もつかず。たまにこういうことが手軽にできるところが図書館の楽しみかなとか思う。
まず史実として。南北戦争には男性を装って志願し従軍した女性が一説では千人もいたとか。この作品もそういう女性が主人公。まだ若い夫婦なのだがどちらが戦闘に向いているかと夫婦で話し合った結果、妻の方が男装し男の名前を名乗って従軍することに。行軍し戦闘し野営する主人公。一兵卒なのでそれがどこのどういう戦闘なのかとかにはいっさい触れられることなくひたすら血生臭く厳しい生活が語られる。リアルな戦闘シーンの合間に自身の生い立ちと亡くなった母との対話が差し込まれていて一瞬今どうなっているのかわからなくなってしまうところがこの作品を好きになるか嫌いになるかの分かれ目になるかもしれないと思った。ついに負傷し女性であることが明らかになって更に過酷な状況に陥るのだが…という話でラストの展開もかなり衝撃的。土と血の匂いが漂ってくるかのような力強い描写と主人公の繊細な独白が印象的。全く明るいところのない作品だが強く引き込まれてしまう。これは良い作品。凄かった。
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表題の意に?思うのも然り、作者の造語の様だ。作中に、この語は一切登場せず・・読み手の脳裏に思い描くようなサジェスチョン。
とはいえ、文の平易に流れ 読み進むととてつもなく迷路、何?自分を見失う。
気を取り直し、中盤から、再度元へ。死者の中の行軍、絶えず語り掛けるバーソロミュー
”tell you what"と冷たい仕うち。。。
コンスタント・トムソが雄弁に語り姿を見せる場面は皆無、自負の素振りすら見せぬ。ラストに近づき、家が見えてくるが そこは家ではない。never home
モノローグで語る人生のスポットすら曖昧な内容。「女」である事を周りの兵士に見せない様な語り、行動であるだけに 読み手には微塵もリアルな姿を現さぬ。
断片的な獏とした読後の想い⇒訳者の語りでようやく繋げることが出来た。
筆者のこういった語り口は共に暮らした祖母のそれに影響が大との事。「快感に満ちた翻訳作業」とはいえ可能ならしめたのは柴田さんならではと確信
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ヒイラギのヤブのそば、たそがれの光の下にすわったわたしは、頭の上でコウモリやフクロウが空にキズをつけはじめるなか、土よりずっとおいしいそのシチューをゆっくり味わった。