紙の本
人生の夢を追う若者たちに、一縷の望みを与えてくれる一冊です!
2020/06/10 11:22
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、作家、翻訳家として活躍しておられる松田青子氏の作品です。同書で著者は、「大人になる」とは、自分の前に広がる無数の可能性のほとんどを諦めることなのですが、商品であれサービスであれ情報であれ、現代社会が提示するおびただしい選択肢が、自分は万能細胞のようにまだ何にでもなりうるのではないかと幻想・妄想させるといった感じを見事に描き切っています。表題作の「英子の森」では、主人公の英子にとっては英語が夢でした。そんな娘を、母・高崎夫人は応援しています。英語は娘が、自分や姑(しゅうとめ)のような主婦としての一生から逃れるための手段なのだ、と確信しているからです。しかし、短期留学1年程度の彼女くらいの英語力の人間はたくさんいます。英子の周囲には正規社員にはなれないにも関わらず、英語を使う仕事を諦めきれない〈痛い〉同類ばかりです。ストーリーの中で、英子が訪れる「森」とは、各人物たちの夢や無意識の世界なのでしょう。それが人工的な色調や模様で彩られたとことん薄っぺらい場所なのが非常に不気味です。ぜひ、この松田氏の傑作をお読みください。
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2014年刊行の単行本を文庫化。
表題作も面白いのだが、同時収録の『*写真はイメージです』や『おにいさんがこわい』のシュールさの方が楽しかった。こういう実験的なもので短編集を1冊出して欲しいのだが、難しいかなぁ……。
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表題の「英子の森」はある意味恐怖を覚えました。
英語が得意で一度は英語教室の講師になる英子だけれど、
その仕事の内容、講師の待遇など、世の中にある「〇〇教室」のシステムとそっくりだと思いました。
教室を運営する会社は生徒、保護者、そして講師からも搾取する。。。
まさにそうです。いいようにされている、そんなことを考えてしまいました。
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「博士と助手」
大抵の場面において文章のテンプレが完成されてる今。
便利ではあるんだけど、それに頼りきりになることで、どれだけの感覚や感情がこぼれ落ちていくのだろう。
いかに不自由かを語り尽くせたら、それは自由であると言える気がするし、便利さ、ラクさと引き換えに差し出していたものに気付かされた。
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Twitterで見掛けて帰省の飛行機の中で読んだ。
英語を学べば世界が広がると信じてきた英子の物語が他人事ではなくて、少し英語をかじった自分にも深く突き刺さった。
彼女のそれは母親の影響もあって、母と娘の関係ってどうしてこんなにも強くいつまでも重いのかな。
他の作品もどこか自分の中のひんやりとした部分を見せられるような不思議なお話が多くて面白かった。サクサク読める。
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作者初読み。我が身を振り返ると心当たりがあるような、誰かの人生にあるような、チクチクと刺されるような感覚というのかな?完全にリアルな描写ではなくて、リアルを残しつつの白昼夢的あり得ない描写が、かえって不穏さや嫌味を煽ってる。
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都会の片隅。
どこか非日本な、木々の気配。動物の気配。
マイ森での生活に囲まれて英子は身動きが取れない。
英語を使えるという呪縛によって。
ファンシーな読み味を練り込んで描かれた
一握りの人間になれなかった人々のやわらかい絶望。
それでも確かにある、好きという希望。
たくさんの"こんなはずじゃなかった"がこぼれ落ちた表題作。
真面目な嘆きが、調子っぱずれでユーモラスだったり悲痛だったり風刺の様相だったりで描かれる。
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カバーが可愛くて購入。
《英子の森》
グローバル社会だから英語ができる人が活躍できる。
学校でもテレビでも似たようなこと言ってて、意識に刷り込まれてきた。
英語ができるってどういうこと?英語が話せれば本当にいい人生送れるの?
どきっとするお話。
英語だけじゃなく、他のことでも言えるね。
なんでそれやってるの?本当に意味あるの?世間がいうことが本当に正しいの?
短編集で、との作品もさらさら読めるけど、後味が残る。
切り口が面白い。
他の作品も読んでみたい。
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ユングという人は、すべての人間が持つ無意識のさらに深層に
共通的なメカニズムとしてのイメージが存在するとして
これを「元型」とか「集合無意識」とか名付けた
人間の野蛮な行動は
こういったイメージに規定されるものだ
そこで野蛮な行動を抑制するために
人間は、人間精神の外部として宗教などの掟を作ったが
しかしそれも、元をただせばイメージによって作らされたものと言える
一個人が、自分自身の呪縛から逃れて自由を得るためには
これらの「真実」を、分析的に理解することが必要となるわけだが
本当にそういう意味での自由なんてもんがあるのかどうか
よくわからない
むしろ精神分析を否定し
衝動に流されてこその自由だという考えもあろう
英語を使えてこそ
ちまちました会社だの国家だのいったくびきを離れ
グローバル社会で自由になれるのだ
そんな未来に憧れながら
誰もが自分の「森」に固執して
束縛されている
そういうある種のだらしなさを
自らの履歴を背景に、むしろ許すことができれば
少なくとも、現状への焦燥感からは
自由になれるかもしれない
しかしグレート・マザーがそう簡単に理想の自画像を手放すであろうか
という疑問は残った
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英語と英語教育の過大評価がどのような弊害をもたらすかのような話。後付けで英語を学んだ人間は、どこまでいってもこの話のような状況から逃れられないのではないかと思ってしまう。英子の森というよりは英語の森ですかね。迷い込んでしまった英語の森から抜けだす方法は、やっぱり英語じゃないのよね。
表題作以外に技巧に走った作品などいろいろ載っていて、文才はあるんだろうけど、いまひとつ踏み込みが足りないと思う。日常によくある風景の描写がベースになっているのは好感が持てる。
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わたしは、あまり好きではありませんでした。
そういう、何かのために、すべてをわかりやすいかたちに削ぎ落としてしまうことが。
そこからこぼれ落ちるものを、ないもののようにして平然としていることが。
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やりがい搾取という言葉が頭によぎった。
『どうしてだろう。はじめて英語を使う仕事をしてからずっと、英語を使っているのではなくて、英語を使わせてもらっているような気がしてきた。英語を使うことのできる仕事を、見えない誰かに用意してもらっているような気がするのだ。使わなくてもいいものを使いたい使いたいと思う、その気持ちを見えない誰かに見透かされていて、ねえ、そんなに使いたいんだったら、50円差でもいいですよね、だって使いたいんでしょう、あなた、それを、英語を。そう思われている、そう蔑まれているような気がした。』(p.20)
英語を使う仕事、を、司書や保育士に置き換えても成り立つだろう。
2021年2月21日の今日、厚労省は4月以降、看護師の日雇い派遣を認める方向で政令を改正することを検討していると報じられた。
看護師を初めとした医療従事者は強い使命感を持って働いている人が多いはずだ(そうでなけりゃとっくに全員退職しててもおかしくないだろう)。一種のやりがい搾取の成れの果てではないのか。
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またまたエッジの効いた短編集。
表題作「英子の森」。
英語力を活かすどころか、自分の英語力に雁字搦めになっている主人公。
グローバルってなんだろう。
「博士と助手」
松田さんの書くこういうめちゃめちゃ底意地悪い感じの作品だいすき。皮肉もここまでくると清々しいというか。
「おにいさんがこわい」
はじめのサラリーマン2人の会話が好きなんだけど。構成が謎すぎてやや不安になる。すごい。
なんかこう日常生活のもやもやとか違和感をファンタジーの世界にさりげなく織り交ぜてくるのが本当に上手で気持ちいいんだよな。
ああそうそう、これが嫌なんだよな、とか、ああこれはこうだから嫌だったんだな、とか。
自分の中で明確になっていなかった違和感にも気付かされる。サブリミナル的に。
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今求めてるのじゃなかった。
けれどふむふむなかなか。
(気力体力が溢れている時ならもっと面白く感じたかも)
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短編集。冒頭の表題作は、英語好きな20半ばくらいの女の子が、英語を活かそうと派遣社員などの仕事に精を出していくお話で、まったりした感じもして悪くない。ただ、他の作品が、文学チックと言うか一風変わった作風ばかりでとっつきにくい。