紙の本
自由への道のり
2018/05/19 14:24
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
南北戦争当時の閉塞感が印象深かったです。人種間の隔たりが生まれて寛容性が失われていく、今の時代との共通点もありました。
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生きるためには逃げることが必要になることもある。
そして「痛ましくも感傷に落ちない筆致」は重要だ。
朝日新聞読書欄の”書評委員が選ぶ「今年の3点」”で円城塔が書いていた「これはおそるべきことに、我々が日常目にしている光景そのものである」が、最もこの物語を表しているだろう。
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南北戦争の三十年ほど前、ヴァージニア州にある農園で奴隷として働いていたコーラは新入りのシーザーという青年に、一緒に逃げないかと誘われる。はじめは相手にしなかったコーラだが、農園の経営者が病気になり、酷薄な弟の方と交代することになって話は変わった。実は、コーラの母もまた逃亡奴隷だった。母はうまく逃げ果せたのか連れ戻されることはなかった。自分を置いて一人で逃げた母をコーラは憎んでいたが、危険な逃亡を試みる点では二人は似ていたのかもしれない。
この時代、逃亡奴隷が生き延びる可能性はほとんどなかった。奴隷狩り人と呼ばれる専門家がいたし、警ら団が見回ってもいた。逃げた奴隷の特徴を記した文書が姿を現しそうな場所に配布されていた。狩り人が追いつくより先にはるか遠くに逃げることが必要だった。それを助けてくれるのが表題でもある「地下鉄道」だった。史実に残る「地下鉄道」とは、逃亡奴隷を秘密裡に匿い、荷物に紛れて、遠くの駅に送り出す「地下」組織を表す隠語だった。
ホワイトヘッドは大胆にも、それを文字通り、地下深くを走る鉄道として表現している。どこまで行っても真っ暗なトンネルの中をどこに到着するかも知らないで、無蓋貨車に乗せられる逃亡奴隷.の心持ちはいかばかり心細かっただろう。しかし、着いた駅には「駅員」と呼ばれる協力者がいて、着る服や寝泊まりする宿まで提供してくれる。そればかりか、そこに留まる気なら、働き場所まで世話してくれるのだ。
シーザーとコーラが下りた駅は、州境を越えたサウス・カロライナだった。二人には新しい名前が用意され、自由奴隷としての新しい生活が始まる。しかし、以前に比べればはるかに暮らしよいと思われたサウス・カロライナもまた、黒人に対する偏見と差別から免れてはいなかった。コーラは博物館の展示物と同じ扱いを受け、医者には避妊手術を迫られる。黒人が増えることを脅威に思う白人たちは、黒人を騙して断種を進めようとしていたのだ。
さらに、コーラとシーザーを追うリッジウェイという奴隷狩り人がすぐ近くまで迫っていた。昔、「逃亡者」というテレビ番組があった。主人公を追う警部の名はジェラードだったが、語り手はその前に必ず「執拗な」という修飾語をかぶせていた。逃げる者も必死だが、追う方もまた必死だ。特に、人狩りを楽しみとする性癖を持つ狩り人の手にかかったら、なかなか逃げられるものではない。州を越えてもどこまでも追い続ける。
コーラは何度も逃げる。もちろん、そこには「地下鉄道」の協力者がいるからだ。その人たちの手を借りて、ノース・カロライナまで落ちのびたコーラだったが、そこはもっとひどい状況にあった。毎週末広場で奴隷の処刑が行われるようなところだった。白人たちはそれを見物に集まって騒ぐのだ。親切な住人の住む家の屋根裏部屋の梁の上に潜んで息を殺していたコーラのことを密告する者がいて、コーラは捕まってしまう。
しかし、捨てる神があれば拾う神もいて、コーラは今度はインディアナで暮らし始める。黒人たちが奴隷制反対の集会が開けるような土地だった。しかし、運動が広がるにつれ、目指す方向性のちがいから、派閥間に軋轢が走るようになる。どこまでいっても奴隷たちが安心して��らせる土地などはない。希望を見出した途端、それを打ち砕く出来事が待ち受ける。逃亡奴隷の手記や記録をもとにしながら、ホワイトヘッドが赤裸々に描き出す黒人奴隷の置かれた社会はどこまでも残酷で、読んでいる方もつらい。
しかし、そんな中、コーラは本を読み、学習し、自分たちの置かれたアメリカという国の持つ矛盾を発見してゆく。もともとはインディアンと呼ばれる人々が住んでいた土地に流れ着いた人々が、彼らから土地を奪い、自分たちのものとしていった、それがアメリカだ。綿花を積むための労働力にとアフリカから黒人を連れてきて奴隷として酷使した挙句、黒人の数が増えると暴動を恐れ迫害を繰り返す。コーラは散々な目に遭いながらも、持ち前の強運で前途を開いてゆく。
実はピュリッツァー賞受賞作と聞いて、最初は二の足を踏んだのだ。ヒューマニズムを前面に押し出して迫ってくるような作品は苦手だからだ。しかし、杞憂だった。これは面白く読める小説だ。コーラという逃亡奴隷が追っ手を逃れてどこまで逃げられるかを描いたロード・ノヴェルであると同時に、アメリカという国が歴史の中でどれほど非道なことをしてきたかを突き詰める記録文学の顔も併せ持つ。
アメリカというのは一つの国というより、複数の州の連合体である。州境をまたげば、そこはもう別の国。まるでSFでいうところの並行世界である。最も印象に残ったのはそこだった。表には法体系や人々の習俗の全く異なる国が共存し、その裏では州境など無視して縦横無尽に大陸中を駆け抜ける「地下鉄道」が走っている。これはもう隠喩ではないか。書かれた文字や本は、過去の因習に囚われた州固有の枠を突き抜け、新しい考え方をアメリカ全土に届けることができる。「地下鉄道」は、アメリカの良心である。
時代が突然逆戻りしたように思えるのは、アメリカだけの問題ではない。世界各地で人種や宗教のちがいによる争いが起きている。『地下鉄道』は過去の話ではないし、アメリカだけの物語ではない。黒人を排斥する白人の姿にはヘイトに走る人々を見る思いがする。読んでいる間、心がざわついた。暗いトンネルを抜けた向こうに明るい光が待ち受けている、そう思いたい。そのためにも、今はトンネルを掘らなければいけないのではないか。人と人とを隔てるものを越境できる自由な空間のネットワークを構築するために。
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物語に引き込まれ、あっという間に読み終わってしまった。舞台背景は南北戦争前のアメリカで、主人公は黒人奴隷の少女だけれども、どこでも誰にでも起こりうる普遍的な物語であった。
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タイトルから奇想天外な内容かと思っていたが違った。リアリティのある物語であった。読んでいて、展開はある程度、予想できるが、なんでこうなるんだ!、えぇ!などと、心を締め付けられながら一気に読み終わった。悲しく残酷なテーマだが、アメリカらしくもあり、面白い小説だ。
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19世紀前半、アメリカで南北戦争が始まるよりも30年ほど前、南部のジョージア州、多くの黒人奴隷が働く綿摘み農場で物語は始まる。
当時北部では奴隷制度に反対していたが、南部では奴隷は農場経営の原動力であり、黒人は燃料として使い捨てられているに等しかった。
コーラは農場で奴隷として働く女性。祖母が奴隷として売買されアフリカからアメリカに来て、母は数年前に自分を農場に残して脱走し、逃亡奴隷となった。
そして、いま、コーラも同じ農場で働くシーザーという男性(奴隷)から一緒に逃亡しようと誘われていた。
訳者あとがきによれば、小説のタイトルでもある「地下鉄道(The Underground Railroad)」というのは当時のアメリカに存在した、南部の奴隷を北部に逃がすことを手助けする組織の暗号名だったそうだ。奴隷である黒人は農園の領主の所有物であるので、それを逃がすことは犯罪であり、加担した者は白人であろうと厳罰に処された。そのために奴隷を逃すための連絡は全て暗号、符牒で表現されたのだ。奴隷を匿う家は「駅」、家の住人は「駅員」、逃がす奴隷は「積み荷」という具合に。
しかし、この小説の中では、その部分に作者の空想が持ち込まれ、逃げる黒人を匿う白人の家屋の地下に地下道と、駅があり、そこに敷かれた線路を走る汽車が登場する。
そして地下道の暗闇を列車で駆け抜けてたどり着いたところは、奴隷にとっての自由の楽園の筈なのだが…
実際にあった歴史とフィクションが融合しする事で単なる歴史物の枠にはまらないドラマが描かれている。実際、コーラは苦難を乗り越え、無事に逃げて、奴隷という立場から抜けられるのだろうかと、ドキドキしながらページをめくっていた。
アメリカの暗黒面ともいうべき奴隷制度の歴史を描きつつ、第一級のエンターテイメントでもある。
2018年、読了1冊目が早くも今年ベスト1になりそうな予感がするほどに素晴らしいものだった。
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逃亡者は極北を目指す。それはアメリカの黒人奴隷とて同じであり、彼らはアメリカを南北に縦断する秘密の地下鉄道を巧みに利用して、北へと逃亡するー
一見、荒唐無稽に見えるSF的なプロットを、比類なき文学的想像力と、20世紀初頭の黒人が置かれた社会的コンテキストを緻密に再現しながら描きだした本作は、ピュリッツァー賞、全米図書賞などの名立たる賞を総なめにした傑作。
1人の黒人奴隷の少女が、実際には存在しない極秘の地下鉄道を辿りながら、自由を求めて北を目指す。何度も白人の追跡者に捕まりながら、協力者も捉えられて皆が虐殺されるながら、ひたすら逃亡する彼女の足跡を辿ることで、アメリカが隠せない暴力の歴史が表現される。かつ、非常に高いリーダビリティを併せ持ち、後半からはページが止まらない面白さ。
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最初から最後までつらい。容赦ない。読み終わって、ふらふらしている。
途中、「なんでこんな苦しい物語を読んでるんだ」と思ったりもしたけれど、読まずにはいられない。一度知ってしまった主人公コーラの物語、その後を知らぬままでいることなんて、できない。
南北戦争、ひいては奴隷解放より30年も前の話だ。
奴隷の少女、コーラは逃げる。「地下鉄道」という(実在はしなかった)文字通り、地下を秘密裡に走る鉄道に運ばれて。コーラの所有主は少女を捕獲するために腕利きの奴隷狩人を雇う。
働いていた農場での状況も悲惨だったが、逃亡先でコーラが目にする黒人たちの惨状たるや、読みながら目をそらしてしまうほどだ。
膨大な量の資料にあたって奴隷の生活場面を描いたという作者。「人間が、人間に対してどうしてこんなに残虐になれるのか」と背筋が冷たくなるのだが、こういうことは現代においてもなくなっているわけではない。
要するに、「自分とは異世界」と思ってしまえば、もはや「自分と同じ人間」ではないわけだ。
あの国はああやってできてきたのかと慄然とする。
ベトナム人の視点からベトナム戦争を描いた『シンパサイザー』にも驚かされたが、そもそも恥ずかしながらわたしはかの国についての知識がなかった。
だがこちらは米国である。行ったことはないし、ことさら好きな国でもないが、いやおうなしにさまざまな情報が向こうから飛び込んでくる国だ。それが、ここまでの残虐な歴史があったとは、知らなかった。本を読んでいる最中には「アメリカ」という響きすら冷たく残酷に聞こえるくらいである。
『すべての見えない光』について、わたしは戦時にあって「人間の善意のうつくしさを描いた」と書いたのだが、これは圧倒的に「人間のむごさ、残虐さ」を描いたと言っていい。だがしかし。
やはり、ある、人間の善意はある、どこにでも。泥の水たまりの上にひとひらの白い雪片が降るように、そして溶けていくように。そこも描かれていたことは救われた。
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逃げることについての小説。
19世紀後半、ジョージアのプランテーションにすむ15歳の少女コーラは奴隷。
おなじく奴隷の青年シーザーにある時逃亡を持ちかけられる。
奴隷州から自由州へ。
州境を越えて北へ逃げれば自由になれる決まりだつた。
いつまでも追いかけてくる奴隷狩人リッジウェイ。
こんな時代があったのかとも思うけど、差別はいろんなところに残っている。
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「おれの主人は言った。銃を持った黒んぼより危険なのは、本を読む黒んぼだと。そいつは積もり積もって黒い火薬になるんだ!」ー本文343ページより
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母親から置き去りにされた少女コーラが,ジョージアからサウス・カロライナ,ノース・カロライナ,テネシー,インディアナ,そしてミズーリから自由の地へと逃亡する物語であり,人々との出会いと悲しい別れによって成長していく物語である.かなりひどい暴虐と殺戮の南部の歴史をあからさまに書いていて,今もまだ引きずっているアメリカの人種差別の根深さ,大元がここにある.命をかけて黒人を助ける白人がいる一方で黒人を密告する黒人もいる.地下鉄道にたくされた自由への道が,時には閉鎖されてしまうことにもなるが,それでもこの地下鉄道の響きの中に自由への光が消えることなくあるのだと信じられる,そんな物語だった.
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これは予想外に面白い。
逃亡奴隷たちを助けるため地下鉄道が存在した、という架空の設定なんだけど、
正直ここまでエンタメ要素が強いと思わなかった。
奴隷制時代のお話なので、読むのが辛くなるような場面も多々ある(ひどいとか哀しいとか軽々しく言うことすら申し訳なくなる)にも関わらず、展開にスピード感があって飽きさせない。
主人公の逃亡劇の合間に挟まれる各登場人物の物語もとても良く、挟むタイミングもまた絶妙にいい。光も闇も、なにもかもぜんぶ抱えたラストもいい。
ザ・小説を読ませてもらいました。
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奴隷制度の時代の南部アメリカ、綿花農園で奴隷として暮らすコーラは、北へ逃げようとシーザーに誘われる。最初は拒んだコーラだが母メイベルが幼かった自分を残して逃げたことなどをきっかけに、シーザーと逃亡する。地下にあるという北へ続く鉄道に乗り貨物車で北を目指す。逃げる途中で追っ手の白人少年について瀕死の怪我を追わせたことが奴隷狩りの追っ手に拍車をかける。農園主はコーラに賞金をかけ遠く離れた州の新聞にも載せた。二転三転する過酷な逃亡劇が続く。
これでもか、というほどに続く困難な状況。悲惨を極める白人たちの仕打ち。何度読むのを止めようかと思ったが、コーラのストーリーがどうなるのか気が気でなく読み進めた。
コーラは自由を手にいれるのだが、その代償や失ったものを思うと素直に喜べなかった。
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19世紀前半のアメリカ、ジョージア。10歳ごろ、脱走により母を失った奴隷の少女コーラは、新入りの青年奴隷から地下鉄道を使った逃亡計画を持ちかけられる。一旦は断った彼女だが、農場主がより残忍なテランスに代わったため、彼と同行することを決意する。ところが農園を出て間もなく、同じ年頃の少女ラヴィ―が後をついてきた。やむなく3人で行動することになったが、野豚刈りの猟師たちに出くわしてしまう。ラヴィ―はさらわれ、コーラは青年の頭に石を叩きつけて逃げた。すぐに悪名高い奴隷狩り人リッジウェイが後を追い始める。二人は、「駅」へと案内してくれるフレッチャーの元へとたどり着き、「地下鉄道」の列車に乗る。
自由を求めて逃亡する少女と、それを助ける人々、妨げる人々の姿を通じ、真の自由とは、混乱の世界の中で人のあるべき姿とは、を問いかける。
奴隷逃亡を手助けする組織を表す「地下鉄道」を実在のものと仮定して描かれたフィクション。
*******ここからはネタバレ*******
独特の文体で、一文が短く接続詞も少ない。
また、登場人物が多いにもかかわらず人物紹介欄がない。登場してから15ページ以上後になって少しずつ説明される人物もあり、慣れるまで苦労した。
事実をもとに書かれたものらしく、残虐な場面が多い。「地下鉄道」に本当に列車が走る場面では、史実を基にしたフィクションから一気にファンタジーの世界に入ってしまった。
事実も多く含まれているのであろうが、特にリッジウエイとの攻防などでは、かなりのエンターテイメント要素を感じ、史実の重みが損なわれているように感じる。
これが白人作家であれば、微妙な立場に立たされていたかも知れないと思うのは、私だけであろうか?
中学生以上のおススメ本の候補になるかと読んでみましたが、これは大人向けの本です。
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19世紀前半のアメリカ南部には、奴隷たちを秘密裏に、命がけで北部に逃がす組織が存在した。地下鉄道、と呼ばれるその組織を、本作では本当に地下に鉄道を走らせていた、として描いている。設定はフィクションなのだが、伝わってくる黒人奴隷たちの苦しみは本物で、読んでいてとても息苦しかった。特に処刑のシーンの残虐さには読むのをやめたくなった。逃亡奴隷と関わっていることが知られたら処刑されるかもしれないのに、それでも彼らを助けようとする白人がいたことが本当にすごいと思う。最後のメイベルの物語に救われた。