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帯に書かれている「その男は愛すべき悪党だった」という文言に激しい違和感を感じる。
西崎プロデューサーのある面では的を射ているだろうが、それだけの人ではなかった。今の私はそんな面も含めて、“極めて人間的な人だった”と思う。
もちろん、本を売るための「キャッチコピー」だとはわかっているけれど。
この本は、西崎プロデューサーを知る人が読むべき本だろう。
業界(アニメーションだけでなく、プロデューサーも含む)を目指す人にも読んで欲しいとは思わない。多くの功績すら書かれていない……。
文庫化に当たって『宇宙戦艦ヤマト2199』の総監督を務めた出渕裕氏への取材が大幅に追加されている。
「まえがき」を読むと(出渕氏が)“何もわかっていない”感に駆り立てられるが、第九章まで読むと少し感想が変わる。やはり一度、語り合ってみたいものだ。『ヤマト』と『2199』について。
読み終えて夢想するのは、あったはずの未来について──だ。
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インディペンデントプロデューサーの西崎義展、東映のプロデューサー吉田逹、原作の豊田有恒、主題歌のささきいさお。全て皆、出身が私の母校の武蔵高校だ。その人たちが集まって大ヒットアニメ「宇宙戦艦ヤマト」が作られた。
その中でも核になったプロデューサーの西崎義展の評伝がこの作品。昔のテレビブロデューサーもかなりデタラメだったが、しょせんはテレビ局を背負ったサラリーマンなので限界はあった。しかし背負うもののない西崎義展はさらに上を行く。
まずは漫画の天才、手塚治虫を激怒させる。多くの人を踏み台にしてヒット作「宇宙戦艦ヤマト」を作り、信じられない豪遊を繰り返しては借金し、挙げ句の果てには海外逃亡。
しかしまたフラッと戻ってきては映画やカレンダーで金儲けをしていく。
とにかく破天荒で痛快。
証言者の中にはかつて仕事を一緒にした人の名も数名出てくる。故人もいるが、生きている人にはいつか話を聞いてみたいと思う。
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文庫化に伴い、再読。「2199」の出渕裕監督と「バトルシップ」の山崎貴監督の証言が新たに加わった。
余談。「2202」を先日部分的に観たが、「さらば」の時のような興奮はそれほど感じなかった。アナログの良さがあるのだと思う。
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かねてから、西崎プロデューサーは悪人だろうと信じて疑わなかった。
一読万嘆! 想像していた数倍のワルだった。
高校のころ、ヤマト資料集が3万円で限定発売された。購入特典は、松本零士先生・シナリオの藤川桂介氏・西崎Pの内、二人のサインがもらえるというもの。
周囲すべてが松本・西崎を選ぶ中、私は松本・藤川にした。この判断、われながら感心だ。
西崎Pのよいところを敢えて挙げるなら、ファーストヤマトを35ミリフィルムで撮影したこと、音楽に手を抜かなかったこと。
この二点を以て、地獄で蠢く西崎Pに蜘蛛の糸を垂らしてあげたい。
なお、本書で触れられたイニシャルI・MとH・Yはそれぞれ石野真子と畑中葉子であろう。後者が早見優でないことを切に願う。
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宇宙戦艦ヤマトで有名な西崎プロデューサーの評伝。
良くも悪くも、凄い人物。
こういう人が時代を創っていくのかね。
ヤマトに執着し過ぎだのが失敗。逆に言えば、あそこまで執着したから、一時代を築いた。
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西崎氏とは一度会ったことがある。私が駆け出しの銀行員だった頃、同じ支店の先輩がなぜか「一度会わせてやる」と言い出して氏と会わせてくれた。本書を読むとJAVNを設立、運営していた頃だろうか。背の高い、押出しのよい人だった。西崎氏の生年を確認すると私より28歳上。
「銀行でスペイン語を習わされています」というと、
「そうか英語ができないのか」と言われたことを覚えている。
「いえ、英語はもうできるのでスペイン語を習わされています」と応じるとちょっと恥ずかしそうに下を向いたのを覚えている。
この本で何度も触れられている通り、「傲岸で自分勝手な判断をする、しかし純粋な」、人だったと思う。
ヤマトを除いて西崎氏の名を見たのは石原慎太郎氏の著作「わが人生の時」だったと思う。その本の中で、
「小笠原諸島のさらに先に洋上にブイがうかんでいる。近くに陸も無くそのブイの下のわずかな日陰を求めて魚が柱を作っている」という話を西崎氏から聞き、実際に西崎氏のクルーザーでその光景を見に行った、という話だったと思う。
西崎氏と創価学会/民音に深いかかわりあったことも初めて知った。
本当にこんな人はいない。
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宇宙戦艦ヤマトは幼少時に観た記憶がぼんやりある程度。ガンダム世代なので強い思い入れはない。ヤマトを作った男がハチャメチャらしい、ということはサブカル界隈で語られていて気になっていた。
この本を読むと、ヤマトの広報手法や作品哲学などが、ガンダム、エヴァ、その他後続アニメに与えた影響の大きさがよくわかる。銃刀法違反の逮捕に関する部分は、尖閣上陸や、そこでの石原慎太郎との関わりなど、知らなかったことばかりで、興味深かった。
本全体を通じて「梶原一騎伝」や「全裸監督 村西とおる伝」と似た手ごたえを感じる。毀誉褒貶が激しい、善悪の彼岸に行ってしまった人間のすごみがある。序盤のアニメ業界に潜入した下りでは、お人よしな手塚治虫との対比がおもしろい。ずるくて狡猾な人は頭がいい。隙を突くのがうまい。しかし、その能力を存分に発揮すると自分の首を絞めることになる。現代にも似たような人がいる。ホリエモンとか。
西崎が巻き起こした騒動に関わった人物が入り乱れて登場し、ディテールが分かりずらい部分はある。しかし、この本が描こうとしているのは西崎という人間であって、重要なのはそこじゃない。大筋はわかるから、ズンズン読めた。この人は、狡猾さ、決断力、頭の回転、人脈力と、あらゆる点で自分と正反対という気がする。大変な人だ。おもしろくて語るに足る人物なのは間違いない。
著者も西崎という人間に強く惹かれているのがわかる。特に、出所してから再びヤマトの映画を作ろうとする部分の文章に書き手の熱を感じた。努めて冷静に、事実に基づいて書こうとしているけど、ここでは憧憬に似た何かが漏れ出ている。
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そこはかとない地続き感も感じつつ。もっと小振りでただの小悪党みたいな人(は、それなりに見てきたなあ)と比べると、やはり別格な感じはした。
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宇宙戦艦ヤマトの生みの親、同号プロデューサー西崎氏を追ったノンフィクション。「悪党」「人非人」「金と欲望の権化」「天才」「改革者」など、評価は大きく分かれる。「一将功成りて万骨枯る」を地で行き、しゃぶり尽くされて捨てられた人も少なくないという。覚醒剤と銃刀法違反で収監され、自己破産したのちも、やはりヤマトで一発当てて、即クルーザーを購入するよう男。本のタイトルにあるように「狂気」を持ってたんだろうなあ。こういう人とは付き合いたくないが、一方で、こういう人でないとあのヤマト(リアル感や音楽。今でもテーマ曲には心踊らされる)はできなかったのだろう。世の中を変えるような起業家も、ある意味狂気の持ち主である。この本を書いてくれた牧村氏にも感謝。