紙の本
昔ばなしの作中話。
2018/11/12 00:34
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投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代小説が得意な朝井まかてさんの作品です。
現代の語り口調なのに立ち居振る舞いが時代を感じさせるという、
作者らしい世界観が広がっています。
今回の作品で選ばれた舞台は昔ばなしです。
第一章は草どんと子狐。
深い山中にぽっかりと袋の口を開いたかのような草原に、
心を持った草が生えています。枯れることがなくて高さは二丈を越え、
根もとがひとかかえもある樹木と見まごう草です。
幾年月そこに生えているのか記憶はとうに抜け落ちました。
草原の入口は深い森の大樫の洞で、反対側は断崖です。
現れる者といえば山姥や天狗で、めったにやってきません。
永遠の静けさと太陽の柔らかさに包まれている草どん。
ある日、根もとに子狐がやってきて草どんと呼びかけたのでした。
気をとめる者もまれなのに、子狐は草に心があることを一目で
見抜いて近寄ってきたのです。遊んでとじゃれついてくるのですが、
尻尾はちぎれているし母狐の姿も見えません。
ねぐらに帰れと言っても草どんの根もとで寝ると言いはります。
草は仕方なく、寝つけるようにと物語を聞かせることにします。
物語は、草の体のどこかからぽつぽつと湧き上がり、
自然と口をついてくるのでした。
慣れ親しんだ昔ばなしがベースなのですが、
そこは朝井まかてさん流です。昔ばなしのようなのに
そうじゃない部分があるとか、あの話かなと思わせながら
切り口が違っていたりとか、呼び覚まされる記憶と
新展開のコラボレーションに刺激を受けます。
表紙の絵は、物語の登場人物です。名前を小太郎といいます。
実はタイトルだけしか知らなかったお話がもとになっているのですが、
結構のめり込みました。
現代版お伽草紙です。昔ばなしにこんなふうに触れてみるのも
一興だなあと思いました。
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夜寝る前に少しずつ読んで見た。
物語を読む、お話をしてもらうということがなんて贅沢なことなんだと再認識。
懐かしい日本の昔話が本作にはあり、ひたすら懐かしく感じた。
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神々の雲上の世界と私たち人間の雲下の世界をつないでいたのはおとぎ話だった、というお話。
日本には昔から語り継がれるお話がたくさんある。そういうお話によって、目には見えないものを畏れ敬う心、周りを労り慈しむ優しい心などを学んできたということは確かだと私も思う。私が子供の頃は、TVで毎週「にほん昔ばなし」を見せられていたものだが、今から思うと、とても良い情操教育だったなと思う。必ずしも楽しいお話ばかりではなくて、残酷で救いがなかったり怖かったり悲しかったり切なかったりするお話も多いけれど、生きていくことは実際 楽しく幸せなことばかりではないので、聞くのが辛いようなお話も、心構えというのかつっかえ棒というのかになったような気がする。
そして、今現在、そういったお話がどんどん忘れられていっているというのも本当だと思う。それはとても残念なことだ。子供のころから色々な話を聞いて想像力や感情を耕しておくということは、人生において大切な核になることだと思う。
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ブクログのサイトでおすすめですに上がってきてたのを
読んでみるか~って軽い気持ちで読んだ。
確かにものすごくおすすめだ!!
間違ってないよブクログ!!褒めたい褒めたたえたい。
あぁ確かに日本の昔話を耳にする機会が減ったのは確かにな~と思う
自分が大人になったからもそうだし、単純にテレビで日本昔はなし終わったのとかも関係あるのかな、とか。
教訓にしたいことがたくさんあるのに今の現代ではそれが薄れているのは確かなこと。
途中そのくだりも出てくるけど。
色んなキャラクターがいて日本特有の八百万の神がいて
神話だ迷信だと言ってしまえばそれまでだけど
本も映画もアニメもいろいろなもの含め、物語って人を豊かにするよなーとも。
この前よんだ「アウシュヴィッツの図書係」でも
人間が追いつめられてる時に読む・聞く・話す物語って
今の自分を遠くに連れて行ってくれるというか
悪い言い方すれば現実逃避なんだけど
そうゆうの今、すごい大事なんじゃないかって私が勉強になったわ。
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天上天下唯我独尊という言葉がありますが、朝井まかてさん「雲上雲下」、2018.2発行、小さき者たち、勇の者たち、物語の果て の連作3話、不思議な不思議な奥の深い物語です。雲上の世界、雲下の世界、それをつなぐものは、子供たちが夜の眠りにつくために語りつがれた物語なのかもしれません。昔むかし、ある所に。朝井まかてさんが田んぼの田螺(たにし)に、龍宮の乙姫と亀に、猫寺の猫に、人間の持って生まれた真心を映し出しています。読者はいつの間にか雲下にいながら雲上の世界に身をまかせ、そして遠い記憶と交感しています!
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2.8
昔々の物語
草どんと、子狐と、山姥と。
読み続けるのが正直しんどかった。
中盤、小太郎と花子の物語だけは心に残った。
なぜ女というものは、
受け入れ、そして微笑む事が出来るのか・・
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読み始めは,どんな物語が始まるのか,予想もできず,しかし,読み始めると,どんどん「草どん」の語りに引き込まれていきました。
個人的には「猫寺」の話で落涙し,忠義ものの亀の話が心にしみました。
幼いころ,民話を繰り返し読みました。民話の中には,トラウマになりそうな残酷な話も理不尽な話もありましたが,それも含めて,今の自分を形成している大切な要素だったと思います。
いつまでも,民話が語り継がれることを願ってやみません。
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初出 2016〜17年の日本農業新聞掲載の「福耳草」
一見、民話を集めて再編した昔話のようにも見えるが、作者は「実は物語こそが雲上雲下すなわち神々の天界と人間世界を繋ぐ語られるものなのだ」と、物語の本質を語っているのだろう。
山奥の森の奥の草原に太古から生えている一抱えもある大きな草は、迷い込んできた子狐に「草どん」と呼ばれ、せがまれて物語を語る。第1章は、博打に興じる鬼を騙して金を得させてくれる「団子地蔵」、タニシの姿に生まれたが利発で働き者で長者の娘を嫁にする「粒」、竜宮に仕える亀が乙姫のピンチに活躍する「亀の身上がり」、寺で飼われていた猫が恩返しする「猫寺」の4話。
第2章は、その場を「小太郎」という少年が通り、子狐が道案内するが、この小太郎こそ「龍の小太郎」の主人公であり、その生い立ち、悲しい恋、母である龍神を訪ねる旅、母との再会と山を崩して湖を埋め立てる話が中編小説として情感豊かに語られる、2つの物語の時空が交錯する。
第3章は、一緒にいる山姥の人間の娘時代の物語が語られ、子狐も九尾の狐の子だと分かるが、さらに「草どん」は、自分が福耳彦命という天界で地上の物語を集めて神々に聴かせる御伽衆で、役目に失敗して地上に来たことを思い出す。
草どんのいる草原も開発されてマンションが建ち、物語の世界は急速に影を薄めて、主人公たちは避難してゆく。なんと、今の話か!
なかなか示唆するものが豊かなものがたりである。
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なんと朝井さんがファンタジー。
しかし、これがひたすら面白い。
いったいどこからこんなストーリー展開が出てくるのでしょう。
民話をベースにしてますが、時に語り部自身が物語の一役を担い、さらにそれが別の物語で覆われ。。。
複雑だけど判り難くは無く、しかも次の展開の予測が付かない。この先どこに連れて行ってくれるのだろうと読む手が止まらなくなります。
ただ単に人の生き様を律する教訓としての民話ではなく、それ自身が一個の生き物のように自立する物語(民話)。
そんな物語をないがしろにしている現代への警鐘も含まれています。
エンディング、最後の最後がやや尻すぼみのような感じもしましたが、結論の無いのも良いのかもかもしれません。
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子供の頃によく大人から読み聞かせをしてもらった昔噺。
やがて私自身も親となり娘達に絵本の読み聞かせはしたけれど、そういえば昔噺はあまりしたことがないかも。
宵っ張りの子狐にせがまれて、眠る前に昔噺を優しく語る「草どん」。
初めは面倒くさがっていた「草どん」もいつしか楽しみになっていた。
いつからここにおるのか、何故草の姿をしているのか、己のことは何一つ思い出せないままなのに、何故か数多の物語は溢れ出てくる。
「おらたちの話を、もう誰も聞きたがらない。忘れてゆくばかりなんだ」
昔噺に登場する狐や狸、兎、亀達の嘆きの声が胸を抉る。
聴き手がいてこその語り手。
両者を繋ぐ「物語」の存在意義について考えさせられた。
現実しか見ようとしない想像力も乏しくなってしまった現代を生きる若者達への警告のような物語だった。
未来に残すため、語り伝えていかなければならない「物語」は沢山ある。
我々大人達の果たすべき使命の一つだと思う。
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最近は、人の口で伝えられる懐かしい昔話をとんと聞かなくなったような気がする。本屋に並ぶ本も、やたらに感動を衒っていたり、子供が安易に喜びそうなネタに迎合しているものばかりで、そんなものが果たして、どれだけの事を読み手の心に残してくれるんだろうか。
世代を超えて親や祖父母から語り受け継いで来た、この世を生き抜く様々な知恵を、子や次世代へ手離してゆくことが私達の社会にとってどれほど大切であるのかを、この本で学んだ。
「親や祖父母は夜、膝に抱えた子どもにそんな噺を語りきかせて寝かしつける。知恵者に育てと、笑い話に託して。でなければ、痛い目に遭うぞと。あるいは、胸の踊る冒険譚によって、勇気の何たるかを教える。人の心の狡さや恐ろしさを注意深く伝えながら、励ますのだ。生まれたこの世を生きて生きて、生き尽くせと。」
小さい子を持つ親にこそ是非読んで欲しい本。ただの小説であることを超え、昔話で語られる主人公達が、人が強く行き抜いてゆく為に大切な事を教えてくれる、素晴らしい作品だった。
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まかてさんの、素晴らしい昔話の語り口に引き込めれるように、ぐいぐい読んでしまいました。それを「今日は、ここまで」と無理やり本を閉じておしまいにする贅沢さを、毎晩味わいました。ところがそれだけではなかった。
最後までのんきに「草どん」の物語を、子狐や山姥と一緒に聞いていたい気持もありましたが、そこには劇的な結末が用意されていました。現代における物語りとは。迷信として片隅に追いやられるだけなのか。
私も昔話を絵本などで読み聞かせするボランティアをしていますが、子供たちは目を輝かせて聞いてくれます。これらの物語が、人づてに直に語られる文化であり続けて欲しいと、切に願いました。
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物語ノ終ワリトハジマリ
子狐に山姥、乙姫に天人、そして龍の子。
民話の主人公たちが笑い、苦悩し、闘う。
不思議で懐かしい、大人のためのファンタジー。
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昔々あるところにと語り出す懐かしさ,それが失われていく危機感をふんわり優しく包み込んで大きな神々の世界観とリンクさせ,朝井まかてさんの昔話が語られます.お馴染みの物語やお初にお目にかかる主人公たちが躍動する世界,読んでいる間楽しくて楽しくて,そして最後にほろりさせられました.素晴らしかったです.
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登場人物と登場人物が語る民話が入れ子構造になっていて、非常に面白く読んでいたのだが、終盤で「はてしない物語」的な設定が明らかにされ、どう巻き取られるのかと思ったら。