紙の本
現代の生物学の到達点を紹介した1冊。大宅壮一ノンフィクション賞受賞の著者が生物学の最前線に迫る!
2019/02/04 17:37
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
アメリカにおける生物学研究の最前線を紹介した本。DNAが二重らせん構造であることが発見され(1960年代)、そしてヒトゲノムの解読が完了し(2000年代)、DNAの編集までが自在にできる技術が開発された現在、生物学の最前線は「人工的に化学合成されたDNAをもとに細胞を作成する」という領域にまで到達しています。ここまでくると品種改良とかのレベルではなく、全く新しい生命を人間が創造する領域と言ってよい状況です。
この技術を応用すれば、穀物に害虫への耐性を持たせるような品種改良をするのではなく、害虫を駆除し、かつ人間に無害な細菌を合成することも可能となります。また世界中で疫病を媒介する蚊を駆除するために、農薬を使うのではなく、生殖機能をなくした蚊を自然界に放ち、蚊の個体数を減少させるということも可能となります。
ところがこの技術を応用すれば、未知の毒性を持った細菌兵器の開発なども可能であって、技術の使い方を誤れば、原爆を生み出した原子力開発と同じ道をたどる可能性が十分にあります。この技術の二面性に着目しつつ、この分野の最前線の科学者へのインタビューを中心に構成されています。
DARPA(国防高等研究計画局)という軍事技術の開発を統括するアメリカ国防総省の機関がかなりの規模でこの分野への資金提供をしている事実など、この技術を研究者の知的好奇心だけに委ねることの危険性を本書から読み取ることができます。
ビル・ゲイツ氏が「自分がもしも今、10代だったら生物学を専攻する」と言うほどに注目を集めるこの分野を
STAP細胞に関する著書で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著者の須田桃子氏が1年間アメリカに留学して取材しただけあって、内容充実の1冊です。
紙の本
人工生命作成への古くて新しい問い。
2018/08/21 16:09
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
生物を合成する科学。遺伝子合成から始めて生物を理解しようという分野である。
本書はこの分野の全体の現状リポート、というよりはアメリカ国防総省の機関DARPAのリポートといった方が良いかもしれない。著者がここを訪れた話の第六章を中心に、前提となる科学技術の歴史や問題点、それに関わる(関わった)研究者たちの話という内容である。
基本的な知識の説明はあるが説明図などはなく、挿絵は登場人物の写真がほとんど。最も進んでいるアメリカでの状況には驚くが、ある程度分子生物学の素養がないと内容についていくのは少し難しいかもしれない。
人工生命を作ることへの問いかけは古くて新しい。その内容はどんどん変わっているのだろうが、問いそのものは変わっていない。そんな風に思えてならなかった。
最後に本書のタイトルについて。「衝撃」はどの部分を指しているのか。人工生命体技術の現状は良くわかったのだが「衝撃」ととるかどうかは読み手によってかなり異なりそうだ。
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【大宅賞受賞第一作の科学ノンフィクション】コンピュータ上でDNAを設計した人工生命体が誕生。『わたしを離さないで』の世界が現実になる科学に人間の感情はついていけるか?
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アメリカにおける生物学研究の最前線を紹介した本。DNAが二重らせん構造であることが発見され(1960年代)、そしてヒトゲノムの解読が完了し(2000年代)、DNAの編集までが自在にできる技術が開発された現在、生物学の最前線は「人工的に化学合成されたDNAをもとに細胞を作成する」という領域にまで到達しています。ここまでくると品種改良とかのレベルではなく、全く新しい生命を人間が創造する領域と言ってよい状況です。
この技術を応用すれば、穀物に害虫への耐性を持たせるような品種改良をするのではなく、害虫を駆除し、かつ人間に無害な細菌を合成することも可能となります。また世界中で疫病を媒介する蚊を駆除するために、農薬を使うのではなく、生殖機能をなくした蚊を自然界に放ち、蚊の個体数を減少させるということも可能となります。
ところがこの技術を応用すれば、未知の毒性を持った細菌兵器の開発なども可能であって、技術の使い方を誤れば、原爆を生み出した原子力開発と同じ道をたどる可能性が十分にあります。この技術の二面性に着目しつつ、この分野の最前線の科学者へのインタビューを中心に構成されています。
DARPA(国防高等研究計画局)という軍事技術の開発を統括するアメリカ国防総省の機関がかなりの規模でこの分野への資金提供をしている事実など、この技術を研究者の知的好奇心だけに委ねることの危険性を本書から読み取ることができます。
ビル・ゲイツ氏が「自分がもしも今、10代だったら生物学を専攻する」と言うほどに注目を集めるこの分野を
STAP細胞に関する著書で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著者の須田桃子氏が1年間アメリカに留学して取材しただけあって、内容充実の1冊です。
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米国を中心に進んでいる人工的に生物を作ろうとするGP-writeには様々な可能性が秘められておりとても興味深いが倫理面等の問題がある事には納得できる。しかしながら、著者の話の展開、例えばDARPAに関する記述等はやや強引であるように感じた。
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遺伝子組換えとの線引きはよくわからないが、本書を読むと合成生物学は人工的にDNAを合成し細胞に組み込むことを目指しているらしい。
一から合成したDNAを実際の細胞に組み込むことに成功したグループはまだ世界で1つだけで、それも極めて短いものなので、それよりはるかに長いDNAを持つ生物のものを合成できるようになるのはまだまだ先なのだろうが、その細胞はちゃんと機能したとのことで、正しく合成したDNAを組み込んだ細胞は正しく機能することがわかったということは、DNAの合成技術とDNAのデータベースが確立すれば、ある意味人工的に生物を設計、合成できるということで、正にブレードランナーの映画のレプリカントの世界も実現するということか?と思ってしまう。
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人間は思考し、発見し、常に自分を乗り越えようとする。アクセルとブレーキを社会全体でバランスしながら進む。
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人はゲノム解析だけでは事足りず、それを使って生命体を合成しようと試みる。倫理的にどうかという議論はありながらも、人の役に立つならまだしも、たいていは軍事目的。パワーバランスのキーワードになりそう。
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明日、新しい時代である「令和」を迎えるにあたり、部屋の片隅に読みかけとして置かれていた本を一斉に整理することにしました。恐らく読み終えたら、面白いポイントが多く見つかると思いますが、現在読んでいる本も多くある中で、このような決断を致しました。
星一つとしているのは、私が読了できなかったという目印であり、内容とは関係ないことをお断りしておきます。令和のどこかで再会できることを祈念しつつ、この本を登録させていただきます。
平成31年4月30日(平成大晦日)作成
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これぞノンフィクションの真骨頂、の作品。もうこのような人工生命体が存在しているのですね、驚きました。コンピュータの急速な発展に伴い、色々な分野で部品化・工業化が進んでますが、生物学の「工学化」がここまで進むと、「生命とは何か」を探求することこそが生物科学者のポテンシャルとはいえ、著者も危惧しているように悪用や意図しない方向に捻じ曲げられ、気が付いた時には手遅れになる事態も十分想定されます。勿論倫理上の問題含めて、研究者からの情報公開もさることながら、一般の私達も関心をもって注視していくことが必要だと思いました。すべての事象には、負の側面や副作用があることを肝に銘じて考えていかなければならないですね。勉強させてもらった上に、色々考えさせられる内容でした。私のように生物・科学分野に弱い多くの人にも読んでもらいたい本です。
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マイコプラズマという細菌はわずか10億個の原子で構成されている。90年代初頭のインテルのMPUのトランジスタの数は約1000億個。生物の理解は不可能だという思い込みが解消される。
生物システムの解明は困難。生物システムを自分で作ることで理解する、という全く新しいアプローチ。
VLSI も設計を製造と切り離すことで、進化した。
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文系偏重の日本の出版界にあって、科学の専門的知識を知識を備えた作家のノンフィクション、を期待して読み始めるが、ワクワク感は薄れ、やや失望を感じる本だった。
日本のメディアがやってきた手法、インタビューの発言の中から一部を広い上げ、メディアイデオロギー的に「角度をつけた」方向から情緒的に叙述する。そのせいで肝心の科学的解説が雲散…。これは左右の政治的党派性の強い言論やラジカルなポリティカル・コレクトネス、特にオールドメディアの代表、日本の新聞で目につく手法である。 で、筆者が毎日新聞の記者ということで納得?
特に「DARPA」に関する章では国家権力や軍事が研究を利用するという批判が中心をなし、その視点からインタビューした科学者の発言から科学とは関係の薄い倫理的情緒的な部分が切り取られ集められる。肝心の合成生物学の最新の知見や可能性についてはあまり描かれていない。
膨大な研究資金の捻出は多くを国や企業に頼らざるを得ず、特に軍事は技術的進歩と共に弊害を生み出したことは周知の事実である。ただここでの批判もよくある一般的な批判にとどまる。だが結果的にワンパターンな批判や予測が実は的外れで意味のなかった例は枚挙に暇が無い。ここで取り上げられる「DARPA」はインターネットを生み出した存在としても有名だが、そのインターネットも批判や予測を超えて、国家の意図を超えて、自律的に進化し世界を変えている。逆にイデオロギーやアナキズムの偏狭な正義が悲惨な結果となったのとは対照的である。
国家に管理されない技術がテロによって破滅的な災難をもたらす危険が戦争以上の身近な現実にある時代、旧来の「国家権力批判」に聞こえなくもない。米欧の科学ものの良書はこの辺の科学的説明がしっかりしていて、日本の情緒的要素の多い科学ノンフィクションとは一線を画している。
著者は期待される科学ジャーナリストだと思うので、文学的物語的構成で第一とする編集者ではなく、科学的説明に重きをおいた編集者と組んだ科学ノンフィクションを期待したい。
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ベンダー研究所でのミニマル・セルの合成に驚いた。科学とコンピュータ、マネジメント、そしてベンダーの閃きがなせる技だと思う。
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アメリカの研究グループがDNA設計からのボトムアップ型により、ミニマムセルを作り出した。その衝撃的な事実を合成生物学という新しい研究領域に基づいて解説。
トップダウン型による遺伝子の働きの解明とは異なる。つまりは、親なしの生物を作れる道さえ開けてしまった。技術だけではなく、倫理にも話題を振っている。
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既存のDNAの改変とかではなく、完全に材料から(ゼロから)DNAを作り上げて、親の無い単純な、生命活動を行い続ける(養分を取り入れて、分裂して、生き続ける)単細胞生物(菌)を作ることに成功している!
という事実を知らなかった。まさかそこまで進んでいるとは。未だ特定の個人・研究組織に閉じられたナレッジが多い(実際にDNAを作り上げるには結構泥臭い・しかし生化学的にハイレベルの技術が必要)ようだが、今後は汎化していくのは間違い無いだろう。
誰がどこで何をするのか?、監視・チェックや制限が効くのか?、恐らく秘密裏に行われて結果だけが発表されるのだろう。
人工生物の漏出が極めて危険。優性生殖のようなDNA構成が可能とのことで、生態系を一気に変えてしまい兼ねない。人類としては恐ろしい選択肢を持ったものだ。