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長い長い夜が明けた。
それは誰に対しても。
テープ審査は通って当たり前だろうと笑うジミに笑う。太鼓判を押したのだからとね。
まあ、審査に通らなかったら、この話は続かないしw ライヴをするたび褒められ、音源まで用意するようになって、ますますバンドらしさが出てきたしおりエクスペリエンス。
そんな最中、光岡音々がガチャガチャしていることを光岡の母から聞くしおりエクスペリエンスのメンバーたち……。
途中途中挟まれる、すばるの表情。
ずっと音々と走り続けていて、隣にいたから、すばるはもう理解しているのだと。
音々の身体が全てを物語っているということくらい、すばるには簡単に分かるものなのだと。むしろそうでなければ、隣に寄り添っていたものとしては失格だ。
それにしても、学園の生徒の質が悪いね。ここ。
ヒールらしく在ることもまた一つの手だとあるけれども、こんなクソミソな生徒たちのいる学校なんて通いたくないね。気持ち悪っ。
一人一人がズームになるシーン。
あおり。俯瞰。ああ、果てしないと思った。
すばると、音々の、唖然とした表情。
後ろに叩きつけられる風。
音々の涙。
「本田紫織が鼻たらしてウチに土下座して謝ってくるまで」
「戻ってこんでええ」
ありきたりだと思った。
よくあるワンシーン。敵が味方になる。
ある意味では、こんなことで簡単に感動なんかするモンじゃないと思った。
九巻目の“もしもあのとき、譜面から踏み外していたらどうなっていたんだろう…”ってセリフを見て、あぁ、あんだけ敵というかラスボスの手塩にかけて育て上げた人間が主人公たちに掻っ攫われていくのか、ありきたりだなぁ、と思った。
「あの女に松岡の何がわかるんじゃ……!」
と一人呟いたすばるの低い低い声は、本当に、光岡を我が子のごとく可愛がり共に突き進む戦友のようであったのだと思わされた。
それをこんな簡単に持って行くのか、と。
でもそれは違った。
この気持ちを認めてしまったら、積み重ねたすばるとの時間、殺した自分を否定することになる。
それが音々には恐ろしかった。
否定をした存在を肯定できない。
嘘をつくことができない。
あの、音々の、譜面まみれの身体が、カラーで全て解き放たれたシーン。
涙が止まらなかった。
ここで、モノクロから、カラーの世界に。
すばるが求めていた、魔法がかかった。
ああ、てっぺんのために全てを押し殺していたのに、それが解放されたのだと。