紙の本
ラテンアメリカを代表する作家ファン・ルルフォ氏の世界も認める秀作です!
2020/05/04 08:57
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、メキシコの小説家で、ラテンアメリカの作家の中でもひと際重要な人物として認められているファン・ルルフォ氏の代表作です。同氏は、二冊の短編、『ペドロ・パラモ』(1955年)と『燃える平原』(1953年)で世界から高く評価されています。同書はその一冊で、焼けつくような陽射しが照りつけ砂塵が舞い上がるメキシコの荒涼とした大地を舞台に、革命前後の騒乱で殺伐とした世界にあえぐ貧しい農民たちの寡黙な力強さや愛憎、そして暗い情念の噴出から生じる暴力や欲望などを強く読者に訴えかける文体で描いた作品となっています。ぜひ、ラテンアメリカを代表する傑作を一度は読んでみてください。
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焼け付く太陽と砂ぼこり
2018/08/23 21:22
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投稿者:kwsm - この投稿者のレビュー一覧を見る
20世紀前半、革命の余波治まらないメキシコを舞台にした短編集です。
過酷な荒野の旅、暴力と復讐、革命戦士にして追い剥ぎの半生等々が決して長くないページの中に生々しく描かれています。
同じ作者の中篇「ペドロ・パラモ」の難解で幻想的な印象とは対照的で、先にそちらを読んで苦手に感じた方でも楽しめるのではないでしょうか。
冷房の効いた部屋の中で読んでいても遮るものない日差しの痛みとざらつく白い砂混じりの風、時々小川のぬるい水温を感じられる一冊です。
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こすっからい魅力
2019/06/22 10:06
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投稿者:雨宮司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
メキシコを舞台とした作品が続くんだけれど、いわゆる聖人君子やヒーローといった人物は登場せず、こすっからい小悪党や、そんな小悪党に翻弄される市井の人々ばかりが登場する。暴力と死が全編を彩るが、血生臭い感じは不思議にせず、乾いた筆致が延々と続く。西部劇や、近代兵器が登場する前の戦争が好きな人なら、けっこう楽しんで読めるだろう。
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合計17作。
要素を取り出してみれば、過酷で不毛で乾いた生活環境つまり大地。父と息子の対立。男女の愛憎。罪悪と官能つまり近親姦の気配。
これらはすべて数年後に刊行される「ペドロ・パラモ」の下地でもある。
また目立つのは、粗野な言葉使い。話者の生活がそのまま想像される。
また修辞を排除したシンプルな文体は、大地そのもののシンプルさをも思わせる。
「ペドロ・パラモ」の幻想味と異なるのは、確かにこの土地にこういう人々がいたという確かな手ごたえがあることだ。
ベールのかかった幻想の下地には、これほどの暴力と生と死が充満している。
憎み合い殺し合い愛し合い、を、笑ったり皮肉ったりしながら語り合い。
こんなに短いのにこんなに豊饒なのだ。
■おれたちのもらった土地★【円環的な時間を示す犬の鳴き声。一人称。農民と役人。「燃える平原」の過去】
■コマドレス坂★【復讐の連鎖。一人称】れはオディロンがアルカラセの連中に殺されるのを見ただけで、殺しちゃいねえ」と言ってやった。死体を捨てた。祭りの花火を見た。
■おれたちは貧しいんだ★【官能と罪つまり近親相姦。一人称】
■追われる男★【復讐の連鎖】
■明け方に【官能と罪。近親相姦】
■タルパ★【官能と罪つまり近親相姦。一人称】
■マカリオ★【官能と罪つまり近親相姦。一人称】
■燃える平原【「おれたちのもらった土地」の過去。残酷。一人称】
■殺さねえでくれ【父親と息子】
■ルビーナ★【不毛な土地。会話相手の不在】
■置いてきぼりにされた夜【残酷】
■北の渡し【父親と息子。会話】
■覚えてねえか【官能と罪つまり近親相姦。一人称】
■犬の声は聞こえんか★【父親と息子。ほとんど会話】
■大地震の日【農民と役人。ほとんど会話】
■マティルデ・アルカンヘルの息子【父親と息子。一人称】
■アナクレト・モローネス★【皮肉。官能と罪。近親相姦。一人称】
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これぞラテンアメリカ文学・・・と思わせる描写の数々。
「大粒の雨がぽたりと一滴おちてきて、地面に穴を開ける。唾を吐きかけたように、そこだけがぽちっと泥になる。だが一滴しか降らねえ。ざあっとくるんじゃねえかと思って、あちこちに目をやるが、無駄なことだ。降ったのは一滴だけだ。空をあおぐと雨雲は、すでにはるか彼方へ走りさっている。町から吹きよせる風が、雨雲を青い山並みのほうへ押しやるのだ。一つだけぽつんと落ちてきた滴は、乾ききった大地に、あっという間に飲み干されちまう。」
ー
「「ルビーナはさびしい所だよ。あんたはこれから行くわけだから、じきにわかると思うが、まあおれに言わせりゃ、あそこは悲しみの根城だ。笑う人間なんていやしない。板でもはりつけたみたいにまるで表情ってものがないんだ。そこいらじゅう悲しみでいっぱいだ。風が吹くとその悲しみがぐるぐるかきまわされるだけで、どこかへ行っちまうってことがない。大昔からそこが自分の住み処だとでもいうように、どっかと居すわっちまってる。触ろうと思えば触れるくらいだ。」」
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全てイメージなんだけど懐かしい感じがする。荒れた土地で、あくまでも第一次世界産業を営む場所。「生きていくことにすがりつくことに必死すぎ」るため、他人を思いやる余裕ない。よい世の中にするって何のためにだ?やっぱあれかしら、最初に大きな借金してマニファクチャー化して、作業を
単調化しない限り色々見えないのかしら?でもそこには信頼がないと始まらないんだけど、この本は全然そこまで心の余裕ない。今日か明日かの気の持ちようで生きてる。
全然盛ってなくて(ノーメイク)、美少女が制服着て走ってるような小説だよ。
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乾き切った荒涼とした土地で繰り広げられる暴力と欲望と死にあふれた短編たち。なんだけど、あまりにあっけなくそれらが淡々とした文体で描かれるので痛々しさとか苦しみはほとんど感じさせずに鮮烈なイメージだけがあとに残る。
罪の意識とか自責の念だとかの内省めいたことは一切描かれないんだけど、犬の声やハーモニカの音、といった象徴的なフレーズによって、哀しみだけがうっすらとした余韻として残る。
時間を巧みにずらすことで因果関係があとで明らかになるパターンが多いんだけど、そのタイミングが絶妙で、どれももう一回最初に戻って読み直してしまう。内容の非情さにもかかわらず、ペドロ・パラモに通じる語りの妙になんだか心地よさすら感じる。
これも、ペドロ・パラモに通ずるけど、父と子の葛藤にまつわる話がどれも特に印象深い。