紙の本
日中戦争とは何だったのかを問う一冊です!
2019/01/25 15:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、日中戦争とは一体どのような戦争だったのか改めて問った貴重な歴史書です。日中戦争は、昭和デモクラシーの真只中において、盧溝橋での事件が発端になって意図なくして開始された戦争です。日々大きくなっていく戦争に、日本国民は命を懸け、運命を懸けました。そして、新たな政治を求め、それが大政翼賛会という組織を生み出すまでに至りました。結局、日中戦争とは我が国にどのようなことをもたらしたのでしょうか。多様な資料から一つひとつ丁寧に検証した非常に興味深い内容です。
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1章 兵士たちの見た銃後(銃後の退廃;慰問袋のゆくえ;祖国の再興を求めて)
2章 戦場のデモクラシー(他者理解の視点;立ち上がる「文化戦士」たち;新しい文化の創造)
3章 戦場から国家を改造する(文化工作による国家の改造;政党政治への期待;社会的な底辺の拡大)
4章 失われた可能性(デモクラシーとしての大政翼賛会;大政翼賛会の現実;日中戦争の末路)
5章 「神の国」の滅亡(日本主義の盛衰;「神の国」のモラル;戦争のなかの最後)
著者:井上寿一(1956-、東京都、政治学)
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1930年代を戦争による好景気の時代、庶民が生活の向上を希望できた時代、多くの国民が積極的に戦争を支持した時代として描写する。そのうえで、前線と銃後の社会的ギャップがあったことを指摘する。
本書の斬新な点は、帰還して銃後の社会に幻滅した兵士の視点に感情移入できるように構成されていることである。確かに帰還兵の心境が代表的な戦争支持の基盤であったことだろう。しかし反対に、銃後社会に感情移入したとき前線や帰還兵に対する印象はどうだったんだろうと思ったり。
都市と農村で銃後の緊張感が違うと感じる理由は何だろうと思うとき、顕然化された貧富の差のというよりも消費社会の発展度合いが大きいのだろうなと思う。結局見た目の印象。農村も情報がない分、案外のんびりしたものだったのではと想像する。
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日中戦争そのものについて検証するというよりは、副題にあるように、前線と銃後のギャップと関係性についての論考であり、「事件は現場で起きている」をあらためて認識させられる内容になっている。
多作の著者曰く、これが自身の最高傑作らしい。確かにこれまでの外交史的なアプローチとは異なり、ある種の社会史・民衆史的なテイストが強く、他作とは違ったテイストではある。が、この種の歴史学は特定個人の体験談に基づく検証になってしまい、読み物としては面白いのだが、全体像を描けているのか?という疑問は残る。