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文通相手との読書会のために、文庫で再読しました。
何度読んでも惹きつけられ、度々出てくるタイトルが切ないです。美しいタイトル。
戦争の行く末が分かっていても、彼らの辿る運命の悲惨さに胸が潰れそうになります。
誠実に丁寧に、迫力はあるのですが冷静に描かれていて、それが戦争の悲惨さをしみじみと感じさせます。皆川や江南の死はとても悲しく、生き残っただろう鷹志と有里も艦長クラスだったからきっと…と思ってしまい辛いです。
特攻隊の「生き仏」という表現も辛かったです。この戦争は負ける、と気付いてからの鷹志も。
そして雪子の戦いも辛いです。時系列を逆に進む手紙、最後にあったもので真実に気付きました。
辛いですが、目を逸らしてはいけないと思います。この作品に出会えてよかったです。
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戦争そのものは決して肯定はしないし、賛美するものではないが、こういった戦争(を題材とした)文学はいつまでも書き継がれていってほしい。
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読み応えがありました。
どの時期もクライマックス…
他の歴史物もそうですが、終わりがわかっているなかで、その時を生きる姿を見るのは締め付けられる思いです。
抗えない流れと、その中でも心ある一人一人が描かれていて、要約しがちなことに気付く。
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海軍兵学校を出た海軍士官たちの太平洋戦争の物語。主人公の父は会津出身、日露戦役の生き残りというところに思わず引き込まれてしまいました。
士官側からみた戦争小説ってあんまり読んだことがなかった気がするな。ぐっと胸にくる小説でした。
この作家さんは、実際には見たことがないはずの時代をなぜこんなに生き生き描けるんだろう。戦前・戦中の日本の空気感が、まるでそこにいるかのように伝わってくるこの筆致。ぐいぐい引き込まれる。
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始まりの夏
江田島
リメンバー・パネー
空墓
紺碧の果て
著者:須賀しのぶ(1972-、埼玉県、小説家)
解説:末國善己(1968-、広島県、文芸評論家)
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文通相手との文通読書会二回目の課題本。
自分では戦争ものを選べないので、こうして課題本にしてもらって、読むことができてよかった。
鷹志は幼い頃より父に「逃げるは最上の勝ち」「ねらぬものはならぬ」と教えられて来た。その教えは男子としての生き方を否定されているようで、心の中でいつも反駁を繰り返していた。そんなおり海軍に入った叔父に連れられて祖先の防人たちの寂れてしまった墓を参ったことをきっかけに、自分も海の防人にと心が傾いていく。その後震災で父は負傷し、そして両親は叔父夫婦に鷹志を養子に出し、兵学校への道を開いてくれた。その思いにこたえるように鷹志は兵学校での日々を精一杯に勤めていく。そこで出会った友人たちと厳しくも、実のある日々を過ごしていた鷹志は、その中で親友との別れを経験する。鷹志にはとても美しい妹がいた。少し他の女の子のようにいられない妹は、これと決めたことを曲げられず、その苛烈なまでの生き方を鷹志は心配していた。そんな妹の雪子は兄が叔父夫婦の容姿に出てから彫刻に打ち込むようになっていく。その集中力はすさまじく、行動力と才能で彼女は尊敬していた彫師のもとで腕を磨いていた。しかしそんな生活は長くは続かず、雪子はカフェーで女中をしながら、西へ行きそこで新たな修行先を探そうとお金をためていた。それを知った鷹志に家に連れ戻され、彫刻への夢は断たれてしまう。
そのころ鷹志は大きく広がり始めた戦争に巻き込まれ始めていた。いくつもの海を渡り、数えきれない部下を上司を同志を亡くし、繰り返す消耗にただ一度取り返しのつかない罪を犯す。
鷹志が見初めた顔に痣があるために顔を極端に隠す早苗。雪子に陸の上で必ず帰る場所になってほしいと求婚する鷹志の兵学校での同級の友の江南。海軍に魂を捧げてきたのに、最後には生き仏を運ぶ仕事に疑問が疑心へ、それは焼き付くような怒りと悲しみになった有里。戦争が進むにつれ、いくつもの視点が重なって、ラストは胸がつぶれそうな青に繋がる。
雪子からのいくつもの手紙。それは一通も出されたものではなかった。つよく強く焦がれた兄の姿が、それでもどうしても望めなかった心が、同じ青へ還れたことが救いのような気持がした。
ラストの100ページは夢中で読んだ。彼らが感じた静寂が耳に聞こえた気がした。
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文庫再読。タイトルが本当に秀逸だと思います。
紺碧の果てを見よ。これに何度泣かされることか。
舞台は太平洋戦争なので悲しい出来事がどうしてもたくさん出てくるんですけど、物語の中でおこるドラマを過剰な演出で描いていないからこそ、胸にくるものがある。
読み進めるのにエネルギーのいる作品だとは思うのですが、読了後の余韻がたまらない名作。
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細かい。
艦コレやっとけば、戦艦の名前とか特徴とか、出撃した場所とかわかってて、別口でもより一層おもしろいなと思いました。
戦後70年だからなんですね。
表面的に見えていたものと、裏側に佇んでいたものが入れ替わる時間なんですね。
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昭和初期、海軍へ入った兄・鷹志と外へ出ようと戦った妹・雪子の兄妹を中心とした青春群像劇。
表題の言葉が出てくる度に胸をしめつけられる。
戦禍が激しくなる中、生きよう、正しくあろうとあがく人々が切ない。
終幕に文庫表紙のような海と空の色を想う。
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幼い頃、会津を離れた一家
浦和のドック近くで育ち
兄は海軍へ、妹は芸術の道へ。
仲間たちの死、激しくなる戦争
淡々とした文章だけに胸に迫ります
「紺碧の果てを見よ。愛するものの防人たれ」
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8月には戦争物を読む。
確固とした主義を持っているわけではないけれど、なんとなく読みたい気持ちになるのだ。
タイトルも、カバーイラストも美しい。
繰り返し出てくる『紺碧』のイメージは何なのだろうかと考える。
海と、空?
それは刻々と色を変えるものであり、しかし実は何の色にも染まらないものである。
人間に何があろうと、いつでもそこにある、青は特別な色。
浦賀で育った、永峰(会沢)鷹志の家は、会津の武家の末裔。
父は日露戦争の生き残りだが、昔のことは話さない。
無口だが反戦の気持ちがある。
朝敵、と蔑まれた会津の出だからこそ、「負ければ何もかも失う。変わらないと信じていた正義や美徳も全て奪われ、地べたに叩きつけられ、唾を吐かれる」「勝てない喧嘩はしてはならない」と語る。
まるで、これから鷹志が戦うことになる太平洋戦争を予言しているかのようだが、若い鷹志には噛み砕くことのできない言葉であった。
遠縁で、鷹志を可愛がってくれる海軍士官の永峰宗二の養子に入り、軍人を目指した。
鷹志の3つ下の妹・雪子は父に似て手先が器用。
幼い頃から兄を言い負かす気の強さと知性がある。
ただし、ちょっと変わった子であった。
とても仲の良い兄妹であったが、鷹志が永峰家の養子になって家を出たことで、“繋いでいた手を離された”と雪子は感じる。
兄のいなくなった家を出て、奔放な芸術家の道を歩もうとする。
章の間に、雪子から鷹志に宛てた手紙が挿入されている。
時系列がランダムだ。
あれ?この雪子の気持ちを、なぜ鷹志は知らないのだろう?といぶかしく思うが…
雪子は常に紺碧の中に“飛び去った鷹”を追い求め、探し続けた。
鷹志は兵学校で友を得て青春を謳歌し、海軍に入隊して士官となる。
一見すれば、体育会系の学生生活、そしてお仕事小説のようでもある。
鷹志たちの気持ちもそうだったろう。
その“お仕事”が戦争でなかったならば。
先輩が、友が、散ってゆく中、上層部の愚策に憤る鷹志は、任された艦の運用に自分なりの「被害を出さないための工夫」を凝らし生き延びて行く。
鷹志は艦長という立場だったからこそそれが出来たのかもしれないが、時流に洗脳され、精神論だけをたよりに、上層部からの命令で紙っぺらのように命を燃やしつくしていく若者たちは哀れだ。
この戦争は負ける、と悟った鷹志は、そんな若者たちを、せめて自分の息子のように思う、艦の乗組員たちだけでも、あらゆる手段を使って生き延びさせたいと思うようになる。
鷹志は時々家に戻る。
その日常の部分では、雪子や妻の早苗という女たちの人生も描かれる。
時代に新しすぎて世間に痛めつけられ続けた雪子も、一見地味な女だが芯の強い早苗も、とても魅力的だ。
最後に、鷹志が部下たちに語る言葉には、崇高な感動を覚えずにいられない。
雪子の元から飛び去った鷹は、今は海と空の紺碧の果てを悠々と飛んでいるに違いない。
雪子はそれを、いつまでも見守りつづけるだろう。
第一章��始まりの夏
第二章 江田島
第三章 リメンバー・パネー
第四章 空墓
第五章 紺碧の果て
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海に魅入られ、国の防人である事を夢見た男の物語。
訓練生から士官になり幾度となく戦地へ赴く。
いなくなってしまう仲間たち。
そして試される信念。
"喧嘩は逃げるが最上の勝ち"
敗北を糧に立ち上がる防人。
紺碧の果てを見よ。
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ー友よ、紺碧の果てを見よ。
愛するものの防人たれ。
日本語は美しいと節々に感じられた一冊。
物語自体はもちろん素晴らしく、第二次世界大戦の複雑な戦況の中に見事に構築されたストーリーは圧巻。
鷹志の心、他の登場人物の信念、自分も物語の中に入ったのではないかと錯覚を抱くほど入り込める描写だった。
しかし、それ以上に心に残るのが筆者の紡ぎ出す美しい日本語だった。
悲惨な戦争で、多くの命が奪われている物語に対して不謹慎かもしれないが、読後に心が苦しくも暖かくなる。
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逃げるは最上の勝ち、ならぬものはならぬ。戊辰戦争後、辛酸を舐めた会津の教えを体現した艦長の判断に共感を覚える。又、奔放に振舞う妹ゆきことのコントラストに、この小説に深みと豊かな情緒をみる。
戦果に散った英霊を美化した小説は多数有るが、牧歌的な昭和初期の生活や教育と主人公の心の成長や拠り所となる思想に至る経緯を明瞭な筆致で描き、極限の環境や置かれた立場の中で、己の信念を曲げずに判断を下すに至った人間性を知る良書であった。
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物語は大正12年から始まり、後の海軍少佐永峰鷹志の少年時代、海軍兵学校時代、そして太平洋戦争終戦までが描かれています。
兵学校時代、同じ分隊の級友や先輩たちの戦時中の話や、本土に残された家族の話、そして太平洋戦争が始まり紺碧の海へと乗り出していく兵士たち、「弱虫」と揶揄されながらも、艦からは犠牲者を出さぬように「逃げる」ことに全力を尽くす鷹志。
この時代を生きた人々の思いが胸に迫ってきました。