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ブクログ献本企画ありがとうございます!!
近代~現代(特に第二次世界大戦)の世界史を負の面から切り込む紀行文。
戦争の歴史と世界の今を“俯瞰で見る”足がかりだった。
それがダークツーリズムの魅力である。
また、それらをいかに観光資源とするか、なぜ観光資源とするかの問題提起をしている気がした。
各国にある“負の遺産”――主に戦争について――の記念碑・記念館から、そうした記憶をどう伝えるか、今現在どう伝えているかを垣間見る。
外から見た太平洋戦争(日中戦争)が良くわかる。
日本の一部論調が、世界から全く受け入れられないという事実も。
現在、世界で主導権を持っている国家は、先の大戦の「戦勝国」であり、「ファシズムの枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)から自由を守った」という自負がある。その覆せない事実を直視すべきだろう。(前身の欧州諸国の植民地政策が影響したとしても)
日本の戦後反省はできていないと痛烈に感じる……それは近隣国への謝罪や賠償のことではない。戦略的なミス――補給を現地調達にしていたこと、当該地の現状を把握していない等……
諸外国も俯瞰で戦争を伝えていないのも事実だ。
シベリア抑留を語らないモスクワ(でもシベリアでは資料が展示されている)、中国、韓国、北朝鮮では反日感情で日本への包囲網を構築している。
「アジア圏のインフラを整備した」といっても、それが全てではないし、「南京大虐殺は無かった」とは言い難い。(犠牲者数が水増しされているけど)
ネトウヨもパヨクも、ソースが一面過ぎて説得力に欠け、俯瞰・中庸で見れていないのだ。
日本でも8月になると問答無用で戦争体験を聞く。その多くは、民間人の空襲のトラウマであり、物資不足や徴兵に駆り出され、遺された者たちの悲愴である。その過去から先へ進めない(進ませない)ところで止まっている。
都合の悪いデータを描写しない、等……(描写されても、それはその部分だけ切り離されている。)
“負の面”をいかに伝え、残していくか、未来へ繋げていくか……どの国でもそれは現在進行形で、途上である。
その展示例となりそうな、アメリカの人種差別を反省する施設の紹介もある。
展示内容は、感情論ではなく客観的なデータに基づくもので構成され、その反省として未来に向けてどうあるべきかを懇切丁寧に語っている模様。
世界遺産登録から、日本の”ダークツーリズム”の保存の仕方――現状維持であれ、その背後にあるどのように“後世に伝えていくか”――の問題を提起する。
都合の悪いデータ然り、死に関する直接的な描写の忌避は、果たして「”負の遺産”を後世に伝える」ことになるのか……(おそらく一部のクレーマーによって)忌避する問題点と中庸な姿勢の在り方の模索を問う。
金菱 清(ゼミナール) 『呼び覚まされる 霊性の震災学』( https://booklog.jp/item/1/4788514575 )でも震災遺構の保存問題、慰霊碑の在り方を言及していたが、それに通じるものがある。
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光の側面ではなく、悲しみの記憶を辿る旅、ダークツーリズム。
こちらは世界を対象としている。
同じ出来事(例えば戦争)でも国が異なれば捉え方が全く違っていたり
別事象であっても悲劇の根底にある背景には共通項があったり
現代へと続く感情のうねり、忘れずに継承し再発を防ぐべき惨劇について多角的に考えるきっかけになる。
同時に発刊された「ダークツーリズム 悲しみの記憶を辿る旅」とあわせて読むことで
日本国内外における悲しみの記憶を知ることができ
また悲しみへの向き合い方の違いに触れることができる。
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気になっていた過去の遺産の見方。
切り口は非常に有意義なものであり、諸外国と日本の過去に対する意識や考え方、スタンスの違いを、感じていながら表現出来ていなかったところに、うまく光をあてている。
著者が冒頭でエクスキューズしている通り、あくまでも紀行文であるので、やや表面的な感想になっているところだけが、少し物足りない読後感である。
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いわゆる「負の遺産」をめぐる旅のことです。
しかし日本国内のことではありません。
日本の国内の負の遺産は何となく主張をボカ
している節があります。
あの主語のない石碑の文言とかですね。
誰が誰に対して何を誓っているのかよく分から
ないですよね。
まあそれは当然でしょう。
皆が納得して、皆が痛い腹を探られないような
内容に「落としどころ」として決着されている
わけですから。
しかし諸外国は違います。
欧米の、大陸の、アジアの「文脈」がハッキリ
と表れています。主張している内容が違います。
単なる「反省」で終わってしまうどこかの島国
と違って、海外は別の視点からその国の「負の
遺産」を見つめ、違う角度で戦争への考えを
提起させる内容になっているそうです。
そんなきっかけを与えてくれる一冊です。
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観光学者さんによる新たな旅行の切り口の提案書。献本企画でいただいていたのですが、長らく積読になってしまっていました。ごめんなさい。
本著、旅慣れた方への旅行経験の共有としてオススメです。普通のところにあまり行っていないこと、旅の切り口が普通と異なること、の2点があるからです。行ったことがある場所であっても、違う切り口で見られるというのはなかなか楽しい経験です。
章末にある「旅のテクニック」も実践的で色あせていないのが良いところ。
ダークツーリズム自体は観光として(自治体あたりからすると)少し扱いづらい面があるのかもしれませんが、その分真に迫るものがあると言うか、より深くその土地を理解できるような感覚があると思います。
ただ、いち観光客として思うのは、それはワンオブゼムであって、全体としてその土地をどう対外的に見せていくのか、どのように動線を作っていくのか、等はまさに著者のフィールドとして考えていくべきところなのかなと思いました。
どこかの土地と著者がガッツリタッグを組んで、ダークツーリズムも含んだ総合的な観光資源のPRができたらきっと面白いんだろうなぁと思います。メゾットはある程度完成されていると思うので、あとは実践なのではないかなと。
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ダークツーリズムとは何かだけでなく、その意義や悲惨な歴史の痕をどのように見れば良いのかがよくわかる一冊です。
ダークツーリズムの概念が生まれた西洋と、「加害者」としての歴史を受け止めきれていない日本の差がとても大きいように感じました。
紀行文なので実用的な「旅のテクニック」なども収録されており、実際に現地を訪れる予定の人にとっては、この上なく良い事前資料だと思います。
ただ各事例と現代社会がどのように繋がっているのか、そこに横たわる普遍的な問題は何かが言及されていればいいなと思いました。