紙の本
エンタメ的純文学
2019/11/12 08:19
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投稿者:melon - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は小説の娯楽性をしっかり有しながらも哲学的主張を持った稀有な物語に思う。人は感覚を共有することなどできない。主人公早季子の左目は乱視であり、左目だけで見ることが両目で見た世界と異なることから、その世界に入り込むように左目のみの視界に委ねる。そんな見方や人間の孤独性を教えてくれた11歳の吉住は、利便性を追い求める普通の人となってしまい、憧れの人がいなくなったことに早季子こだわり続けてきた。それが原因で数年交際を続けた日向との別れを経験する。それを契機に当時の吉住への憧れをより強く自覚する。そんなあるとき同じ癖を持つ宮内の存在を知ったことで、かつての吉住と同じ思想を持っているのかと期待した早季子であったが、宮内は早季子とはことごとく感性が異なるのであった。
本作の主張する人間の孤独性は、しっかりと表現できている。主張をしっかり伝えるためのプロットであるのだろうが、そう感じさせない自然な流れであり、本作が小説である意味がしっかりしている。面白いと感じることができ、それでいて何か考えさせられることもあるという理想的なものに仕上がっている。
私としては、日本人の異質を認めない普通を良しとする精神ではなく、他者に寛容で違いを認められるという重要なことを理解した早季子がフィクションであることを思い知らされるように感じた。現実の日本人は、他者と違うことは異質で排除されるべきという感覚を有している人が多い。他者との違いを楽しめず、自分と同質のものでなければ認めないという民族だ。"みんな違ってみんな良い"などと標語だけ立派だが、それが実行されることはない。早季子は自分とことごとく違う宮内に対して、その面白さや相手の興味を共有する楽しみを見出すことができた。しかし、実際には相手への好感度は自身とどれだけ共通点があるかによっている。日本人が他者との違いを認めて楽しめる民族になってくれればと切に願う。
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帯タイトルは、
「私はたぶん、この世界の
誰とも付き合えない」
私はいつもブックカバーをつけて読んで、
読み終わったあとに装丁を改めて見るんですが、
夜景がぼけてキラキラしているのも、読み終わったあとに見ると、なんとも言えない気持ちに。
20代って、気持ちが不安で、毛羽立ってるときって、すごく多かったなあ、と思う。
30代の今もそうなんですが、でも、なにかちょっと違う。
その隔たりも感じた一冊。
たぶん20代前半で読んでた刺さってたのかなあ。
ただ、学校生活も会社も一定程度の協調や同調は必要で、そこから誰か一人と深く繋がって…って行為は私にとっても奇跡に近いかもしれない。
「違い」に敏感で、勝手に押し付けて、勝手に落ち込んで、自分の気持ちしか見えなくなっちゃう。
「違い」を喜べて、発見して、愛しさに変えられる力が自分にはあるのか。
そんな関係を築くことができるのか。
早季子は、このあと、どう切り開いていくのかな。
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自分の全部を、ありのままに理解してくれる人なんて、
きっと誰にもいない。
でも、
たとえ思うことや感じることは違っても、
自分を大切に思ってくれていれば、
理解しようとしてくれているならが、
その人が一番の理解者となってくれる日は近いのだ思う。
そして、人まかせじゃなく、自分から
理解してもらおうとする気持ちももちろん大切で。
主人公にあまり共感することはできなかったけど
幸せを予感させる終わり方で良かったと思う。
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子供の頃に世界の見方を教えてくれた人。その人に救われたこと。そして大人になっても忘れられないこと。同じように見てくれた人はその人だけ。なかなかうまく馴染めない世界で自分を守る方法。世界の見え方は人それぞれで、でもそれが相手に伝わらないもどかしさ。人と違うこと、感じ方の差。同じ場面で笑えなくても、泣けなくても、だからこそ楽しいってことがあるはず。全てが同じなら一人と同じなのかもしれない。同じじゃないから孤独も感じるけれど一人じゃないと感じることもできる。そして世界は広がる。
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装丁が可愛くて気になっていた1冊。読後感がとてもいい恋愛小説でした。忘れられないキラキラした思い出は誰しもどこかに抱いているものではないだろうか。それとどう向き合い、前に進んでいけばいいのだろう。また読みたいと思える作品でした。
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好きだった人がもういない
付き合えなかった好きな人って最強
それを更新できることってなかなかない
でも、また別の部分を別の人と通じ合って、新しいものを積み重ねて大人になっていきたいなと思った
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読み終えて、作者のプロフィールを見てみて、なるほど哲学科なのね納得と思った。
全体的に明るい話ではなくて、人と自分がみているものは同じじゃないと、過去の経験から刹那的な人間関係を通りすぎていく主人公の早季子に、だけれど希望を持たせるラストが秀逸。
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主人公の神田早季子は都内の文具メーカーで仕事をしている26歳。小学校の同級生で大好きだった吉住君のことが忘れられずに、その時の刷り込みで孤独を抱えて生きています。他人に恋愛感情が持てずに、合コンで出会った男とその時だけの関係を結ぶこともあります。ある合コンの時に、吉住君と同じ片目を瞑る癖をもつ人の話が出て、紹介してもらいます。その同じ癖をもつ宮内は、女性アイドルを追っかける、早季子とは全く違う人でした。宮内と話をするために、福岡でのライブに同行し、なぜか度々アイドルイベントに同行するようになります。その度に、宮内と自分との違いを感じます。
早季子と3年間付き合った元カレは嫌なやつなので触れませんが、特に後半、甘くて幸せな感じが、心を満たしてくれます。
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主人公の早季子(26歳)は、小学生の頃の「吉住くん」のことが忘れられず、現実の恋愛にのめり込めない。ただし、現在の吉住くんに会ってもその時の感情を持つことは出来ず、好きだった吉住くんはあくまで小学生の頃の吉住くん。早希子も、小学生の頃の吉住くんは、周りに気を使っていたために無理にふるまっていたと分かっているが、その幻想の吉住くんのことが忘れられない。
この小説を読んで谷崎潤一郎の『春琴抄』を連想した。
ところで、早希子がなぜ、オタクの宮内に惹かれたのかよく分からなかったのだが、どこか読み落としたのだろうか…。
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こじらせ女子の話って書いてあったけど、そこまでこじらせてなかったからその部分が残念。
恋愛において、共通言語の多い方が良いのか全く逆の方が良いのかというのは結構平凡な議題ではあるが、そうゆうお話。
現在全く正反対の旦那を持つ主婦としては、ふと無性に共通言語を持つ人と話がしたくなるけどね。
うーんなんちゅーかあくまでも私個人的な好みの問題になるけど、
もっともっと底意地の悪い小説が読みたかったです。
終盤で主人公が『孤独ぶってる』と元カレにやり込められるところは良かったけど、
宮内側からももっとやり込められて欲しかった。
私が主人公に感じる嫌悪は完全に同族嫌悪であり、人とは違うと思ってる自分、
傷ついている自分、人を信用できない自分、孤独な自分、
私を分かってくれるのはあの人だけ、他の人達とは違う感覚を私は持ってる、
アイドルに心酔する人達、合コンに来る人達の浅さ、その人たちを心の中で見くびって蔑んでる自分、
みたいなものをもっとぐちゃぐちゃにしてほしかった。
そこまでしてようやくこじらせ女子の話でしょう。笑
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孤独を抱える早季子は、かつて存在した『完璧な理解者』と同じ癖を持つ人の存在を知り…。奇妙で愛しい出会いの物語。第37回すばる文学賞受賞作。
現代社会を安寧な精神で生き抜くためには、自分のネガティブな部分を愛さなければならない。そして誰かの共感を得るか、または誰かに共感するか。それが人間関係の構築と愛の形成に繋がるのだろう。
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好き!「勝手にふるえてろ」然り、学生時代の恋愛って神格化してしまう。それが叶わないものだとしたらなおさら。虚像なんだけどね。宮内にも早季子にも苛立ったところはあるけど、それを上回る可愛さ。あ〜わかるわかる。宮内、可愛い〜!宮内〜!!!
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面倒くさい女のラブストーリー。早季子は「人は皆孤独。分かり合えない」と教えてもらった小学生の頃の初恋の相手を26歳になっても忘れられない。初恋相手と同じ特徴を持つ宮内に興味を持つが、宮内はアイドルオタクでオタ活に全てを注ぐ人であった。早季子は孤独と過去に浸っているイタイ女という印象で、あまり魅力は感じなかった。でも「目」がキーワードになっている物語は新鮮。そして学生時代ってちょっとしたことで好きになったり冷めたりってのはあるよね、と共感。そして終盤はときめく展開と名台詞でハッピー気分が伝染する。
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26歳の早季子は、小学生の頃に恋したマセガキ吉住君の「身体の中で、人はみんな一人なんだよ」という中二病セリフに感化されて以来、孤独ぶった投げやりな人生を送っている。どうせ理解しあえないからと、恋人も含めた人間関係をドライに消化している。
その上、久しぶりに再会した吉住君の内面も変わってしまっていたものだから、悲劇のヒロインぶりに一層の拍車がかかる。
「私はたぶん、この世界の誰とも付き合えない」なんて言っちゃう。
しかしこれは達観しているのではなくて、理解しあえないという現実を直視させられることが怖いだけなんだよな。
実際、宮内に異星人のような別の世界の人間として扱われることに嫌悪感を示しているわけだし。
吉住君の変化に関してもそう。
相手の虚像を実像だと思い込んで、勝手に期待して裏切られた気になっている。
その気持ちはよくわかる。
自分が信頼を寄せていた人が変わってしまった(ように見える)ことにショックを受けてしまう気持ちもわかる。
でも、相手のことを100%理解することはできないからといって、理解しようとすることをやめたら、1%も理解することはできない。
それどころか、人間関係においては、自分からとった距離以上に相手からも離れられてしまうものだ。
「私はたぶん、この世界の誰とも付き合えない」なんてセリフを聞かされた友人はきっと「何言ってんだこいつwww」て思ってる。
相手のことを理解していけば、裏切られたと思うことは減るんじゃないだろうか。
相手の変化は価値観の変化ではなくて、物事への向き合い方が変わっただけだったなんて言うことにも気づくかもしれない。
寂しがり屋なら、寂しさから離れようとか寂しさを受け入れようとかする前に、積極的に人間関係を構築していったほうがいい。
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他の誰かと関係を持つときは誰もがその人の虚像を創り上げてしまう
どれだけ親密にしていたり濃密に情報を共有しても、その人の本質的な部分に触れることは難しい
ましてや、その人が観て聴いて味わって感じたことなんてその人にしか分からない。
人は誰しもが孤独である。
そのジレンマの狭間で繋がり、踠き、苦しんで、生きていて、何も考えずに生きている人はそんなジレンマにも気付かないけど、早希子や吉住くんはそんな構図にいることを気付いてしまっているから、本当に辛い。
孤独ぶって自分のことしか考えてない、周りの人は傷ついていると言われても、たぶんきっと一番傷ついてるのはその本人で、お気楽で一人で過ごしているわけではないと思う。
孤独を越えて繋がるのもしんどいし、孤独でいるのもしんどい。