紙の本
周防の倭国起源神話の小説
2019/08/05 15:54
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
周防柳作の古代神話に関する話題である。周防の別の作品、『逢坂の六人』は古今和歌集の編纂を主上から命じられた歌人4名の話から始まっていた。したがって、平安時代の話なのだが、これはなかなか興味深く読めた。登場人物、中でも紀貫之が現代によみがえったかのように活躍する。
今回はタイトルにある通り、厩戸皇子、すなわち聖徳太子の神話とある。厩戸皇子の神話とは何かという点で興味があった。厩戸といえば、私にとっては黒岩重吾の作品が強く印象に残る。意地の悪い推古天皇に虐められながら、その性格のゆえに大王位には就けなかった。かなり小説風ではあるが、他にこの時代を描く作家はあまりいない。
周防のいうところの神話(かみばなし)とは何であろうか? 厩戸皇子は政にはあまり関心がない。したがって、日々の政務などはないに等しい。そこで厩戸皇子は国史の編纂を思い立つ。ところが、書き物になった史料などはほとんど存在しなかった。そうなれば、後は口伝しかない。見当をつけて古の大王の記憶を古老たちに訪ね歩く。ここでは船史龍という官僚が登場する。
この龍が厩戸に代って情報を収集してくる。古の大王はカタカナで表現されており、崇神大王はミマキイリヒコ、継体大王はオヘドなど、神代の時代と大王、天皇の時代における卑弥呼を含めた倭国を統一した統率者に関する伝説の神話を、龍が厩戸皇子への報告という形式で読者に伝えている。
厩戸皇子に関する神話というわけではなく、後年の古事記につながる古代情報を、官吏である船氏が記録していくというストーリーなのである。この古事記に相当する周防の作品が同じく周防の作品『蘇我氏の娘の古事記』であろう。是非とも両方を読んでみることをお勧めしたい。
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国史編纂
2019/05/02 19:55
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:咲耶子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
厩戸皇子が国史を編纂するために氏族に伝わる伝承を集め、伝承の影にかくれた真実を探ります。
『古事記』の本歌取り、新解釈が楽しかった。
日本神話や古事記、飛鳥時代の歴史知ってるの前提なので詳しくない人にはどうかなぁ・・・。
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初作家さん。
期待以上に面白かった。
古事記の話が実はという感じで良かった。
厩戸王子の人となりも良く、色々と興味深かった。
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厩戸皇子(聖徳太子)が日本初の国史編纂を蘇我馬子から依頼されるところから物語が始まる。病で亡くなるまでの数年間、様々な人にその土地に伝わる話を聞いたことが、後の古事記や日本書紀に繋がっていくという、壮大な話。病のためか、厩戸皇子のもって生まれた能力なのか、予知夢か、かつての記憶かわからない場面が交錯。私たちのわかり得ない太古が描かれている。
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初めて読む作家さんだったが、なかなか面白かった。
タイトルから厩戸皇子の物語なのかと思ったら、厩戸皇子が古事記を編むという(結局は頓挫するが)話だった。
古事記に出てくるいくつかのエピソードが実は…という設定は面白い。
厩戸皇子の系譜に繋がる蘇我家の祖先のエピソードもなかなか。
厩戸皇子の母である間人皇女と伯母である推古天皇との、複雑な関係も興味深い。
個人的には後の政変についても新解釈を書いて欲しかった。
実際のところ、古事記や日本書紀もこのような形で創作されたのだろう。
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聖徳太子の話というよりも,蘇我馬子に依頼されて国史の編纂の調査をするという形で,大王家の成り立ちを描いている.出来上がることはなかったがその内容は古事記とほぼ同じで,その内容の謂れを詳しく書いていて,とても面白い.
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初出 2017〜18年のweb文芸「レンザブロー」の2話、2018年の「青春と読書」の2話
外つ国に負けぬ国史を創ろうと編纂に取り組む厩戸皇子(聖徳太子)とその手足となる朝廷の記録担当官人船の史(ふひと)が、記紀神話を創りあげていく物語。
船の史は前作の『蘇我の娘の古事記』にも登場していた。
第1話、伝承が残る最古の大王ミマキイリヒコ(第10代崇神天皇)の大叔母で、巫女として統治を助けたオオヒルメを、厩戸は魏志にある卑弥呼に当たると考え、さらにこれをモデルに皇祖神アマテラスを構想する。
第2話では、何も伝承のない国の始まりについて、淡路島に残るイザナギ、イザナミの国産み譚を取り込む。
第3話、神々と大王家をつなぐものとして天孫降臨を構想するとともに、ナカツヒコ(第14代仲哀天皇)の妃オキナガタラシヒメ(神功皇后)が、遠征先の九州で夫が死ぬが子(応神天皇)を産んで、大和へ入って王位争いを制したのをモデルに、日の御子(第1代神武天皇)の東征を構想する。
第4話、厩戸の伯母で当代の女帝カシキヤヒメ(第33代推古)と、オオハツセ(第21代雄略)、シラカ(第22代清寧)の暴政に抗し、二人の弟を育てて大王にした女性イヒトヨヒメから、女性神アマテラスを性格付けする。
「附記」が末尾にあって、幻の史書「天皇記、国記」は、聖徳太子と蘇我氏によって編纂されたが、蘇我氏の滅亡とともに失われたが、船の史によって伝えられた、ともっともらしく書かれていて、『蘇我の娘の古事記』につながっていく。
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国史編纂という大事業に、創造力を駆使して取り組む厩戸皇子を主人公にした作品。日本書紀や古事記などの逸話を散りばめ小説として仕上げているが、作品としてはイマイチの感を拭えない。
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日本書紀や古事記の原型を厩戸皇子さまが作ったというお話
偶然この前に日本の神様の本を読んでいたので楽しく読めました
ただ、この文体は軽すぎでは…厩戸皇子さまはこんな話し方をするのか?
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国史というものが、時の権力者の都合の良いように編まれるのは常識ではあるけれど、そこに厩戸皇子の創造力も絡んでいたのでは…という設定が非常に面白い。各地の豪族の伝承をヤマト王権の物語として取り込んでいく、皇子の発想力が素晴らしいし、歴史上・神話上の人物が生き生きと描かれているさまも素晴らしいと思う。この時代のお話はあまり読んだことがなかったのでとても楽しかった。
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聖徳太子も天皇の系図に携わっていたとは驚きだった。まだまだ聖徳太子が生きていた時代について知識がないので聖徳太子を追いかけていけたらいい。