紙の本
ブルガリアについてほとんど知識がない私でも楽しく読めた
2021/03/27 22:05
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者はブルガリア出身で、現在は米国在住だ。ブルガリアと聞いて、なかなかどんな国なのかイメージできる人は少ないのではないか。「ああ、あのカリスマ大統領がいたところか」(それは、旧ユーゴスラヴィアだ)、「ああ、体操のコマネチの国だろ」(それはルーマニアだ)、「ああ、ドラキュラの国だろ」(それもルーマニアだ)、私にしたところで、ヨーグルトとミュンヘン五輪のバレーで日本が負けかかった国という知識ぐらいしかない。この短編集にはいろいろなブルガリア人が登場する、開放政策が進んでいた旧ユーゴと隣接する村に住む男、留学先の米国に全く馴染めない男、共産党政権下で苦悩するトルコ系の人たち、さらにロマ(ジプシー)とブルガリア国民との関係、知らないことが多すぎるが、読んでいくうちにこの国の複雑さが面白味をましてくる
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久しぶりに海外の小説を読みました。ブルガリアが題材の作品ということで前から少し気になっていたものです。
いずれの作品も少しもの悲しさや諦めの雰囲気が感じられます。時代としては現代より少し前、共産主義体制崩壊前後のものが多いですが、その頃のブルガリアの空気感はこのようなものだったのかもしれません。
モデルがいるかのようなリアルな登場人物たちと、何よりこのブルガリアの空気感を感じられるのが面白かったです。
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著者のデビュー短編集。
収録作はどれも上質な短編。表題作にもなっている『西欧の東』がしみじみと好きだ。
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こうしてみると、ブルガリアのことをあんまりというかほとんど知らなかったんだなあ。
侵略されてきた歴史。二度のバルカン戦争と二度の世界大戦。
表題作が面白かった。
1つの集落が、流れている川を国境として分けられてしまう。一方はブルガリア、もう一方はセルビア。一方にはブルガリア人の魂はあるがジーンズはない、もう一方にはジーンズがある。川を挟んで怒鳴り合って会話する親戚、友人、恋人たち。
悲しいことも多いけれど、時々ちょっとユーモラスで、ふとエドガル・ケレットの語り口を思い出す。
国に翻弄される人々の暮らし、恋愛、人生。
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ブルガリア出身の英語作家によるデビュー短篇集。ブルガリアを主な舞台に、さまざまな時代・境遇にある普通の人々の人生の一場面が力強い文体で描かれる。表題作のほか、「レーニン買います」「ユキとの写真」がお気にいり。
#2019年1月のお気に入り
#西欧の東
#ミロスラフペンコフ
#藤井光
#eastofthewest
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ブルガリアの歴史、生活が感じられる作品で新鮮だった。
ストーリーは共感できるものが多かった。
『レーニン買います』で、アメリカ人が、一冊の本(聖書)を出し「救世主の言語録です」と言い、ブルガリアの青年が「レーニン全集のことだね」と返すシーンが好き
謝辞もよかった。著者の人柄と感情がとてもよくわかった
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東欧というのは不思議な場所で、西洋からは東洋を、そして東洋からは西洋を感じさせる場所だろう。異なる文化の狭間で、人々は時に争いに蹂躙され、支配層の交代に翻弄された。受け継いできた伝統にしがみつく者もいれば、新しい時代の風に焦がれる者もいる。急激な変化に適応できずに沈んでゆく者もいれば、身体の内奥に故国を抱えながら新天地でどうにかやっていく者もいる。
著者はブルガリア出身の英語作家である。
訳者あとがきによれば、ブルガリア人の実に8人に1人が国外で生活しているというが、そうした人々の1人として、若くして渡米し、現在も作家としてまた大学教員としてテキサス州に住む。
けれどもそのルーツは彼の中から消え去ってはいない。心の一部は故郷に残し、身体のどこかに古巣を宿している。そんなことを思わせる短編集である。
舞台は時にブルガリア、時にアメリカだが、いずれも異なる世界の間で翻弄される人々の悲喜劇を描く。
収録作は8編。
冒頭の「マケドニア」は、脳梗塞で倒れた妻を介護するブルガリアの老人の話。ある時、彼は妻が結婚前に受け取った恋文を見つけてしまう。元恋人は20世紀初頭、マケドニアを巡るトルコとブルガリアの争いに身を投じていた。手紙を読み進めるにつれ、ブルガリアの歴史と家族の歴史が交錯する。
表題作の「西欧の東」は収録作中で最も鮮烈に悲劇的な物語ではなかろうか。物語は1970年、セルビアとの国境近くの村で幕を開ける。元は1つの村だったが、敗戦後、川を挟んでこちら側はブルガリア側、向こう側はセルビア側に引き裂かれてしまった。村人たちは両国から5年ごとに再会の集いを開く許可を得る。向こう側には西の文物が入ってくる。こちら側の若者にはそれが魅力だった。旧交を温める楽しい集いだった集会は、やがて、思わぬ悲劇を巻き起こす。
3編目の「レーニン買います」は、渡米して大学で学ぶ(著者を思わせる)若者と、ガチガチの共産主義者である郷里の祖父とのするどくもおかしいやり取りを描く。差し挟まれる幼少時の想い出が美しく少し切ない。
「手紙」は、祖母とともに住む女の子マリアの話。袋小路のような貧しさがやるせない。
「ユキとの写真」では、シカゴで日本人女性ユキと結婚した若者が、不妊治療のためブルガリアを訪れる。写真好きのユキは、村にジプシーがいることを知り、一緒に写真を撮りたいと言い出すが、ことは思わぬ展開に。
「十字架泥棒」の主人公は、驚異的な記憶力を持つ少年ラド。父親は少年をよい学校に入れ、安穏な暮らしを手に入れようと目論むが、よい学校に入るには実はコネが必要で・・・。これも貧富の差がやるせない話。
最後の2編はどこか神話的な香りが漂う。
「夜の地平線」は、バグパイプ作りの家に生まれ、父親から男の子の名を与えられた女の子の話。バグパイプを作るのは男でなければならないためである。1980年代、トルコ系ムスリム住民には、ブルガリアの名前に改名するよう強制された時代があり、これを背景に織り込んでいる。両親を失った末、父から聞かされた物語に救いを(あるいは破滅を)求める女の子の姿が哀しい。
最後の1編「デ���シルメ」が私は最も好きだった。「デヴシルメ」とは、14世紀、オスマン帝国の徴兵制である。主人公ミハイルは、妻子と共にアメリカに渡ってきたが、妻は金持ちの医者に心を移し、家族はばらばらになってしまっていた。娘と過ごせる週末の夜、ミハイルは彼の曾祖母の話を聞かせてやる。世界一の美女であった曾祖母はスルタンの元に連行される途中、その役割を負ったアリー・イブラヒムと恋に落ちる。アメリカの現在とブルガリアの神話的物語が絡み合い、怒涛のラストになだれ込む。
本作は著者自身によるブルガリ語訳も本国で出版されているとのこと。英語版は比較的平易な英文で綴られているというが、ブルガリア語だとまた別の味わいも加わるのだろうか。ブルガリア語はまったく不案内なので、確かめる術はないのだが。
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ブルガリア人作家の短編集。
ブルガリアという国の歴史を知らずに
読んでしまったのがとても勿体なかったです。
歴史を語りつつ著者の圧倒的な文章力で
人間模様を描き出しています。
「綺麗な文章だなぁ。」というのが
第一印象でした。
「マケドニア」「西欧の東」「夜の地平線」が
個人的に良かったです。
「西欧の東」の西側諸国にあこがれる青年は
外国と言えばアメリカ、だった数十年前の
日本を思い出しました。
「ユキとの写真」は日本とブルガリアで
映画化だそうですが、ネットで探しても
情報が出てこないですねぇ。。
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八つの短篇。ブルガリア文学は初めて。ブルガリアの歴史や文化など背景を知っていれば、もっと楽しめたはず。
それでも、幻想的なものや、切ない物語など、多種多様で面白かった。
「西欧の東」、「ユキとの写真」がお気に入り。
「レーニン買います」「手紙」などは、少し時間をかけて、もっと味わいたいところ。