紙の本
パワー、それは女性が持つ物理的な力。
2019/04/30 04:30
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある日、14歳のロクシーは目の前で母親を殺され、その怒りが引き金になってパワーが目覚める。手から強力な電流を発することができるようになったのだ。が、それはロクシーの身にだけでなく、世界各地の女性たちの身に起こっていた。力を得た女性たちはこれまでの社会構造に反発し、革命が各地で起こる。男たちへの女たちの逆襲が始まる、<男女逆転のディストピア・エンタテインメント>。
著者は『侍女の物語』の作者マーガレット・アトウッドの弟子(?)らしい。
SF設定を借りた“女が男を支配する世界”についての物語は、『侍女の物語』と表裏一体というか、実はテーマはほぼ同じといえる。
原著は2017年に大評判になっているのでここ最近に書かれたものという意味でもとても新しい。完全にトランプ的なものへの挑戦状。
いわば現行の、<男が支配する世界>から女性のパワーの目覚めによる<女が支配する世界への移行>が描かれているので、結構残酷な描写があっても「まぁ、それはこれまで女性がやられてきたことだからな」と思えてしまう恐ろしさ。個人にはそんなこと関係ない悲劇なのに。
だからといって、「女性が権力を握ればこの世界はもっと平和になる」という話ではなく・・・力・権力を持つ者は当然のようにそのパワーを使ってしまうという、そこ、結局男女は関係ないよねという話でもあり・・・自覚なく力を持っていることが悪いのか?
どちらにせよ、片方の性別が力(権力の意味でも暴力の意味でも)を占有するとはどういう意味をもたらすのか、が、これ以上なくわかりやすく提示され、特に女性の自由が制限されている国・地域のひどさがより先鋭的に伝わるという。
逆に、ここまでやらないと伝わらないのだという悲しみもありで・・・男性が読んだらどう思うのかは非常に興味深いところ。しかしこれを読んで考えを変えてほしいような人はきっと読まないんだろうな・・・。
ただ『パワー』はメタ構造になっており、それがさらに皮肉を増大させているのだが、ストレートな衝撃もやわらげているような気もして・・・なんとなく、そこに<女性的な気遣い(攻撃を受けないためのさりげない防御)>めいたものを感じてしまうのは考えすぎかしら。
とはいえ、自分の中に刷り込まれている社会的固定観念について知るには、格好の題材である。
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今現在女性に起こっていることが、男性に起こっている世界。
アトウッド『侍女の物語』も連想しながら読んだが、著者はアトウッドの弟子(妹子?)とも言えるんだね。
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女性が生体に強力な発電機能を有するようになり、男性が女性からの暴力に日々怯えるようになった世界。
しかし私的には、やはり翻訳物は苦手。文章のリズムが合わなくて、読み進めるのが上手くいかず、もどかしい。
こうしてたまに翻訳物を読むと、日本の作家さん達が、文章を如何に読みやすく工夫しているかが判る。
もっと、女性に対する恐怖感が出てくるかと思ったが、そこまで男性の登場人物に感情移入できず。
海外現代小説は、登場人物の名前が、女性なのか男性なのか判り辛いのも悩みの種である。
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男性読者には辛い読後感となるだろう。男と女の力関係が入れ替わったときに、どのようなディストピアが生まれるのか、知らしめられる。ただし、考えなければならないのは、本書で描かれる世界が本当にディストピアなのかだ。本書は現代も描かれている世界と同様なディストピアではないかと語っているようだ。特に現実に女性は弱い立場であり、それを当然のように考える世間は、狂っているのかもしれない。
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オバマ大統領が推薦図書とした話題の一冊。ある日世界中で女性に突然変異が起こり、細胞を流れる静電気から、強い電撃を発生できる力が備わる。これで男女の力関係は逆転する。政治や教育、ビジネスなどの表舞台だけでなく、ドラッグ取引や人身売買などで「女性」を食い物にしていた立場が完全に逆転する。男性は夜中に一人で歩いているとレイプされ、そのまま殺され捨て置かれたとしても、警察はまともに動かない。男性は暴力的で欲深で生物的に劣るとされ、生殖に必要な男性だけを残しあとは間引いても良いという法律さえ検討される。小説の中の過激な女性の残虐な行為の描写シーンにはかなりの衝撃を感じるが、これは現実世界で男性が女性に行っていることであり、逆転して初めてその悲惨さを身を以て感じる気がする。ジェンダー論に一石を投じる一冊だと思う。
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===qte===
パワー ナオミ・オルダーマン著
男女の力の逆転を生々しく
2018/12/1付日本経済新聞 朝刊
男女の力関係が逆転した社会を描く小説は珍しくないが、逆転してゆく過程をこんなふうにリアルかつ生々しく描いた小説は本書が初めてだろう。英国で40万部突破の大ベストセラーとなり、2017年のベイリーズ賞を受賞、オバマ前大統領の推薦図書に選ばれたことでも脚光を浴びた。
作品は、今から5000年後、男女逆転社会が確立した時代に、ある作家が考古学資料をもとに書き上げた歴史小説の原稿││という体裁をとるが、そんな枠におとなしく収まる話ではない。
本編が始まったとたん、14歳の少女ロクシーの眼前で母親が惨殺される衝撃的なシーンで読者を鷲掴(わしづか)みにすると、物語はアクセル全開で走りはじめる。
題名の“パワー”とは、思春期の女性がとつぜん使えるようになった電気的な力のこと。少女たちの鎖骨部分に“スケイン”と呼ばれる発電器官が生まれ、電撃による傷害や殺人が多発。この“恐るべき少女たち”騒動は世界各地に広がり、やがて上の年代の女性も同じ力を持ちはじめる。
軸になる登場人物は4人。最初に登場したロクシーはギャングのボスの娘で、母親を殺した相手に復讐(ふくしゅう)を誓い、パワーを鍛えてゆく。16歳のアリーは自分に性的虐待を加える養父をパワーで殺して出奔、保護してくれた修道院で信徒の崇拝を集め、イヴという名の宗教的指導者となる。女性市長だったマーゴットは社会の変化に敏速に対応し、政界でのし上がってゆく。
ナイジェリア人男性のトゥンデ(21歳)は最初期のパワー発動をたまたま撮影しネットにアップしたことから、にわかジャーナリストとなり、各地に飛んで世界の変革を目のあたりにすることとなる。物理的に男を倒す力を得た女たちが最初に立ち上がったのはサウジアラビアだった……。
著者がマーガレット・アトウッドの教えを受けたこともあって、“現代の『侍女の物語』”と言われているそうだが、小説のタイプはそれと正反対。ジェンダーをテーマにしたフェミニズム文学でありながら、強烈な牽引(けんいん)力を持つローラーコースター型エンターテインメントでもあるという離れ業。タイトルどおり、パワーみなぎる“動”の傑作だ。
《評》翻訳家 大森 望
原題=THE POWER
(安原和見訳、河出書房新社・1850円)
▼著者は74年ロンドン生まれの作家。大学で文芸創作を教えている。
===unqte===
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人間の男女の社会的な力関係が入れ替わったら?という小説。入れ替わった後の世界を描いてるのかと思いきや、男女の力関係が入れ替わる過程がどちらかというとメインになってる。
本の序文からして最高。「それでも男がこういった学術的な内容、しかも新しい挑戦的な説を書くとなると受け入れられないんじゃないかと思う。女性の名前を使って出版するのはどうだろう?君のためを思ってのアドバイスだよ」ってくだりがアイロニカルですごく好き。
ところどころ挿入される、女性優位な古代文明の遺物も、最後まで読み終わってから見返すと味わい深い。
ニュースキャスターの男女の掛け合いが、男女の力関係が変わるにつれて変化するところも秀逸。
女性が質問・感想を述べる担当、男性が教える・説明する担当、という関係が入れ替わる。教える→教わるの中にある力関係の不均衡と、教わる側に女性が押しやられがちな社会構造を皮肉ってるようで良い。
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男女の力関係が逆転した世界を皮肉たっぷりに描く小説。
暴力の被害者なのに責められたり、一人で夜道を歩くのが怖かったり、手柄を横取りされたり、性別を偽らないと社会的に成功できなかったり、
ここに描かれる男性たちが経験する理不尽な仕打ちは、すべて女性たちが現実世界で経験していることだというメッセージが全て。
「歴史小説」という体裁でユーモアたっぷりではあるが、
難点をあげれば最初の方はラノベのファンタジーみたいなノリになってしまっていて、どうしても面白いと思えなかったのが残念だけども、インパクトのある小説であることには間違いない。
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一気に読んだ。
本書は歴史小説「パワー」を書き上げた男流(!)作家ニールと著名な女性作家ナオミとのやり取りから始まる。本編は、その作中小説の話である。
鎖骨にある「スケイン」という特殊な器官が女性に突然生まれ、電撃を操れるようになり、次第に女性が男性を圧倒していく物語。
純粋にSF小説としてもよくできている。ジャーナリストの男性「トゥンデ」、不遇な幼少期を経て教祖に上り詰める少女「アリー」、スラム街で暴力の世界にさらされながら、武闘派として生き抜く少女「ロクシー」、娘を守ると言う大義をもとに政治的に力をつけて上り詰めていく女性「マーゴット」。それぞれの群像劇の展開と、スケインを発達させいく女性がどのように社会を形成し逆転していくか、構成が良い。最強のスケインを持つロクシーからスケインを奪い移植した男性「ダレル」が力を誇示した結果、女性の仲間に入れてもらえると思いきや総スカンを食い殺害されてしまうシーンは、ぞっとしつつもリアルさを感じてしまう。
本書はフェミニストに関する文脈として語られることがある。普段このような恐怖を女性が味わっており、それが逆転した世界と解説されると、男性の1人として憂鬱になってしまう。結局の所、「パワー」を手に入れた人間は、「パワー」を持たない人間を虐げることから逃れられないのだろうか。
なお、ニールとナオミのやり取りしている世界は、すでに女性が男性を圧倒している世界である。ナオミの
「男性の支配する世界の物語は、きっと面白いだろうと期待しています。きっといまの世界よりずっと穏やかで、思いやりがあって、-こんなことを書くのはどうかと思いますが-ずっとセクシーな世界だろうな。」(P.8)
という記述は、皮肉が効いている。ただ力を手に入れるだけでは、社会構造に起因する問題は何も解決しない。
ところでこの本の作者は「ナオミ・オルダーマン」という女性である。
ラストでナオミがニールに「女性名で出してはいかがですかと」勧めるが、もしかしたら本書もナオミ・オルダーマンではなく実は別の男性が書いたというオチなのではないか、とちょっと想像してしまった。
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いろんなところで絶賛されている『THE POWER』、女として読まなければとようやく読了。めっちゃおもしろかった。
ある日突然世界中の女に電撃を操る力が与えられ、女が男を支配する世界になり、どうなったかって、そりゃ今まで男が女にやってきたことと同じことやるんだけど、とてもラムちゃんってわけにいかなくて、ひどいね!どっちも!!しかし、読むとスカッとしたのも本当です。途中までは…。
優位に立った人間の気持ちってこういうものなんだというのが分かるのは小説ならではです。「ジェンダーなんて架空のもの」という著者のテーマがすごい。
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力では勝てない女性が、男性に負けるとも劣らない、いや男性よりも強い力を入れたら社会はどうなるのか。
様々な背景を持つ女性について、力を持った後の生活、力の使い方が、それぞれストーリーになっている。
こんなにひどい?と思うくらい強烈な描写もあるが、それは私が日本人だからなのかな。または、これまでの経験がそこまでひどいものではない、それか、無知なのかもしれない。
これまで女性が男性から受けてきた差別的な扱いを強烈に風刺しているが、きっと現実なのだろう。
2019年の読了本かなり鮮烈な印象のスタートとなった。
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予想よりずっとパワフルで、エンターテインメント性が高く、一気に読んだ。今年の「SFが読みたい!」でディストピアものとされていたけど、あまりそうは思わなかった。男女逆転ものと聞いて思い浮かべるタイプの物語とも違う、まったくユニークな一冊。
随所で皮肉が効いていて、実にイギリスらしい感じ。と同時に、それ以上にふつふつと沸き立っているのが怒りだ。若い女性が(そのうちすべての女性が)突然不思議な力を身につけたことで、たくさんの男性が理不尽な境遇に置かれることになり、なかには酷くむごい目に遭う人も出てくる。かなり残酷な描写もあるのだが、これって今現実に世界のどこかで女性の身に起こっていることだ。そのことがずっと頭から離れず、胸に大きな固まりを飲んでいるような気持ちになる。
女子どもに暴力をふるい威張り散らしてたヤツが手もなくやられる場面には、正直スカッとするが、いやいやそれだけの単純な話じゃないのだった。「女性が力を持ったら平和な世の中になりました」などという安直な展開には全然ならない。政治や金に野心を抱く者や、ただ弱い者に力を行使することを楽しむ者の有様が容赦なく描かれる。これはもちろん、現実の男社会への痛烈な批判なのだけど、その刃は男性だけでなく人間という存在そのものに突きつけられていると感じた。わたしたちは、こういう暴力への指向から逃れられないのだろうか。そういう思いを抱かせるという点では、確かにディストピア小説と言えるのかもしれない。
それにしても、「SFが読みたい!」で、本書はSFの出版一覧にはあったものの、ベスト30はおろか、それ以下の話題作としてもまったく言及されていなかった(「本の雑誌」で大森望氏は星四つつけていて高評価だったが)。これはコアなSFファンには男性が多いからではないかと思ってしまう。まあ男性にとっては読んでて楽しくなかろう。それでもやっぱり読んでみてほしいなあと思う。あまり期待はしてないけど。
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女性に”スケイン”という電撃を発する器官が発生した結果、他人(ここでは主に男性)を圧倒できるようになり、という仮定からはじまり、キレイに現実のミラーリングが決まった物語。
男女の権力勾配が反転するまでは、女性が「分をわきまえて」男性を立てていたのに、物語の後半は男性が「分をわきまえて」女性のComfort manになっているという構造が見事。
また物語の最後で、過去に家父長制や男性が権力を握っていたことなんてありえないでしょ、と歴史の改変が起きていると示唆されているところも何ともリアルです。
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オバマ前大統領推薦の、強烈なインパクトのある小説。アクション、バイオレンス、スペキュレーション等てんこ盛りで読みだしたら途中でやめられませんでした。映画、ドラマ、アニメ化など映像がみてみたい作品です。
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男女の力関係が反転し、女性が男性を力で圧倒的に支配する社会を描いたディストピア小説であり、女性作家に与えられる由緒ある「ベイリーズ賞」を2017年に受賞し、ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ多くのメディアから「2017年の最優良小説10作」のひとつに選ばれた作品。 『パワー』は、何千年にもわたって女性がため込んできた男性社会の残酷さや男性の女性嫌悪に対する怒りを直接伝える小説ともいえる。
パワーのおかげで女性が男性を圧倒できるようになる。
社会の権限も変化する。政情が不安定な国で残虐な女性が政権を握り、独裁者として男性の虐待を行うようになる。
電気刺激を与えるパワーにより、女性は男性を虐待することもできるし、殺すこともできる。性交を拒否する男性に電気刺激を与えて勃起させることでレイプできるし、性奴隷にすることもできる。
単独での行動や仕事、車の運転も制限され「間引き」も検討される。
残酷に感じたとしてもこれらのことは、女性に対して実際に起こってきたことであり、現在でも起こっていることなのだ。
男女を変えただけで残酷に感じる場合は、そこを読者は考えるべきだろう。
(解説からの抜粋)
これは面白いですわ。
いや、意義深いですね。