紙の本
文章はライトでもパンチが利いた純文学
2020/01/29 23:08
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
倦んだモチベーションを抱える若いプロボクサーの感情の変化を描いた作品。冒頭からすでに負けていて、描かれるシーンの大半は調整中の鬱屈した感情と、トレーナーや唯一の友達との不器用なやりとり。だからこそ時折挟まるトレーニングシーンは際立ち、物語にテンポを生む。
芥川賞作品特有のとっつきにくい作品かと思いきや、このテンポが少し珍しいくらいライトな作風に仕上げているところが面白い。次の試合が近付くにつれて獰猛な雰囲気を帯びていく主人公のテンションの上がり方にシンクロして読むペースもダレない。良い意味で「らしくない」純文学といった印象だった。
一見、ボクサーが本気を出すことを覚えてメキメキ強くなった、みたいな話に見えるけれど、実際は「本気を出すことに対して本気になった」くらいのレベルで、ボクシングは真剣に生きるための結果じゃなくて過程なのかなとか思ったり。久々に読みながら色々思考が脱線するタイプの良い純文学作品。
紙の本
ボクシング小説の最高峰
2019/08/03 01:15
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投稿者:nabi3号 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ボクシング関係の創作物では、松本大洋のゼロ(0)と並ぶような傑作です。共に切り口が唯一無比で、新鮮です。ボクシングはバカの殴り合いではないってことが認識できて幸せでした。
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ボクシングは
2019/03/04 07:24
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投稿者:おどおどさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
熱中して見たことはないが、すごく物語がある感じがする。
そのドラマチックな味わいを感じたい小説だ。
これを機にボクシングをら見てみたい。
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新しい作家の覚悟
2019/02/21 15:49
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第160回芥川賞受賞作。
いい作品に出合ったという満足感、それは選考委員の高樹のぶ子氏が言うように「古典的な青春小説」だからかもしれない。
文学がいつもどこかしらに「青春」という言葉が孕んでいる満ち足りない感情、どこにもぶつけようのない不満や飢餓感を代弁しているとすれば、まさしくこの作品はそうだろう。
いつの時代であっても、この作品は一定の評価をされ、一定の愛読者を獲得するにちがいない。
どんな物語かといえば「プロボクサーとしてはたぶん今後多くは望めないであろう青年の、ひたすらトレーニングに打ち込む日々を描いている」という宮本輝選考委員の言葉が端的だろうが、その青年にトレーナーとしてかかわる先輩ボクサーが造形もまたいい。
選考委員の山田詠美氏は主人公とこのトレーナーの二人について「読み進めれば進めるほど登場人物二人の味方になれる」と書いているが、この「選評」はまさに本を読むことの魅力を語っている。
登場人物たちに自身を添わせる、これほどこの作品が読み手を夢中にさせていることの証であろう。
この作品ではプロデビューしてその初戦に勝ったもののその後負けが続き、苦悩する若者が描かれているのだが、試合での打ち合う拳の痛みやお腹への攻撃とそれがもたらす苦痛、次の試合に向けての減量や精神的な高揚、それが実に多弁に語られている。
しかし、おそらく彼の饒舌はたった一発の拳で消し飛んでしまうにちがいない。
それでも、文学者である限り、それを語っていくしかない。
新しい作家町屋良平氏の、覚悟をみた気分である。
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第160回芥川賞受賞作。
プロボクサーの中に宿る肉体・思考・情緒という3つの領域からその内面を描いた作品。
対戦相手の情報を集めるうちに一方的な友情が芽生えていく様は斬新で個性的。
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第160回芥川賞受賞作
ニムロッドに比べたらすごくわかりやすい。普通に読みやすいし、感情移入もしやすい。
ともだちが映画で賞をとったっていったときに嫉妬が勝ったっていうシーンがすごくすき。そのあとともだちが嘘だよっていうのも、どっちが本当かわからないけど、きっととったのかもしれないっていう嘘だよって切なくて、すごく好き。
ガールフレンドの描写もいい。
自分の弱さに、人生という儚さに、日々にげんなりしている方へ。
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芥川賞受賞作品ということで手に取りました。
若きプロボクサーがボクサーとしてのサクセスストーリーかと思ったら、
それとはまったく違いボクシングを真正面から取り組み、
淡々と試合に勝てる日を夢見ている姿が描かれていました。
特に派手なパフォーマンスがあるわけでもなく、
ボクシングというものがいかに孤独でストイックなスポーツ
かということがこの作品でよく分かります。
生きるということを考えるのは一旦止めて、
どうやって生きずして勝つか。
という思いになるまでとことん自分を追い込む
身体作りと精神力には想像以上な過酷さを感じました。
今まで何気なく観ていたボクシングを
これからは違う見方でみてしまいそうです。
芥川賞受賞作品というのはストーリー性というよりも
文学的な表現などが主となると思うので、
この作品ではかなり表現が細かく描かれていて
特に心情を深く描かれていたかと思います。
欲を言えば試合中や試合後のことも描かれていたら
もう少し面白味があったかなと思いました。
町屋さんの作品はこれが初めてなので、
他の作品もこれをきっかけに読んでみたいと思います。
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勝手に疾走感溢れる青春系かと思ってたけど全然その系譜じゃなかった。
丁寧な心情描写は秀逸。
言語化できる地獄は地獄じゃない。
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よくあるボクシング物語といえばその通り。
ボクシングをやる人の気持ちというのは共感ができない部分が多い。なぜそこまでして戦うのかわからない。
それでもかっこいい。トレーナーと2人で孤独な世界を生き抜く姿は憧れる。
読み終えた時、自分は間違ってないと思えたし、活力を引き出してくれた。
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一気に読む。というか、この本は薄い。
ふとしたきっかけで手にした一冊。
芥川賞の作品読んだのは10年ぶりくらいかも。
不思議な読後感。ボクシングの知識はロッキーとあしたのジョーくらいしかないけど、どちらとも違う世界。主人公の葛藤、心の動き。閉ざされた日常。
あんまり共感できなかったけど、悪い感じはしなかった。
うーむ。やっぱ、不思議な一冊。
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デビュー戦を初回KOで華々しく飾ってから、三敗一分け。試合前に対戦相手を調べあげ、分析し、親友になってしまう。敗けた後は親友に裏切られた気持ちになる。倒せたポイントを、たらればを考えてしまう。日本チャンピオンが夢だったのに、もう勝ちたいか勝ちたくないかもわからない。
そんな主人公が、トレーナーに見捨てられ、奇人の噂もあるウメキチについてもらうことになります。主人公は、ウメキチを手放しで信頼するようになり、練習に励みます。
主人公は日々を記憶していこうとおもわなくなっていましたが、もう記憶を、自分を失いたくない。だから勝つ。
ボクサーの日々の心情が、細やかに描かれていました。
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プロテストに合格し、デビュー戦はKO勝ちしたもののその後は3敗1分の主人公。
新しいトレーナーに違和感を抱きながらも徐々にそのやり方にはまって行く。
1R1分34秒
は次の試合の妄想。
今回の芥川賞2作
「1R1分34秒」
「ニムロッド」
は何だか似たテイスト。
セフレ的な女性が出てくる所なんかもね。
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試合のたびに人生を凝縮して生きているかのようなボクサーのルーティーンが、外側の事情と内側の情緒が、日程に沿って描かれる。
ドキュメンタリーからはどこまでも遠く、主人公の気質を表した夢、変わった友人、主人公の心の繊細な情景が文学たらしめてる。この本、好きだ。
ボクサーという人種のことを好きになる。
心が温度を持つ。
試合前に夢の中で対戦相手とパートナーになってしまう四回戦ボーイ。
熱狂なんてどこにもない粛々とこなすボクシング。
はっきりとした切れ間もなく淡々と流れる日々/思考。
そんな彼に徐々に光が射していった。
ジメジメとした内省が晴れてゆくその様は確かに青春だった。
数々のたらればを振り切って、数々の可能性を束ねて繋げてその先を歩くために、勝利が必要で
そんな勝利を欲しがる動機がとてもまっすぐでよかった。
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第160回芥川賞受賞作。
芥川賞はやっぱり読まなきゃねということで、出張の飛行機の中で読了。
又吉の「火花」のボクシング版だなっていうのが、受けた印象。勝てないプロボクサーの心の葛藤を、トレーナー、友だちそしてガールフレンドのやり取りを通して描く。
芥川賞っぽいですね。
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ボクサーの生理が事細かに綴られていてとても面白かった。また練習のメニューや内容が細かく、ロジカルに描写されていて先日見た『クリード』に物足りなかったのが全部描いてあった気がした。トレーナーとのドライでありながら、それが配慮である感じの関わり方がよかった。
読み進めながら、これはもしかしたら試合に至らずに終わるパターンかと思ってハラハラしたが、短い表現であるにも関わらず納得の行く結末で安心した。