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20世紀に生まれた様々な音楽の中でも、最も世間に対する影響力を持ったRock Musicの壮大なる全史。何をもってロックとみなすのでさえ一定の困難さを伴う中、本書ではブルースやカントリーミュージックといった”ロック前夜”から生まれたロックンロールを端緒として、エレクトロニカまでを巡る膨大なロックの歴史と具体的なミュージシャンの姿が語られる。
僕自身、最も愛好する音楽ジャンルはやはりロックとなるわけで、本書で挙げられたジャンルの大半を同定できるだけの聴覚は鍛えてきたつもりである。それでも、個人的にあまり好きではないヘビーメタルやハードコア・パンクについてはそのサブ・ジャンルが全く知らないものも多数あり、単純に知らない世界があるというのを知れるのは面白い。例えば、80年代後半以降に多様化したヘビーメタルは以下のようなサブ・ジャンルが紹介される。
・死と恐怖と希望をテーマとしたサブ・ジャンル:デスメタル、ゴシックメタル、ブラックメタル、パワーメタル
・速度とリズムを追及したサブ・ジャンル:グルーヴメタル、ドゥームメタル、ストーナー、スラッジ、ドローン、アンビエント
・他ジャンルと融合したサブ・ジャンル:クロスオーヴァースラッシュ、オルタナメタル
・自己言及的な呼称を持つサブ・ジャンル:ニューメタル、レトロメタル、ポストメタル
正直、興味はほとんどないので”勝手にしやがれ”という感じではあるのだが、これだけ一つのジャンルが差異と反復を孕みつつ多様化していく姿は、さながらポストモダンの病理を示しているように見える。
ブリット・ポップで洋楽に目覚め、ポストロックやエレクトロニカの洗礼を浴び、シューゲイザーやマッドチェスタームーブメントの影響を受けながら、オルタナティブロック、ニューウェーブやポストパンクにさかのぼり、フォークロックやプログレッシブロック、ブリッティシュ・インヴェイジョンといったルーツまで辿りつつ、ポストハードコアなどの現代回帰を楽しむといった自身の音楽遍歴を改めて振り返ることができたのも一つの収穫。