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本書は、木楽舎という聞きなれない出版社から発行されている。ネットで調べてみると、同社は例えば、SDGsマガジン「ソトコト」を発行したりしている。書籍のレーベルとして「翼の王国books」を発行しており、本書「フェルメール 隠された次元」はそのレーベルで発行されているものである。
福岡伸一による、翼の王国booksでのフェルメール本は本書が2冊目である。前書は「フェルメール 光の王国」という題名で書かれたもので、全日空の機内誌である「翼の王国」に掲載されていたものを書籍化したものであった。本書にも書かれているが、福岡伸一は、フェルメールを「偏愛」している。前書の「光の王国」は、福岡伸一が「フェルメールの作品が所蔵されている美術館に赴いてフェルメールの作品を鑑賞する」というコンセプトに基づいて書かれたものだ。フェルメールの作品は37作品が確認されており、福岡伸一は、「光の王国」の中で34作品を鑑賞している。「翼の王国」を編集している全日空は航空会社なので、その機内誌は、「飛行機に乗って旅をしたくなる」という内容の記事が望まれる。「光の王国」に書かれた、福岡伸一の「フェルメール鑑賞の旅」は、まさにそのような、世界中旅をしたくなるというようなものであった。
本書「隠された次元」は、前作の続く、フェルメール本である。内容は大きく2つに分かれる。ひとつは、前書と同じく、「翼の王国」に掲載された、フェルメールを鑑賞する旅に関するエッセイ。もう一つは、フェルメールのマニアとしての福岡伸一のマニアックな論文風のエッセイ。そこでは、フェルメールの絵の中に描かれている楽譜を再現するプロジェクトや、フェルメールの絵を最新のデジタル技術を使って、リメイクするプロジェクト等が題材となっている。こちらの論文風エッセイの方は書き下ろしである。
私自身は、正直に言って、前作の方が面白かった。前書は、前書で福岡伸一の旅はいったん完結しており、本書は同じくフェルメールをテーマにしているけれども、全く別の内容の本であると考えた方が良い。
福岡伸一のマニアぶりや、上記のプロジェクトの内容は面白いものであるが、私自身の好みでは、前書の方に軍配があがる。