紙の本
絞り出されてきた言葉は、確かに詩というにふさわしい。
2019/08/30 17:31
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投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
20世紀の最後の数年から21世紀の初めにかけ、著者が実際に訪れて撮った内戦の地の写真とその時の思い出をつづった文章。記憶回路を通り抜けてきた言葉は「いっときの激情」を振り落として静かである。静かである分、しっかりと深くしみこんできた。目を背けてはいけない歴史の一面を教えてくれるとても良い一冊になっていると思う。
10余りの訪問地での事件は、若い読者にとっては生まれる前のことかもしれない。ニュースで知っている私でも記憶はあいまいになっている。しかし著者は「背景」も要領よく教えてくれる。今はどうなっているのか、これからどうなるのか。辛くても見つめなければならない世界が目の前に広がる。
無理やり抑え込まれて落ち着くのではなく、長く続く平穏に向かっているところはあるのだろうか。あるのならなにがそれを実現させたのか。私たちは成功例からも失敗例からもきちんと学んでいるのだろうか。
昨今の様々に揺らぐ国際情勢がどうしても頭をよぎる。「正義という有無を言わせぬ言葉が、簡単に人の命を奪っていく。」P144という本書の言葉が突き刺さってきた。「”神”が絡むと土地争いは”聖戦”となる。 P172」 という言葉もあった。
著者はジュニア新書の読者対象である若い人へ「人間の一生もまた一遍の詩だとしたら、あなたはどんな詩を書きますか?」と書いている。
本書で絞り出された短い言葉も、確かに詩というにふさわしい。苦い詩だけれども。
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橋本昇氏は、30年に亘り、フランスの写真通信社Sygma(現Getty Images)の契約フォトグラファーとして取材を続け、「ライフ」誌、「タイム」誌、「ニューズウィーク」誌等で写真を発表している。
本書には、著者が1992年以降これまでに取材してきた紛争の地、ソマリア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、南アフリカ、ルワンダ、シエラレオネとリベリア、アフガニスタン、パレスチナ、南スーダン、カンボジアと、東日本大震災による原発事故で避難区域となった飯舘村で撮影されたモノクロ写真と、そのときに見、聞き、触れ、感じたことが綴られている。
私はフォト・ジャーナリストの著作への関心が強く、これまでにも、石川文洋、長倉洋海、佐藤和孝、山本美香、川畑嘉文、日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(所属の多数のフォト・ジャーナリスト)などによる作品を読んできた。それらの作品の著者の思いに通底するのは、地球上で実際に起こっている悲惨な紛争や貧困を、誰かが伝えなくてはならない(そして、そうした状況を止め、救わなければならない)という使命感であることは間違いないであろうし、私もそうした思いに強く共感を覚える。(ジャーナリストが紛争地を取材することを否定する向きもあるが、私はその考え方には一切与しない)
そして、本書読了後も、著者の同様の思いを感じたのであるが、同時に、少々異なった感覚に捉われた。著者は本書の中で、「アフリカのどこまでも続く赤い大地、そこに突如現れる動物達、カンボジアの青々と広がる水田に憩うアヒルや水牛、アフガニスタンへと続く荒野にくるくると巻き起こるつむじ風・・・。そんな光景に出会うたびに、この奇跡の星地球の、私達をとりまく世界は「詩」なのだなぁと感じていた。そしてこの長い地球の歴史の中で、私達は皆、遠くの星の瞬きのような、ほんの一瞬の時間を生きているに過ぎないのだと思いながらシャッターを切っていた。取材現場で出会った人々から受け取ったのは、そんな私達への一人一人の“命の詩”だったと思う」と語っている。私は数年前に、本書にも登場するエルサレムとパレスチナ(ヨルダン川西岸)を一人で旅してきたが、表面上は平穏が保たれてはいたものの、著者も記しているように、イスラエルもパレスチナも「神との約束の地・神から与えられた土地」を渡す気はない中で、この紛争には解決の方法があるのか、そもそも、「祈りと争い」というテーマを根本的に解決することはできるのか。。。心が重くなったのも事実である。そして、著者は、そうした解決不可能とも言える現実をも含めて、この世界は「詩」であり、そこで生きる我々が紡ぐものは「命の詩」なのだと言いたかったのではないか、と感じたのだ。(深読みしすぎだろうか。。。)
数あるフォト・ジャーナリストの著作の中でも、多くのことを考えさせてくれる稀有な一冊と思う。
(2019年6月了)
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ちんまりと一包みになってしまった 幼児の遺体など 胸を突かれるものがあります 実際に現地の様子なども克明に綴られ 内戦状態の悲惨な真実を 伝えてくれています 分かれば分かるほど 人と人がいがみ合うことの虚しさに 気が付かせてくれます
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不条理な死が日常にある世界が、決して特別なことではないと感じた。華美な装飾をそぎ落とした文体が、写真の世界をよりリアルに浮き立たせる。