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生きる、ってこういう事か、と嫌でも思い知らされる漫画は、世に少なくないが、個人的に、この『創世のタイガ』は上位陣に入るだろう、と確信している
森先生の作品を網羅している訳じゃないから、適当な事は言えないけど、一番に好きなのは、この『創世のタイガ』だ
他の作品も、ぶっ飛んでいる、森先生の頭のネジが外れているのを感じられるけど、この作品からの圧は凄まじい
戦わなければ生き残れない、それが当たり前の世界である原始時代
その異常な状況に、体、心、そして、魂が順応していき、雄としての格が着実に上がっていくタイガ
彼の変化は、現代人目線から見ると、恐ろしさもあるが、憧れを抱くのも事実だ
仲間を死なせたくない、生活する場所を荒らされたくない、今日の食事を得なきゃならないから、戦い、相手の命を奪う理由はいくらでも用意できる、この世界では
だが、極端な話、生物が戦い、他の命を奪うのは、自分が死にたくないからだ
戦っている最中の興奮、戦い終わった後の歓喜、それは決して、恥ずべき感情ではない
生き残った勝者だけが味わえるものなのだから
タイガの場合、覚醒した、本物の野生に加え、仲間の命も背負っているからこそ、他の現代人よりも、この時代のルールを受け入れる事が出来て、迷いはありながらも、いざって時は躊躇なく、持っている武器を振れるんだろう
ウルフが、タイガの事をパートナーかつ主人として認めているのも、彼が内に秘める本能を強者のそれと認めているからだ
しかし、この『創世のタイガ』の良さを構築しているのは、そんなタイガのスタンスだけではなく、レンのような「普通」の感性を持つ人間であるのも事実だ
戦いから逃げ出すレンの精神的な弱さ、それは、確かに惰弱と映る
けれど、死にたくないけど殺したくない、だから、戦いの場から逃げて、終わるまで泣きながら隠れる
そんなレンの弱さに理解を示せる読み手も、恐らくはいるだろう
殺人は、場所と時代が変わろうとも、悪だ、とするレンの言い分そのものは誤りじゃない
ハッキリ言っちゃえば、死にたくないから、相手を殺せるタイガの方が、現代人としては異常者なのである
ただ、正しい事を言っているレンに対して、好感が持てるか、と言ったら、それは別問題だ
嫌い、とは言わないが、情けないな、と呆れる
タイガに対し、嫌悪感と恐怖を抱くのは、彼の自由だ
けど、自分と仲間の命を守りたいから、自分の手を敵の血で汚し、敵の屍を踏み、敵の命を背負える覚悟があるタイガが戦ってくれたからこそ、レンは死なずに済んだはずである
その事について、感謝を示せないレンには、やはり、好感が抱けない
彼が、このまま、ヘタレのまま死んでいくのか、それとも、一線を越えるのか、もしくは、最悪の事態を引き起こす起因となるのか、この辺りも今後の楽しみだ
ネアンデルタール人の襲撃を退けたタイガが、生き残るべく、次に挑むのは、この世界と時代の王者と記しても、異論は出ないマンモス
最大にして最強、そして、最悪
肉食の猛獣すら敵わないマンモスに、人間が本能的な恐怖��抱くのは当然
この時代に生きる、ホモ・サピエンスが戦う事を避ける、どころか、考えすらせず、逃げ一択の行動をするのは、何らおかしくない
しかし、マンモスは絶滅する、その正史を知っているタイガは、生きるために、マンモスを討つ事を決断する
彼の勇気ある言葉と、それを証明するために行った、命懸けの実証実験に、マンモスに怯えていた現地人らも立ち向かう覚悟が出来る
人間は、いつまでも狩られる側ではない
果たして、タイガはマンモスを狩る事で、人間の矜持を「何か」に示す事は出来るんだろうか
この台詞を引用に選んだのは、やはり、人間も野生動物の一種なのだな、と感じ取れるので
現代では、この思想は危険だ。生き残るために、殺人が許されるんだったら、今の世界は、瞬く間に荒廃してしまう
けれど、弱肉強食だけが絶対にして、唯一のルールである時代となったら、そのルールに従う事が出来なければ、待ち受けているのは死だ
生きる、とは、大切な存在を守るために戦う、そして、自分を殺そうとする敵を殺す、ことなのか
(傷つけてはいけない。殺してはいけない。だけど、殺した。殺した。何人も、殺した。襲ってきた敵を。敵を殺して、僕は生き残った。仲間も生き残った。生き残ったぞ)
「った・・・ぞ・・・! オ・・・オ・・・ったぞォオオオオオオオオオ」
(抑えられない歓喜だった。闘いの興奮、生きのびた喜び。勝利の喜び・・・・・・そうだ――――――この世界では、生きのびた者が勝者なのだ)(byタイガ)