紙の本
罪に対する罰とは何か。
2019/09/06 21:21
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
きっかけや動機は後付けされるものなのかもしれない。日常の積み重ねから引き起こされる事件。人知は万能ではない。淡々と進められる文章が導いてゆく経過と結末に、あなたは憤るのか、共に嘆くのか。
不可思議な人の営みが描かれる。
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今回のシーラッハもキレキレ。
共感も反感もなくただ淡々とした筆致で、だからこそ、人間の不可思議さ、滑稽さ、運命としかいいようのないものの理不尽さ、残酷、気まぐれ…が浮かび上がってくる。
『参審員』『逆さ』『青く晴れた日』『リュディア』『隣人』『小男』『ダイバー』『臭い魚』『湖畔邸』『奉仕活動』『テニス』『友人』…どれもそれぞれ思うところがあるなあ。
あーこの人助かってほしいーと思う人がやぱり助からなかったり、コイツは厳罰に処されてほしいーと思う人がうまいこと逃げおおせたり、皮肉でなくてなんだろう、そして皮肉も過ぎると滑稽に似てくる。
犯罪は犯罪。同情の余地はない。でも、どうしようもなく人間臭いんだよなあ。そして一抹の哀切が。
さすがだ、シーラッハ。
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内容紹介
ダイバースーツを着て浴室で死んでいた男。裁判で証人の抱える孤独に同情してしまった参審員。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護する新人弁護士。高級ホテルの部屋で麻薬常習者になったエリート男性。――実際の事件に材を得て、法律で裁けない罪をめぐる犯罪者や弁護士たちの素顔を、切なくも鮮やかに描きだす。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』、第二作『罪悪』を凌駕する珠玉の短篇集。短篇の名手が真骨頂を発揮した最高傑作!
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シーラッハの最新作。
読んでいるとしみじみとする短編集だった(ある意味、いつものシーラッハである……ということも出来る)。ところで、シーラッハの短編でどうも惹かれるのは、悪人が報いを受けない、つまりハッピーエンドであるとは言い難い結末を迎えるものだったりする。本書で言うと『隣人』辺りが該当するだろうか。
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シーラッハ「刑罰」http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010904 … 読んだ。よかった。なんかだんだん洗練されてきてるというか、調書(読んだことないけど) みたいなドライさで記述される人生や背景に凄みが。驚いたことに今回薄暗いユーモアさえある。裁判員とラブドールと目の不自由な老人と弁護士の話がよかった(おわり
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750ページ越えの長編を読んだ後、15ページ平均の短編12作が入った本作品集に取り組む。優れた長編小説はいくら分厚くとも読み進めてしまえる。逆に優れた短編集は、短いからと言って中身がスカスカというものではなく、むしろ長編にはないずしりとした重心を感じさせるものだ。すらすらと読める文章でも立ち止まり文章を味わう瞬間も多々生じたりする。
現在、短編小説における私的ベスト作家は、このシーラッハである。補足するなら作家の本業は弁護士である。さらに言えば、ナチ党指導者の一人ギョール・フォン・シーラッハの孫である。この出自が作品や仕事に影響を与えているかどうかは、全くわからない。読者としては無視してよいし、弁護士として、また作家としての彼の人生を想像してもよいだろう。
ともかくぼくは、彼の新刊が出る度、作品世界に導かれるのが待ち遠しく、一作一作を、ページ毎、否、一行毎に、味わってゆく。短く端的に出現してゆく文章。そこに描かれた個性的な人間模様。それらを読んでゆく時間は、いつもとても貴重で、代え難い体験となってゆく。そう。読書の充実を、短い短編の中で感じ取ることができる、その希少な手腕こそが、この作家の魅力である。
作家が、ドイツの裁判を通して関わってきた実際の事件に材を取り、普通の人間が人生を思いのままにならず、巻き込まれたり、逆に誰かを巻き込んでゆく様子を、小説として綴る。俗にいう法廷ミステリではなく、犯罪を犯したり巻き込まれたりする人間の悲喜劇を、ある距離を置いた特別な視点で描いてゆくものである。
本書は『刑罰』というタイトルなので、それを念頭に各短編を楽しんだのだが、後で本についている帯を見ると、「罰を与えられれば、赦されたかもしれないのに」「刑罰を課されなかった罪の真相」とあり、ああ、すべての主人公は法律上の刑罰を与えられていなかったのだ、と後から気づかされた次第。
どこかアイロニーに満ちた人間ドラマに満ちた作品集、と思いつつ読み終えたものの、そういうテーマで統一されていたとは気づかなかった。振り返れば、なるほどと思うことばかりである。法廷で本来与えられる刑罰を様々な理由から受けることなく、よって収監されることもなく、日常が続く。しかしその日常は、それまでと同じものではない。衝撃と驚きに満ちた結末が待つ、完全性の高い作品ばかりである。
一ダースの物語。それでいて凡百の長編作品を軽く凌駕してしまう一冊。濃密な圧力を秘めた10ページ余のそれぞれの小説。この一冊の本による不思議体験を味わいたい方は、是非、手に取って頂きたいと思う。シーラッハ未読の方は、本書に限らず是非彼の本を体験して頂きたいと思う。小説とは量ではなく質である。そんんなことが、今までよりずっと明確になることだろう。
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「犯罪」「罪悪感」に続く連作短編集。
自分の夫がウエットスーツを着て自慰したまま死んでいるのを発見した妻の話・・・「ダイバー」 金に困った弁護士が殺人事件の弁護することになった。妻が夫を射殺したのか・・・「逆さ」 ラブドールと暮らす男・・・「リュディア」 妻が亡くなり寂しく暮らしていたら、隣に美人が越して来た・・・「隣人」などなどなど。
個人的には、男性とうまくやっていけない女性が参審員に選ばれてしまう話のラストが一番気に入った。基本的に淡々と描きつつ強烈なラストでガツンと来る話ばかり。
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悪くはないのだが、それぞれの短編を読み終わったあとに、もう一段の余情というか「ため息」のひとつが欲しくなる。
この中では「奉仕活動」という比較的長いものが満足感が高い。まだ西ベルリンと呼ばれていた頃に、車の中から初めて見たイスラムの家族連れを思い出した。
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なんかこう、単純に引き込まれたり、もやもやしたものが残ったり、やるせなくなったり。
参審員、奉仕活動、臭い男がすごく残った。ただどれもとてもいい…。単行本で三冊揃えてよかった…読み直そう。
この帯の言葉はほんと、すごいな…
読み終わるとずしんとくるな…。
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さすが、シーラッハ。前々作『犯罪』、前作『罪悪』に引き続いての珠玉の短編集だ。「珠玉」だなどと宣伝文句の中にあるが、それを肯定せざるを得ない。これまでは文庫本で読んだが、今回は待ちきれずに単行本を購入した。
著者自身の体験に基づいているのだが、それぞれの主人公に深く寄り添わねば書けない物語ばかりだ。人権派弁護士といえばそれまでだが、もっと深い人間愛というものを感じる。世の中、このような人ばかりであれば、もっと住みやすいのだろうに・・・。
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帯の「罰を与えられれば、赦されたかもしれないのに」に惹かれてぱらぱらとめくってみたら、訳がネシャンサーガシリーズを訳した酒寄進一さんじゃないですか!
実際の事件に材を得て描いたという、殺人事件をめぐる短編集なのだけど、そのまま舞台を日本にしても通用しそうな現代社会の闇をあぶり出していて、ゾッとする。
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久々のシーラッハは、『犯罪』『罪悪』の系譜に連なる作品集。12篇の共通項は、作中で罪を犯した者たちが何らかの理由で刑罰を免れていること。
人間を裁く法がいかに不完全かを読者に痛感させるが、法制度の欠陥がメインテーマというわけではない。むしろ、その後の彼らの刑罰に対するスタンスが読みどころだと思う。刑罰は自身の行いに終止符を打つことでもあり、それがないために永遠に過去をひきずる者、あるいは自らを許す者がいたりと、短いドラマの中に多種多様な心理描写が浮かんでは消える。
相変わらずの淡々とした語り口が逆に虚しさや残酷さを際立たせるようで、読んでて何とも言えない気持ちになる。話は短いけど結末は重い。やっぱ本シリーズの短編集がシーラッハの真骨頂よね。
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刑事専門弁護士である作者が、実際に起こった事件に材を得て描く人間の罪と赦しについての12の短編。
どれもがごく短い作品でありながら、それぞれ、罪を犯した者たちの孤独感と疎外感が後を引く。法による刑罰を科されることなくこぼれ落ちた罪の数々とそのゾクリとする真相。
「罰を与えられれば、赦されたかもしれないのに。」という帯の言葉が余韻を残す。
「犯罪」とは違った切り口で、罪をめぐる人間そのものを描く作品でした。
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20190907 久しぶりのシーラッハ。相変わらず予測不能。読者の希望とは違う落ち。でも納得してしまう。終わりかたの違和感が続く限り、読ませてもらおうと思う。
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実際に起きた事件をモチーフに書かれた12編の短編集。
著者の作品は何冊目だろう?感情描写を極端に削った乾いて冷たい印象の筆致は相変わらず。
意図せずして犯罪者となった人たち、罪を犯しつつも犯罪者として裁かれなかった人たちなど、彼らの罪を描き出すことに主眼がおかれていて、うまい言葉が見つからないが、人生の不条理のようなものが全編を通して漂っている。