紙の本
本書に出てきた人たちに、誰かの「助けて」を受け止めるにはどうすればいいのか、聞いてみたい
2021/09/14 14:06
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:gami - この投稿者のレビュー一覧を見る
私自身が「助けて」が言えなくて難儀しているので、何かの力になればと思い購読。内容的には対人支援職の方向けだが、本職の方々に求められる対応は、実は本来は一般社会に必要だと感じられること、新書のような文体であることから、興味がある人は挑戦してほしい。
個別の事例を読み進めるにつれ、「助けて」を言えなくさせる理由の多くは、制度の問題だけでなく、確実に日常生活で相互行為を行う私たち社会側の態度や余裕のなさの問題でもあり、それらが複雑に絡みあっているからだと思えた。
と、ここまで書いて、じゃあ一般社会で「助けて」を受け止められるようにするにはどうすればいいんだろうか。
助ける側と助けられる側は常に対等な関係性ではいられず、多くの人々は、様々な偏見や無知・無力さから「助けて」と言う人の手を振り払ってしまう。だから助ける側も、相手の困難を受け止められる余裕(能力・経済力)が持てたり、より力のある制度や組織を知って繋げらるようになったり、非審判的な態度や「ただ聴く」態度や正しい知識等の教育を理解したり、あるいは相性を見極めらたりして初めて助けられるようになるができるが、今の社会でそれをどこまで求められるだろうか。
私たちがつい「自己責任」と言ってしまいたくなるのも、社会と制度にも力がなく、現状できる一番の最善策と考えうるものであり、かつ自分たちもそれをやってきたから今日まで生きてこれた、と考えうるからである。しかし本書を読むにつれ、私は日常から公助が機能しているから共助や自助が可能になる、と思えてならない。以前、菅総理大臣(2021年現在)は「まずは自分でやってみる。そして、地域や家族がお互いに助け合う。そのうえで政府がセーフティーネットでお守りします」と政治理念を打ち出したが、本当は違うと思う。そして以前から一国の在り方がこの状態なので、本当に解決しようとしたら政治レベルで考えなければならない
このように公助が機能せず、共助も力が及ばない中で「助けて」を言われても、他者の困りごとや能力は出血のように目に見えないし、そのようになってしまった背景や関係性も実感しにくい。だから「鶏が先か、卵が先か(誰かに自分を助けてもらうか、自分で自分を助けるか)」の、誰かを追い詰める論議が始まってしまうのだ。
本書のレビューとは大きくかけ離れてしまったが、こんなことを書いたのも、本書に出てきた人たちに、私たちが日常生活において、誰かの「助けて」を受け止められるようにはどうすればいいのかを聞いてみたくなったからだ。そういうことを期待してしまうくらい、この本は現実的な視点と理念で語りながら、「助けて」を言えない人たちと、彼らを受け止めようとする人たちに対する視点が、どこか血の通った温かな調子を感じさせた。
紙の本
依存症の本かと思いました。
2020/12/30 11:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:さたはけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著書のアルコール依存症関係の本を読んでいたので、依存症中心の本かと思いました。
しかし、いじめ、虐待、認知症、性被害などの様々な立場の方でSOSが出せない方の支援方法など、医師だけでなく様々な立場の方がコメントされていたので、依存症だけでない支援についても参考となりました。
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「SOSを出せる子に」
最近、子どもの支援の現場でもキーワードのようによく聞くフレーズだ。
SOSが出せない人(大人、子どもに限らず)は苦しい。そして、そんな人は決して少なくない。
しかし、弱音を吐く人、助けを必要とする人は落伍者であり負け組であり弱い人間だと考える人々が多い社会でためらわず援助要請を出せる人が果たしてどれだけいるだろうか。
「SOSを出せる子に」
言うまでもなく大切なことだ。
私たちは助けたり助けられたりしながら生きているのだから。
けれど、本書で松本先生も触れておられる通り「SOSを出すこと」を本人に求めるだけでいいのか。そんなふうに、確かに思う。
SOSを出せるのは、SOSを受け止めて助けられた経験というしっかりした土台があるからであり、土台もないのに「SOSを出さないといけないよ」なんて言われたらたまらないのである。
「SOSを出せる子に」
私たちは発せられたSOSを受信しているだろうか。
自然に、当たり前に、喜んで助けているだろうか。
本書はさまざまな立場の方たちが「"助けて"を言う」ことについて論じている一冊だ。支援者も当事者もさまざまな領域、ポジション、背景の中でメッセージを発しているからこそ見えてくる「助けて」の立体的なイメージは大変学びにもなり、自らを省みる手引きにもなるだろう。
「SOSを出せる子に」
これは正しい。けれど、SOSを出せない子/人のつらさを自己責任に帰するような文脈でこのフレーズが用いられるのは本末転倒なのだ。
私たちはこのフレーズを発する時、この社会が「SOSを出した人」にためらわず、施しやお情けでなく手が差しのべられるものになっているかを検証しなければならないのだろう。
※本書はだいぶ前に紙の本で買ったものだが、電書がkindle unlimitedの対象になっていたので入れてみたら実は積読になっていたことがわかったのだった。「持ってるからいいよね」でスルーしなくて本当によかった。
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困難に陥っている人の自己責任論は減ってきている印象はあるが、その人達の援助希求が薄いことに関する自己責任論は援助者にもあるし、援助者自身が援助希求が薄く燃え尽きる人もいる。本書は、その心理的なメカニズムに関しての考察と実際の医療や福祉、心理の現場や援助団体で起こっている状況についての現場のリアルな話が満載である。援助職自身も、この現状を十分に理解した上で対処する必要があると思われる。「こころの科学」に掲載されているものを編集し加筆されたものである。
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主に医療関係者や当事者に関わる人向けに書かれたものだと思いますが参考になりました。
最後の対談がよかった。治療側にも孤立や苦悩や偏見、苛立ち等さまざまな壁があること、当事者と向き合うことを通して支援者が学ぶこともまた多いと思った。
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助けてを言わせようとするよりも助けてとはなかなか言えないよねと愚痴をこぼせる関係をつくるという最後の対談。すごい。一対一で向き合って何とかするのではなく問題を共有できるようにして周りを巻き込んで改善する、という楽天性。
家族であっても外の人間でしかありえない。助けてとは言わない。理不尽な要求の形でしか出てこない。こういうときこの著者ならどうするんだろう、と想像し続けるのかなあ。できたりできなかったり。
助言や懸念を伝える前に、この件について当事者の考えや気持ちを引き出す試みをすでに十分行ったか、これから提供する助言や懸念は、当事者の安全や変わりたいという気持ちを強化することに重要か検討する。考えを述べる前に、さんはどう持っているのですかと尋ねる。本当に今ここでその助言や懸念を伝えたほうがよいか。相手の気分を害したり変わりたいという気持ちをなえさせることがないか。一般的には・・・。もちろん最終的にどう判断するかは、さん次第ですが。私の話を聞いてどう思いましたか。かかわりを継続することが重要。
痛みも閉じ込めることも改善にならない。安心して依存しながら通えるプログラム。望ましい行動に報酬を与える。繰り返し一番大事なのはプログラムからドロップアウトしないこと。依存を克服することよりも。プログラムの場を安全な場にする。依存を強める方向に働かない。渇望を刺激することをしない場に。秘密の保持。陽性反応が出たら、陽性が出るとわかっていながらプログラムにきたことを称賛する。
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依存症の方の支援に悩んでいたときに手に取った一冊。
「やめられない」気持ちを伝えても、否定されない場所や関係性が必要。
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いきなり専門用語がたくさん出てきてあせりました。ちょっと欲しかった情報と違ったので、評価低いですが、支援者になりたいこの本の読者がみんな専門家でないことを考えたら、このくらいかなあと思います。
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自分が自殺したいと思う気持ちを書きました。https://note.com/masakinobushiro/n/n636cbb121aad
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2021.1.22市立図書館
日本評論社「こころの科学」202号(2018年11月号)特別企画「「助けて」が言えない―援助と援助希求」の増補書籍化。こども、医療、福祉・心理臨床、民間支援団体といった各分野の第一線にいる支援者の報告+岩室紳也、熊谷晋一郎、松本俊彦の座談会。
「助けて」を言わせるのではなく、言う前になんらかの助けが得られるような関係性をつくれるのがいい、ということ。あれこれよくわかる。
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p20 迷う人の背中をどう押すか まずは直したい衝動を抑える 受容・共感的に関わる 相手の変わりたい気持ちに気づき、引き出し、強化する 助言する、懸念を伝える 以上を繰り返しながら、かかわりを継続する 動機づけ面接法
p22 受容・共感的に関わるために必要なことは、クライエントの話を批判したりさばいたりせずに傾聴し、クライエントの考えや感情、置かれている状況を理解しようと努めるとともに、その理解をクライエントに伝えることである。
p55 薬物依存症からの回復に必要なのは、安心して、「やりたい」「やってしまった」「やめられない」と言える場所、そう言っても悲しげな顔をせず、不機嫌にもならない安全な場所だ
p57 これは繰り返し強調しておく必要があるが、罰の痛みによって人を薬物依存症から回復させることはできない
p58 刑務所には他にも問題がある。なかでも最も深刻で、地域における依存症からの回復を阻害する要因となるのは、薬物依存症者を「嘘つき」にするという点だ
p59 薬物依存症から回復するうえで、何よりも重要なのは、薬物をやりたいくなったときに「やりたい」という気持ちを援助者に言葉で伝え、「やってしまった」「やめられない」と正直に言えることである
p63 だからこそ、私達は望ましくない行動に罰を与えるのでなく、望ましい行動に報酬を与えることに多くの努力を注ぐようにしたのだ
p65 それゆえ、私達は尿検査の結果を治療以外の目的には用いないことを約束している
それどころか、患者が尿検査で覚せい剤反応が陽性になった場合には、「「陽性が出るとわかっていながらプログラムに来た」ろいうころを称賛するようこころがけているほどだ
p67 何度も繰り返すが、薬物依存症からの回復に必要なのは、安心して「やりたい」「やってしまった」「やめられない」と言える場所、そう言っても誰も悲しげな顔をしないし、不機嫌にもらなない、自分に不利益が生じない安心な場所である。
p117 認知症 徘徊と呼ばれていた行動が、アルツハイマー型認知症治療薬による頻尿のためトイレを探せども見当たらず、あるきまわっているだけだったということがある
p120 こころや行動の変化を援助希求能力という視点で捉えることは、「助けを求めているのだとすれば何に困っているのだろうか」と、支援する人が変化の理由を検討し対応を考える姿勢をもたらす。これが援助希求能力という視点をもつことの最大の効用といえる。薬物療法はこころや行動の変化に対する対症療法にすぎない。変化の理由を検討することは、変化に対する根本的治療といえる
p121 同行する家族と支援者を労いつつも、認知症のある人を中心に考える診療にかわってから、本人が援助を求めやすくなる診療をこころがけるようになった。援助希求しずらい事も含めて、認知症のある人がいだきやすい心情について、「もの忘れが増えると失敗を指摘されることへの不安や恥ずかしさが強まるものです」「恥ずかしさが強まれば、困っていることを誰かに伝えにくくなるものです」と、努めて代弁することをこころがけるよう��なった。この代弁に対して、本人はたいてい否定することなく、うなずき承認する。病識がないといわれることの多い認知症だが、心情を代弁することに対して承認する様子をみていると、家族からどんなに、「もの忘れがある、自覚が足りない」「取り繕ってばかりだ」と指摘されている人でも、困難さを自覚し、病識はあるのだと感じる。そして本人の心情を代弁することは、本人の援助希求能力に良好な影響を及ぼすだけでなく、心情の代弁を聞く家族にも、本人への適切な理解を促す。それは家族と本人の関係性にも良好な影響を及ぼしてくれる
p132 小島は、ひきこもりの家族の支援について、「家族が長期間にわたって当事者へ使ってきた時間・精神的苦痛・社会との関係性への苦しさを支援者が承認する」「こどもの人生の中で生きた来て自分の親人生を卒業することを自分自身で許すことを地震が承認するという支援」をし、家族自身の精神的な自立を支えるという働きかけの重要性を述べている
p137 いつも他人の中で自分を否定的に捉えてしまう女性は、「絶対なくだろうと思われるような場面で、いつも泣かない自分がいた」という
私達は、悲しみを受け止めてくれる人がいてはじめて悲しむことができる
p154 公正世界の信念 良い結果が出せないとそれはだめな人間(支援者)であることを意味するといって認知のゆがみ
p166 人には、「人の行動は本質的に道徳的で公平な結果をもたらす」という認知バイアスがあり、よいこうどうをすればよい結果が生じ、悪いことをすれば悪い結果が生じると期待する傾向がある。「因果応報」や「情けは人のためならず」といった言葉があるように、自分の行いの結果は自分に返ってくるという信念が存在する。これおを「just-world hypothesis(公正世界説)」と呼ぶ
p233 自立は依存先を増やすこと。希望は絶望を分かち合うこと
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座談会(岩室紳也×熊谷晋一郎×松本俊彦)が特によかった。血圧上昇の方に「あの人は姑さんと関係が悪いからその話をきいてあげればいいのよ」という田舎の診療所の事務員さん優秀!支援者自身の限界を認め、自分が解決できない問題を周りに投げかけてアイディアや助けをもらうというスタンスは大事と納得
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援助者は矛盾をはらんだ言動に対して正したい衝動を抑える 薬物依存症からの回復に必要なのは安心して「やりたい」「やってしまった」「やめられない」と言える場所、そう言っても誰も悲しげな顔をしないし、不機嫌にもならない、自分に不利益が生じない安全な場所
自殺リスクを抱えた人の所属感の減弱、負担感の知覚が主観的な感情
「死にたい」だけではなく「悲しい」「つらい」「一人でいるのが寂しい」という言動で表現する練習
ドタキャン考で、複雑性PTSDの「約束を守る」という社会的規範を学ぶ機会がなかった可能性、対人不信やネグレクトの後遺症という考察
相談するという訓練、相談する側の選択肢と相談を受ける側の選択肢を複数化
認知症のある人の支援で、自尊心が傷つきやすい状況、失敗を指摘されやすい状況、役割を失いやすい状況は、その理解や工夫で改善することが多い
支援者の燃え尽き症候群 安全、信頼、尊重、親密性、統制の五つの認知スキーマの歪み(マッキン、パールマン)
自分の感情へのメンテナンスを大事にすることが、支援者自身にとっても患者にとっても役に立つ 周囲につらさ、うまくいかなかったことを話せる関係が重要
自分の性体験を隣の人に話すことをイメージすると性犯罪で相談窓口での話をすることの負担が大きいことがわかる
トラウマからくる恥と身体へのアプローチは必須(キャサリン・スコット・ドウジア)