紙の本
冬。ベルリン。闇に消えた子供たち。ただ一人生還した少女・・・このラスト、予測不能。凍てつく魂の闇を往く父親の彷徨。「時制」と「人称」の迷宮の果てに待ち受ける驚天動地の真相とは!(←帯より)
2019/08/14 03:37
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
暑いので、涼を求めてなのか、冬が舞台のものが読みたくなる。できれば北欧、ヨーロッパの北のほう、がんがん雪が降って気温がマイナスになるところ希望!
というわけで『沈黙の少女』をセレクト。舞台は冬のベルリン、500ページ弱という厚さも程よくその世界に入り込めそうだし。
内容については帯の文句だけで十分なのですが・・・ある日、13歳のルチアは弟とともに家から誘拐された。2週間後に雪の路上でさまよっているところをひとり発見されたルチアだが、いったい何があったのか・弟はどうしたのかも含めて一切何も語らないまま6年間が過ぎた。
そして“わたし”はミカと名乗り、あるパブに集う4人組に接触を試みる・・・行方不明になった娘のために。
<彼ら>・<きみ>・<わたし>の視点で進行する物語は、<きみ>を“わたし”が語る構造になっているけど、<彼ら>は・・・。
そして現在と過去と追憶が縦横無尽に混ざり合うのが、「時制と人称の迷宮の果て」ということなんでしょうが、難しさはない。むしろ、<わたし>視点で読んでしまうことになる。
連れ去られたまま行方不明の少年少女たち、そして連れ去った側の大人グループの存在・・・となれば、『クリミナル・マインド』などでおなじみの人身売買関係かペドフィリア系の話かと思っちゃいますよ、というかつい私は思ってしまいました。娘が行方不明になった父親が、その復讐を果たすのだと。
衝撃の展開だとは聞いていたけど、ほんとに思いもよらない方向に出た・・・あぁ、ヨーロッパという土地と歴史が持つ闇なのか、これも。
そしてこれもまた語りと騙りの物語であった。
読んでいたものが、実は「読まされていた」、ラストになってそれまで見てきたものがまるっきり違う景色を見せるという戦慄。
これもまたミステリという美しさ。
深い森と古びた小屋、湖を凍てつかせる寒さ、そして降り積もる雪。表紙の写真の空は明るすぎるが、湖面が凍った湖や森の木々を白く埋めていく吹雪など、頭の中に映像がしっかり浮かぶ。
一面の白は惨劇に似合うのであろうか、それとも行き過ぎた寒さは人の理性をも凍らせるのであろうか。
おぞましい未解決の事件として始まったこの物語は、いつしか寓話的なものになる。
だから恐ろしいラストシーンが奇妙なほどの爽快感を生むのだが・・・「これに爽快感を抱いてしまっていいのだろうか」という疑念も生まれるのだ。
やはり人は、復讐という感情から逃れられないのだろうか。
理性や倫理をどれだけ持ち出せば、「やられたらやり返す」を考えなくてすむのだろう。
人間の<業>について、じっくり考えさせられました。
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読み終えた途端に、「彼ら」に関する叙述をすべて読み返した。これまで読んでいたものは自分の読んだと思っていたものと全く違っていたことを知る。それが終盤になってわかる。いわゆるどんでん返し。トリック。叙述と構成がもたらすストーリー・テリングの奇妙に捻じれた世界。
饒舌な小説ではない。ある緊張感が全編を満たす。日常生活からアウトランドにはみ出した者たち。自由意志であろうと、強制された形であろうと、登場人物のほぼすべてがそのようにカテゴライズできる。
非日常生活を象徴するのが、冬という季節、凍りついた湖と、その周囲に広がる森、そして古びた小屋。小屋には狭い地下蔵が用意されている。
小説を緊張させる重要な要素は、誘拐される子供たち。彼らは地下蔵に収容され、一人一人が髪の毛をつかまれて持ち上げられてどこかへ消えてゆく。雪の森の中での異常な世界。何が起きているのか? 緊張感が高まるというより、全編子供とその父親の復讐をめぐる張り詰めた時間を物語が進む。そう、最初から最後まで。気が休まることのない張り詰めたプロットが。
世界中で今、書かれ、また読まれているミステリのあまり珍しくなくなった素材としての小児性愛、小児虐待、を材料にした小説と見える全体を覆う重苦しさ。しかし「彼ら」も、本作全体も、実は見た目通りではなく、物語はもっと巨きな時の歯車に推されて動く、とても見えにくい暴力装置を描いたものである。その象徴とされるのが、凍りついた湖であり、閉ざされた冬という季節なのだ。
狩人として森に散ってゆく大人たち、子どもたち。父親としての復讐に燃えた主人公は、単独で秘密のグループに潜入を開始する。読者は主として彼の叙述する「わたし」と生存した被害者少女の「きみ」の章につきあってゆくことになるのだが、登場人物たちには見えていない「彼ら」を含め、複数人称かつ複数時制によるトリッキーな仕掛けが小説全体を覆っていることが、本作の一番の読みどころとなる。
張り詰めた品格のある文体に、ドイツらしい生活風景と、北ヨーロッパの冷たい冬。独特の音楽的味わい。極めて稀有で印象深いミステリー作品である。
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サスペンスなのに文章が格調高くて純文学のよう。ドイツの冬の厳しさが浮かぶようです。でも、そのために結末に来てもすっきりしない感があります。きみ、にとってはラストは良い結末なのでしょうね。
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一気に読んだのだからページターナーであるには違いないのだけれど、いやあもう年々暴力がつらくなってきてまして。。。
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「わたし」と「きみ」と「彼ら」の3つの視点を切り替えることで、「狩り」の話が進む。「狩るもの」と「狩られるもの」が幾重もの重なり、逆転する。
その構成の巧みさには、敬服する。
ただ、登場人物に思い入れするのは難しかった。
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両親が留守の雪の夜、何者かに誘拐されたルチアと弟。2週間後雪の夜道で保護されたルチアは沈黙を続ける。
同じように娘を誘拐されたミカは、謎の男たちに近づいていく。誘拐犯たちは子どもたちをどうしたのか?
ミカの立場からかかれる「わたし」の章と、ルチアを描く「きみ」の章、男たちを描く「彼ら」の章が交互にストーリーを進めていく。徐々に明かされる真相に驚く。そして、とにかく怖い。
いろいろな意味で衝撃のはしる小説だった。疲れた。
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この底なしの邪悪感はなんだろ。
誰も彼もに、いろんなものが欠けてるよ。
このラストは、救いがあると言っていいのかな。
ちょっと読了した人と小一時間くらいビール飲みながら話したい気分。
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最後まで読むと、ある部分を読む返すことになるだろう。「わたし」、「きみ」、「彼ら」の三つの人称で語られる物語は、鬱展開で胸くそが悪くなる。でも、先を読みたくなる作品。裏表紙には、「黒々とした衝撃が胸を貫き、腹を震わせる」とある。そうとおり。
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誘拐後に保護されてから6年間沈黙を続ける少女「きみ」と、企みをもってあるグループに接近する「わたし」、狩りをする「彼ら」の行動が交替で語られ、事件の真相が明かにされていく。
3つの視点から俯瞰するように静かに語られる口調こそ穏やかだが、中身は緊迫感とともに不穏な空気をはらんでいる。なぜこの作品を図書館で借りたのかは忘れたが、徐々に邪悪な狂気が満ちてきて、私には苦手な展開が予想され途中で投げ出そうかと思ったほど。
そして終盤、「驚愕の真相」が提示されると、確かにそれまでの前提は根底から覆される。
でも、すべてを理解したうえでも肝心な予測不能の設定そのものに現実味がないため、巻末の解説者が言うほどのおもしろさは感じられず、読み終えてからも鬱々としたイヤな気持ちはちっとも晴れなかった。
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実際にこんなカルト集団のような者が存在したらと想像するだけでも怖い.3つのパートで進行しながらだんだん真相に近づいていくところは格調高い文章の力もあって怖いもの見たさでワクワクするところもあったが,最後のきみであるルチアにとって希望のある幕切れとも言えるが,なんら邪悪で自分勝手な存在は失われていないのがなんとも後味の悪い読後感になった.
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2年ほど前に書評をみて、気になっていた本をようやく読んだが、後味が悪い。
ペドフィリアがまず受け入れられない、子供の誘拐も殺人ゲームも読んでいて辛かった。
パパの場面はたしかにショックだったけど、話題になったほど、自分には響かない本だった。
ラジオ、というのはひっかけだったのね。
ずっと犯人だと思っていた人たちがただの模倣犯だったというのも拍子抜け、、、。
主人公だけが何も知らない世界。
ペドフィリアのおじさんの一人が、自分も子供の頃に被害者だったというのは苦しい。
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「きみ」「わたし」「彼ら」この3つのパートを繰り返し物語が進む。冒頭の「きみ」で何が起こったの???と引き込まれる。
「きみ」で語られる登場人物の謎が解き明かされる時、その状況に唖然とする。
原題は「STILL」。ぴったしだ。