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権力と音楽 アメリカ占領軍政府とドイツ音楽の「復興」 みんなのレビュー
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紙の本
国際政治の勉強のきっかけにも
2020/02/07 10:37
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひな - この投稿者のレビュー一覧を見る
久しぶりに魅力的な本に出会いました。きれいな文章に惹きつけられます。歴史とか国際政治とか苦手意識のある私ですが、音楽ネタを通じて占領期のことが少しイメージできるようになりました。議論が何層にも重ねられていて、深いところまで誘ってくれる感じがしました。音楽の本って印象論のものが多いけれど、こうやって史料を引っ張って書くものなのだなあ、ということもお勉強になりました。とても一読ではこなしきれないので、手元において何度か読み返してみたいと思います。その前に、はい、もっと国際政治を勉強します。
紙の本
戦後ドイツ占領政策の音楽的な遺産?
2020/09/03 13:19
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は国際政治の研究者。第二次世界大戦後アメリカ占領権力がドイツの音楽環境の正常化、そして戦後クラシック音楽・ドイツ音楽にどのような影響を及ぼしたかを考察したもの。ベルリン・フィルの戦後復興、フルトヴェングラーとナチ、バイロイト音楽祭なども扱われるが、いずれも新しい情報があるわけではない。むしろ最終章の国際政治のコンテクストの中での分析が秀逸であった。
ベートーヴェンで頂点に達したドイツ音楽は、以後衰退の道を歩み始めたというのが音楽史の見方である。19世紀後半以降進んだ音楽の多元化の動きの中でドイツ音楽の特権的地位は相対化されていくものの、現在に至るまでその中核的地位は揺るぎない。この延命を助長した音楽外の要素は何であったか。こう考えたときに見えてくるのが国際情勢としての冷戦である。米ソ対立、東西ドイツ・ソ連との関係で音楽が国家にとって重要な競争の舞台となったことは明らかである。アメリカ占領後クラシック音楽(古典音楽) 、さらにはドイツ音楽の主導的地位を延命させたのは、冷戦ではなかったか。東西両陣営にとって、クラシック音楽の良き理解者・支援者たることは、相手陣営に対して優位性を示す手段となったである。
西洋音楽史でクラシック音楽のパトロネージを俯瞰してみた場合、18世紀は貴族、19世紀は新興市民階級の教養市民層、そしてドイツナショナリズムであったのが、20世紀に入ってからは冷戦期の知的風土であったと言うのである。著者はこれを「冷戦教養主義」と名付けている。この第二次世界大戦後のクラシック音楽の正当性を維持したのは冷戦構造であった、という示唆は刺激的である。
1989年ベルリンの壁崩壊を契機とした冷戦の終わりの始まりの年に、戦後米国のサポートを得て楽壇に復帰し帝王となったカラヤンが亡くなり、さらに1992年ドイツ再統一後の戦後のドイツ音楽文化の重要メディアであったRIAS(アメリカ軍占領地区放送局)が解散したことは、「冷戦教養主義」の終焉を象徴すると言える。
かつてシェーンベルクは、自らの「十二音技法」によりしばらくは西洋音楽におけるドイツの覇権は維持できると語ったそうだが、冷戦により延命されたことになる。一方で十二音技法のような前衛音楽の中心は米国となり、戦後ドイツに持ち込まれるものの、いまだ演奏会プログラムの主流とはなっていない、という皮肉な結果になっている。冷戦後のクラシック音楽を支えているのは、国家の文化政策(したがって税金)となろうが、それは冷戦教養主義の形を変えた姿ということもできるのではないか。
RIASはRIAS交響楽団(1956年よりベルリン放送交響楽団)を持っていた。私のLP/CDディスコグラフィーに同楽団の録音は多い。特に「忘れられた作曲家」の作品を積極的に発掘・録音してきた墺マイナーレーベルKoch Schwannに多い。主流派ではないクラシック音楽に光を当てたというRIASの功績もあるように思う。また、西側占領地域では各州の放送局が放送管弦楽団を持つ運営体制となったが、その演奏水準は高く、また、放送用にドイツに限らない幅広い国の音楽や新しい音楽を演奏している。独マイナーレーベルCDにはSWF、BR,HR,WDRなどの放送局がスポンサーとしてクレジットされることが多い。珍しい音楽・新しい音楽の支援活動は、「冷戦教養主義」の遺産ということもできるのでは、と思った。
第2章から第4章の副題にマーラーの声楽付き交響曲の歌詞が引用されている。各章の内容と関連はあるようだが、マーラーが演奏されることが音楽の「非ナチ化」指標とされていたこととの関連か、それとも著者の音楽的嗜好なのか、興味あるところ。
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