紙の本
芸術家の葛藤にユーモア
2020/09/01 01:28
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投稿者:une femme - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公のままならない日々と、演劇の創作の試みで描かれる思索の面白みと、思わず笑うような、しかし真剣なユーモア、そして、最後にかけて、こみ上げてくる切なさ。文豪の香りを引き継ぎつつ、現代的でもあり、読みやすい。会話と地の文のバランスも、とても自然で、上手いと思った。
主人公は、真面目に演劇に向き合い、ひたむきで、純粋なのだが、ままならない状況で、遊んでいるとも言えるような生活をしている。芸術というものに携わる者の葛藤が描かれているともいえ、また、その生活をしている自分を見つめる眼差しが、鋭い言葉で、胸に迫る。純粋で、優しく、弱さのある沙希との対比も、主人公を引き立てている。
特に後半からが私には面白かった。
また、著者自身による解説も、文章が上手く、きちんとしていて、面白く興味深かった。興味関心を持つ問題を正面から見つめようとする、作家の真摯な姿勢と、書くことに対する真剣さや敬意が、窺いしれた。
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投稿者:あきひこ。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
又吉さんの小説はいつも軽い鬱になります。
ボクが学生時代を過ごした東京。そして主人公のダメなところ、不器用なとこはボクにそっくり。あの時あ〜していたらこうしていたらと、もう一度やり直したい気持ちがあります。
あの時代、夢をもって東京で過ごした思いがよみがえります。
紙の本
不器用男と純女
2020/10/03 20:04
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
不器用すぎる永田と、どこまでもピュアな沙希を見守りたくなります。同じスピードで都内を歩き回っていたふたりの間に、少しずつ生じていく距離感が切ないです。
紙の本
誰にでもある最低な部分
2019/10/16 08:18
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投稿者:touch - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の永田は「自己中」とは一言で片付けられない・・・自分勝手な、甘えん坊で、かまってちゃんで、独占欲が強く、ひねくれていて、独りよがりで、理屈っぽくて、僻み屋で、自意識過剰で、自己評価が高く、そのくせ他人に何か言われると傷つきやすく、怖がりで、自分のことは棚に上げて相手を攻撃するといった最低な男。
正直、読んでいてイライラするが、多少なりとも自分に当てはまる部分もある。
まるで自分の最低なところを拡大鏡で見せつけられている不快感にのめり込んでしまう。
ところどころ過剰にも思える芥川賞的文体が、少し鼻につく感じもあるにはあったが(特に最初の数ページ)、又吉直樹の不思議な世界観が構築されていて、私は嫌いではない。
あとがきに、演劇を題材にした理由として、それに携わる人々の「純粋性」をあげていたが、なるほど永田の端から見ればイヤな性格は「純粋性」を突き詰めたものだと捉えることもできるかも知れない。
※ 以下、書評じゃないが
2020年に映画化されるそうだが、永田:山崎賢人/沙希:松岡茉優は、かなりイメージが違うかなあ。
ヒロインは別として、『火花』の時もそうだったが、何で男前ばかりをキャスティングするんだろう。
そうじゃないと客が呼べないと思ってるなら、原作の面白さを否定しているようにも思えてくる。
それこそ、この話は、舞台(演劇)で上演したら面白くなるんじゃないだろうか。
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山崎賢人さんが主人公として映画化される、というチラシが挟まっていたが、読んでいる最中脳内で再生される主人公の顔がどうしても作者である又吉直樹さんで。
最後まで何度も修正しようと試みたが、ダメだった。
夢を抱いて目指す街として、東京にはこの物語に登場したような人は多く存在するのかもしれない。
安定や安全、安心を常に求めてしまう自分には絶対に辿り着けない世界。
形振り構わず一つのことに拘り、振り絞る人生を選べない人が外からとやかく言う。
勿論、人として越えてはならない一線はあるにせよ、妄信的に突き進める行動力が、心底羨ましい。
羨ましいと思いつつも、自分は関わることさえきっと遠巻きにしてしまうだろう。
だから舞台に立てる人はあんなに眩しく見えるのだ。
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主人公は、火花の彼と似たようで、でももう少し根に癖のある人のように感じました。これも又吉さんを主人公に投影しながら読んでしまいましたが、火花に出てくる徳永くんの方が又吉さんのイメージでした。
今回のお話も人間の内情がうまく丁寧に描かれていて、考えさせられるものでした。
永田くんを好きだけど、一緒にいると自分の首を絞めるように苦しくなっていってしまう沙希。でも沙希を苦しめてる永田くんの部分が無くなったら、魅力的な人では無くなってしまうんだろうなぁ。矛盾した関係。
同じようなこと経験した私は、ふむふむと読んでしまいました。
映画化されるけど、小説で描いた自分のイメージを留めておきたいので、まだ見たくないかな。そして切なくて暗くて苦しい一面のあるお話なので、見ることを避けている自分がいる。
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永田は社会不適合な男であるが、嫉妬するにしてもケンカするにしても罵詈雑言のメールのやり取りにしても、少なくとも彼には対人関係が存在している。相手への関心がある。翻って考えてみるに、他人に何らの期待もしなければ、往来の人々はおろか知人に対してさえも根本的なところで無関心で日々を過ごしている私が、特段、周りとの軋轢が無いからといって、社会的な存在だと言えるだろうか。あと、この作品もやっぱり『東京』に挑む物語なのであった。
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「情けない自分」が底に押し固まっていて、
好きな人の心からの「凄いよ」という言葉を
信じられない主人公。何を信じたらいいのか。何も信じられない。期待したら辛いだけだ。
はっきり言って、主人公は
売れない演劇脚本家でヒモ。クズ男だ。
とことん優しい彼女に甘え、苛立ち、いつの
間にか彼女も思い悩むようになっていく。
自分の気持ちと世間とのズレ。
色んなものから逃げて、目をそらして…
読んでいて痛かった。
よどみの中、二人は離れることになる。
読んでいる私自身、小説の最後のシーンで、
「やっと彼女が解放された!万歳!
クズ男ざまあみろ!」という感じになるかと
思っていたのだけれど、どこかフワッと
切なさと優しさを感じ「二人は救われたんだ…」
というホッとした気持ちが生まれた。
不思議な感じでした。
複雑な男女の気持ちを丁寧に描いた恋愛小説。
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『火花』に続き、又吉作品二作目。これがやっぱ純文学だよなぁ、と。永田のことを思うと、苦しいったらないよ……前作より先に描き始めたのだから、又吉が最初に描きたかった(エッセィとかは出してますが)のは恐らくこちらだった筈…しかし、読者の私ですら、苦しいのだから著者自身の苦悩と言ったら想像を絶する——そのため、一度挫折(?)したのでしょう。そして前作を描き終え、作品との適切な距離を掴んだことにより、漸く執筆に取り掛かれたのだ。永田が他人と比べ、如何に自分が劣っているか卑下している所とか本当に嫌になる(褒め言葉)。特に胸に刺さったシーンは、元劇団員だった青山とのメールでのやりとりは何もそこまで——似たような経験を持つ身としては胃が痛かった…。友人との距離感って難しいよね……後半に行けば行くほど、永田と沙希の関係が崩壊していき読んでいる方としてもしんどかった…。心にグサっと来るし、読後感は決して良くはないけれど良い作品。わたしは割と好きなタイプでした。星三つ半。
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二年前に出版された「新潮」にて読む。つい最近文庫化。
作者の表現が少し回りくどく、前作火花もそうだったが、読み進みづらい感があった。
物語は売れない、いや売れる事に少し臆病な演劇作家と学生の不思議で幼い、切ない恋愛ストーリー。
主人公の永田を作者に重ねて読んだ読者は少なくないと思う、理屈と卑屈のかたまりが何となくそう思わせるんだろう。沙希のまっすぐさが切なく感じて、胸がいたくなる。
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終始、何言ってんの?という感想しかない。最初と最後はよかったけど、半ばはダルいし読む気がしなくなって途中積本状態、なんとか読み切った。
完全に個人の主観だけど、森見登美彦とかと少し近いものを感じた。
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今までで一番心に沁みた恋愛小説でした。主人公も、相手の女の子も、抱きしめたいくらいに愛おしかった。特に最後。文体も、強靭な文学的素養に支えられている様子で、好みです。又吉さん、実力派だと思います。素敵な物語、ありがとうございました(^_^)
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又吉さんは、特別、上手な書き手ではないが、印象に残る作品を書く人である。本書は恋愛小説であるが、少しもオシャレじゃないし恋愛小説特有の高揚感も少ない。どちらかというと苦しい作品だ。演劇に身をささげる男と優しすぎる女の恋。時に、優しさは人をダメにし、自らも破滅へと導く。まるで、二人のやりとりが演劇の一部のようである。だからタイトルが劇場なのだろう。読後感は、あまり良くない。心臓に五寸釘を突きさされたようだった。
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理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない誰かを思う、不器用な恋の物語。芥川賞『火花』より先に着手した著者の小説的原点。
若さゆえ苦しみ若さゆえ悩みという歌があった。理想を抱くからこそ、自分自身に置かれた現実に納得できないというジレンマが、青春を輝かせる源でもある。その感情をストレートに表現する著者は、やっぱりただ者ではない。
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恋愛小説が読みたくなり本屋に飛び込んだら平積みされていたので購入した。
上京した夢追いダメ男「永田」が、上京した夢追い女子大生「沙希」と出会い、ぼろっぼろのボロ雑巾になるまでの話。
ひとつには、叶わないであろう夢を追い続ける男の話。ひとつには、夢追い男に入れ込んでどんどん溺れてしまう女の話(だめんずうぉーかーなんて言葉も昔あった)。ひとつには、若さゆえの超絶不器用な恋愛の話。ひとつには、自分を救ってくれている大切な人を幸せにすることができない人の話。いろんな側面があり、かなり中身の詰まった物語だったように思う。
主人公はまぁ彼氏としてはとんでもない屑野郎で、独占欲あるわ誕生日に8,000円の自転車プレゼントするわ家賃は払わんわ自己中過ぎるわ自分が傷付かないようひたすら取り繕っちゃうわで、客観的に見ればよう女の子も付き合い続けるなって思う。
「わたしもうすぐ二十七歳になるんだよ」(p.173)という沙希の台詞には、少なくとも夢という意味では全然前に進めないまま、5年もの年月が流れていたのかと驚いた。
時の流れに焦りを感じ変ってゆく沙希と、いつまでも変わらないでいる永田。この物語は未熟な人間の未熟な恋なのだろうけれど、相手のことが好きなのにどうにもならず崩壊してゆく過程は読んでいて色々と自分の過去を思い出してしまい心に刺さった。
ここまで顕在化していないにせよ、こうした恋愛は珍しいものでもなんでもなく、世間に溢れているのだと思う。