電子書籍
新しい模索ですね。
2020/05/06 14:59
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ギック - この投稿者のレビュー一覧を見る
処女作から追いかけて、これで何作目になることか、やっと今回のような作品が出てきたかと感慨深いものがある。
この作家の特徴は、登場人物のキャラ、特に女性像が際立っていること、スピーディな話の展開にあるかと思う。それは同時にどうしてもストーリー展開に粗雑さが残るという印象も抱いていた。
今回の作品は、犯人というよりも、刑事及び被害者家族など周辺人物の思いや心情の機微に触れることを指向した作品であるかと思う。丁寧に事件の全体を描いていこうとする作家の新しい模索を評価したい。
できることなら、今までの作品のように、スピード感ある展開の中にも、読者が思わずにやっと笑ってしまうような登場人物の軽妙な会話がある作品ラインを残しつつ、今回のような丁寧に心に響いていく作品を時々制作し、その作風を洗練させていっていただけたらと思う。
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限りなく5に近い評価4。またまた一皮剥けたような吉川氏の最新作。
誘拐・監禁ものとくくれるが、神隠しのように忽然と姿を消した美少女の家族と、妹がレイプされたことをきっかけに、どのように接していいかわからず苦悩する刑事である兄と妹との関係修復のドラマともいえる。
舞台が埼玉県警なのもまたいい。首都圏と変わらない犯罪多発県にも関わらず人員はその5分の1程度。すべてが後手にまわってしまいかねない環境の中で奔走する刑事の姿が、とても丁寧に描かれており、何度も何度も苦渋を味わいながらも最後犯人に到達するラストは感動的だ。
主題がしっかりしており秀作であるが故に、犯人の背景描写や誘拐された少女の監禁から解放されるまでの行動や描写がやや希薄で真実味が薄い箇所が、唯一残念な点。
まあこれも大好きな吉川氏作品なればこその辛口採点なので、書き下ろしの新境地作品を十二分に楽しめる作品です。
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ハラマキシリーズやゴミ教場シリーズ他が大好きでずっと読んでいる作家さんなのですが、警察小説の枠を飛び出して化けましたね。
この作品で直木賞候補になっても驚きませんよ。
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2月-3。3.5点。
坂戸市で美少女の小学生が、行方不明に。
妹が過去に犯罪被害に遭った刑事を中心に、懸命の捜査が。
捜査の過程が、丁寧に書かれている。結構面白い。
ラストの唐突感が、少し気になった。
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久しぶりのミステリー
でも、ただのミステリーではなかった。
被害者家族たちの
2次被害や、葛藤は読んでいても
切実につらく、
「そこに希望はないのですか」
と問いかける娘を探し続ける
父親の心情を思うと
胸が締め付けられた。
そして警察官の執念の捜査。
少しでも関りがあると思えば
何か月も田んぼや土手の土を掘り返し、
大量の書き損じのハガキの中の1枚を探したりと
なんとも気の遠くなるような作業の現実や
捜査官自身の人生も垣間見え
とっても重厚で素晴らしい
読み応えのある小説でした。
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まずこの表紙が素晴しいと思います。赤い傘が不穏さと切なさを掻き立てます。少女失踪物は親の端くれとして読むと結構怖くなるので本当はあまり好きでは無いのですが・・・。
この本は一読すると分かりますが、派手などんでん返しや急展開が無いので地味に思うかもしれません。しかし、被害者家族を覆う精神的な暗雲。周囲の邪推。マスコミからの不愉快な取材。無責任な人々の揶揄や罵倒などをじっくりと書き込んだリアリティーと、警察機構の中で最大限少女を助けようと足掻く刑事のリアリテイーが組み合わさって、全体として奥深い本になっていると思います。
誘拐が撲滅されることは無いのだろうと思いますが、至る所に監視カメラがあるこの時代であれば、何らか映像が残されると思うのですが、農道や山林に近い所であれば簡単に攫われてしまいます。この舞台は僕が暮らしている街、友人が多くいる街にほど近い場所です。東京まで1時間もあれば行ける位置ですが、ひと気のない道なんていくらでもあるし、暗がりも沢山あります。
子供が一人で居て無事かどうかなんて確率の問題と運でしかないです。悪意のある大人がいるとそれだけでもう無事ではいられないわけですから。
弱い所を狙ってくる卑劣な犯人は、殺人でなくとも死刑にして欲しい所であります。もし娘や妻に何かあったら絶対に犯人は私刑にすると決めております。
でも、世の中の親は皆同じ気持ちだと思うのですが、実際にはそうならない実情には、残された家族や親類縁者のその後の人生の事が有るからなんでしょう。こう言っていながらも、僕だって実際にそうするのは難しいですもの。
閑話休題
被害者家族と警察が粘り強く一人の少女を探す姿が、TVで見る被害者家族と重なる所ではないでしょうか。TVで映って消えていく家族たちがどんな気持ちで時を過ごし、諦めず街頭に立つのか少しだけ分かった気がしました。
家族という集団は絶対ではないけれど、いざという時に理屈抜きで結束出来るのもまた家族なんだよな・・・。
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豪雨の夕方、学校を出た葵は姿を消した。誘拐か、家出か、事故か。情報は錯綜、捜査方針が二転三転し、三年が過ぎる。
誘拐事件の犯人を捕まえるということより、刑事の執念、被害者家族の思いが強く描かれたもののように思えます。犯人は誰かを第一に求めると長く感じるかもしれません。実際の事件でも時間が経っても地道な捜査で解決すると願わずにはいられません。捜査する過程での様々な人間関係や人間の本性が出てきますが、刑事の家族についての問題も物語を分厚くさせ、全体的に読み応えがありました。印象に残るのはダークウェブの件。こちらも現実でも物語の中のように子供の具体的な情報がUPされているとか、情報がやりとりされていると思うと、怖い、恐ろしいです。犯罪・捜査の一端を知り得た気がします。
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内容的には王道とも言えるミステリ。
地元で有名な小学5年生の美少女が豪雨の中、突如姿を消した。事故か家出か、それとも誘拐か。
少女の名は葵。両親は離婚調停中で、母親と姉と3人で暮らしている。そんな葵が豪雨の日、帰宅途中に突然いなくなった。
葵の事件を担当するのは奈良刑事。様々な被疑者が現れる中、事件とは関係ないところで犯罪者のレッテルを貼られ、先生を辞めざるを得なくなった男性教師など、被害が拡大していく。
どうしても本星を見つけなくてはならない状況で、とうとう捜査本部は解散を余儀なくされる。
それでも事件をずっと追っていた奈良の執念が実る時がついにやってくる。
こうした事件は無くならないし、年々複雑化されていくだろう。『誘拐』とニュースで聞くことがあっても、それを自分に照らし合わせることはなかなかない。可哀想とは思っても、どこか人ごとだ。
この物語は、それぞれの心情が伝わってきて、このラストで本当に救われた。
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2020/6/1
大雨の日に消えてしまった小五の美少女。
事故?家出?誘拐?
彼女を探す警察と家族の物語。
「かもしれない」があればあるほど捜査は難しくなる。
実際にあった事件をいろいろ思い出してしまい、辛くなる。
犯人は少し突拍子無さがあった。
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埼玉県坂戸市で小五の石岡葵という少女が豪雨の中居なくなった。誘拐?家出?事故?美少女ということでつきまといを受けてたとの姉からの供述もあり、埼玉県警捜査一課の奈良たちの捜査は方針が搾りきれず事件は難航する。捜査上にたくさんの人が浮かんでは消えを繰りかえし、捜査本部はどんどん縮小、3年も経過する。奈良も他の捜査にまわされるが、ずっとこの事件と関わるのには彼なりの理由があった。彼自身も事件被害者家族であり、残された家族の辛さが誰よりも解るから、ずっと石岡一家に寄り添うことができたのだと思う。警察の執念の捜査と少女の家族の強い思いが実を結ぶラストで良かった。
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小学5年生の少し大人び美少女が
大雨の降る中忽然と消える
浮かんでは消える容疑者
加害者家族に起こる様々な問題
ネット社会の闇
追いかける刑事の執念
最後までハラハラするストーリでした
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女子児童が失踪した事件…。
一般的なミステリー小説と違って、3年くらい捜査して、解決するまでの出来事が淡々と書かれている。
捜査が空振りに終わることも多くて、そこがリアルだなと思った。
登場人物が多く、警察が目を付ける人物は全員怪しいんだけど、犯人はやはり特に怪しい人物だった。
年賀はがきが解決の鍵だったけど、ランドセルから出た指紋は、犯人のものではなかったのだろうか…?ランドセルから出た指紋が犯人のものであれば、もっと早くにたどり着けていたと思うのだが。
それとも、アリバイありと一旦認定されたら、それ以降は事件関係者として扱われないのだろうか…?
登場する女性刑事が「失踪事件は一番難しい」ということを言ってた。
確かに、そうかもしれない…。
事故か、家出か、と迷って初動が遅れる。
公開捜査まで時間もかかる。
身代金目的ではなく、監禁目的、猥褻目的ならなおのことだ。
現実に、我が子を何十年も探し続けている家族が存在している。
被害女児の姉が詐欺に遭ったときは、きっと、この子はもう立ち直れないのではないか、と思ってしまった。
だって、それ以前から、中傷の電話とか、学校での扱いとか、中高生の少女が引き受けるにはつらすぎたから。
でも違った。
捜査本部が解散して警察が捜査を打ち切っても、父親が犯人だとネットで中傷されても、姉は両親と仲間と共に妹を探し続けた。
冷静に強い気持ちを持ち続けるのはとても難しいことなんだけど、この家族の強さに、私は胸打たれた。
結果的に解決したのは警察なんだけど、家族の執念がなければ警察も動かなかっただろうし。
ものすごくひどくて、つらい事件なんだけど、読者である私も、なんとしてでも葵が生きて家族に会ってほしい!と思う気持ちで読んでた。
だから、最後はほっとした。
これから先、長く続く葵の人生を考えれば、そんなめでたしめでたし!って話でもないのだろうけど、奈良刑事の妹が立ち直ろうとしてる姿が葵にも重なって、なんだか勇気をもらった。
ここからはちょっと愚痴です。
最後まで読んだ読者だから言います。
帯の「みつけなきゃ、家族が死ぬ」ってあおり、なんか嫌な気分になりました。
この本の主題は、そういうことじゃないでしょう。
自分勝手な犯罪者、面白おかしく煽ったりする周囲やマスコミ。そういうことも確かに書いてある。
でも、この本は、マスコミや周囲等に家族が疲弊して死にそうになる不幸を描いた話ではありません。
何度も心が死にかけただろうし、父は娘を探すために仕事辞めたり、美しい母がひどく老け込んだり、姉が妹を助けたいあまり詐欺被害に遭ったりもするけど、逞しくしぶとく、娘が帰ってくることを信じて行動し続ける家族の話です。
その家族の姿に、警察も地元住民も動かされる話です。
家族の絆という意味でも、死ぬ=失われてはいない。
この、「人の不幸を面白がる」ような、下世話な興味を煽るような帯は、良い本だと思うからこそ、残念に感じました。
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同じく小学生の子供を持つ親として、被害者家族の心労や希望を持ちたい気持ち、人々がこの事件を忘れていく悲しさ、警察の捜査が縮小していく絶望、色んな感情が伝わって辛くなった。
心労やストレスでギリギリの状態の家族に向けられる批判やからかい。これが日本では現実に起こっているので人の辛さを思いやる事ができない恐ろしい世の中になったなと思う。
奈良さんのように何年経っても寄り添ってくれて、あきらめないでいてくれる刑事さんが近くにいてくれたのは家族にとって救いだったと思う。
手がかりのない中での捜査はとても大変で、でも小さなところに犯人を見つけるヒントがあるのだなと思った。
最後は小説だと分かっていても葵ちゃんが生きててくれて本当に嬉しかった。家族との再会場面も見たかったかな。
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ハデな展開はないし、エンターテイメント感もなく。
登場人物が丁寧に描かれており、感情移入して読み進める感じの小説
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埼玉県坂戸市で小学5年生の葵が、ある雨の降る日、下校途中に行方不明に…
事故か?事件か?
必死で探す警察、両親、地元の人たちだったが、彼女の行方はなかなか分からないまま。
池袋に向かう電車の中で見つかった友人との交換日記、ゴルフ場から出て来たランドセルなど、単片的な手掛かりは見つかるものの、葵の行方は分からないままの3年間を描く。
いつもの軽いノリの会話は一切なし。
「文庫X」として、話題となった清水潔氏の「犯人はそこにいる」を参考にしていることもあり、実際に起きて解決していない少女誘拐事件もかなり意識していると思われる。
葵がいなくなるまで、別居していた両親は再び家族の絆を取り戻し、区切りとなるところで、必ず顔を出す捜査一課の奈良たち刑事の事件解決への執念がとても印象深い。
今作では3年経って、事件は解決するが、読後には未解決の行方不明事件の子供たちの姿が脳裏に浮かぶ。
最近、いろんな作品の感想で書いているが、「生きてさえいれば」そんな思いが溢れる。
他のシリーズで描くハードボイルドもいいが、こういう作品も書けると言うことで、今作で新境地を知った気がする。