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平成元年に社会人になって、物心ついた頃から追いかけている著者の一人が、この本の著者である増田悦佐氏です。十人以上追いかけている中の一人ですが、最近では何人かがお亡くなりになり寂しいばかりです。裏表紙の情報によれば、増田氏の年齢は今年で70歳、まだまだ書き続けてほしいなと、思っています。
この本は最新本(2019.9.15現在)ですが、タイトルを見て驚きました。米中貿易戦争の本当の狙いは、中国ではなく日本であること、日本の体制をこの数十年で散々叩きのめしてきたと思っていた米国は、まだ満足していないようですね。特に、一般従業員に対してそれほど多くない年収で経営陣が働いて、欧米企業以上の業績を上げていることに。。。
巷の本では、安倍首相はトランプ大統領と仲良くやっているから、米中貿易戦争の被害はなく、反ってチャンスである、と言っている本がある中で、増田氏の視点は目を見張るものがありました。
にもかかわらず、ついにもうすぐ実行される消費税増税、東京五輪後の不況を乗り越えて、日本は復活すると最後は締められています。彼の著作で一貫して述べてきているのは、日本の政治家や大企業の経営者達はダメでも、日本の大衆が賢い行動をとるから大丈夫、というものがあります。
それを信じたい私ですが、一方で若い人達を中心に、二極化が進んできているのも見過ごせません。また日本には大企業が複数あって競い合っていているので、消費者にとっては良い環境だ、というのも彼のポイントでありますが、銀行や私の属していたエネルギー業界は、すでに大型合併が成立してしまい、今度は変わる可能性もあります。
今度も彼のいうところの「賢い一般大衆」を目指して、彼の著作、そしてできればそれと反対の論調の本を読みながら、残りの人生を悔いのないように過ごしたいと思いました。
以下は気になったポイントです。
・世界は間違いなくある方向へ進んでいく、経済がますますサービス化し、それに連れて一握りのエリートが何をどう考え、どんな政策を打ち出すかよりも、大衆が自分たちの趣味や嗜好を素直に表現した消費行動をすることが経済を活性化させるという方向である(p3)
・サービス業主導の経済では、平均的に豊かな人人々が平和に仲良く暮らせる大都市に集中していることが重要である。アメリカはこの文明にはあまり関心を持っていないようである(p5)
・中国は利幅の少ない組立を担当しているので、高い関税をかけられたら赤字を垂れ流して輸出する意味はない、なので利益を確保できる値段に引き上げざるを得ない商品ばかり。(p19)
・アイフォーン1台当たり、国別工場原価において、アメリカ(68ドル)の次に稼いでいるのは日本(67)、中国は8ドル程度、欧州全部で7ドル以下(p21)
・カナダにとっては屈辱の「米国・メキシコ・カナダ協定」の調印式が、2018.1130に行われた、その翌日にカナダはアメリカに対する忠誠の印として、ファーウェイ創業者の娘を逮捕させられた(p28)
・習近平は、当初はもっと高い40%の報復関税で応ずるといっていたが、あっさり諦めるどころか、中国は新たな工業発展戦略(2025年までの戦略)の旗も完全に降ろしてしまった(p29)
・対外純投資ポジションと年間純投資収入の関係が論理的に妥当な位置関係にあるのは、日本・ドイツ・ギリシア・イタリアくらいで、中国とアメリカはおかしい。世界中から約8兆ドルの借金をしているアメリカが、純投資収入では1700憶ドルの黒字である、中国は対外投資が多いが、そこからの収入は無く、-800億ドルとなっている。アメリカは短期債で集めた資産を中国等に高利で貸し付けて儲けている(p44、45)
・アメリカにとっての本当の敵は、毎年巨額の経営黒字を出しながらも、貸したカネに金利、配当を支払う形で、アメリカ金融界に貢いでくれる中国ではなく、対外投融資からもきちんと利益を出している日本である(p47)
・中国の民間企業の純総資産利益率が4%というのも気がかりな数字である、同じ設備を25年間使い続けてやっと投下資金が回収できることを意味する(p65)
・中国の国有企業全面支援体制は2016年に終わった、しかし中国トップ500に入るような大手国有企業には損失補填を続けて、債務不履行に陥らないようにしている(p75)
・中国の投資額の対GDP比率は、日本のピーク(36%@1973)、韓国のピーク(38%@1991)よりも高く、直近で43%である(p85)
・世界中の国と地方公共団体の構造は、だいたい3層構造であるが、中国では5層構造、中央政府→省・直轄市・少数民族自治区→地級市(地方全体を統括する市)→県、県級市(県を統括)→鎮など(p89)
・中国では農村部に生まれて農村部の戸籍しかもっていない人たちは、どんなに長期にわたって都市で働いても制度上は農村に住み続けていることになっている、仕事も限定されている(p91)
・アリババ創業者のジャックマーも、ついに共産党から一人のお目付け役を派遣させられる構造になってしまった、2018年11月に改革開放に貢献した100人に選ばれた共産党員であることが明らかになった(p95)
・中国でもきちんとした中古自動車市場ができたら、経年劣化の激しいアメリカ車のシェアは下がり日本車のシェアが上がるだろう、現在では未整備なのでアメリカ車のシェアが高い(p99)
・電動の場合、モータの回転を車軸の回転にできて省エネできるが、発電所から送電網をつたわる間の送電ロスが大きい、スタンドで蓄電していると蓄電にもロスがある(p100)
・アメリカが外国産の普通車に課している関税は3%だが、海外メーカーのSUVは25%、小型トラックの扱いであるから(p103)
・CEOやCOOの給与報酬が日本のように欧米水準の10分の1でも、きちんと企業経営ができることがわかってしまうと、欧米の知的エリートは本当に困る(p129)
・一人当たりのGDPと、1億人当たり10読ドル長者数の関係を見ると、インド、インドネシア、メキシコ、日本が一番格差が小さい国となる。大きい国としては、香港、ロシア、タイ等(p132)
・アメリカが第二次世界大戦後に、すさんだ国に変質したと隔てる分水嶺とも言えるものが、1946年のロビイング規制法である(p��45)
・アメリカの豊かさの根源は、奴隷制大規模農業経営が非常に効率のいい生産様式だったから、1770年のアメリカの富を南北で比較すると、農地、住宅、そのほか国内資本は大差ないが、奴隷の有無(農地+住宅と同レベル)が差であった(p160)
・我々は、もう大規模化、大型化、一元化が経済効率を下げ、小規模化・軽量化・多様化が経済効率を上げる時代に生きている、それは圧倒的に東アジア、東南アジアである(p167)
・若年層アメリカ国民(17-24歳)の71%が、軍務不適格となっっている、71%のうち30%強が肥満である(p172)
・アメリカの大富豪の間での三種の神器とは、1)プライベートジェット、2)島をまるごと購入、3)ニュージーランドでプライベートジェットの離発着ができる優先着陸権を購入すること(p185)
・2014年にロシア軍がウクライナに侵入したとき、原油価格が140から30ドルへ暴落した、有害廃棄物の少ない天然ガスが石油シェアを奪っているので(p209)
・地球温暖化の要因は、二酸化炭素よりも、太陽の黒点活動のほうがはるかに大きい、第23サイクルが2000年前後に終わり、24サイクル目は黒点活動が非常に低下している。これからは寒冷化するだろう(p210)
・アメリカ経済全体が、シアーズのような状態になっている、GE,IBM,GMといった巨大企業が、今は完全に内部留保ゼロ、借金で自社株買いをして株価を維持している(p230)
・自由・平等・民主主義・市場経済が、欧米社会の顕教であれば、奴隷制・格差・エリート支配・経済統制が、その密教である(p233)
・西ローマは、奴隷にできないローマ市民が増えたので奴隷制がうまく機能しなくなった、東ローマ帝国は蛮族を自由民にする必要がなかったので、奴隷制が長期に維持できた(p233)
・2007-2009年にアメリカは債務増加高がGDP増加額を上回る状態になった、その後も債務増加額が増えていて、永遠に返せない借金が膨れ上がっている状態である。アメリカのGDPは、債務増加額を差し引くと、2013年頃からマイナス成長である(p245,246)
・日本では、日銀が「いままで購入した国債は全部債権放棄します=金利ゼロの永久債に買い替えることで財務省と合意成立した」と言えば、徳政令と同じ効果が期待できる(p247)
・アマゾンは、高速大容量コンピュータを使って、クラウド事業をお安くしますよ、と提供してこれが現在の営業利益の8割を出せるようになった、eコマース部門は営業利益は1%程度(p254)
・集積の経済・範囲の経済を実現する大都市集中制ライフスタイルを快適に送るために非常に重要な条件の1つとして、成人肥満人口の少なさがある(p270)
・そもそも株式会社は、一般民衆から小口資金を幅広く集めるものではなく、王室から特権を与えられた独占企業のことであった、それ以外は個人商店であり健全な経営をしていた(p272)
2019年9月15日作成