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恥ずかしながら、直木賞受賞作と知りませんでした。著者の作品は『鳩の撃退法』が話題になっていたけど、結局読まず仕舞いでいた。
【岩波文庫的】【「小説の面白さを知りたい」と言ってきたら、佐藤正午さんの作品】と言う伊坂さんのオススメ、帯にひかれて購入。
良かったか良くなかったかと言えば、良かった。少し悩んだものの、評価も4にしましたし。
良い読書の時間を持てたな、と素直に思う。すごく劇的なことが起こるとか、心が突き動かされると言うことじゃなく(いや、生まれ変わりが軸になっている時点で劇的なのだけど)、割りと淡々と平らーな感じの時間で、伊坂さんの意図とは違うかもだけど、難解だったり、劇的な展開でないところが、『文学的』で、そう言う時間は良い読者時間を持てたと思うから。
東京ステーションホテルで会っている、小山内と母娘の会話から始まり、どういうことなんだろう?と思っていると、小山内の回想が始まり、また3人の会話に戻る。そして、唐突に(と私は感じてしまった)三角と瑠璃と言う女性の不倫の話が始まる。
なかなか、見えてこない感じと、この「11時」と言うタイトルの中で、更に章立てがあり、場面がコロコロ切り替わり、タイトルの意味も初め分からず。
そんな感じで、序盤は、なかなか入り込めなくて、
どうかなぁ、これ、、、と半分思いながら読み進めていった。
でも、段々、話が見えてくると、むむ?これは、前の章で出てきた場面だぞ、と、ミステリーの伏線回収のように、するすると読め、面白さがアップした。
そう言う、良質な読書時間と面白さもありながら、少し高評価に躊躇があったのはーーー
個人的に、ファンタジー要素が若干好みでないのと、時系列が行き来しながら多くの登場人物が出てくるタイプの組立が苦手なこと。そこで躓くばかりに、ストーリーに入り込みたいのに、ん?と前に戻って確認したり、中断される感じ。
あとは、正直、肝心要の瑠璃が、魅力的では無かった。一見派手なタイプでは無いのだけど、不思議ーな空気をまとっていて、思わせ振りなところがあったり、大胆さもあったりで、男性には魅力的なのかな、とは思うけど、苦手なタイプ。三角との恋愛期間(って、それもそもそも不倫だし)も、そこまで強い想いが残るように感じなかったので、生まれ変わりの主人公としては、ちぐはぐ感もあり、感情移入しにくかった。あと、仕事をたびたび無断欠勤したりしてるけど、なぜか男性客には好評、みたいのも、地味に苦手感をアップ、、、
ははは。小山内同様、『石頭』の私には受け止めにくい要素があった、ってことかな。
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一人の女性「瑠璃」が、前世の記憶を持ったまま、何度も生まれ変り、愛する男性に会いに行こうとする。
初代の瑠璃は、「私は月のように死んで、生まれ変わる」という言葉を恋人に残して、27歳で亡くなる。
そしてその恋人アキヒコも、生まれ変わりを信じて待つ。
純愛小説のようだが、ちょっとホラー要素もあり、序盤はなんだか怖かった。
子供なのに、古い時代の歌を歌ったり、知らないはずの場所へ行こうとしたり。
物語の構成は、一人の男性が一組の母娘とホテルのカフェで待ち合わせ、別れるまでの約2時間。その中で、登場人物それぞれの過去が明かされていく。
ラストは本当に幸せな瞬間で、心に残る素敵なお話。
生まれ変わりって、今まで真剣に考えたことがなかったけど、身近にもいるような気がしてきた。
大好きな作品の一つになりました。
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私は本当に面白いと、読んでいる最中に先が気になりすぎて読むスピードが頭の中で理解するスピードを上回るという現象が起こるのですが、この作品はまさにそれでした。
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月が満ちて欠けるように、死んで生まれ変わる「ある女性」と3人の男性の時を超えた愛の物語。
タイトルの美しさに惹かれ手に取った本でしたが、ミステリの恋愛の要素が見事に融合した1冊でした。
「コーヒーはブラックだったよね?」「家族でどら焼き食べたの覚えてる?」ある男性が、はじめてあった少女に自分との思い出を、まるで体験してきたかのように語りかけられる不思議な場面からこの物語は始まります。1人の女性の愛が引き起こした奇跡が、彼女の想いに反して余波を生み、関わる人たちの人生にさざ波をたてます。
この本を読み終わった時「樹木のように死ぬか。月のように死ぬか。」この言葉が頭に残りました。きっと人生のどこでこの作品に出会うかによってこの言葉の持つ意味の捉え方は変わるでしょう。たった一度の人生だから悔いのないようにと、よく人は言いますが果たして人は命を終える時、満足や後悔を感じる余韻を持てるのでしょうか。願わくばそんな振り返る時間もなく幕を閉じたいものです。
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直木賞受賞作10/5文庫化!…「岩波文庫的」!?
第157回直木賞受賞作、待望の「岩波文庫的」文庫化!
特別寄稿、なんと伊坂幸太郎さん!
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この本を読むまでは、運命により引き裂かれてしまった恋人たちが来世で再会するって、単純にロマンティックって思っていたのですが・・・。
別離の後も人生は続き、こけつまろびつしながらなんとかやっている者にとって、過去からの来訪者は、とんでもない破壊力を持った存在にもなり得るのですね。黄泉がえりでなくとも、恋愛にはそういう一面はあるのかも知れませんが。
私には、恋愛小説というよりホラーでした。
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まず岩波文庫的。これにはすっかり騙されました。ブックカバーをかけて読んでいたので尚更です。装丁をよく見ればすぐ分かるんですけどね。
遊び心も楽しいです。
容れ物話は置いといて、小説の中身ですが、これはもう面白くて一気読み。どう展開するんだろうかと。用意周到な作者の手練れに見事にからめ取られました。
良質な大人のファンタジーです。
話の筋の中で、荒谷母子がどう絡んでくるのかが読めず、落とし前の付け方がサプライズだったのと、エンディングが素敵で読後感を一気に爽やかにしているので救われました。
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途中から紙とペンを持ってきて、家系図を書きながら、必死で物語を追った。というか、すぐにこの作品の世界に入り込んでしまったので、必死、というよりかは、一心不乱、だ。
佐藤正午さんを知ったのは、おそらく10年以上前、六本木にある青山ブックセンターで、「伊坂幸太郎の本棚」という、伊坂先生が好きだったり、影響を受けた作家さんや作品を集めたフェアが開催されていて、その棚を見た時だ。
確か、そこで紹介されていたのは「ファイブ」という作品だった気がする。ずっと読みたい読みたいと思っていて、なかなか手に取ることもなく、結局、本作品が、初の佐藤正午さんの作品となりました。この作品も、伊坂先生が解説を書いていらっしゃらなかったら、手に取るのはいつのことになっていただろう。
意外だったのは、最後の伊坂先生の解説で伊坂先生も書いていらっしゃる通り、小説以外の文章はそんなに得意ではないんだな、ということ。
不器用ながらもそれを見せずに器用にこなす印象のある伊坂先生ですが、解説を読んで、どこか人間らしいその様子に、少し安心した自分がいました。
作品について。
さすが直木賞作品、というべきか。物語の構成は飽きさせないし、何より描写がとても美しく、繊細だった。特に、この作品のタイトル「月の満ち欠け」、その意味がわかったときは、ほくほくと、何かがやわらかく、わたしの中に降ってきたような、そんな感じがした。
まるで夏目漱石が、ILoveYouを「月が綺麗ですね」と訳したような、そんな美しさと儚さ。それが詰まった作品でした。
岩波文庫的、という岩波書店の遊びごころも相まって、とても素敵な作品となって、わたしの心に残りました。
物語の中では、「それ」が起こるのはある年齢、という部分しか描かれていないけれど、今日、自宅出産した方の話を聞いて、お産のタイミングが月の満ち欠けや潮の満ち干きと大きく関係しているということを聞いて、もし、「それ」が起こったのが、満月や新月の日だったら、とてつもない奇跡で、決して人間が足を踏み入れてはいけないような、自然の聖域のようなものを感じて。
わたしがもう一度、あの子に会いたいと強くのぞめば、誰かがあの子になって、わたしの前に現れるんだろうか。
大人になったわたしを知らないわたしの父は、誰かの体を借りて、わたしの前に現れるんだろうか。
もしくは、すでに誰かがあの子だったり、父だったり、するんだろうか。
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岩波から直木賞というのが意外だったので読んでみた。
生まれ変わりをテーマにした小説。元となるノンフィクションでは「生まれ変わりを思わせる事例」について述べられていて、生まれ変わりが存在すると断定しているわけではないのだが(これは本書中でも触れられている)、本書では生まれ変わりが現実に完全に存在するということになってしまっているのが、まず最大の違和感。
それに加えて、なぜ7歳ぐらいで発現するのか、小山内の妻も、後妻の連れ子として生まれ変わっているけど、生まれ変わりの条件はそんなにゆるいのか、世の中生まれ変わりばかりになるのではないか、最初の瑠璃さんはそんなに未練が強かったのかなどなどツッコミどころは尽きない。
残念でした。
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月のように死んで生まれ変わるー瑠璃。
瑠璃も玻璃も照らせば光る“
結構ドキドキさせらた。怖い。
ラブストーリーとして心に染みる。
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小山内堅は、東京駅の丸の内側と中央口側を間違え、余裕を見てきたつもりがぎりぎりの時間となってしまった。親子は既に席について彼を待っていた。母親が紹介する。「この子、るりです、娘の」。るりは、七歳の小学生の女の子だった。三人の男と一人の女の三十余年におよぶ人生が交錯する。たぐいまれな愛の物語。
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直木賞の帯と岩波文庫的装丁に惹かれて手に取った。
佐藤正午さんの作品は読んだことがなかった。
内容を3行で伝えるとすると、目新しさがないものだが、立ち読みで初めの数ページを読んだら買わずにはいられなかった。途中でやめられなくて、歩きながら読んだ。
どんなお話ですか?と人に聞かれても説明するのが難しい。伊坂幸太郎さんの解説がとても的を得ていると感じた。説明しづらいが、「読んで良かった」「とても好きな小説だ」「また読み返したい」と思った。
読み終えてから間に挟まっていた、刊行直前筆者インタビュー「なんだこれはバカにしてるのか!」を読んだ。筆者は64歳になられるのか、、、もっと若い方が書いたように思っていました。
読み終えたその足でジュンク堂へ、佐藤正午さんの他の本を2冊買って帰りました。
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愛しい、怖い、切ない。読む人によって見え方が全く変わってしまうであろう不思議な作品。また一人、好きな作家さんが増えてうれしいです。
2017年に直木賞を受賞したそうですが、私は全く前知識なく、本屋さんで山積みにされたこの本に出合って気まぐれに購入しました。冒頭のミステリーチックな雰囲気からその頭で読み進めていましたが、見る角度によっては恋愛小説になったり、ちょっとオカルトやホラー的な要素もあったり、きっと次に読むときには違った表情を見せてくれるのではないかなあと。
東京のとあるホテルのラウンジで、初老の男と若い母娘が待ち合わせ。もう一人来るはずの男、三角(みすみ)はまだ来ていない。三人はぎこちなく話し始めるが、男と娘の会話はイマイチかみ合わない。三角を待つ間、三角と彼らをめぐる物語の過去を辿っていく…というお話。
ストーリーが進む方向は途中からなんとなく見えてきますが、それでも小説としての面白さを最後まで保っていられるような、安心感のある一冊でした。複数の人物が時代をまたいで登場するので、全体を把握するのにちょっと頭を使います。そこもまたこの作品の良さなのでしょうが。
2017年に単行本が出版され、今年10月に文庫化された本書は岩波出版から出ていますが、岩波文庫じゃないんです。「岩波文庫的」。なんじゃこりゃ?と思って調べてみると、装丁や細部を微妙に崩しながら岩波文庫「風」の文庫本に仕立てた自社パロディだそう。単行本が発行されてまだ二年半しか経たない本書を、佐藤正午さんご自身が岩波出版へ文庫化の打診をしましたが断られ、岩波文庫がダメならそれ風の…といったようなやりとりがあり、編集者さんの粋な計らい(おそらく)で実現したとのこと。岩波さん、素敵です。
そして何より印象的なのは巻末に収録されている、伊坂幸太郎さんの特別寄稿「解説はお断りします」。解説ではありません。本書の解説の寄稿を辞退したという断りの文章です。読んでいただければわかりますが、伊坂さんの佐藤正午さんに対する愛情あふれる文章となっています。本書はこれも含めて素敵な作品です。
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直木賞受賞作。他に読んだ数作品も面白かったし、岩波からってのも面白いし、早速入手して読んでみた。この、前世云々の考え方がどうも苦手で、頭ごなしに否定にかかってしまいがちなんだけど、そのあたりは作者のさじ加減が絶妙で、変にカルト的にならず、上手い具合に物語のスパイスとして効かせられている。だんだん人の繋がりがややこしくなってくるけど、各キャラがよく書き分けられていることもあり、抵抗なく頭に入ってくる。面白かったす。
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トリッキーな装丁デザインのサンプルぐらいのつもりで購入したが、よみだしたら止まらず一気に読んだ。
瑠璃たちが時間を超えて、月のように死に、生きるのに対し、男たちは樹のように生きる。男たちが建設業者なのは、それが空間に根差す仕事だからだろう。