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まさに大人の御伽話。
寝る前に1話ずつ、大事に読んで、しみじみ楽しい。
主人公は朝顔金太。
小柄で丸顔の愛嬌ある若者である。
二代目とはいえ、岡っ引きとして売り出し始めたところなので、えらそうぶったところがまったくない。
炊事洗濯拭き掃除はおろか、○○さらいに○○○みまで、尻からげでまめまめしく動く。
子分はたったの一人。
火吹き竹のあだなを持つ、やたら背の高い竹蔵のみである。
朝顔に竹のコンビネーションだが、挿絵にはそんな凸凹模様がまったくない。
どちらが金太で、どちらが竹蔵かもわからないそっくりさんが二人描かれているのだが、まあ、いいではないか、 初出誌の中一弥、渡部菊二氏による挿絵なのだから。
『朝顔金太捕物帳』のなにがよいといって、爽やかなのである。
陰惨さがない。
エロがない。
横溝正史といえば、
菊人形に人の首があったり、
朱に染まった新床と金屏風があったり、
美少年がガラスの棺で海に流されていたり、
陰惨で、淫靡で、耽美というのがイメージなのだけれども、この『朝顔金太捕物帳』にはそれがない。
それもそのはず、これは戦時下に書かれたものなのだ。
これはいかん、あれもだめだと、制限が厳しかったので、自然、陰惨さもエロもないシリーズができあがったのだ。
びっくりするくらいハッピーエンドな話さえある。
これがたまらなく、よい。
出版は、その名も「捕物出版」というところだ。
ご夫婦二人だけで、捕物小説ばかりを出すという、なんともあっぱれな心意気の、『吹けば飛ぶような矮小出版社』である。(出版社サイトより)
よって、出版の仕方も変わっていて、プリント・オン・オンデマンド方式をとっている。
注文ごとに、1冊ずつ印刷製本していくという、寿司、蕎麦、釜飯、ピザといった粋なお店の方式である。
よって、一般の書店には並んでいない。
手に入れようとするならば、方法は以下の三つである。
まずは三省堂書店神保町本店。
印刷製本機があるので、注文後、30分で出来たての本を受け取れる。
そして、三省堂書店の各店では、その取り寄せ注文ができる。
Amazonと、楽天ブックスでは、通販で買うことができる。
これらの方法でのみ手にすることができる。
そして、取り寄せ方法によって、若干仕様が変化する。
使う紙の種類や、加工に違いが出てくるので、厚さ、重さ、手触りが変わってくるらしい。
詳しい仕様は、出版社のサイトに、わかりやすい表がある。
http://www.torimono.jp/books/pod.html
「中身を見てみないと、面白いかどうかわからない」という人には、Amazonの「なか見!検索」をお薦めする。
「字の大きさがわからないと、読めるかどうかわからない」という人には、先の出版社のサイトである。
『通常の単行本より一回り大きな活字を使っています』とあり、隣に目盛りを置いた見本の写真まで載っている。
http://www.torimono.jp/books/
子供の頃、私は、寝る前に本を読んでもらう���が好きだった。
親や祖父母が音を上げるくらい、読んで読んでとせがんでいた。
それくらい、寝る前の物語、御伽話が好きだったのだ。
大人になった今、読んでくれる人はいないのだが、自分で読むことはできる。
現と夢の間に物語をひもとけば、あの時と同じ、わくわくした心持ちになる。
大人の枕辺には、捕物帳である。