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紙の本
父親の歴史を継いだものとして
2020/04/24 07:45
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上未映子さんの問いかけに村上春樹さんが答える、そんな長時間インタビュー集『みみずくは黄昏に飛びたつ』の新潮文庫版には、この本、つまりは村上さんが自身の父親について綴った長いエッセイについて、「書くのは一種の義務」だと語っている。
そして、父親の戦争体験を「語り継がなくちゃいけないと思っていた」と述べている。
このエッセイが総合誌「文藝春秋」の2019年6月号に掲載された時は随分と話題になった。何しろ村上さんはたくさんのインタビューやエッセイを残しているが、個人的な事柄についてはあまり語ってこなかった。
特に父親についてはなかなか難しい関係であったようで、このエッセイにも「僕と父親とのあいだの心理的な軋轢は次第に強く、明確」になっていたと書いている。
しかも、村上さんが職業作家になって以降、「絶縁に近い状態」だったともある。
そんな父親との関係がありながらも、このエッセイで「父親について語る」のは、やはり「戦争」という事柄があったからだろう。
この本の「あとがき」に「戦争というものが一人の人間の生き方や精神をどれだけ大きく深く変えてしまえるか」ということを描くとすれば、村上さんの前に父親がいたということだろう。
それは極めて個人的な係累かもしれないが、村上さんにとってやはりそれは書いておかなかればならないことであったのだと思う。
だから、村上春樹という作家の、これは独立した、そして屹立しているエッセイなのだろう。
電子書籍
ねじまき鳥の重要解説書
2020/05/06 17:31
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:象太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
父と一緒に猫を棄てに行って、自転車で帰ってきたら、その猫に出迎えられた。
本書にある、この不思議な話に近い体験を、案外と多くの人が持っているのじゃなかろうか。私事で恐縮だが、ずっと昔の高校の頃の話。学校前で友人と別れ、自転車を10分ぐらいかっとばし、赤信号に出くわしたので停止した。ふと横を見ると、その友人が立っていた。友人は徒歩であった。
その現象はいまだにきちんと説明できないが、自分では確かに体験したものとして受け入れている。でも人に伝える時は、リアリティを保つのにギリギリになってしまうような話だと思う。あるいは、信じられないが自分も似た体験をしたんだと打ち明けてくれる人が多いようにも思う。
『猫を捨てる 父親について語るとき』は、この手の話が冒頭にポンとあって、いやに共感しながら読んでしまった。リアリティがギリギリの話でも、分かる分かると読んでしまうのが村上作品の魅力である。いつもながら完読はあっという間であった。
本書は、『ねじまき鳥クロニクル』の著者本人による重要な解説書なのだと思う。ねじまき鳥が超常現象話ではなく確かな体験の重みのようなものを感じさせる理由は、本書を読んで若干ながら分かった気がした。
父の回想は、軍刀で人の首がはねられる残忍な光景は、言うまでもなく幼い僕の心に強烈に焼き付けられることになった。父の心に長いあいだ重くのしかかってきたものを息子である僕が部分的に承継した(本書引用)
著者は、父親のことを書くのにどんなところからどんな風に書き始めれば良いのかつかめなかったが猫を棄てに行った話を思い出したら自然に書けた、と記している。猫の話が、著者を父の戦時体験に連れ出している。
あのよく出てくる「井戸」は、猫だったんだなあ。
紙の本
物語の源流。
2020/06/13 22:23
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:なまねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹版ファミリーヒストリー。といっても主に父にまつわる話。
小説でなくエッセイである。
村上春樹に限らず他の作家であっても、作品を形作っている一端は確実に家族との時間なのだろう。
その時間が人によっては穏やかで幸福な思い出として記憶されていたり、苦い確執であったり、あるいは両方がないまぜになっているものだと思う。
あとがきに「身内のことを書くというのは(少なくとも僕にとっては)けっこう気が重いことだった」とある。
それでもこうしてひとつの作品となっているということは、なんらかのわだかまりがある程度は昇華されたのかもしれない。
「一滴の雨水」として、歴史や思いの一端を次につなげていこうという作者の意思を感じる。
血のつながりもないただの一読者ではあるが、そう思った。
紙の本
春樹について考えるうえで必読
2021/07/28 23:36
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹という作家を考えるうえで最重要エッセイといえるだろう。デビュー作『風の歌を聴け』にはすでに中国での戦争が登場し、これは『羊をめぐる冒険』や『ねじまき鳥クロニクル』で前景化する。しっくりいかなかった父親との関係という私的な部分と、戦争の被害者であり加害者でもあった父親という存在をいかに受けとめるか、この両面が作家村上春樹を作り上げたのだろう。
紙の本
戦争体験がつないぐもの
2022/08/22 22:27
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トリコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
長い間絶縁状態であった父。その父との関係や父自身の体験を調べ、理解しようとさせたものは何だったのか。それは紛れもなく過酷で凄惨な戦争体験。
父親の所属した部隊について調べる術、それを書物として残す術を得ていた著者だから残せるものだが、そうした術を持たない圧倒的多数の経験を思う。
紙の本
ふしぎ
2021/11/21 12:21
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投稿者:たかし - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹は、頻繁に猫の小説やエッセイを書いている。捨てるだなんて、作者がとてもネコが好きなので不思議に感じた。
紙の本
ハルキストでなくても
2021/09/27 11:31
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
文芸誌に掲載されたインタビューが、単行本化された。
村上春樹作品は、部分的にしか読んでおらず、ファンとは言えない。
それでも、この本は読んで良かった、保存版にせねばと思わせる一冊だ。
内容は極めてパーソナルで、長年不仲だったという父親についてつづっている。
タイトルにあるように、「猫を棄てる」記憶、ある種のトラウマが、このインタビューの通底音になっている。
話題になったのは、普段個人的なことを語らない村上氏が、父と息子(自分)の関係に触れているからだろう。さらに父の戦争体験にも触れ、戦時中に捕虜殺害に関わった可能性にも言及している。
結局、父親がどの程度関わったのかなどは分からないが、村上氏は、「父のトラウマ」を息子であるぼくが「部分的に継承した」と表現している。
こんなふうに、親から子へ、またその子へと、記憶(トラウマ)は引き継がれていくのだろう。それが、「壁」に対して「卵」である人間なのだろう。
重いテーマだけに、読む側も苦しくなって無傷ではいられない感じだが、戦争の記憶の継承とか、父子関係とか、歴史への向き合い方とか、さまざまな問題への答えのようなものが、美しい言葉で紡ぎだされていて、心地よい。