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本書は、若くして病を患い闘病中にドイツ人青年と結婚した女性が、命を終えるまでのおよそ五カ月間に、一冊のノートに綴った詩のことばを日付順に並べ構成したものだそうです。
著者のブッシュ孝子さんは1945年生まれ、東京育ちでお茶の水女子大学大学院で児童心理学を学んだのちドイツヘ留学。留学中にウィーンでヨハネス・ブッシュ氏と出会いますが、1970年乳がんと診断され手術を受けます。
1971年ブッシュ氏と結婚。
1973年詩作を始めます。
1974年92編の詩を残し28歳で永眠。
解説は詩人の若松英輔さんで、彼女の詩に出会うことがなければ、今、詩を書いていたかどうかもわからないとおっしゃられ、何編かの詩を私を救い出してくれた詩として挙げていらっしゃいます。
私はこの詩集は闘病中ということ、死ということを抜きにしては語れない詩集だと思いましたが、全くそれとは違う観点で書かれた詩にハッとしたり、美しさに心を奪われました。
図書館に、返却する前に、その3編を以下に記させてください。
無題
私のために生きようという人がいる
その人のために私も生きよう 9/14
「シャンソン」
愛はきっとどこかで私を待っている
どこか遠くの知らない町で
いつめぐりあうかは運の良さ次第
愛さえあればもう淋しくはない
愛さえあればもう淋しくはない
愛さえあれば私は幸せ
私は愛をはなしはしない
若いあなたにこう夢みている
昔 私がそうだったように
ところで
愛はあなたを待ってなどはいない
特に遠くの知らない町では
愛は運から 生まれはしない
愛の中でも人は淋しさに泣き
愛はあなたを 幸せにはしない
愛は明日にでも さよならをつげる
それでもあなたは愛を信じますか
それでもあなたは愛をさがしますか
心の傷を涙で洗いながら
おろかな今の私のように 9/20
「九月の庭は色とりどりの思い出で一杯」
サルビアの赤 ままごとあそび
葉っぱの上のごちそう 甘いみつのごちそう
松葉ボタンのべに色 花菱のべに色
氷かじって 山車ひいたあの夏まつり
けいとうの紅 兵庫帯の紅
べっこう飴なめなめ 金魚すくいした縁日
トレニアの紫 はじめての単衣
あいあいがさの散歩 はじめての散歩
かきねのつるバラ 遅ざきの紅バラ
ふるさとしのんで葉書をかいた遠いあの町
コスモスの白 花嫁いしょう
私はとついだ 九月の終り
何ももたず思い出だけもって
だから私の庭は色とりどりの
思い出で一杯 10/5
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病気を患って、病院に入院したことがある人なら、これを読んで、仲間を見つけたと思うだろう。
自分は決して1人じゃない。孤独に震える魂の詩が、そっと寄り添って慰めてくれる。
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2020年7月
癌により28歳の若さで亡くなる女性の、最後の命の煌めきではなかろうか。
そのへんのノートに残されたメモを読んでいるような気もしてくる。
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人の命は寿命の長さでは計れないと感じました。
作品として残すことで、永遠の命を得たブッシュ孝子さん。