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分厚い熱気の塊のような長編小説を書き続ける日々の合間に、作家の中から零れ落ちそうになった別の物語たちを、この機会にきちんとした形で作品化させ、出版させるということになり、本書は登場したという。どこかで零れ落ちそうになっていたこれらの物語を今、6つの中編小説というかたちで読める幸せをぼくは感じる。
それとともに本書はウィンズロウのこれまでの作品の総括であり集大成ででもあるように見受けられる。かつてのシリーズや単発作品の懐かしくも印象深い人物たちがそこかしこで、しかも今の年齢なりに成長したり歳を重ねたりして登場してくれるからだ。読者は作者の創造した魅力的なキャラクターたちにこの一冊を通じて再会を果たすことができる。もちろんそのときの読者としての自分にもまた会えたような想いとともに。
『壊れた世界の者たちよ』
アーネスト・ヘミングウェイ『武器よさらば』の一文から着想を得たタイトル。直近の麻薬戦争三部作の残酷無比な世界の延長上にあるが、『ダ・フォース』のようなタフなチームリーダーに率いられた警察チームの一歩も引かない姿勢が、悪党たちとの徹底した私闘の物語を紡いでゆく。全編アクション、血、復讐の怒りに満ちている。スピーディな描写力で、『カルテル』のその後も続くアメリカの今を活写。無法にも見える法の側のチームの闘いのクレッシェンドに、警察トップが下す粋なはからいがウィンズロウらしい選択肢。固唾を呑みながら引き込まれるトップに相応しい作品。
『犯罪心得一の一(クライム101)』
スティーヴ・マックイーンに捧げられた一作。ハイウェイ101、パシフィック・コースト・ハイウェイ(P・C・H)。宝石泥棒デイヴィスを離婚検討中のサンディエゴ市警ルー・ルーベスニックが追いかける犯罪と追跡と逃亡の軽妙なクライム・ストーリー。ルーはこの後の作品にも二作ほど登場、いい味を見せる。ポンコツのホンダ・シビックに乗った平和と正義を愛するこの刑事の味に、本作の主人公デイヴィスの『ブリット』や『ゲッタウェイ』のマックイーンへの憧れ、二人ともに101号線を愛してやまないという独特な趣向に、味のあるストーリーテリングを積み重ねたいかす逆転プロットの快作である。
『サンディエゴ動物園』
エルモア・レナードに捧げられている、本書中、最もコミカルで楽しい物語。いきなり銃を持ったチンパンジー(チンプ)という珍妙過ぎる事件に翻弄される市警警官クリス・シェイが主役だが、本作では街全体がふざけて少しずつズレた人々でいっぱいなように見える。前述のルー・ルーベスニックも香辛料のような存在感で一部登場。ネット社会での個人攻撃も素材に取りつつ意外なラストには腹を抱えて笑いたくなる。こういうウィンズロウは最近では珍しいか。
『サンセット』
『夜明けのパトロール』のブーン・ダニエルズを登場させ『サンセット』と名付ける粋を見せるこの作品は、レイモンド・チャンドラーに捧げられる。本書では、お馴染みのサーフィン・チーム隊に加え、ウィンズロウの最初のシリーズ主人公ニール・ケアリーも登場、彼のその後の変化と変��らないところと両面が味わえ、なおかつ追いかける悪党は堕ちたヒーローで伝説のサーファーで名前はテリー。姓はレノックスではないのだが。マーローのいないビーチでの追跡行、これまた一気読みの快作。
『パラダイス』
この作品の舞台カウアイ島は、個人的に二度(しかも一度は自分の挙式で)訪れている場所なので個人的にも凄くインパクトのある物語だった。相も変わらずろくでもない大麻ビジネスをこの島でと狙いをつけた-副題:ベンとチョンとOの幕間的冒険-なのである。『野蛮な奴ら』シリーズの主人公が少しも変わらず、なおかつ『ボビーZの気怠く優雅な人生』のティム・カーニーや『カリフォルニアの炎』のジャック・ウェイド(こちらは一瞬の登場)までが顔を揃えるサービスぶり。なんだか旧作を軒並み呑み(じゃない、読み)直したくなるようなクール作品だ。なんと言ってもOが変わらず良いのです。
『ラストライド』
最初と最後の作品は結構シリアス作でサンドイッチしている。本書も近作の延長戦の如くメキシコ国境戦争に材を置き、国境近くの檻に入れられ両親と離れ離れになった孤児たちの救いなき運命、それを何ともできない国境警備隊員の中で炎の如く渦巻く正義の呻き声が、思いがけない大事件を巻き起こす。最後の最後の一行で、ウィンズロウはまたも読者を泣かす。一体、この作家の才能はどこまで深く凄腕なのだろう。
すべての作品が100頁超くらいの中編。ベテランの料理長が振るう包丁のような正確さで同じ長さに切り揃えられて見える。すべての味にコクがあり、ウィンズロウ独自の味があり、食後の旨味があり、忘れ難い読後感が心を占める。作家初の中編集ということもあるが、すべての作品が同じハイレベルで見事な切り口を見せている。期待を裏切らぬばかりか、驚くほど濃厚なエッセンスに満ちた、この作家を総括するような一冊であった。ウィンズロウの男たち、女たちが、しばらくは夢に出てきそうだ。満足!
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6篇の珠玉の中篇。まさかこれだけの年月が経た後でニール・ケアリーに会えるなんて。ボビーZと再会できるとは。感涙の極み。生きていて良かった。本読みを続けていて良かった。至福の時間だった。
どの作品もウィンズロウの世界。2020年のベストでありオールタイムベストです。
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6編収録されている中編集。アメリカの問題、世界の問題を描いて怒りや悲しみとかたくさんの感情がある。なかなかどれが正しいとか決められないことも多くて、でも正しいことをやろうとした、やった人たちの想いが伝わってくる。これまでの作品に登場した人物たちも何人か出てくる作品があってそれも嬉しい。最近は大長編のような物が多かったけれど今回のような中編集も魅力的。6編それぞれ違った面白さがあってどの作品も読み応えは抜群。
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犬の力から始まるメキシコ麻薬戦争3部作しか読んでないので、サンディエゴを舞台にした3作品は意外だったな。こういうゆったりとした作品もあったのか。。。
解説を読むと関連作品が多くあるみたいなので少しずつ手を出してみよう。
でも一番好きなのは表題作かな。もうめちゃくちゃなんだけど狂気に触れさせてくれる、ドン・ウィンズロウとして読みたかったものでもある。やはりこういうヒリヒリした感じを読みたいんだ!
ダ・フォースも読もっと。
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生を受けてから波に乗ってきた。そのことから学んだのは波はどこにも連れてってくれず、必ず本当の自分のところに戻ってくるということだ。
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どれも面白かった。
これがリアルなアメリカなのか。しみるなー。
個人的にはサンディエゴ動物園が好きかな。
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中編小説が6篇。
どの話もそれぞれに面白く、ラストがどれも粋だ。
そして常に自分の内なる善悪や正義を問われている気がする。
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6篇どれも本当に良かったけれど、
ラスト・ライドは心に来る作品でした。
この人の作品は本当に読むと止まらない。
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ドン・ウィンズロウ初の中編小説集は、読み応えがあった。中編になるとなおさら、
巧妙なプロットとしゃれたセリフが目立つ。過去の長編の登場人物たちが顔を見せ、後日談が語られるのもうれしい。
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ドン・ウィンズロウは期待に応えてくれる。
・壊れた世界の者たちよ
・犯罪心得一の一(クライム101)
・サンディエゴ動物園
・サンセット
・パラダイス――ベンとチョンとOの幕間的冒険
・ラスト・ライド
の中編6作。
最期のラスト・ライドが良かったと思う。
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ドン・ウィンズロウは初めて読むが、読み応えがあった。
6つの中編それぞれが全く違う物語で、それぞれに堪能した。
①壊れた世界の者たちよ:表題作、兄弟を殺された麻薬犯強行係がチームで仇を取る血腥い物語。
②犯罪心得一の一(クライム101):スマートな強盗と離婚されたしょぼくれ刑事の知的な戦い
③サンディエゴ動物園:銃を持ったチンパンジーに右往左往
④サンセット:死んだ妻との思い出とバウンティハンター社の最後の仕事
⑤パラダイス――ベンとチョンとOの幕間的冒険:ハワイでマリファナ栽培で業者とトラブル
⑥ラスト・ライド:メキシコ国境沿いの難民少女を母親のもとに送り届ける
どれも特徴があるが、⑥のラストが何とも切ない。
アメリカの光と陰と言うけど、ほんと陰ばっかじゃん、と思わずにいられない。
そんな中で、こんな男の悲劇的な最後がラストとはねえ。
読むのに結構な時間が掛かったがナイスな読書体験だった。
Amazonより--------------------
『このミステリーはすごい!』2020年度(宝島社)第3位『ザ・ボーダー』に並ぶ最高傑作!
復讐、正義、野望、喪失、裏切り、贖罪――
アメリカの「今」を活写した6篇を収録。
【解説】穂井田直美
「いま最も偉大な犯罪小説家」が活写する、アメリカの光と陰――
驚愕と感嘆、絶賛の声高し!
「驚き満載の玉手箱。ウィンズロウの多彩さが堪能できる上にテーマも深い」堂場瞬一(作家)
「市井の黙示録のような見事な一冊」田口俊樹(翻訳家)
「正義は最善ではない。本作が残酷で理不尽な物語か、自己犠牲の美談か、それは読者の正義感に委ねられる」丸山ゴンザレス(ジャーナリスト、第6話「ラスト・ライド」)
ニューオーリンズ市警最強の麻薬班を率いるジミーは、ある手入れの報復に弟を惨殺され復讐の鬼と化す――。壊れた魂の暴走を描く表題作はじめ、チンパンジーが銃を手に脱走する「サンディエゴ動物園」、保釈中に逃亡したかつてのヒーローを探偵ブーンが追う「サンセット」、映画原作『野蛮なやつら』の幼なじみトリオが引き起こす新たな騒動「パラダイス」など6篇を収録。犯罪小説の巨匠による傑作中篇集!
■【収録作品】
壊れた世界の者たちよ
犯罪心得一の一(クライム101)
サンディエゴ動物園
サンセット
パラダイス――ベンとチョンとOの幕間的冒険
ラスト・ライド
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表題作『壊れた世界の者たちよ』は映画さながらの疾走感があり、刺激的なエンタメとしてぐんぐん読み進めてしまった。
他の短編も、個人的に好きな伊坂幸太郎作品と通ずるような小洒落た表現やクールなキャラクターがとても魅力的でありながら、なおかつ現代アメリカ社会の闇をリアルに描き出しており、クライムサスペンスとしても社会派小説としても読み応えがある。
とりわけ『ラスト・ライド』については別格。
根強い国境問題/移民問題を鋭く抉り出しながら、その前線に立つ人々の感情と哀愁に心を揺さぶられ、読後しばらく動けなかった。
ただのエンタメではない。
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古本屋で購入
短編集といいながら、ブックカバーを選ぶような分厚い本。
一編が150ページ以上の短編を6作で編纂しており、トータルは700ページを超える。
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昨年の7月から、ドンウィンズロウの作品を、デビュー作の「ストリートキッズ」から執筆順に読み始めて、この作品までたどり着きました。これまでの作品の後日談(だけじゃ無いけど)がちりばめられていて、こういう読み方をして来て良かったとしみじみ思いました。ニールとブーンが、同じ作品で活躍するなんて、最高!その他のエピソードも、作者のアメリカの現状に対する憤りと国に対する愛情が溢れる名品ばかりでした。あと、3部作となる1シリーズで執筆は最後にするらしいですが、この中編集は一つの作者のけじめかな、と感想です。
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短編ではなく6篇の中編集。なんと過去作品のキャラが不意に出てきたりする作品があり、嬉しい驚き。
やはり最初の作品の「壊れた世界の者たちよ」は、警察の麻薬班とマフィアとの闘いで、復讐の応酬は暴走し止まらない。まさに”壊れた世界の者たち”の話しで。
「サンディエゴ動物園」は、チンパンジーの脱走から始まる話で、コミカルで楽しい作品。
他ももちろんよいのだが、最後の「ラスト・ライド」も逸品。国境警備隊と不法入国者とそれにまつわるトランプのルール変更のアメリカの苦悩の話し。最後が切ないね。