紙の本
変転する事実
2023/07/24 17:18
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
下巻に入って新しい視点が登場する。ウォリス博士という幾何学者、また議会派と王党派両方に仕え、権力の綱渡りを行った、さらに「信用できない」語り手だ。
この人物は、自分の暗号解読という専門分野から双方の陣営に重宝されているのだが、様々な機密に触れているためどちらからも完全な信頼は得ていない。さらに自意識が高く、周りのものを見下しそれを隠そうともしない性格がわざわいして友と呼べるひとはいない。だが、従者として雇った青年に異常なほどの好意をもちのめりこんでいる。これが彼の弱点となり、物事の判断において目を曇らせている。
この人物のマルコ・ダ・コーラのへの評価は「国内不安定化を目的とするカトリック派のスパイであり暗殺者」だった。
実を言うと自分も上巻終盤あたりから、同じ見方をしていたので、ウォリスと同じ性格的欠点を持っているのか? と正直不安になったほどだ。
ウォリスは、愛するマシューがコーラに口封じされたと結論づけたために、ほとんど復讐の鬼と化してしまい、コーラがロンドンのホワイトホール宮殿の国王の寝所近くに現れたことによってその思い込みは頂点に達する。
コーラの正体が暴かれたかと思ったところに登場するのが、名声や富など現世の欲から距離を置いている歴史家ウッドである。彼はサラと今までの三人の語り手とはまったくちがう関わり方をする。三人とは異なり、彼女とより人間的な感情の交流をもつのだが、その彼にしたところで、自分の家の雇人としての範囲内で、という制限付きの好意であり毀誉褒貶の激しいサラと恋人関係にあることを最後まで心のどこかで恥じている。
そのため彼女が無実の罪で死刑を宣告されても、我が身可愛さと恥の意識から積極的に助ける行動ができないジレンマに陥っている。俗物や偏執狂ではないものの、現代人にも通じる弱さから自由になれないために、こちらをいらいらさせるのだ。
こうして一癖も二癖もある四人の語りを聞き終わって思うのは、人間は各自の価値観、社会的立場、人生を懸けて追い求める目的などによって、物事を見る目は固定されてしまうということだった。当然のようだが、案外人はこのことを忘れがちだ。
もちろん自体を複雑にしたのは、定見のない国王そのひとが大本にあるけれど、ひとが思考の袋小路に陥るのは、必ずしも時代や社会のせいだけではないと改めて思った。
歴史ミステリでありながら、現代の野放図なSNSを読んでいる感覚がずっとつきまとっていたのは、おそらくこのためだろうと納得した。
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各章の語り手のミソジニーとパターナリズムに辟易しながらも、語り口と構成に乗せられて一気に上下二巻を読み通してしまいました。
読後感も程よく、面白かった!
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四人の語り手の手記により、大学で発生した毒殺事件と、その犯人と疑われた女性の運命如何を主筋として、イングランド王政復古時代の政治情勢や党派対立等を絡ませながら、物語は進んでいく。
ミステリとして見れば、信頼できない語り手の問題や語り=騙りといったことになるが、媚びず、卑屈にならず生きていくヒロインの人物造形が実に魅力的だと思った。
ヒロインのラストについては、ウーンという気持ちも拭えないが、語りの中で、そこまで含めて書かれているではないかと言えば、そうかもしれないと思わされる(ネタバレ気味の恐れもあるのでぼかしていますが、最後まで読まれた方には分かっていただきたい)。
本書では、実在の登場人物も多く、当時の医師の社会的立場だったり、輸血研究の先陣争いだったりと、興味深いトピックも面白いし、歴史小説としても読み応えがあると思われる。
ただ、少し注文が。年表や登場人物の表が付され、また訳者解説でも時代背景に触れられてはいるのだが、もう少し、この時代を巡るイングランドの政治党派関係や宗教的対立等について説明があれば、より人物関係の微妙さや出来事の意味合いについて理解が深まったのではないかと思う。
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読み応えがあった。
語り手が変わるたびに意味が変わっていく出来事の連続で、主観が違うとこうも違うのかと。もちろんあえて真実を書いていない語り手も存在しているのだけど。2人目が1番手こずった。ちょっとどこまでが妄想なのか…。下巻に入ってからは割と一気に読めたかな。
手記ごとに訳者が違うも面白い。より一層、4人それぞれの視点、それぞれの物語へと入ってしまうので事実はさらにわからなくなっていく。
語り手が変わるたびに、ひっくり返されるミステリ。あまりこの時代の宗教戦争に詳しくないことが悔やまれたけれど…薔薇の名前を読んでみようと思う。
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深いですね~側面どころか、縦・横・斜め・あげくは斜め下から読まなくてはならない本だったなんて・・・。
4人の手記の形をとっていても政変ありスパイもどきも出没。そしてまさかのキュン話にまで行き先を変えながらもミステリーの形を保ち、謎は深まるばかり。
『薔薇の名前』を称している通り、時間をおいてまた手に取ってみたいカモ。
自分のなかの最大の??だった東江先生の謎もあとがきでスッキリ。
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<上・下巻併せての評です>
時は一六六三年三月。王政復古から三年がたち、イングランドは落ち着きを取り戻しつつあった。ヴェネツィアの貿易商の息子でライデン留学中のマルコ・ダ・コーラは、家業に持ち上がった騒動の対策のため、英国に到着した。ところが、頼みにしていた代理人は死亡、父の資産は事業の協力相手に奪われてしまっていた。あいにく路銀も底をつき、一夜の宿もままならぬ身。ライデン大学で教えを受けたシルヴィウス師の紹介状を手に、急遽オックスフォードに向かう。
当時オックスフォードには、後に「ボイルの法則」を発見することになる、若きロバート・ボイルほか、ジョン・ロックやクリストファー・レンといった錚々たるメンバーが毎夜、エールを酌み交わしては科学や哲学論議に花を咲かせていた。ボイルがいると教えられたコーヒー・ハウスで、コーラは一人の女が男に頼みごとをし、邪険に断られる場に出会う。困っている娘を放っても置けず、耳にした話から、医学の心得があることを告げ、援助を申し出る。
女の名はサラ・ブランディ。母親が怪我をしたが医者を呼ぶ金がなく、元の雇い主に急場の助けを請い、断られたのだ。コーラは応急手当てを施し、その後も毎日様子を診に行くが、友人の医師リチャード・ローワーと地方へ出かけている間に、サラが殺人犯として拘留されてしまう。殺されたのはグローヴという大学教師で、死因は毒殺。サラの元の雇い主であり、馘首されたのを恨んでの犯行、というのが逮捕の理由。裁判の結果、サラは罪を認め、絞首刑となる。
「『薔薇の名前』×アガサ・クリスティ」という、惹句が目を引く。事件の裏には二通の文書があり、いずれも暗号化されている。暗号を解く鍵は一冊の本。舞台はオックスフォードの学寮、そこで毒殺事件が起きるという、まさに『薔薇の名前』仕立て。本作は四人の手記からなり、視点が変わる度に事実と目されていたことが、次々とひっくり返されてゆく。誰もが「信頼できない語り手」というわけだ。日本なら映画『羅生門』か、その原作である芥川龍之介の「藪の中」だが、英国ならクリスティの『アクロイド殺し』だろう。
手記を書いたのは、ヴェネツィア人学徒マルコ・ダ・コーラ。トリニティ・カレッジ法学徒ジャック・プレスコット。オックスフォード大学幾何学教授ジョン・ウォリス。歴史学者アントニー・ウッドの四人。殺人が起きたのは一六六三年だが、四人の手記を読むと、事件の始まりはそれよりずっと以前にあることが追々分かってくる。ことは、宗派対立と王を補佐する地位をめぐる権力闘争、という国を揺るがす大事に繋がっていた。
ジャック・プレスコットの父は王党派の軍人で剛毅清廉の士として知られていたが、何者かの讒言で内通者と断罪され、国外に逃れた後死去。家門は没落、領地は後見人の手に渡り、プレスコットはすべてを失う。父を信じる息子は、真実を求めて関係者に話を聞いて回るが、誰も相手にしない。追及し続けた結果、真実を知る手がかりは二通の文書にあることが分かる。文書は手に入れたものの、その際、後見人に重傷を負わせたかどで、プレスコットは逮捕されてしまう。
ジョン・ウォリスは微分積分学への貢献で知られる数学者だが、暗号研究者としてクロムウェル政権の国務大臣であったジョン・サーロウに雇われていた。クロムウェルには何度も暗殺が企てられており、サーロウは大陸にスパイを送って情報収集に余念がなかった。ウォリスは謀略のあることを知り、大陸から来たマルコに疑いを抱く。人を通じて素性を探らせた結果、コーラは貿易商の子ながら、トルコとの戦いで功績のある軍人だと分かる。
サラの父は、清教徒革命の中で最も急進的な、土地均分などを要求した水平派の指導者だった。ジェントリ(郷紳)層を中心とする独立派と相容れず、国王処刑後、独裁を強めるクロムウェルにより弾圧され、一家は町の中で孤立していた。民間療法に通じ、自然治癒力を持つサラを頼る者も多かったが、魔女だという悪い噂もついて回った。アントニー・ウッドは、そんなサラを愛し、何かと世話をしていたが、プレスコットの告げ口でグローヴとの仲を嫉妬し、二人は別れてしまう。
マルコ・ダ・コーラは人は良さそうだが、その正体が知れない。ジャック・プレスコットは父を信じることにかけては熱心だが、狂信者で人を人とも思わない陰謀家だ。ジョン・ウォリスは自身に対する思い入れが強く、一度こうと思い込んだら容易に意見を変えようとしない。「信頼できない語り手」ばかりだ。そんななか、名誉や地位に執着しない学究肌のアントニー・ウッドだけは信頼できそうだ。最後の語り手であることからもそれは分かる。
これといって探偵役をつとめる人物が見当たらず、推理らしい推理がされることもない。ひとつトリックがあるが、誰にでも分かってしまう初歩的なもので、ミステリとして、クリスティは過褒だろう。だが、王立協会の母胎となる会合に集う若者たちと旧体制にどっぷり浸かった長老派との対立や、清教徒、イングランド国教会、ローマ・カトリックの間に根づく宗教対立を含んだ、イングランドの複雑に入り組んだ権力争いを、ミステリの形式に落とし込んで、文庫上下巻で千ページを超える長丁場を最後まで読ませる力量は大したもの。
ボイルの「空気ポンプ」を使っての実験や、リチャード・ローワーによる史上初の人体間の輸血など、科学時代の幕開けを告げる動きがある一方で、あたりにはまだ、魔女や魔法、霊や錬金術が跋扈していた。混乱を極める時代の黎明期、歴史に名を残す実在の人物を多数配し、それぞれの経歴に応じた役どころを与え、一大歴史ミステリを仕立て上げたイーアン・ペアーズの力を評価したい。中でも、一六五五年にオックスフォードで絞首刑になったアン・グリーンをモデルにした、サラ・ブランディの造形が光る。『ストーナー』の訳者、東江一紀氏はじめ、名だたる訳者四人が、四つの手記を訳し分けているのも魅力だ。
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第三の手記は幾何学教授ウォリス、最後は歴史学者アントニー・ウッド。
四部それぞれ翻訳者が違うという趣向がまた面白い。「信用できない語り手」、楽しいなあ。
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なぜ翻訳者が4人もいるのか、という読む前の疑問があったがそれは納得できた。
ひとつの出来事を複数の視点から語るという手法は大好きで、信頼できない語り手感がどんどん増していくのは大変に楽しめた。
ただ、それほどまでにして隠したかった暗号文は、正直なところ「ふ〜ん…」という印象だった。
イングランド人ならバッチリ決まるんだろな。
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とにかく無駄に長い。最後は意地で読了。
ただ、面白かったか?結末が意外だったか?と言われれば否。
薔薇の名前×アガサ・クリスティでは絶対にない。
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同じ出来事を4人の視点で語るという構成自体は面白いと思いますが海外の歴史ミステリです。17世紀頃の欧州情勢やプロテスタントとカトリックの対立などが何となくでも頭にないと物語の世界に入りにくいと感じました。また地名や人名も日本人には分かりにくいというか混同しやすい。読むなら一気に読み終えたほうがいいです。かなりのボリュームですがディティールは忘れてしまうので。まだイケてない頃のイングランドの様子が興味深かったですがそれは本筋ではないんでしょうね。
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長い。
ちょっとした知識どころか、相当念入りに勉強してから挑んだほうがいい。
下巻最後の人物解説、年表、訳者解説を最初に読んだ方が楽しめるような気もしました。
かなり読み手を選ぶとは思うけど、個人的にはがんばって読んでよかったかなって感じでした。
歴史、宗教絡みのネタに微塵も興味を感じない人には全くおすすめできないし、おもしろくないと思います。
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人物解説が後ろについているが、読み終わってから主要登場人物の多くが実在の人だと知ってびっくり。ボイルとレンくらいしか知らなかった。人物解説と時代背景は最初に読んでおけばよかった。
同じ出来事を4人の視点で描き、前の著者の思い違いや嘘が次の手記によって覆されるのが楽しいし、同じ人物が別の視点から見るとまったく違う印象を受けるのも面白かった。しかし当時のイギリスの政治事情や宗教観に疎いこともあり、どうしても冗長に感じて読み通すのはかなりしんどかった。
とりあえず最後まで読んでよかったけど、私には難しすぎたかも。
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正直これは読むのがしんどかった…。
なにしろ長い上に、歴史背景が勉強不足でよくわからないのでついていけない。かなり斜め読みしてしまいました…。
再読する気力は多分湧かないなぁ…。
なんで訳者が4人もいるんだろ??って思ったんですが、4人の手記をそれぞれ別の方が訳しているという凝った仕様なのですね…そう、4人の「証言」じゃなくて「手記」というのにふさわしい分量です…おまけに一体これ何の話?って感じで、事件との絡みがなかなか見えてこない…
単なる毒殺事件からスケールの大きな話になっていくのは面白いところですが、如何せん枝葉末節が多過ぎて読みづらく感じました。
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何度か挫折しました。4人の視点からというので、同じことがおこっても主観が違うと見え方が違う。こんがらかる。
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解決編である4章は面白かった。ここだけで言えば星4つ。ただ、3章はつまらない。2人の人物の視点で、2章構成にした方が面白かったのではないだろうか?全体を通しても冗長で飽きてしまった。
ただ、当時のイギリスの様子がわかったのは勉強になったし、何よりサラが報われて良かった。