紙の本
これは傑作です
2020/10/07 09:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ハマさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
いや、面白いです。
私的には今年度のNo.1です。
本作はシリーズ第2作だそうで、第1作を読んでないんで、なんでこの主人公がここまで警察組織の中で忌避され「堕落刑事」の烙印を押されているのかわかりませんが、その設定がこれまでの警察小説にはないものです。
組織のはみだしというだけでなく、能力があるの何故か評価されないというのでもなく、本質的に悪に染まってはいないようでありながら、やることはえぐい。そこにそこはかとないイロニーがあります。ベースにポエジックな哀愁が漂っている文体は、なんとなくアメリカ的ではない英国的な暗さを感じさせます。
第1作もさっそく買いに行きたいと思ってます。絶対にお勧め。今年の「このミス」で何位に入るか楽しみが増えました。
★★★★★読まずに死ねるか です。
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1巻から読むか、2巻から読むか、なかなか難しい問題だ。
正直に言おう。1巻は、私には読みにくかった。
2巻は面白かった。読みやすかった。
だがしかし、なのである。
1巻こと『堕落刑事』は、作者ジョゼフ・ノックスのデビュー作である。
小説に限らず、たとえ絵であれなんであれ、その人の第1作というものは、偉大だ。
整わない、突っ走る、遠慮がない、無茶をする。
己のすべてをぶっ込んだ、この世に向けての砲撃だ。
「私の創造世界を見よ!」
その人のすべてが現れる。
作者ジョゼフ・ノックスは、小学生の頃から不眠症気味だったという。
眠れない時間は本を読み、物語を書いて過ごしていた。
長じて彼が職場としたのも書店やバー、本と夜の時間という馴染みの世界である。
そうしながら、物語を書いていた。
生まれ育ったマンチェスターを舞台に、8年かけて書き上げたのが、この『堕落刑事』である。
主人公エイダン・ウェイツは、警官のキャリアが始まって間もなく、やらかしてしまった。
新聞に名が載り、評判は地に墜ち、当然クビ――と思いきや、首の皮一枚で繋がっている。
留めたのはパーズ警視、鮫のような笑顔をした上司である。
警視の狙いは、エイダンを潜入捜査官としてつかうことにあった。
よって、エイダンの生きる場所は、マンチェスターの夜である。
酒を出す店、別のものも出す店、薬物のマーケット、タワーのペントハウス、複雑な性の人々が集う家、中毒者のうろつく無法地帯――
「おまえの目には、他人の最悪の側面しか映らないようだな」 (『堕落刑事』292頁)
鮫の笑顔の上司に、そうとまで言わせるエイダンである。
その彼が、地を舐め、顎でつかわれ、死体を見つけ、秘密を抱え、誰も信用できず、なんのバックアップもなく、酒を飲み、薬に逃げ、殴られ、怒鳴られ、罵られ、しばしば過去に苛まれ、それでも頭を働かせて、事件に取り組むのである。
それを読む私はといえば、夜の闇の深い所、まったく知らない世界に迷って、混乱して、どうにか読み終わり、さてこの世に戻って言えるのは、
「麻薬はいけないとつくづく思いました」
くらいのものだ。
重い。暗い。
読みごたえは、たいへんにあった。
執筆8年は、並でない。
それが2巻目『笑う死体』である。
圧倒的に読みやすくなった。
薬物がらみの話ではなく、たとえば離婚交渉、不動産の売却交渉といった私の知っている世界、昼間の世界の話になる。
エイダンの職務の都合上、舞台が夜ではあるのだが。
では、話が簡単になったかといえば、そうではない。
むしろ、より重層的になったと言おうか。
『堕落刑事』では、いくつもの話が始末に困るほどもつれ合っていた。
『笑う死体』では、それが並列に描かれる。話が解りやすくなったのだ。
そこに、事件が起こる。
読者の頭が理解しやすくなったのを見越して、事件はいっそう複雑困難になっている。
くわえて、エイダンの内面��より深く見えた。
『笑う死体』を読み終えて、私はたいへん満足したのである。
「俺には――俺の人格には、他人の目には見えない一面が隠れている。いつの日か、思いがけず親切な行為をして、よい意味で期待を裏切ることがあるかもしれない。」 (『笑う死体』295頁)
けれども、なのだ。
『堕落刑事』のあの重さ――鈍重といってもよいかもしれない、あの重さ、読みにくさが、少しばかり恋しいのも事実だ。
第一作というのは、その一作のみの価値がある。
世界に轟かせようと、すべてをこめた砲撃だ。
読みやすさを求めるなら『笑う死体』だけでもよい。
砲撃を知りたければ『堕落刑事』からである。
2作目から読んだとしても、1作目を読みたくなるかもしれない。
シリーズは3作目まで書かれている。
あとがきによれば、このエイダン・ウェイツ・シリーズは三部作ということである。
当然、私はそれも読みたいのだ。
※ 犬好きへの注意
2巻『笑う死体』37~38ページ。
本題とは無関係の挿話にのみ注意。
39ページにとんで読むのも方法のひとつ。
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いや、面白いです。
私的には今年度のNo.1です。
本作はシリーズ第2作だそうで、第1作を読んでないんで、なんでこの主人公がここまで警察組織の中で忌避され「堕落刑事」の烙印を押されているのかわかりませんが、その設定がこれまでの警察小説にはないものです。
組織のはみだしというだけでなく、能力があるの何故か評価されないというのでもなく、本質的に悪に染まってはいないようでありながら、やることはえぐい。そこにそこはかとないイロニーがあります。ベースにポエジックな哀愁が漂っている文体は、なんとなくアメリカ的ではない英国的な暗さを感じさせます。
第1作もさっそく買いに行きたいと思ってます。絶対にお勧め。今年の「このミス」で何位に入るか楽しみが増えました。
★★★★★読まずに死ねるか です。
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エイダン刑事のシリーズ2作目!
1作目を、読んでなかったので、始め少しだけ、戸惑いが、あったが、読み進めるうちに、どんどん引き込まれていった!
彼自身の生い立ちなんかも、差し込まれていて、どんな着地を、するのかワクワクしながら読めた!
3作目も、出そうなので、1作目を、読まなくちゃ!!
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前作から一年後、アルコールとドラッグ漬けの日常から脱却しつつある主人公が孤立無援の苦難に再び見舞われる。さらに子供時代の忌まわしい記憶に追い討ちをかけられながらも、最後に訪れる束の間の巡り合いが美しい余韻を残す。
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一作目よりさらに爆発力をアップさせて、マンチェスターのネガティブ刑事が、厄介な事件に挑む。そればかりか、もう一つ過去のどこかで起こってきた物騒な出来事の数々にまで作家のペンは及ぶ。
優れた小説だなと思うのは、全編、丁寧かつ個性的な文章で綴られているその筆力にある。手を抜かぬ主人公一人称語りでの出来事と当人の個性を描き切る描写力が凄い。過去の話での三人称の不気味な物語の暗い情念のような世界がまた凄い。
一作目でも、どの人物も個性が与えられ際立つノワール性を感じさせてくれたのだが、二作目は確実にパワーアップしている。ジェイムズ・エルロイの黒い裏世界を思わせるリズムと空気が全編を支配している。それでいて謎解き小説としての迷宮性をも抱えた作品である。どこのページを見ても作家の熱気、渾身の力のようなものが感じられるのだ。だからこそページのすべてが緊迫している。
個性的な相棒や上司、事件の関係者たちの複雑に絡まり合う怪しさも個性もどこをとっても凄みを感じさせる。
前作の読書会で聞いた感想では『堕落刑事』は堕落していないじゃないか、いい奴じゃないかと本シリーズの主人公エイダン・ウェイツを評する声が大かったのだが、本編でもそうだが、堕落というより、状況的に追い詰められる感覚が強いように思う。ちょっとしたしくじりをきっかけに夜勤専門の刑事として、上司から退職を期待される維持の悪い人事を施され、署内の半端者としての生きづらさを日常的に感じさせられるエイダンの根っこの部分については本編でより深く語られる。
作者のサービス精神は前作のキャラクターまで登場させることで、エイダンの生きる世界が相変わらず真っ黒な闇の世界であることを想い出させてくれるのだ。
本書は、タイトルの『笑う死体』として放り出された何者かの正体と、その死の原因をめぐっての騙し合い、化かし合いを描きながら、同時にエイダンの悲惨な境遇と、彼の内部をさらに深く抉る刃物の切れ味を兼ね備えている。エイダンの物語は、三部作として閉じる物語らしいが、二作目の本書は非常に重要かつ充実した作品とみてよいだろう。この作品の持つ質量は何なのかと思えるほどに、深さと濃厚さを味わえるストロング・ドリンク。心して味わって頂きたい。
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ノワールよりのミステリー、入り組んでてふっくざつ!でも面白かったです。これは2作目なんですね。次作が楽しみです。
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この2作目がとてもよいという評判だったので、苦労して前作を読み終えて、早速…
はみ出し刑事が麻薬と貧困のどろどろのマンチェスターを這い回るのは相変わらずなのだが、汚れまみれの中に時おりキラキラしたものが見える。
なぜお荷物でしかないお前を退職させないのか、という疑問への上司の答えはグッときた。
そもそも優秀だし。
メインのトリックは?な感もあるが、幾重にも入り組んだ謎を理詰めで最終的にはバサバサと小気味良くさばいていく様は謎解きとして良質だし、ノワールとしても楽しいし、イギリスミステリー好きは必読でしょう。
次も楽しみ。
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事件の設定や解決などは二の次になってしまう。その背景にあるものや主人公の生い立ちがあまりにも…。それゆえに面白さよりも悲しさや辛さが先立ってしまう。決して悪くは無いのだけれども…。
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陰鬱な小説。
陰鬱な小説は好みじゃないけれど、話は面白いし、ミステリーとして二転三転する展開は、ぐいぐい読ませる。
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「エイダン・ウェイツ」シリーズ第二弾。主人公エイダンの造形の良さだけで読む価値のある警察小説であり謎解き小説。相棒となるサトクリフとの関係性やほかの人物たちの怪しげな、信頼できない造形。それらの加減がとても良くて本当に面白い。急いで第三弾も読もうと思う。
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贔屓のサッカークラブが久し振りに勝つたから言うんじゃないが、2冊めともなると情が移ってこいつが好きになりかけてる。
会いたくは無いけどサティさえ好きになりそうだ。
この酷い世の中で小説ぐらいはいいもの?に会いたいがな。
凄惨な物語だが、このエンディングはなんだ!この、清涼感はなんだ。卑怯ものめ。
次読みてえ!『スリープウォーカー』
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エイダンというかなりイカれた自虐的な主人公がなぜ出来上がったのかを、サイドストーリーに織り込みながら巧みに立体化していく。もちろん本編の「笑う死体」事件も秀逸で、二転三転最後の種明かしまで全く飽きさせることがない。
正義も悪も関係なく、真実を追い求める姿勢はハードボイルドの主人公に共通した特性だが、それにしてもエイダンはつらい。報われることがない人生を、ただ真実だけを暴くために生きている。
エイダンのシリーズは次作で終わりだそうだ。エイダンにほんの少しでも安らぎが訪れてほしい。
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最後まで「笑う男」(スマイリー)の正体が暴かれる事なくミステリー事件が解決する、という不可解な小説だ。読者を迷わせ混乱させる「笑う男の正体」(身元不明)は1948年12月にオーストラリアで実際に起きた事件を元にしている、と言う小説だが、「金と嘘」に絡む人間関係の展開が中々面白く一気に読み終えたくなるミステリー小説だ。