紙の本
不安定の中の安定
2020/12/08 09:21
12人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うえありひろ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『推し、燃ゆ』というタイトルが絶妙。
推しているアイドルがネットニュースやSNSで炎上しているところから話は始まる。
主人公のあかりは高校生で、
「みんなが難なくこなせる何気ない生活もままならなくて、その皺寄せにぐちゃぐちゃ苦しんでばかりいる。だけど推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心っていうか、背骨かな。」
と話す。
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表面のストーリーだけを追えば“アイドルに熱心なファンの話”なのだけど、一心に想うことが生きる糧になっている姿に純粋さと危うさを感じる物語だった。
紙の本
今回の受賞作は、「推し」
2021/02/23 15:34
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第164回芥川賞受賞作。(2021年)
今回はまだ21歳(芥川賞歴代3番目に若い受賞だそうで)の現役の大学生の受賞ということで、何かと話題になっていて、先日も本屋さんの店頭でこの本を手にした女子高校生を見かけて、久しぶりに芥川賞もいいものだと感じた。
今回の選評では「性も違い世代もかけ離れ、せいぜい日本人という共通点がある程度」という松浦寿輝委員が「異星人」のような主人公に「一応知的に理解はしても、何一つ共感することがない」と、年をとった読者の代弁のような書き出しが目についた。
但し、松浦委員のこの後がいい。
「にもかかわらず、リズム感の良い文章を読み進めて(中略)共感とも感情移入ともまったく無縁な心の震えに、自分でも途惑わざるをえなかった。」
まったく同感である。
「推し」という言葉さえ知らない世代ながら、一気に読ませる文章の力に、ここでも久しぶりに芥川賞はいいものだと感じた。
なんといっても、松浦委員がいう「異星人」のような主人公あかりの造形がいい。
事件を起こしたアイドルの一途に「推し」、事件後も見捨てることもないあかり。出来の悪い彼女は姉にも母からも辛くあたられ、「推し」を支えることが自身の「背骨」のように感じている。
「異星人」のような主人公でありながら、あかりはやはり青春小説の主人公である、怒りや絶望やその果てにある希望などを持った若者像であることが、この小説に安心感を与えているように思う。
若い読者にとって、この作品は抱きしめたくなるような、そんな出来上がりといっていいのではないだろうか。
電子書籍
現代に読まれる本
2021/02/04 14:53
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Chii - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトル通り、現代だからこそ描け、現代だからこそ読まれるべき本だと感じました。
主人公の滅びの過程は、果たして主人公だけのせいなのだろうかと思いました。家庭が与える影響は計り知れないもので、思春期なら特に。
紙の本
推しがいる人に勧めたい作品
2023/04/16 14:40
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:涼 - この投稿者のレビュー一覧を見る
実際に推しがいる人に是非、読んで貰いたい作品。
主人公の推しに対する気持ちというか価値観に私は共感できたし、他にも共感できる人は沢山いると思う。
最後の文、私は未だに理解できていないけど面白い作品だったと思う。
紙の本
描写がすごい
2021/03/28 22:51
4人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ららら - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の心情を捉えた描写は特に引き込まれます。
休みのなのに雨の日に読みましたが、色々と考えさせられました。読んでよかったです。
電子書籍
心がギュッとなる
2023/02/22 13:16
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぷりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「切ない」
この言葉が最もはじめに来る感情。
「すれ違い」
実生活でも、すれ違いの連続ではないでしょうか。気付いている場合もあるけど、すれ違っている事に気付かないこともあるのかもしれない。
著者、茂木桂樹の「おかえり」もオススメです。
電子書籍
大人への成長をこう書いてきたか
2022/06/27 22:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:象太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
綿棒に見立てた自らの骨を拾う最後の場面は圧巻。大人への成長を、最後の短い場面で、生き物の脱皮のような形で一気に描いたように読めた。高校生の主人公はいつまでも子供。アイドルの「推し」のファンとして暮らしているうちに、堕ちるところまで堕ち、自らの老廃物にまみれていくが、推しの引退により脱皮装置が始動し、子供の殻を脱ぎ捨て始める。この物語は、そこでバサリと終わる。えらく力を感じた。
電子書籍
読んで良かった
2022/03/23 23:40
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投稿者:Gallop - この投稿者のレビュー一覧を見る
自分がこの約1年間感じていたことが明確に言語化されており、なぜこんな文章を書くことが出来るのかと感銘を受けた。
特に「何もしないでいることが何かをすることよりも辛い」ということは心の底から共感した。この本を読み終わって少しだけ自分のことを理解出来たような気がする。
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一介のオタクとして身につまされる心地がした。
わたしは二次元が推しなので推しと一体化することも、推しが不祥事を起こして炎上することもないにしても、推しに対する感情、童謡七つの子の歌のような切ないと思えるかわいさを感じるのはわかる気がする。
人口の半分はなんらかのオタクになりつつあるというのを最近どこかで見た。オタクと名乗ることがライトでフラットになったのもここ最近。
誰かしらがなんらかに縋りたい現代の厳しさみたいなものが見える気がする。
健全だとされる相互的な人間関係が薄れていってる中、多分社会にうまくリンクできない人間の方がこういうオタクコンテンツにハマりやすい。
家族や友達や恋人と同じ気持ちを共有したりわかってもらうより、コンテンツを介して気持ちをわかってくれる人がいるSNSやネット上は居心地の良い。
社会に必要とされなくてどんなに自分がダメでも、それでも日々は続くし、好きなものや人は自分を裏切る日が来る。それでも好きなものを好きでいることは絶望した社会でなんとか息をする私たちの最低限で精一杯の生き方である。
主人公あかりは死なないだけで死んでるように生きていくのだろうなと暗い未来が過った。
作者の前作かかでも母という信仰対象が終わったラストが印象的だったけど、この話ではまた違った信仰の終わりが書かれている。バッドエンドでもハッピーエンドでもなく一般的に考えると主人公たちはずっとバッドな状態を生きているんだろうな。
でもこれはよくある現実で、作者と同世代の私は、私たちの生きる時代のディストピアは加速しているという実感を伴って日々暮らしている。
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・推しが炎上した、という始まりでドキドキした。
・でも、最後は淡々としてるし、あかりちゃんは病んできちゃって「ん????」となった。
・だけど本を閉じたあとに「推し≒背骨」を思い出してアイドルから人になった推しの死(≒火葬≒推し燃ゆ)ってことなのかな?タイトルの意味を推測
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自分を見ているようで胸が苦しくなりました。
推しを人生そのものの「中心」としている少女は私そのものでした。
彼女ほどの推しはいませんが私自身オタクです。
なのになんにもできないし何かできるとも思えないし・・・。
開き直る度胸すらない。
彼女の「頑張っている」は確かに一般的な「がんばっている」とはちがいます。
それを認めてどんなことなら頑張れるのか、どんなことに関心が向くのかを一緒に模索してくれる人がいないのが悲しいな、と思いました。
彼女自身、そういう状況とできない自分をわかっているから自分自身に期待できないんだろうなあ。
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お、芥川賞受賞作の毛色がいつもと違うぞ!と思って読み始めたら、やっぱりしっかりめの芥川賞でした。
自分に「推し」がいたことないもんだから、そのアツい想いが、より理解できない。
でも、所謂ファンとは一線を画す「推し」の引力は、明言されていない彼女の発達障害に由来するものがあるのでしょうね。
本筋とは違った見方だとは思いますが、おそらくLDの側面もあるであろう彼女を、ここまで突き動かす原動力に「推し」という存在がなること。それってちょっと希望というか。
「いろんなことが普通にできない自分」に諦めを持ってしまう人にとってそのエンジンって大きいですよね。
リアルな次元で考えれば、もちろんそれは揺るがないものであることが絶対条件なんですけどね。アイドルなんて絶対ナシで、なんなら生き物であってはいけない気もする。
いやいや、そんな話ではないんですよね。そうそう。
かといってこの本に関して語れることなんてそんなない。
あえていうなら、青の使い方上手いよねとか?カバーの肉色と本体の青、スピンの青。
ああいうのは、デザイナーさんの発想なんだろうか?それとも作者さんの意向?
そちらの方が興味深い。
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雑誌掲載で話題になってたときから読みたくて頭の片隅に置いていたお話。気づいたら書籍化してたので即読みました。一気読みでした。
推しという単語からもわかるようにイマドキの話として意識的に書かれていて、SNSの描写とか、作者が若いこともありすごく現実感をもって迫る。その反面なにかを「推す」こと、なにかを拠り所として生きること、というテーマが結構普遍的に浮かび上がってきたのが刺さった。自分が自分の足で立つってどういうこと? 働いて結婚して子ども育てて、わかってきたつもりだったことを突きつけられた。私から仕事をとったら、家族をとったら、なにが残るのか、私は所謂「推し事」をするオタクではないけれど私の所属する様々を私の理由として生きてるに変わりはない。この子と同じ。そんな感じがしました。
推しがファンを殴ったところから始まり推しが引退することで終わる。大人になりたくないと言った推しが大人になる、芸能界から退いて、結婚して、特別な目を向けられる自分を脱いで生きていく。削ぎ落とすことで大人になった推し。一方で、削ぎ落としていくことに生を感じると言った、実際に推しのために金を費やし体を壊し家族を失っていった主人公は、ある種未成熟な存在として書かれている。その対比的な構造も面白いし、主人公のような人間(たくさんいる)(上述したような私だってと思わされた)が自分の足で歩いていくにはなにが必要なのか、考えさせられました。なにが必要かね。
ひとつ、主人公が発達障害を匂わせる設定は個人的にあまり好まない。物語的に、推すこと、拠り所をもつことの焦点がボケる気が私はした。この子だからのめりこんじゃった、みたいになると、推すというテーマの追究がぼやけて勿体ないな…というか。いや障害者がマイノリティだとかいう話がしたいのではないんだけど、語弊があったら嫌だな。
「かか」も読みたい。町田康が褒めたらしいじゃないですか!
追記 カバー下で推しが燃えている(概念)のに気づいて興奮しました。こういうの好き!
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推しを解釈することに唯一の生き甲斐を見出す女の子が、推しの炎上によってゆるやかに人生を崩壊させていく物語。家庭環境もバイト先も学校も上手く行かない主人公は、推しの世界にだけ徹底的にのめりこむ。生きづらいときにアイドルに落ちる、という経験はオタクに膾炙すること。 終盤、唐突に推しの卒業が明かされ、暗闇に落ちていく。しかし、その落ち方がリアルだった。推しの卒業くらいでは、残念ながら人生は終わらない。その後も続いていく。その運命を象徴するかのように、気が立った彼女が投げた物は、いつでももとに戻せる「綿棒の箱」だった。ままならないけど、彼女は推しの居ない世界で生きていくしかない。
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〈病めるときも健やかなるときも推しを推す〉
ある日、推しが炎上…同時に主人公あかりの人生も加速をつけて崩壊する
「推しのいない人生は余生だった」
推しに人生を捧げる喜びと哀しみ
推しという幻想が永遠に続くことはないのかな?