紙の本
沖縄若者万華鏡
2022/07/13 20:53
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投稿者:せきた - この投稿者のレビュー一覧を見る
沖縄の青年はどんな世界を生きてきただろうか、に迫る民族誌なのだが、沖縄社会の変化胎動を徹底した参与観察により記述した力作。
沖縄青年のしたたかさ、クールさ、逞しさは健在とは思うものの、公共工事の減少、少子化は他の地方部と変わらず、マクロ事象からみた沖縄経済社会の変化に注目していきたい。
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沖縄は面積2,281km2,人口145.7万人(2020年2月2日),人口密度640人/km2の小さな島である。地縁・血縁の絆が強く,沖縄的共同体として憧れの目でみられることもある。
その内実を描いた本書は,沖縄社会の分断を描いている。狭い地域である沖縄にいる人たちの話であるはずなのに,まったく違う世界に住む人たちが描かれているように思える。いかに沖縄が一枚岩でないのかがわかる。
「ささやかな断片的な記録」とあるように,ここで描かれる沖縄は一側面でしかない。その一側面からでも,沖縄がいかに多様であるかがわかる。
何かを理解するとは,理解できないこととセットなのであろう。私たちがもつ「〇〇ってXXだよね」というイメージは,理解しているようでいて,実は理解できていないことの現れなのであろう。きっと理解に終わりはないのだと思う。だからこそ人は早急な「理解」を求めるのかもしれない。
この早急さにいかに抵抗するか。『地元を生きる』はその一つの試みだったのではないかと思う。
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フィールドワークを得意とする社会学者の岸政彦ら4人の若手研究者チームによってまとめられた沖縄の階層格差のリアルを描いた論考集。
沖縄の地場での人間関係といえば、”ゆいまーる”という言葉に代表されるように家族や親類、友人などによる美しい相互扶助の関係が想起されやすい。しかし、本書ではそうした相互扶助の恩恵を受けるのは沖縄の一部の層に過ぎず、そこからはみ出た人間にとって極めて生きにくい社会が存在しているという事実である。
具体的に本書では、
・安定層:琉球大学や本土大学を卒業し、大手民間企業や教員、地方公務員として就労
・中間層:飲食店などを仲間と共に経営し、生活の糧を得ている
・不安定層の男性:主に建設業に従事し、下請け労働者に甘んじている層
・不安定層の女性:過酷な家庭環境などを原因として社会からドロップアウトされ、男性からの暴力に怯えつつ性風俗等で辛うじて生活の糧を得ている層
という沖縄の4つの集団を対象とし、それぞれの層で本当に相互扶助の関係性が成立しているかを明らかにする。
実際、相互扶助の関係性が成立しているのは安定層・中間層までであり、不安定層は男女ともに社会から隔絶して相互扶助ネットワークの枠外に存在している、というのが本書で示される実態である。
特に不安定層の男性を巡る論考では、実際に著者自らが建設現場で就業し、過酷な肉体労働を体験しつつ、”先輩・後輩”の上下関係の中で、様々なパシリとして使われ時には肉体的な暴力を受けることになる若年男性の苦しさが極めてリアルである。
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かなり面白かった。沖縄の階層社会がよくわかった。というか、自分の周りの沖縄出身の人が沖縄っぽくないなとずっと思っていた。この本を読んで、彼彼女らが「安定層」だからだと分かった。非常に興味深い。
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100分で名著で紹介されて興味を持ち読みました。建築会社で働いて、30代になっても「後輩」の地位から抜け出せない話は、(規模や雰囲気は違えど)沖縄だけでなく地方でも見られる構図なのかも…と思った。
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沖縄社会の共同体を、個人の観点から解きほぐした優れ本。出てくる人たちの考え方やライフヒストリーは様々で、いろんな読み方が出来ると感じました。
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あと書きにも書いてあったけど、ほんと打越さんと上間さんの書く話は、過酷にも程がある。
生々しい暴力の連鎖。放棄され搾取される少女たち。
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大きな経済的格差と階層文化が進む沖縄のリアルを,各階層ごとに描く
特に土木屋でヤンキーに混じって働いた打越の参与観察は読ませるものがある。
金はなくて前借り生活、後輩は殴って当たり前、家庭を作ってもすぐ壊す…
スキルの付与、コンプライアンス、規範という都市の大卒層が普通に期待できるものに手が届かない生活。
そして外部からも内部からも、正しい形に持っていこうという働きが無いことも含めて慄然とする。
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「「共同性の楽園」のなかでのんびりと豊かに生きる沖縄人」というステレオタイプ的なイメージに切り込み、安定層・中間層・不安定層のそれぞれの人々にとって「沖縄的共同体」がどのように経験されるのかを綴っている。
私たちナイチャーが、いかに平面的にしか沖縄社会を捉えていないかがまざまざと明らかになり、特に不安定層の現実はとても残酷だ。
岸さんの文章は、やっぱり「読ませる」力があると思う。ただ、段落の分け方や空白の開け方に岸さんの恣意性を感じるが・・・。
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【琉大OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC02894848
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まさに「ライフ」ヒストリー。よくここまで被調査者の人生を描けた、調査者に描かせてくれたものだと驚くばかりだった。完成から刊行まで4年の時間があったと後書きに書かれていたが、これだけの人の人生を本にするには覚悟が必要だったのだと思う。
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エスノグラフィーの実践を通じて、沖縄の共同体を問い直す。アッパー層、中間層、下層、そして女性というそれぞれの観点から、共同体がどのようにとらえられるかを浮かび上がらせる。それぞれに印象深いところはあるが、やはり建設業に従事する元暴走族の若者(とはいえ30歳前後だろうか)たちの調査が印象的だった。ルポ川崎でも見たような、共同体から排除された者がアウトローの世界の中でより強固な共同体的なつながりをつくって、その中でがんじがらめになってしまうのが印象深い。