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父パートと自分パートを行ったり来たりしながら、中国のここ数十年の歴史を個人を紡ぐ物語なのかなと思いきや。その歴史の片隅で生きる家族の物語なのかなと重いきや。主人公は、やりたいことがわからないとかウダウダ言ってて広義の自分探し物なのかな、面倒臭いなーなどと、まんまと思わされ。しかし、そう自伝小説ではなく、自伝「体」小説なんだった。ラストでまた私はたたまれてしまった。こう来たか。
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私が一番詳しい中国の時代の話でほぼ同じ年代の人なので逐一情景が目に浮かぶ。少しの表現で当時の匂いまで感じられる。今まで読んだ中国の小説の中ではかなり良かったけれど、うーん...絶賛されるほどではなかったかな...
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「1984年」に生まれ、生きづらさを感じながら現代を生きる主人公。
共産党体制下で数々の苦難に会う父。
ビッグブラザーはいなくとも、体制や空気、日々の生活が我々を縛る中で、人は各々の自由を求め抗っていく。
“They are watching you”
ああ息苦しい。
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深い!
自伝的小説のリアリティがこの深みを生むのだろうか。その代わり、心のヒダまで表現するような文章の波とたわむれることになるので、流し読みはできません。どっぷりと浸かるしかない。
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郝景芳(ハオ・ジンファン)という、1984年生まれの著者は、訳者あとがきによれば清華大学で天体物理学を学んだあと、大学院で経済を専攻し、博士号まで取ったとなっています。そしていまは、作家活動の他、貧困家庭の子どもたちへの教育プロジェクトも運営しているとなっていますが、この本を読んでいると、思想・哲學もかなり読み込んでいるのではないかと思わせるところが多々あります。
私は、この著者の本は初めて接しましたが、どうもSF作家として令名が高いようです。しかし、この本は著者あとがきにもあるとおり「自伝体小説」で、SF臭はありません。
国共内戦から始まって大躍進、文化大革命、開放経済から現代を、三代にわたる家族を、時空を自由に移動しながら描いたものです。
激動の時代は、登場人物が翻弄されている姿が描かれながらも、なぜか読んでいると極めて静的な世界でのように感じられます。
それが一転するのは、主人公の内面の葛藤を描いたあアリで、このもがき苦しむ姿の激しさは、翻訳の良さもあるのでしょうが、驚嘆すべき筆致です。
この重たさを前に、それなりに読むのが早いと自負している私も、予想外に時間をかけてじっくり読んでしまいました。決して読みにくというのではありません、じっくり読まさせる力を持った小説です。
この、例えようもない才能を感じさせる小説を読んでしまうと、ちょっと、他の著作にも手を伸ばしたくなりました。
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1984年。ジョージ・オーウェルの「1984年」、中国の1984年は都市、港が解放され、銀行と企業の改革が行われた。その分岐点と言うべく年に軽雲は生まれた。そして父の沈智は妻と娘の元を出奔した。父の時代の話と軽雲の現在の時代の話が入れ替わりながら綴られる。地方に下放されて苦労し、結婚してからでも、少しでも良い生活をと努力する父と母。新たな時代で自分の進む道を探しあぐねている娘。二つの時代を生きる父と娘。不思議な雰囲気の小説だが、面白かった。
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父の章で深圳に向かう列車の風景がよかった。
生活感や、ここではないどこかに向かう高揚感の背後にどこか漂う後ろめたさ
その後ろめたさはずっと後で明かされてそういうことかさだったのかと
その一方で1984年に中国に生まれること、の生きづらさが僕らのそれに似ていることも驚かされるんだけど、外から眺めている(ある程度は状況を客観的にわかっている気にもなっている)側の人間としては、前の向き方が、現実と折り合いをつけるためのある種の諦めのようにも思える
sf的展開を勝手に期待してしまったせいか、もっとダイナミックに現実に対する換骨奪胎な展開でもいいのになー、てのはある。
しなやかさとか強さでもあるんだろうけど、その戦略を取れるのも、ある意味で限られたものだけなんだろうな、と。中国国内の内なる他者にとってはたぶんそれすら無理、というか。
なんでもかんでも政治と結び付けたくはないけど、昨今の中国界隈の人権問題関連のニュースが頭をよぎってしまうし、1984を伏線にする以上、その読みからは逃れられないわけでちょっともやもや
と言いながらも、一気読みしてしまうくらいに面白かったです
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「折りたたみ北京」?景芳が描く〈中国×1984年〉。この年、父は出奔し、私は生まれた。激動の中国を背景に二人の運命が交錯する
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「折りたたみ北京」を以前に読んで素晴らしかったので、本書を手に取りましたが良い意味で内容は裏切られました。これはSFの殻を被っていますが、各人物の心理描写と細部まで作り込まれ匂いがしそうな情景描写に圧倒されました。特にメンタルで病んでその後復活したような経験をお持ちの方なら、多く首肯されるのではないでしょうか。90年代に仕事で半年強中国に住んでいましたので、その時の記憶と重ね合わせて、ことごとく「そうだよなぁ」と心で頷きました。私にとっては最高レベルでココロに刺さった作品となりました。この本に出会えて良かったです。
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二〇〇六年、春。大学卒業を目前に進路を見失っていた軽雲は、父・沈智の暮らすプラハに来ていた。二つの時代の中国社会に翻弄され、父と娘は、人生の分岐をさまよい続ける―(e-honより)
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表紙と装丁に惹かれて本屋さんで偶然手に取ったのだけれど、とんでもなく素晴らしい小説に出会えました。一日一章ずつ、ゆっくり味わって読みましたが、じんわりくるというか、奥行きがあるというか、重層性があるというか、そういう感じが自然に滲んでるお話で、もう虜です。こんなにloveと思ってしまえる文芸書は今年初めて。しかも偶然見つけるという出会い。
中国文学を読むのは多分初めてでしたが(高校の時の漢文以来?)、今後、アンテナ広げて色々読んでみたくなりました。
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「折りたたみ北京」が面白かったので、その作者の自伝「的」小説と思って読んでみた。
ある家族3世代の人生を通して、近代の中国のリアルな庶民の生活の様子や考えなどがわかって、たいへん興味深かった。
私は1970年代後半の生まれなので1984年生まれの作者の方が若いのに、両親の世代でも文革や改革開放などを経験している。両親の世代というとつい最近に感じてしまうので、つい最近までこんなに大変な時代だったのだということが改めて実感されて、びっくりしてしまった。そして、世代によってこれほど体験が異なっていたら、世代間で価値観や感覚を共有するのは難しいだろうなと思った。
以前、日本のテレビ番組で、日本に出稼ぎにきている中国人の男の人を追ったドキュメンタリーを見た。自分はつつましい生活をして病院に行くお金も節約して、稼いだお金のほとんどすべてを中国の妻と娘に送っていた。帰国する費用も節約しているので、10年以上妻や娘にも会っていないと言っていた。彼の望みはただ一つ、娘が自分や妻よりも良い人生を送ること。自分の人生を犠牲にしても、次の世代がより良い人生を送ることを願う人がいるなんて思いもよらなかったので、大きな衝撃だった。この本を読んでいて、なんとなく、そのドキュメンタリーの中国人男性のことを思い出した。
作者の小さいころにはすでに海賊版で日本や香港、台湾の音楽や漫画(ドラえもんやベルばらなど)が出回っていて庶民も楽しんでいた等、1980年代のリアルな中国の日常が垣間見えたのも興味深かった。2000年代の大学生の生活なども、思ったよりも私たちと違わないという発見があって面白かった。
…という風に読み進めていったら、最後に「え?」という仕掛けがあって、さすがSF作家だなと思ったし、私などにはとても追いつけないような頭の良い人だと思った。
これは、自伝「的」じゃなくて、自伝「体」小説なんだそうだ。
こんなこと書いちゃって当局に目をつけられたりしないんだろうかと心配してしまうような箇所もあったので、あくまで自伝風の小説ということにしておいた方がよいのかなと穿った解釈までしてしまったが…
文庫になったら買って、また読んでみたい。
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文学ラジオ空飛び猫たち第37回紹介本。 郝景芳は1984年生まれの中国を代表するSF作家。「折りたたみ北京」で知られています。今作は自伝体小説。ジョージ・オーウェルの「1984」へのオマージュでありながらほぼ純文学です。中国の歴史に翻弄される父と、2000年代に生きる娘の長い道のりの物語。自由とは何か?を考えされられます。 ラジオはこちらから→https://anchor.fm/lajv6cf1ikg/episodes/37-1984-ev4dud
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折りたたみ北京で著者の作品に初めて触れて、今回こちらを読んでみた。
折りたたみ北京の紹介やこの本のあとがきにもある通り、SFと文学、その両ジャンルを素晴らしい形で両立させていると感じた。
恥ずかしながらオーウェルの1984年は、読んだ当時自分にはまだ難解すぎて理解がほとんどできなかった。
今作は1984年ほどではないにしても、読むのにかなり時間を要してしまって、途中から小説なのか自伝なのかよく分からなくなったまま読み進めており、最終章のウィンストンとの対話シーンによってようやく小説、しかもSF小説であったことを思い出した。
SF的要素が描写に占める割合はかなり小さいものの、最後は見事にSFとして成立させていて、読み終わった後、素直にやられた…と思った。(もちろん良い意味で)
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1984年に生まれた女性の半生が自伝の形で綴られた長編小説です。彼女の抱える苦悩と鬱屈、社会へ自分自身を馴染ませることへの抑圧感などを、中国の近代社会の変遷を背景に綿密に描いています。
作中には彼女自身の半生だけでなく、その父親の人生も描かれています。現在の彼女の視点では自由人であるかのような父親が、どのような人生を送っていたのかがわかるにつれて、彼自身もその時代のさまざまなものと闘ってきたのだと知れます。
このふたりの半生を重ねてつづりあげて一つの道筋を示す過程だけでも相当な読み応えなのですが、最終章にひとひねり加えられていることで、収束したかに見えた物語にもう一つ大きな環が加わります。このスパイスを加えた、作者自身の視野の広さ、物語を作りあげるという技のダイナミックさが凄いな、と感じました。
さまざまな規制が強まる中で、この作品も相当に気を遣いながら描写されているように感じました。その社会の生きにくさをダイレクトに感じる中で、ひとりの女性が「自由」を獲得し、生き直していく姿を描いたことは、ひとつのメッセージなのかもしれないとも思いました。
訳文がとても滑らかな文章で、傍注も細かく入っていて、読みやすさが常にありました。翻訳に尽力された方々へも敬意を示したいです。