投稿元:
レビューを見る
マクロ経済学のカラー版教科書。マクロ経済学の基本的事項を整理した後、主に短期モデル(ケインジアン・モデル)と長期モデル(マネタリスト・モデル)に分けて説明している。経済の初歩的なことを学ぶ教科書ではあるが、経済学専攻の大学生(あるいは社会人)を対象としているだけあって、じっくり考えながら読み進めないと理解していけない。リーマンショックやコロナ対応を含めた日本の経済政策についても、マクロ経済学に当てはめて適宜解説されており、勉強になった。価値の高い本。
「旧来マクロ経済学だと、積極的な財政金融政策は、短期的に失業率を下げるなどの効果があるものの、それが長期にわたると、バブルやインフレ、財政破綻などを招来するものと考えられてきました。しかし、リーマンショック以降今日まで、日本やヨーロッパでは長期にわたってデフレ傾向にあり、この現象をうまく説明できなくなっています。中央銀行がこれほどまで積極果敢に金融緩和政策をつづけてもインフレになっていない」pi
「GDP=個人消費+住宅投資+設備投資+在庫投資+公共投資+政府消費+輸出ー輸入」p21
「数量調整を前提とする短期においては、「過少雇用均衡」や不景気の原因となるのは、需要の不足が原因です。ですから、不況を回復するためには需要を拡大する必要があります。需要が拡大されると、操業度が上がって企業業績は好転し、失業率も下がってくるはずです」p48
「投資は投資の限界効率と利子率が一致するところで決まることになります」p73
「1 総供給がGDPの大きさを決める
(供給はそれ自身の需要を創る:セイの法則)古典派経済学の考え方。価格の変化が調整弁となって均衡にいたる長期の経済
2 総需要がGDPの大きさを決める
(需要が供給を創り出す:有効需要の原理)ケインズによる考え方。数量の変化が調整弁となって均衡にいたる短期の経済」p74
「(クラウディングアウト)拡張的な財政政策が行われたときに、それが利子率の上昇を招き、民間投資を一部減少させてしまう現象のことをクラウディングアウトと呼んでいます」p135
「(流動性のわな)これまでの議論では、貨幣需要(資産需要)は利子率が上昇すれば減少し、利子率が下落すれば増加するとされていました。しかし、利子率に対する貨幣需要の弾力性(利子率が1%上昇した場合に、貨幣需要が何%減少するかを示す割合)が無限に大きくなった場合、「流動性のわな(Liquidity Trap)」が存在するといいます。流動性のわなは、利子率が十分低く、すべての人が現在の利子率は下限に達している(したがって債券価格は天井を打っている)と確信している場合に発生します。このとき、人は誰も債権を新たに買おうとしないため(買っても金利が低く、値上がりもしないし、下手をするとキャピタルロスをこうむってしまうため)、たとえ実質マネーストックが増加したとしても利子率はそれ以上下がらなくなります」p138
「(マンデル=フレミング・モデル)資本移動が自由な場合、国内の均衡利子率が世界利子率と比べて高いと、資本流入が起こる。その結果、利子率が世界利子率と等しくなるまで低下し、GDPが増加する」p163
「(マネタリズム)長期モ���ルでは、貨幣市場のマクロ経済に与える影響はあくまで物価水準という「名目的」なものにとどまり、実体経済はなんら影響をもたらさないということがわかります。貨幣量の大小が実体経済に(少なくとも価格調整が完了した長期においては)影響力をもたないとする考え方をマネタリズム、もしくは貨幣数量説といいます」p185
「マネタリストは、貨幣はGDPや失業率の決定など、実物経済の活動水準に影響力をもたないとする「貨幣の中立性命題」、あるいは貨幣の役割は実物経済に影響を与えないヴェールのようなものとする「貨幣ヴェール観」を主張してきたのです」p186
「(マネーストックの伸び率と名目GDP成長率の関係)マネタリストの最も基本的主張は、名目GDPがマネーストックによって決定されるということである。マネーストックの伸び率が名目GDPの成長率と正確に比例的な関係を保っているとはいえないが、大きく見ると同じ傾向で動いている。また、1~2年のタイムラグを考慮すると、マネーストックとGDPの間には一定の相関があるようにもみえる」p188
「(マーシャルのkの推移)マーシャルのkはマネーストックと名目GDPの比率と定義される。マネタリストの基本的な仮定は、マーシャルのkが一定であるということだが、日本のデータでは支持されず、傾向的に上昇している。名目GDPが増大するにつれて、GDP1単位当たりに必要な貨幣量が増大することを示している」p189
「アベノミクスにより金融緩和が拡大した2014年以降は、実質ベースでは過去と比べても大幅な円安水準にあることがわかります」p192
「価格調整能力についての判断が決定的に重要であることを理解しておくことこそ、マクロ経済学を学ぶ「コツ」である」p201
「(フィリップス曲線)イギリスの経済学者A.Wフィリップスは、1958年に発表した論文の中で、過去約100年間のイギリスのデータをもとに、名目賃金の変化率と失業率のあいだに右下がりの関係があることを示しました」p232
「(インフレーションのコスト)
1 インフレーションは強制的な所得再配分機能をもっていて、金額があらかじめ決められた所得を得ている人にとっては、実質価値の目減りをもたらす
2 債務者に有利で、債権者に不利な所得再配分を強制的に実行してしまう
3 貨幣の価値を下落させることで、国民の富を強制的に減らしてしまう。国債保有者である国民は大きな損失を被る」p253
「(デフレーションのコスト)
1 一般的には失業率が高くなる
2 債務者に不利で、債権者に有利な所得の再配分を強制的に実行してしまう
3 貨幣の価値を上昇させ、人々の買い控えが起こる可能性がある
4 デフレ期待が高まると「実質金利」が上昇し、設備投資名での投資意欲が減退する」p253
「(経済成長の三大要因)
(資本ストックの成長)日本経済の高度成長を支えたのは、旺盛な民間設備投資でした。当時の日本の貯蓄率は欧米諸国に比べて非常に高かったのですが、この高貯蓄を利用しつくすだけの投資が持続したことが、奇跡的ともいわれる成長を可能にしたのでした。高投資はさらに高い所得を生み、それが新たな需要を創出しますが、それがまた企業の投資を誘うというように、日本経済は好条件に恵まれ、成長を続けたのです。
(労働投入量の成長)近代の経済成長の歴史をながめますと、工業化による経済成長がすすむときには、例外なく第一次産業から第二次産業への大量人口移動が起こっています。このような農漁村における潜在的失業者の工業部門への移動なくしては、おそらく近代の経済成長は不可能だったでしょう。また、産業間の労働移動だけでなく、一国経済全体としての労働人口の成長も、経済成長にとって重要です。
(技術進歩)第3の成長要因として重要なのが技術進歩です。たとえば、教育水準の向上による労働の質の向上、オートメーションやコンピュータ導入など技術革新による効率の向上、画期的な新製品の開発、企業組織の改善、一国の金融や流通システムの効率化などを考えればよいでしょう」p273
「(財政政策無効論)「(フリードマンの新貨幣数量説)貨幣供給量の増加をともなわない財政政策の効果は一時的にすぎず、短期的な効果もケインジアンが主張するほど大きくない」、「(新リカード主義)合理的な個人は、公債の発行を将来の納税の予約にすぎないと考えるため、財政政策によって消費行動に影響を与えることができない」、「(ブキャナン=ワグナー批判)ケインズ的な財政政策は政治経済的に有害である」」p393
「ケインジアンは、利子率を下げられると投資が刺激され、景気がよくなるという有効需要の原理と、利子率を下げるにはマネーストックを増やせばよいという流動性選好理論とにしたがって、「利子率」を望ましい水準に固定させることを金融政策の運営目標んすべきだと主張しています。それに対してマネタリストは、期待物価上昇率が変化するため、利子率は長期的には固定できないと主張しています」p393