紙の本
驚きました
2021/07/13 21:19
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:owls - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルにひかれ、内容を知らずに読み始め、驚きました。現代社会への風刺がきいて、それでいて幻想的な物語。美しい銅版画も見入ってしまいました。そして、ラストの文章のインパクトがすごい。心に強く残ります。多和田さんの本を読んだことはなかったのですが、読んでみたいと思いました。
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いかにも多和田葉子らしい、わたくし個人と外的世界の関係を考えさせられる絵本。NIMBY施設を押し付けられる地方と、それに対する都会の人々の反感だったり哀れみだったり、はたまた、ステロタイプな田舎イメージに対する憧れ(実はマイクロアグレッションだったりするんだけど)が美しい版画でくっきりと描かれている。版画好きなんだよなぁ。個人的な感想だけど、別役実的な世界だなー。
最後が熱く終わるのもいい!
心の中のオオカミを奮い立たせねば!
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多和田葉子の文と、溝上幾久子の銅版画による大人のための絵本。
オオカミ県出身の”俺”は家族の反対を押し切って東京に働きに出た。
オオカミ県に住むものみんなオオカミってわけじゃない。
東京には自分のことを「兎」と呼ぶ連中が住んでいる。本当はサルやアルマジロなんだが、自分を兎だと言わないと東京に住めないからみんな兎のふりをしている。
インターネットではオオカミのことが悪く書かれている。
俺の働いている店でも、オオカミ県出身ってことは言わないほうがいいよ、って言われた。
オオカミ県出身だというと仲間に入れてもらえないんだ。
人々がニュースをみるのは「風のうわさ」というウェブサイトだ。
嘘と本当を混ぜ合わせたギラギラしたニュースが載っている。
そこで驚くニュースを見た。オオカミ県では蚤をばら撒かれてしまい、毛皮の輸出ができなくなってしまったという。
しかもそれは工場建設を受け入れさせるための陰謀らしい。
やられてばっかりってわけにはいくものか。
オオカミは自分から人を襲うことなない。人に襲われたときに抵抗するだけだ。
だったら俺たちも自分の力で立ち上がらければな。
<ぶしゅっとオオカミになろうぜ。オオカミに>
不確かなネットニュースが真実として流れ、出身先で差別があり、自分をみせずに仮面生活を送る。
現代社会の風刺絵本??
言葉も版画絵も不穏で不確かな感じ。
ラストの解釈が…。主人公は、「そっちがその気なら自分達も立ち上がって本物のオオカミになろうぜ」と強い気持ちを見せ、不当に虐げられた者が野生を取り戻すということ?
でも主人公が聞いたのも、ウェブサイトに書かれていた噂なんですよね。主人公自身が噂に乗っかってテロ行為に走っちゃう危険も感じてしまうんだけど。
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なかなかすごい話だ。
比喩が多すぎてちゃんと理解できているとも思えないが、とにかくすごい。
絵もうーん!と、うなってしまう。
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絵本と知らずに図書館で予約した。絵本の体裁を取っているが子供向けではない、と思う。勿論、子供が読んでも良いとは思うが。
銅版画の絵がシュールでインパクト強い。版画作品とお話がコラボレーションしたという印象の方が大きい。
色々と批評的なニュアンスを込めている? 昔の映画作品のコピーでは無いが「狼は生きろ。豚は死ね」的な。
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”東京”という名の都会に住んでる「兎」たち。
「兎」とは名ばかりで本物の「兎」がいる訳ではなく、実際は兎の被り物をしたニセモノだなんて。
「兎」のフリをしないと都会では生きていけない、だなんて。
核心をついてて思わず苦笑い。
多和田さんの作った寓話はとってもシュール。
「兎」の被り物の下にある本来の姿をよくよく見極めないと。
嘘と本当が混ざった「風の噂」に惑わされないようにしないと。
真っ白なのは被り物の色だけで、本当は真っ黒なんだから。
多和田流の大人に向けた皮肉たっぷりの絵本。結構エグくて何度も笑った。
そして挿し絵となっている溝上幾久子さんの銅版画絵がとても素敵で魅入ってしまった。額に入れて飾っておきたいくらい。
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表紙を近くでまじまじと眺めてみれば、あれま!「オオカミ県」のタイトルがオオカミの姿を使ったトリックアートじゃないの!すごい、お見事です。
このお話の「バナナ工場」というのは原発の事でしょうか。
「東京の白兎」のふりをした「いろいろな動物たち」に対する皮肉と厳しい視線。
東京以外に住んでいる、搾取され、踏み付けにされているオオカミ県のオオカミ。
読み終わったあと、ふと、私はなんの動物だろうと思った。
溝上幾久子さんの銅版画絵も緻密で、見入った。
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そうなったらもう、犬みたいに
お偉方に尻尾をふっているわけにはいかねえ。
ぶじゅっとオオカミになろうぜ。オオカミに。
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オオカミ県出身のオオカミが、自分たちを田舎者と蔑む人々が暮らす東京へやってきた、というお話。銅版画絵で描かれた絵本。
その銅版画絵、一見すると奇麗なのだけれど、どこか不気味さも孕んでいて、ストーリーと相まって現実世界を透かして見ているようだった。
東京に住んでいるのは兎とのことだったが、蓋を開けてみれば、そのほとんどが兎のふりをした別の生き物だ。種族を偽り「兎」にならないと東京には住めないらしい。そんな「兎」たちは、オオカミについてあることないことネットに書き込み、信憑性を確かめず噂を信じ、偏見から怯えている。
フィクションにおいてオオカミは「悪」であり、兎は「弱者」であることか多いけれど、この物語はそれが逆転している。「兎=悪」とまではいかないが、攻撃者は兎だ。
オオカミと対になる存在がパンダでも猫でも猿でもなく、兎。2体のよくある関係性を踏まえての設定なのだろうけれど、最高に皮肉っているなと思った。
なんというか、「よく知りもしないものをイメージだけて叩く危険性」みたいなものを描いているのかもしれない。
この物語で「兎」が住んでいるのは東京だけれど、現実世界に「兎」はどこにでもいる。むしろ、みんなそういう面を持っているのだと思う。
最後の、オオカミたちが反旗を翻すシーン。フィクションでは終われないよな、と少し怖くなった。
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小説家で詩人の多和田葉子さんが書き下ろした物語に版画家、溝上幾久子さんの絵をコラボした作品。
タイトルの「オオカミ県」の文字も複数匹のオオカミで形作られている。
物語は架空の県・オオカミ県で暮らす「俺」のモノローグ形式で展開して行く。
インターネットの書き込みを見て、東京に住む白兎の存在が気になり出す俺。
東京へ出稼ぎへ行ったまま連絡が途絶えたオヤジを探し出すという名目でオオカミ県を出て東京へ。
抽象的な文章だが社会的弱者をテーマにした作品に、細密かつダイナミックな銅版画絵がマッチしている。
迫力ある絵は見応え十分。